『湘南乃風〜Riders High〜』に見る
4人のキャラクターとグループの本質

そこにある音楽性とスピリッツ

まずM6「サンクチュアリ」。湘南乃風の生い立ちを知らずとも、彼らのルーツ音楽がレゲエであることが分かる内容だ。極端な話、その音楽を聴いてなくとも、彼らがレゲエをやっていることは分かるだろう。そんな人がこの歌詞を見るとも思えないのでそれは冗談半分にしても、湘南乃風はそこまでに発表したシングルもチャート上位にランクインさせているのだから、そのリスナーの中には音楽ジャンルに詳しくないという人も当然、多いと思われる。レゲエが何なのか知らない人がいても少しもおかしくはない。もしそんな人が、『湘南乃風〜Riders High〜』を手に取ってM6「サンクチュアリ」を聴いたとしたら、《reggae music》《Bob marley》《"One Love"》《"I love reggae"》《ジャパレゲ》などの意味は分からずとも、それが彼らにとってかけがえのないものであることは感じるだろうし、その意味を調べてBob Marleyの音源に興味を持った人がいるかもしれない。そんなふうに想像すると、M6「サンクチュアリ」はルーツうんぬん以上にかなり重要な楽曲であると言える。

M8「晴れ波とSong」も実に分かりやすい。湘南乃風と言えば、ライヴが熱いグループである印象が強い。特にタオル回し。そのオーディエンスと一体となって繰り広げられるパフォーマンスは、生で彼らのライヴを観たことがない自分ですら湘南乃風の名物という認識がある。『“湘南乃風”宴 ~俺たちと一緒にタオルまわさねぇか!! TOUR2016~』なんてツアータイトルもあったくらいだから、グループ側もそれに自覚的であろう。その光景を享楽的と言うのはやや乱暴かもしれないけれど、少なくともこの歌詞で言っているところの《全力で遊》んでいる象徴とは言える。ライヴの時間だけは細かいことはどうでもいいというか、そこに集まっている人たちにとって《好きな事》オンリーの空間ではある。《熱くなれる俺らがうらやましいんだ》と言われたら、そうではないとは言い切れる人は案外少ないかもしれない。そんなふうに一緒になって盛り上がれる瞬間が確実にあるということ。それもまた間違いなく、湘南乃風の魅力であろう。

M8「晴れ波とSong」のような“楽しさ”の一方で、その逆と言ってもいいシリアスさ、スリリングさがあるのも湘南乃風の特徴で、そこがまたこのグループにとって欠かせない重要なポイントであろう。本作で言えば、まず何と言ってもM10「犬の唄」である。歌詞をよく見てみると、それほど具体的な描写があるわけでもないのに、実に生々しい内容だ。ファンならばご存知のことと思うが、この楽曲のコンポーザーである若旦那は俗に言う不良であったという。湘南乃風の公式サイト、そのプロフィールに[青春時代の大半をルックスと違わぬハードコア・ウェイでサバイブしてきた]とある([]は公式サイトから引用)。その[ハードコア・ウェイ]がどんなものであったのか。[ルックスと違わぬ]という前置きが余計にそこをミステリアスにしているように思うが、歌詞にある《野良犬》や《荒野》から察するに、決して平坦な道程でなかったことは疑いようがない。その体験が楽曲、ひいては湘南乃風というグループに及ぼした影響は様々あろうし、それをつまびらかにするのは困難であろうが、彼(もしくは彼ら)がストリート出身であることの説得力がそこに宿っているのは確実と言える。

シリアスさ、スリリングさにおいて、M10「犬の唄」以上に赤裸々なのはM11「ワンルーム」である。M8「晴れ波とSong」とは別の意味で細かい説明はいらないというか、このリリックを見聞きすれば、作者のHAN-KUNのミュージシャン、アーティストとしての生い立ちが理解できると思う。この歌詞がどこまでリアルか分からないし、自分自身のことを綴ったものではないかもしれないというご指摘もあろうが、タイトルの「ワンルーム」からしてそこにリアリティー=実存感があることは否めないだろう。

湘南乃風のメジャーデビューは2003年7月のこと。デビュー作である1stアルバム『湘南乃風〜REAL RIDERS〜』こそチャート60位だったものの、 翌年3月にリリースしたシングル「応援歌/風」はチャート19位とスマッシュヒットを記録した。以後、発表したシングル、アルバムも着実にチャートインを果たし、2006年の本作『湘南乃風〜Riders High〜』でついに1位に昇りつめたことは前述した通りだが、それだけで見ると、比較的恵まれた音楽活動を展開していると見ることができる。しかし、当然ながら…と言うべきか、彼らはポッと出のラッキーメンズではなかった。彼らにも、今現在もその辺に確実にいると思われる、上手くいかない日々を悶々と過ごしている若者たちと何ら変わらない時代があったのである。M11「ワンルーム」にはそうしたM10「犬の唄」とはまた別のストリート感というか、日常感、生活感があって、そこがまたこのグループ全体の味わいを深めているのである。

個性が相俟ってこその湘南乃風

強調すべきは、ここまで見てきたRED RICE、SHOCK EYE、若旦那、HAN-KUN、それぞれの個性が絶妙なバランスで合わさっているところだろう。本作にソロ楽曲が1曲ずつ収められていることがまさにその象徴だと思うが、このグループは誰かが6分で他の誰かが4分とかいうことではなく、(ソロ楽曲はおそらくそれぞれがそこに注力しているのだろうし、ソロ楽曲以外ではメロディー、歌詞、サウンドそれぞれに主導権を握る人がいることもあるのだろうが)そのキャラクターを等しくグループに注いでいることがうかがえる。最も分かりやすいのが──これは言うまでもなく、このグループ最大の特徴である、それぞれの歌声だ。大雑把に分けると、ハイトーンがHAN-KUNで、若旦那がいわゆるダミ声。このふたりが両極で、その間でHAN-KUN寄りがSHOCK EYEで、REDRICEは若旦那寄りと表すと分かりやすいだろうか。その4人の声が相俟ってこその湘南乃風である。

単純にそれらがパートに分かれている…ということではなく、この4人の声質とキャラクターが楽曲に深みを与えているのだと思う。M2「Riders High」やM12「カラス」であれば不良的なキーワードが散見されるが、粗暴なだけではない気がする。M3「OH YEAH」はパリピ的な、これこそ享楽的なナンバーだが、お馬鹿っぽいだけではなく、そこはかとなく文系の匂いを感じる。M4「いつも誰かのせいにしてばっかりだった俺」は内向的な内容ではあるものの、ネガティブサイドに落ちていない印象なのは、歌い手がひとりでないことも大きいであろう。M5「純恋歌」にしてもそうで、この楽曲をメンバーの誰かひとりが歌ってもたぶんダメで、このスタイルだからこそ、そのロマンティックさが倍増しているのだろう。クリアトーンだけでは何だか絵空事っぽく映るだろうし、濁った声だけでは偏狭な趣味(?)となってしまうようにも思う。この絶妙なバランスが「純恋歌」の肝なのである。

収録されたソロ楽曲で分かることは、メンバー4人それぞれのベクトル、その方向は微妙に違っても大きさは同じということだろう。そして、そのベクトルが相互に作用し合うことで、湘南乃風は成立しているということだと思う。それがアルバム1枚を通じて分かるということで『湘南乃風〜Riders High〜』は優れた作品と言えるし、本作がチャート1位になったことでグループの本質を多くの人に浸透させることに成功したと言える。それは彼らが提唱する“ジャパレゲエ”にとって実に有効な事実となったことは言うまでもない。

TEXT:帆苅智之

アルバム『湘南乃風〜Riders High〜』2006年発表作品
    • <収録曲>
    • 1.Intro
    • 2.Riders High
    • 3.OH YEAH
    • 4.いつも誰かのせいにしてばっかりだった俺
    • 5.純恋歌
    • 6.サンクチュアリ
    • 7.JUMP AROUND
    • 8.晴れ波とSong
    • 9.Happy Today feat. MINMI
    • 10.犬の唄
    • 11.ワンルーム
    • 12.カラス
    • 13.覇王樹
    • 14.See you again
『湘南乃風〜Riders High〜』('06)/湘南乃風

OKMusic編集部

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