今見ておきたい痛切な愛の物語『マシ
ュー・ボーン IN CINEMA/ロミオとジ
ュリエット』6月5日(金)より全国順
次公開

英国が生んだ天才振付家マシュー・ボーンのみずみずしい感性と卓越した創造力が発揮された傑作が映画館にお目見えする。『マシュー・ボーン IN CINEMA/ロミオとジュリエット』は2020年6月5日(金)よりYEBISU GARDEN CINEMAほか全国順次公開。2019年の英国初演時に各メディアから絶賛を博した注目作を見逃したくない。
『マシュー・ボーン IN CINEMA/ロミオとジュリエット』予告編

■近未来、極限状況における喜怒哀楽
ボーンは出世作『白鳥の湖』をはじめとして古典バレエや文学の本質を捉え換骨奪胎する。本作もシェイクスピアの戯曲がベースで、音楽もプロコフィエフの同題曲を使う。だが舞台は14世紀のヴェローナではなく近未来。反抗的な若者たちを矯正する教育施設「ヴェローナ・インスティテュート」で繰り広げられ、彼らは男女別に収監・管理されている。
(c)Illuminations and New Adventures Limited 2019
ジュリエットは看守のティボルトに乱暴され恐怖におののいている。ロミオは有力政治家の両親に連れられ入所してくるがどこか気弱そう。そんな二人はダンスパーティで出会い惹かれていく。シェイクスピアが描いた中世貴族社会の因襲的雰囲気とは趣を異にするが、ロミオとジュリエットをはじめとする若者たちは疎外感を抱えている。無機質な施設に閉じ込められた若い男女たちの極限状況における喜怒哀楽をダイナミックに伝える。
(c)Illuminations and New Adventures Limited 2019

■痛切に心を突き刺す、ボーンの新境地
物語が大きく動くのがティボルトの酒乱だ。銃を手に暴れる看守と皆がもみあううちにマキューシオが殺される。そして仲間を失った若者たちはティボルトを……。その後は驚愕すること必至。冒頭ロミオとジュリエットの骸が出てくることから暗示されるように、痛切で心を突き刺す展開が待ち受けている。
(c)Illuminations and New Adventures Limited 2019
人口に膾炙した物語を基にしているし、過去と現在が行き来する映画のような手法も効果的で劇世界に没入できる。そして何よりも振付にみなぎる勢いが凄まじく、画面越しにもぐいぐい迫ってくる。若いダンサーを登用し、乱闘やダンスパーティーなどは力のこもった踊りが続く。ロミオとジュリエットがバルコニーの場面で踊るデュエットは、おなじみの曲と共にリフトから床の動きまで滑らかにして力強く繰り広げられる。全編に満ちあふれるテンションの高さは尋常でなく、異才ボーンの新境地と称しても決して言い過ぎではないだろう。
(c)Illuminations and New Adventures Limited 2019

■弾ける若い才能に銀幕で接する歓び
ボーンは公募も行って若い才能を集めた。ロミオ役のパリス・フィッツパトリック、ジュリエット役のコーデリア・ブライスウェイト、ティボルト役のダン・ライトらは清新で今後も楽しみ。マキューシオ役のベン・ブラウンとバルサザー役のジャクソン・フィッシュとの絡みなどにもご注目を。また離れ離れになったロミオとジュリエットの再会へと導くバーナデット・ローレンス牧師など3役を演じたデイジー・メイ・キャンプらの演技も印象深い。
(c)Illuminations and New Adventures Limited 2019
シェイクスピアが生んだ不滅の恋愛悲劇を翻案した舞台・映画は少なくない。バレエ、ダンスでは、アンジュラン・プレルジョカージュの『ロミオとジュリエット』(1990年)、マッツ・エックの『ジュリエットとロミオ』(2013年)などは独自色が強い。映画では、ブロードウェイミュージカルを基にロバート・ワイズ&ジェローム・ロビンズが監督した『ウエスト・サイド物語』(1961年)が金字塔だが、バズ・ラーマン監督、レオナルド・ディカプリオ主演『ロミオ+ジュリエット』(1996年)も一世を風靡した。そんななかでもボーン版は、表現・インパクトからいって近来屈指の問題作だろう。6月の来日予定が新型コロナウイルスの影響で中止となったボーンの『赤い靴』を見られなかった方にとっても銀幕で彼の傑作に出会えるうれしい機会だ。
(c)Illuminations and New Adventures Limited 2019
文=高橋森彦

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