松本幸四郎×尾上松也オンラインイン
タビュー 『歌舞伎家話』に向けた、
率直な思いと意気込み

歌舞伎俳優の松本幸四郎がホストとなり、尾上松也と対談するチケット制のオンラインイベント「歌舞伎夜話特別編『歌舞伎家話(かぶきやわ)』第一回」が、2020年5月29日(金)20時よりライブで、その後、30日(土)20時までアーカイブ映像として配信される。『歌舞伎家話』の初回は、どのような内容になるのか。イベント開催に先がけて、オンラインによるテスト配信と取材会が行われた。その模様をレポートする。
■歌舞伎"夜"話と、歌舞伎"家"話
歌舞伎座5階にある歌舞伎座ギャラリーでは、「歌舞伎夜話」というトークイベントが定期的に開催されてきた。歌舞伎俳優が芸について、時に自身のプライベートについて、わずか100席程度の会場で語る人気のイベントだ。今回のイベント『歌舞伎家話(かぶきやわ)』は、その特別編として、会場をギャラリーから出演者の家に移し、オンラインで開催する。幸四郎と松也はネットを介して対談し、視聴者はパソコンやスマートフォンからそれを楽しむという試みだ。
配信に利用されるイープラスの新サービス「Streaming+」や、視聴チケットの購入については、幸四郎さんご本人による解説動画とQ&Aのこちらの記事(https://spice.eplus.jp/articles/269736)をご覧ください。
『歌舞伎家話』オンライン会議速報!
テスト配信は、Zoomミーティングで行われた。幸四郎と松也は、どちらも白い壁を背景に落ち着いた色味のシャツ姿。和やかな雰囲気の中、当日の大まかな流れを確認していく。
語られる内容は近況報告や、過去の共演演目、それぞれが主演した経験のある劇団☆新感線の作品についてなど、共通の話題がありすぎる様子。「45分じゃ足りませんね」「でもこれはぜひお聞きしたいです」など意見を出しあい、テーマの絞り込みをしていた。
どちらからともなく、Zoomのバーチャル背景にこだわりはじめ、ディスカッションが脱線する一幕もありつつ、ふたりのテンポの良い掛け合いが、打ち合わせの段階からはやくもスタッフたちを楽しませる。最終的に『歌舞伎家話』で何が話されるかは、当日のお楽しみとなった。本番では、舞台写真やプライベート写真を紹介しつつ対談を進めるようだ。また、他にも放送中に質問を募集できないかなど、アイデアを出し合っていた。
ここからは、歌舞伎界初のオンライン合同取材でのコメントにも触れながら、SPICE読者に向けたインタビューをお届けする。
幸四郎からみた松也、松也からみた幸四郎
ーー対談をされるお二人から、お互いに対する俳優としての印象、そして普段の印象をお聞かせください。
幸四郎: 松也さんは、小さい頃から天才子役と言われています。四国・こんぴら歌舞伎で一緒になった時(1992年)、当時流行っていたファミコンを一緒にやったのですが、彼は芝居だけじゃなくゲームも上手かった。全然かなわなかった思い出があります。「マリオブラザーズ」だった?
松也:「ファミスタ」(野球ゲーム)ですね。たしかに幸四郎のお兄さん(以下、幸四郎さん)には勝っていました。でも僕よりもダントツで、時蔵のお兄さんがお上手でした。コテンパンにやられて泣いた記憶もあります。
ーー(笑)普段の松也さんについてもおきかせください。
幸四郎:会話でも芝居でも、キャッチボールが軽快。話は突っ込んでくれるし、拾ってくれる。投げればちゃんと返してくれる安心感があります。
ーー松也さんは、幸四郎さんをどうご覧になっていますか。
松也:幸四郎さんには、後輩が憧れる格好良さと熱量があります。たくさんのアイデア、知識、技術をおもちで、若手世代を代表する、リーダーのような役者であり先輩です。でも普段はトリッキー、いい意味で(笑)。面白いことや不思議なことばかり考えていらっしゃったりするので、そのギャップが面白いですね。
ーーキャッチボールの軽快さについてはいかがでしょうか。
松也:幸四郎さんとの会話は、謎解きです。過程を飛ばして結果からお話しされる特徴がありますよね。
(記者一同が笑う中、ひとりが首をかしげ、さらに笑いを誘う幸四郎)
松也:結論をまず話し、みんなが「うん?」「何のお話かな?」となる。それを後から紐解いていくので、聞く人はひきつけられます。謎解きをしながらの幸四郎さんとの会話は、非常に楽しいですし、脳トレにもなります。
(右から)松本幸四郎、尾上松也
ーー『歌舞伎家話』ではお二人のトークスキルが試されますね。
幸四郎:「何を話しているのか分からない」と言われましたが、僕にしたら「何を話しているか分からないということがわからない」という状態でお話ししていますからね。『歌舞伎家話』もありのままの自分でいようと思います。
松也:(笑)。幸四郎さんには、そのままでいていただきたいです。僕自身はスキルは別とし、話すことが好きです。幸四郎さんは良い緊張感をもってお話しできる方でもありますし、人と話すことに飢えている時期でもありますので、存分に話したいです。
ーー第一回のテーマは“凄艶(すごつや)”だそうですね。
幸四郎:すっかり忘れていました(笑)。でも”凄艶”は、僕の好きな言葉です。“凄い”という言葉は、直感的な心の動きに対して生まれるものだと思っています。たとえば「歌舞伎の仕草にこういう意味があり、こういう形だから感動した」と、説明できる感動もありますが、思わず「凄い!」と言ってしまう時の方が、より直感的に「かっこいい!」「きれい!」と心が動いている気がする。僕自身、そういうものをお見せしたい、そうなりたいという思いがあります。
そして“艶やか”は、女性に対して使うイメージが強いかもしれませんが、男性にもいえる言葉です。色っぽいだけでなく、男らしさの中に当てはまることがある。優しい柔らかさや、危険な匂いに当てはまることもある。突き詰めていくと、歌舞伎ってそういうものではないかと思うんです。『歌舞伎家話』でお話するエピソードの一つひとつに、「凄艶だね」と思っていただけるものがあればうれしいですね。
松也:「艶が出る」と言うのは、磨きがかかることとも言えますよね。今僕たちは、誰も経験したことのないことを皆が経験しています。皆がそれぞれの形で、少なからず研磨されているはずだと思っています。まだまだ磨き足りませんが、僕自身も。そこで思うことをお話し、”凄”と”艶”の両方でも、どちらかでも感じていただけたらありがたいです。
ーー今回はトークイベントですが、歌舞伎公演そのもののオンライン配信には、将来性を感じますか?
幸四郎:可能性はあります。劇場中継ではなく、映像としての歌舞伎が存在できないか。たとえば歌舞伎演出のドラマはできないだろうか、とか。
松也:歌舞伎は一般の方が思うよりも、ずっと柔軟で、色々なことができる演劇です。今回のコロナ禍が、歌舞伎の幅を広げられる機会になる可能性がある。そう転じていけるようにしなければと思います。
無力感から使命感へ 『歌舞伎家話』はその第一歩
ーーご自宅ではどのようにお過ごしでしたか?
幸四郎:世の中的に、本棚やホームベーカリーがよく売れるとか、髪を染める方が多いと聞きましたが、僕もそれを全部やりました。自分は、誰もが考えることをする人間なんだ……と思いました(笑)。詳しくは29日にお話します!
松也:僕はネットショッピングが増えましたね。ふだんはやらない料理に挑戦もしました。舞台に立たせていただくことが、どれだけ自分の糧になっていたか。日々の生活で人と接し、外の空気に触れることが、どれほど自分の刺激になっていたか。当たり前になっていたことの大切さを痛感しました。
ーー幸四郎さんは、白鸚さんとの『沼津』が注目されていた『三月大歌舞伎』が、無観客公演の映像配信という形になりましたね。
幸四郎:3月の歌舞伎は、3度の初日延期があり、最終的には幕を開けることなく中止になりました。4月の『こんぴら歌舞伎』をはじめ、5、6、7月の公演もなくなり、次に準備するものが具体的に決まっていないという状況は、舞台に立つようになってから初めてのことです。無力感を覚えることもありました。だからといって、役者は舞台がなければ何もできないのか。はやく舞台に立ちたいという思いはありますが、今だからできることを考えることが、歌舞伎にとっての新たな道になるのではないか、と今は考えています。
ーー松也さんは、4月に予定されていた帝国劇場のミュージカル『エリザベート』の稽古がすでに始まっていたそうですね。
松也:2月後半から、稽古をしていました。はじめのうちは、それでもどうにかなるだろうと、思っていたんです。歌舞伎はなんとかできるんじゃないか、という希望をもっていたのも事実です。でも日を追うごとに、次々と公演中止の連絡がくる。携帯電話が鳴ることに、恐怖や不安を覚える時期もありました。何をしたらいいか、明確に思い浮かばず、目標がない中で目標を見つけて過ごしていかなくてはならない状況で……。そんな時に、ミュージカル俳優の方々が集まった動画プロジェクトに声をかけていただいて。
ーー『レ・ミゼラブル』の「民衆の歌」を歌う動画ですね。
松也:その動画に対して、皆さんから本当に大きな反響をいただき、僕自身の気持ちの変化にも大きく影響しました。舞台に立てない、集まる事さえできない中、ミュージカル界、演劇界には、待つだけではなく行動を起こす人たちがいる。歌舞伎界でも何かできないか。僕にも力になれることがあるのではと、強く考えるようになりました。
何が正解かはわかりませんが、こんな状況だからこそチャレンジすることが、重要だと考えています。『歌舞伎家話』は、その第一歩です。トークに限らず、できることを模索していきたいですし、面白いことをしたい。これは「やらなくてはいけない」という、危機感に近い気持ちでもあります。
また、歌舞伎には、時代ごとの事件や歴史、教訓を、歌舞伎流にアレンジして、演目に残しているものが多くあります。いつか上演できる日がきた時には、いま僕たちが感じていることをお芝居という形にしたい。僕の中では、これもある種の未来の展望です。
(右から)松本幸四郎、尾上松也
ーー幸四郎さんも、無力感を覚える時期があったとのことですが、発信されるメッセージや取り組みからは、前向きな意志を感じられました。気持ちの変化と、そのきっかけについて伺えますか?
幸四郎:時間が、そうしてきたところはあるかもしれません。舞台再開まで待つしかないのだろうか。待っているだけじゃないはずだ。じゃあ舞台ではない場を探すのか。作るのか。それをしていくのが今なんじゃないか、と気持ちが変化していきました。
今の状況を、いつか過去の話としてできる時がきたとして、「あの時、何かしようとしたし、何かやったよね」くらいには思いたいんです。もちろん、ひたすら耐えるというがんばり方も正しいですし、すごいことだと思いますが、僕に関しては「耐えるしかない」と断定したことはありません。この期間に考えてきたことを、今ようやくお話しでき、形になりはじめてきたところです。
ーー「夢追う子プロジェクト」(NHK・Eテレ『にっぽんの芸能』とコラボした番組企画)もその一つでしょうか。
幸四郎:6月に予定していた日本舞踊の公演の、演目をアレンジしたプロジェクトですね。舞踊は単発公演です。それがなくなったことは、舞踊の方々にとって、とても大きなことです。生活の上で大切なお稽古も、一切できない時期が続きました。リモートで始められた方もいますが、やはり相対(あいたい)して伝えるのが舞踊のお稽古。このまま再開の時期を待っているだけでは、なくなってしまうと感じました。僕にとって、歌舞伎も日本舞踊も大好きで、憧れのあるものです。ここでなくすわけにはいかないという思いが、強くありました。
喜んでいただけるものを提供したい
ーー『三月大歌舞伎』の配信や「民衆の歌」の動画など、私たちは自宅にいながら、様々なエンターテインメントから力を受け取りました。劇場で拍手をおくることができない今、ファンである私たちが、皆さんのためにできることはあるのでしょうか。
幸四郎:もちろん、舞台と客席がひとつになり、作品はできあがるものですよね。でも今は、「できることはない」と言いきりたいです。私たち歌舞伎役者は、提供する立場にあると思うからです。皆さんに喜んでいただけるのか、いただけないのか。分からないけれど喜んでいただけるはずだ。これを共有したいという思いがあったりする。それをいかに提供していくか、というところでやっています。ですから皆さんに対しお願いすることは、僕からはゼロです。
松也:動画プロジェクトに関しては、多くの方に反響をいただき、大きな力をいただきました。ただ幸四郎さんがおっしゃるとおり、我々は発信し、提供する側です。何かをおしつけるようなことはありません。『歌舞伎家話』など、このような場があること自体が、一表現者として、ありがたいことで救われています。
ーーありがとうございました。これまでと変わらず、次は何を見せてくれるのだろうとワクワクしながら、まずは今回の配信イベントを楽しみにしたいと思います! 最後に29日(金)『歌舞伎家話』への、意気込みをお聞かせください。
幸四郎:やっと皆さまにお会いできる時がきました。あえて「会う」という言葉を、使わせていただきます。率直に、今の我々、そして歌舞伎のお話をできればと思います。『歌舞伎家話』が、現実からちょっとだけ離れられる楽しい時間になることを目指して、やらせていただきます。
松也:この機会に感謝しています。幸四郎さんとはじめさせていただけることが楽しみです。この機会を通し、“凄艶”の何かしらを感じていただき、ワクワクや楽しみ、これからへの期待を提供できれば幸いです。

5月29日(金)の配信には、イープラスの「Streaming+(ストリーミング・プラス)」が使用される。幸四郎と松也の対談はZoomで行われるが、視聴者は専用サイトでの視聴となる。特別なアプリをダウンロードする必要はなく、当日は、チケット購入時にメールで案内された専用URLにアクセス、IDとパスワードを入れるだけで視聴できる仕組みだ。視聴チケットは配信日の29日(金)23時まで購入可能、翌日30日(土)20時までアーカイブ映像の視聴が可能。

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