バランシン×パリ・オペラ座の華麗な
る世界を~パリ・オペラ座バレエ・シ
ネマ 2020『夏の夜の夢』

2020年6月1日から東劇(東京・東銀座)で、パリ・オペラ座バレエ・シネマ 2020の2作品目、ジョージ・バランシン振付『夏の夜の夢』の上映が始まった。3月に同劇場で『パリ・オペラ座ダンスの饗宴』の上映からスタートしたパリ・オペラ座バレエ・シネマは、新型コロナウィルスによる緊急事態宣言により、続く2作目『夏の夜の夢』の上映を見合わせていたが、このほどついにシネマ再開となった。
この『夏の夜の夢』は、抽象的な作品が多いバランシン作品では珍しいストーリーバレエ。これをパリ・オペラ座の6人のエトワールを含むパリ・オペラ座のダンサーたちが、クリスチャン・ラクロワの衣装を纏って紡ぎ出す。舞台という夢のひとときを、存分に堪能したい。
(c) Agathe Poupeney/OnP
■シェイクスピアの世界に忠実に、「バランシンらしさ」も味わえる『夏の夜の夢』
「20世紀のバレエに最も影響を与えた振付家」とされるジョージ・バランシン(1904~1983)。故郷のロシア・サンクトペテルブルクでは主にダンサーとして活躍し、のちにロンドンでディアギレフと出会い、当時欧州を席巻していた「バレエ・リュス」で振付家として活躍する。1933年にバレエ団を設立するために渡米し、後のニューヨーク・シティ・バレエ(NYCB/1948年設立)に連なるバレエ学校やバレエ団を創設するなど、アメリカのクラシック・バレエを語る上でも欠かすことのできない人物だ。
バランシンの作品の特徴の一つとしてよく知られているのは、物語はないが音楽の音符の一つひとつに振りがついているような抒情性豊かな、いわば音楽と振付が一体となった作風で、その作品はしばしば「音楽の可視化」、「シンフォニックバレエ」とも称される。代表作は『テーマとヴァリエーション』、『シンフォニー・イン・C』、『セレナーデ』などで、これらは新国立劇場バレエ団や東京バレエ団、スターダンサーズバレエ団など日本のカンパニーもレパートリーに取り入れていることから、日本のファンにもなじみが深い。
(c) Agathe Poupeney/OnP
この『夏の夜の夢』はそうしたバランシン作品の中では、数少ないストーリー物のバレエで、日本でもあまり目にする機会はない。初演は1962年、NYCB。原作はシェイクスピアの同名の戯曲で、音楽はメンデルスゾーンがこの戯曲にインスパイアされて作曲した劇付随音楽である。バランシンは物語の筋や主要な登場人物はシェイクスピアの原作に沿いながら、しかしさらにメンデルスゾーンの前奏曲や夜想曲、間奏曲、交響曲9番の一部を用い、バランシンらしい「音楽と振付が一体となった」踊りを加えてまとめ上げている。とくに第2幕はシーシアス公とヒッポリタ、ハーミアとライサンダー、ヘレナとディミトリウスの3組の結婚式で、ここではバランシンらしいシンフォニックバレエが延々と続く。つまりストーリー物でありながら、バランシンのバランシンたるゆえんである世界も存分に楽しめる内容となっているのだ。
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■衣裳はラクロワ。ダンサーの踊りも演技も十分に堪能
パリ・オペラ座とバランシンとの関係は長く、1947年にバランシンはバレエ団のために『水晶宮』(のちにNYCBで『シンフォニー・イン・C』として上演)を振り付けているほか、パリ・オペラ座でも数々のバランシン作品をレパートリーに取り入れ、バランシン作品で構成したミックスプログラムなどをしばしば上演している。
この『夏の夜の夢』をレパートリーに取り入れたのは2017年。バランシンのオリジナル衣裳も参考にしながら、フランスを代表するデザイナー、ラクロワが新たに衣装とセットを手掛けている。とくにパリ・オペラ座学校の子ども達が扮する小さな昆虫のような妖精たちの衣裳は頭に複眼のついた一見リアルなフォルムながらも実にキッチュでかわいらしく、遊び心に富んだものとなっていて見ているだけで楽しい。
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ダンサー陣も豪華だ。ユーゴ・マルシャンの踊る妖精王オベロンの大きな存在感と、エレオノラ・アバニャートの愛らしい女王タイターニアはその並んだ姿だけで眼福。バランシンはタイターニアのお付きの騎士(ステファン・ビュリヨン)を配し、存分にパ・ド・ドゥを踊らせるのだが、これがまたため息ものの夢世界である。エマニュエル・ティボー扮するパックは飛んだり跳ねたりと身体能力を余すところなく発揮し、ヘレナ(ファニー・ゴルス)は登場時の悲劇色がトゥー・マッチ気味だからこそ、のちのドタバタ喜劇が一層愉快になる。パリオペらしい華麗な踊りのみならず、彼等の豊かな表現力も存分に楽しんでいただきたい。
(c) Agathe Poupeney/OnP
なお『夏の夜の夢』は名古屋、大阪、神戸、札幌でも6月19日から上映が始まるほか、YEBISU GARDEN CINEMA(東京・恵比寿)では6月5日からシネマ1作目となる『パリ・オペラ座ダンスの饗宴』から、順次上演が開始される。東京近郊で第1作目を見逃した方は、ぜひこの機会をお見逃しなく。
(c) Agathe Poupeney/OnP
本作は何度もテレビ放送されている作品でもあるが、引きこもり期間中テレビサイズの画面でのバレエ鑑賞はいい加減窮屈に感じている諸氏も多いに違いない。劇場での舞台鑑賞を待ち望みつつ、まずは大スクリーンでの夢世界をどうぞ。
(c) Agathe Poupeney/OnP
文=西原朋未

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