森美術館のオンライン・プログラムで
現代アートに親しむ『Mori Art Muse
um DIGITAL』【ネット DE アート 第
3館】

新しい生活様式の実践が呼びかけられるなか、美術館や博物館でも、オンライン上で楽しめるプログラムが充実してきています。最新の技術を使ったバーチャルミュージアムや、学芸員による作品解説動画など。各文化施設の公式サイトやSNSアカウントを通じて発信されるこれらの取り組みは、美術鑑賞の新しいスタイルとして日常に根付きはじめています。

第3回のコラムでは、森美術館のウェブサイト内に開設された『Mori Art Museum DIGITAL』を紹介。ここでは、期間限定のオンライン・プログラム「Stay Home, Stay Creative, MAM@HOME」が公開されています。会期途中に閉幕した『未来と芸術展』の3Dウォークスルーから、映像作品の先行上映、世界各地のアーティストたちが日々更新する料理レシピまで。オンラインで出合う現代アートの魅力をお伝えします。
『Mori Art Museum DIGITAL』サイトトップ イメージ
想像力を鍛える現代アートの醍醐味
現在、森美術館のウェブサイトでは期間限定のオンライン・プログラム「Stay Home, Stay Creative, MAM@HOME」によせて、館長の片岡真実氏によるメッセージ動画が公開されています。
想像力を高め、磨きをかける~森美術館館長からのメッセージ
片岡氏は「現代アート」について、以下のように説明しています。
「現代アートは、世界各地の様々なアーティストの作品やその背景を通して、世界がどのように構成されているのかを想像するのに、最もふさわしい実践だと考えています」
その上で、今こそ「想像力を活性化する必要がある」とコメント。筆者はつい最近まで、現代アートは「何だかよくわからない」と思っていました。けれど、自分と同じ時代を生きる人々がつくりだした作品なのだと思うと、以前よりも親しみやすくなりました。自分が今、生きている世界を知るための“想像力”を刺激してくれるのが、現代アートなのだと思います。
閉幕した展覧会をオンラインで鑑賞する『未来と芸術展』3Dウォークスルー
本プログラムの見どころのひとつは、会期途中で閉幕した企画展『未来と芸術展:AI、ロボット、都市、生命——人は明日どう生きるのか』を、オンライン上で鑑賞できることです。本展は、最先端のテクノロジーと、その影響を受けて生まれたアートやデザイン、建築などを通して、未来の社会や人間のあり方を考えるもの。全部で64のアーティスト・グループが参加した本展覧会は5つのセクションからなり、都市から建築、ライフスタイル、身体と、マクロからミクロのスケールへとテーマが移る展示構成になっていました。
『未来と芸術展』3Dウォークスルーでは、休館中に撮影した会場内の様子をもとに制作された3D空間の中を、自由に動き回ることができます。展覧会のテーマにも沿うような、最新の技術を使って実現したバーチャルミュージアムは、PCやスマートフォンから気軽に「展覧会会場」までアクセスすることができます。
『未来と芸術展』3Dウォークスルー イメージ
会場内の作品を自由な角度から見られるだけでなく、各セクションの代表的な作品を、本展を企画した南條史生氏(森美術館特別顧問)の特別解説動画付きで楽しめるのもポイント。会場の入り口や出口、一部の作品の前のチェックポイントで、これらの動画を再生しながら鑑賞を進めていくと、まるで貸切状態の美術館を、前館長の南條氏に案内してもらっているような気分になってきます。
森美術館「未来と芸術展」南條史生解説ビデオ 01
鑑賞者に語りかけるような南條氏の解説は、オンライン上の鑑賞体験をより快適なものにしてくれるはず。全38本の動画は、「ARTLOGUE」YouTubeチャンネル内の『森美術館「未来と芸術展」VR』と題した再生リストからも全編視聴可能です。
本展の見どころのひとつ、バイオ技術を使った作品が集う「バイオ・アトリエ」は、微生物や細胞が生きた状態で、作品の一部として展示された空間。ゴッホの左耳を組織培養によって再現したディムート・シュトレーベによる《シュガーベイブ》や、“人類滅亡後の音楽”をコンセプトに、アーティストのやくしまるえつこがバイオテクノロジーを用いて制作した《わたしは人類》など、SF世界に登場しそうな興味深い作品がそろっているので、ぜひチェックを。
選りすぐりの映像作品を楽しむ「MAMスクリーン」オンライン先行上映
「MAMスクリーン」は、世界中の映像作品のなかから、森美術館が選りすぐりのシングル・チャンネル作品を上映するプログラム。現在、公式サイトでは開幕が延期となった『MAMスクリーン013:ムニーラ・アル・ソルフ』から、作家の初期の代表作である《ラワーンの歌》(2006年)と《まるで私がそこにふさわしくないかのように》(2006年)を特別に先行公開しています。さらに「MAMスクリーン」アンコール上映として、過去の作品も期間限定で公開中。
ムニーラ・アル・ソルフは、母国レバノンとヨーロッパを拠点に活動するアーティスト。ドキュメンタリー風の映像作品は、「政治や宗教が対立し難民問題が発生する現代社会での、日常の出来事や小さな物語、女性ならではエピソードなどを、ユーモアを込めて描きます」(公式サイト解説文より)とのこと。
ムニーラ・アル・ソルフ 《ラワーンの歌》 2006年 ビデオ 7分19秒
現在公開中の2作品は、いずれもフィクションが織り交ぜられつつも、アーティスト自身の葛藤が描かれています。日常生活の中で出くわす自己矛盾を取り上げた描写のなかには、どこか共感できる部分も。漫画やアニメに登場する架空の人物の心境にも、自分の姿を重ね合わせることがあるように、現代アートの映像作品のなかにも、国や文化背景を越えて「それはわかるなぁ」と思える部分が、きっと見つけられると思います。
ムニーラ・アル・ソルフ 《まるで私がそこにふさわしくないかのように》 2006年 ビデオ 12分8秒
「MAMスクリーン」上映室は、ミュージアップショップから美術館の出口に至る途中に設置されています。筆者は館内を歩き回った疲労回復も兼ねて、この展示室に立ち寄ることが多いです。都会の喧騒から切り離された森美術館の一室で、じっくり映像鑑賞に浸れるこの場所は、心を落ち着かせるのにもピッタリ。再開後は、ぜひ企画展と併せて楽しんでみてください。
世界各国のアーティストが綴る、自由奔放なクックブック
「アーティスト・クックブックby MAM」は、世界各地のアーティストから寄せられた写真やテキストを通して、料理レシピを紹介する特別プロジェクト。これらは、森美術館のInstagram、Facebook、Twitterの各SNSで公開されています。なかでも、Facebookの投稿記事は、料理写真と料理にまつわるストーリー、材料やレシピが一記事にまとめられています。大切な家族から教わったケーキや、伝統的な家庭料理、風邪をひいた時に食べるお粥など、現時点(※2020年6月8日現在)で12人のレシピが掲載されています。
「Kusama Lotus」
アメリカや英国、日本、シンガポール、カンボジアなど、世界各地のアーティストからあつめられたレシピのなかには、映画のワンシーンのようなフォトジェニックな写真が添えられたものや、料理写真の代わりにアーティストのドローイングを紹介しているものも。
料理の所要時間や材料、作り方なども丁寧に書かれていますが、レシピの冒頭から「ビーチの岩場でムール貝を採り」、「潮が引くタイミングを見計らって沖縄の遠浅の海に出かける」など、思わず二度見してしまう投稿もありました(市販の食材で代用できる場合もあり)。各アーティストの自由奔放なレシピは、一般的な料理本とは一味違うユーモアに溢れています。
とくに第4回目のヒーマン・チョン(張奕滿)によるピーナッツ粥のレシピは、クスリと笑えるジョークが文中に散りばめられているので、ぜひ読んでみてください。ほかにも、森美術館館長の片岡氏をはじめ、現代美術家の杉本博司や塩田千春によるレシピも紹介されているので、お見逃しなく。
オンライン上で現代アートに親しむことで、リアルな空間で出合う現代アートの作品も、より身近に感じられるようになるかもしれません。森美術館のオンライン・プログラムの公開期間は次回展『STARS展:現代美術のスターたち―日本から世界へ』の開幕まで。
文=田中未来、画像提供=森美術館

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