宝塚歌劇団・演出家 上田久美子の世
界/ホーム・シアトリカル・ホーム~
自宅カンゲキ1-2-3 [vol.32]<宝塚編

おうちをシアトリカルな空間に! いま、自宅で鑑賞できる演劇・ミュージカル・ダンス・クラシック音楽の映像作品の中から、エンタメ界隈に棲息する人々が激オシする「My Favorite」3選。(SPICE編集部)
ホーム・シアトリカル・ホーム~自宅カンゲキ1-2-3 [vol.32]<宝塚編>
宝塚歌劇団・演出家 上田久美子の世界/
by 森きいこ

【1】『星逢一夜(ほしあいひとよ)』(15年 雪組)
【2】『金色(こんじき)の砂漠』(16年 花組)
【3】『BADDY~悪党(ヤツ)は月からやってくる』(18年 月組)
「清く・正しく・美しく」
この言葉はあまりにも有名で、「ああ、宝塚のことね」と恐らく多くの方が思い浮かぶものだと思います。
本当は、宝塚で上演された、どの作品にも思い入れがあります。『ANNA KARENINA(アンナ・カレーニナ)』や『ドクトル・ジバゴ』などのロシア文芸のミュージカル化。宝塚が日本初演となる『エリザベート-愛と死の輪舞(ロンド)-』『1789 -バスティーユの恋人たち-』など、様々な作品について語りたかった……!
私の本業はゲームをはじめとする様々なコンテンツのシナリオライターです。だからこそ、「仕組みのデメリットを活かして強みにかえる」作品にとても惹かれます。
ですので、今回、『宝塚歌劇団公演だからこそ成り立つ』作品の作り手であり、若手演出家のなかでも注目されている、上田久美子先生の作・演出作品の魅了をご紹介したいと思います。

『星逢一夜(ほしあいひとよ)』(15年 雪組)
雪組宝塚大劇場公演 ミュージカル・ノスタルジー『星逢一夜』/バイレ・ロマンティコ『La Esmeralda』
時は江戸中期、徳川吉宗の治世。とある藩で起きた叛乱を背景に、藩主の子息である天野晴興(あまのはるおき)と身分なき娘、泉(せん)の恋を、烈しく哀切に描きだす。
雪組の早霧せいな、咲妃みゆトップコンビの名作と言えばこちら。一言で紹介するなら「涙なしには見れない」和物です。上田先生が大劇場で作・演出を行ったのは『星逢一夜』がはじめて。
この作品は「和物の雪組」の強さをいかんなく発揮されています。所作が、まぁ、美しい! 基本的に和物ならば遊郭物が好きな私が、ぐんぐん引きこまれました。何より、高潔で誠実な侍、晴興を演じる早霧の凛とした佇まい、身分の違いから晴興とは結ばれず、幼馴染の源太(望海風斗)と所帯を持つことになる泉を演じる咲妃の繊細な演技が、新トップコンビの未来の期待を掻き立ててくれました。
泉の変化を演じ切った咲妃は見事のひとこと。報われる恋に身を焦がした娘から、子を持つ母となり、恋よりも家族のために自分の恋を押し殺す。まさに和物ならではの女性の選択ですね(恐らくロシア文学なら、絶対に愛を選びますね)。上田久美子という演出家の素晴らしさを、内外に見せつけた演目になったと思います。
『星逢一夜』は同・早霧咲妃コンビで再演された稀有な人気作。また、同作は読売演劇大賞・優秀演出家賞を受賞されています。
上田久美子作品として、絶対に外せない一作です!
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『金色(こんじき)の砂漠』(16年 花組)
花組宝塚大劇場公演 宝塚舞踊詩『雪華抄』/トラジェディ・アラベスク『金色の砂漠』
昔々、いつかの時代のどこかの国。砂漠の真ん中にあるその王国の王女は、“ギィ”という名の奴隷を持っていた──。
お正月公演ならびに、花組トップ娘役、花乃まりあ退団公演。宝塚では基本的には一幕をお芝居、二幕をショー、レビューになります。ただし、お芝居が洋物(着物ではない)、ショーが和物という組み合わせの場合だけ、それの順番が前後するというルールがあるんです。『金色の砂漠』は、和物のショー『雪華抄(せっかしょう)』が一幕、ミュージカルの『金色の砂漠』が二幕で上演されました。
この演目、花乃演じる王女タルハーミネの婚約のための宴で歌を披露するシーンからはじまります。奴隷たちが舞い踊り、それを王族たちが見下ろす……。そんな第一場のみどころは、なんといってもギィ役の明日海りおが徹底的に奴隷として扱われるシーン。タルハーミネの輿の足場は、まさかの四つん這いのギィ! トップ娘役がトップスターの背中を踏んで降りてくる……観ていた観客たちもぎょっとしたし、タルハーミネの婚約者である異国の王子もぎょっとする。
「宝塚でここまでやるか!」と思わせたシーンでした。掴みは5000万点。タルハーミネの傲慢なまでの美貌と、ギィの尽くしながらも内心に持つほの暗い欲望の炎が垣間見える名シーンです。『金色の砂漠』は二幕に芝居を行うため、最後に短いショーが付くんですね。若手スターの歌や、男役の群舞、そして、デュエットダンス……そして、フィナーレ、これも芝居が二幕に来る場合のお約束。
『金色の砂漠』の衝撃かつ、あまりにも悲しいのラストシーンを終えて、迎えたデュエットダンス……はじめて観た時、このダンスに号泣しました。いまでも観る度に号泣しますし、画像でも泣けます。とにかく美しくて、儚くて、切ない。大階段をああいう風に使うのか!! と感動しながら泣きました。ここまで物語とのつながりと救いを両立させたデュエットダンスは、滅多にありません。
明日海は、蘭乃はな、花乃まりあ、仙名彩世、華優希と4人の娘役と組み退団しました。花組生え抜きだった仙名の退団時には、ファンからも“添い遂げ退団”をすすめられたそうですが「みんなお姫さまとして退団してもらっていたので、今回もお姫さまとして退団してもらいたかった」と、明日海は相手役がスポットを当たることを望んだコメントを残しています。
それを思い返すと、花乃のラストステージだった『金色の砂漠』のタルハーミネは、彼女の最大の当たり役で、まさに誇り高い王女としての葛藤や美しさ、彼女のポテンシャルの高さが引き出された、宝塚娘役としての最高のラストステージになったと思います。
フィナーレの花乃の笑顔に、私はまた泣きました。永遠に泣いてるのではないだろうか、私……。花組トップスターとして様々な役を演じた明日海の深い表現力にも支えられた今作。「鳥たちの空」のカタルシスを是非!
余談ですが、ぽっちゃり系が大好きなので、天真みちる演じる第二王女(桜咲彩花)の夫ゴラーズが最高に好きです。第二王女、一番幸せだったんじゃないかな……!
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『BADDY~悪党(ヤツ)は月からやってくる』(18年 月組)
月組宝塚大劇場公演 ミュージカル・プレイ『カンパニー ―努力、情熱、そして仲間たち―』/ショー・テント・タカラヅカ『BADDY―悪党は月からやって来る―』
宝塚歌劇団103年(上演当時)の歴史初、女性演出家によるショー『BADDY~悪党(ヤツ)は月からやってくる』。月組珠城りょう、愛希れいかコンビ(しかできないような)、パワフルなショー……のはず。
なにより、破格のショー! 宝塚歌劇団といったら、各組トップスターによる開場アナウンスが恒例なのに、組長が頭の上に、自分の顔よりも大きい地球儀を乗せた衣装で現れます。暁千星・早乙女わかば演じる王子・王女コンビのイノセントな「あ・く~?」という、悪という概念すら知らない真っ白ならバブみの強い演技も最高。母である女王は、開場アナウンスそっちのけで、王子と王女に「犯罪を撲滅することに成功したピースフルプラネット地球」の偉大さを語り、それを守るグッディ捜査官(愛希)の奮闘を讃える……。
グッディ捜査官が登場から100点の愛らしさ! プリキュアなどの魔法少女を連想させるカラフルな衣装に、ピンク色のロングのカツラ……! 極めつけは、ピースサインの敬礼! 悲劇の名手として認識していたので、「本当に上田久美子作品!?」と驚くものばかり。
そんな中、月は悪党の流刑地になっており、そこに送られた稀代の大悪人バッディ(珠城)が脱走して地球に到着する……。10分近く経ってから、珠城りょうとしてではなく、バッディのセリフとして会場アナウンスが……「とっくに上演中だってよぉ!」と型破りにスタート。
宝塚のショーはスターをみせるものだとずっと思っていました。私は『シトラスの風』(宙組)をはじめとする伝統的なロマンチックレビューの信者なので、あの手この手の衣装とライティング、娘役たちの揃ったダンスの中心で歌うトップスター……美しくロマンティックな場面の数々……などなど。近年は『THE ENTERTAINER!』(星組)などのストーリー時立てのショーもありましたが、冒頭からフィナーレまですべてが繋がっていた作品ははじめて観ました。もうセリフが多い多い、そんな踊りながら歌う!? 怒りのロケットダンスは「こ、こんなロケットダンス見ることない!!」となること請け合いです。
『金色の砂漠』でもそうでしたが、『BADDY』のデュエットダンスもまさにストーリーのひとつ。珠城・愛希コンビのダイナミックなダンスや、豪快なリフトは今回も炸裂。ほぼ助走なしの愛希を、スーパーリフトする様は圧巻。もう、この豪快なリフトはしばらく観れないと思います。珠城の胸板のたくましさと誠実な笑顔から一転、憎めない悪を演じつつ、ちゃんと格好いい、バッディ最高!!! ガストンだと思ってたらジゴロも出来るじゃん! 好き! と軽率に思いました。
そんな愉快なショーですが、善と悪、そのテーマが絡まり合い様々な変化をみせる点も楽しめます。その点は流石、上田先生、細かいところまで意図的な演出がされており、何度見ても様々な視点からの発見が。
悲恋、悲劇の上田久美子と思われていた彼女の新境地。こんなものも作れるのか!! と感嘆の声をあげました。是非、また、ショーを手掛けていただきたいと願っています。
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いかがでしたでしょうか。
年季の入った宝塚オタクは、これからの宝塚にたくさんの希望をいだいています。女性観は変化していて、初演の『エリザベート』と、現在の『エリザベート』ではシシィへの評価が全く異なることが多いです。ですから、若手女性演出家の活躍をとても楽しみにしているのです。
余談ですが『神々の土地〜ロマノフたちの黄昏〜』(宙組)をランクインさせるか悩みました。徹底的なまでの計算された演出、ロシアを舞台とした作品の殺伐とした部分と宮廷の愚かまでの豪奢さなどを書き込んだ名作です。いっしょにラスプーチンに怯えて下さい!
文=森きいこ

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