yonige 2年8ヶ月ぶりのフルアルバム
『健全な社会』は「“悲劇はないのに
何となく悲しい”を描きたかった」

明日5月20日にニューアルバム『健全な社会』と、初のライブDVD『日本武道館「一本」』を同時リリースするyonigeのオフィシャルインタビューが到着した。フルアルバムのリリースは、メジャーデビュー作『girls like girls』以来2年8ヶ月ぶり。分かりやすいフックのある言葉選びや、鋭さが前面に出たサウンドからは少し距離を取ったところにいるという今のyonigeを、メンバーの牛丸ありさ(Vo/Gt)、ごっきん(Ba/Cho)はどう見ているのだろうか?
――『健全な社会』、改めてどんなアルバムになったと感じてますか?
牛丸:今回は、特別何もないアルバムですね。ドラマティックなことがだんだん興味なくなってきて、「何にもない」ということをどうやって書くかっていう方向に変わってきています。最近、「この言葉は使いたくない」っていう言葉が多くなってきちゃったんですよ。まず、恋愛の曲は書きたくないんです。昔の曲は昔の曲でいい曲だなと思うんですけど、今の自分にはちょっと書けないなって思ってて。「恥ずっ」みたいな感情が生まれちゃうんですよね。
――「恥ずっ」?
牛丸:何て言うんだろう……悦に入ってる感じ? これは私の書き方が悪いからかもしれないんですけど、恋愛の曲を書くと、悲劇のヒロインみたいになっちゃうんですよ。
――自分の恋愛経験を曲にする時点で必然的に曲の主人公にはなっちゃいますよね。
牛丸:そう。その「私が主人公です」みたいな感じがだんだん恥ずかしくなってきて。今回に関しては「これは私のことを書いた曲です」って明確に言える曲がなくなりました。歌詞を書く作業に一番じっくり向き合ったのが「あかるいみらい」だったと思います。「明確に悲劇があったわけじゃないのに何となく悲しい」みたいな微妙なニュアンスのところに行きたくて、苦労しましたね。私、歌詞を書くとおなかが減るんですけど、〆切までの1週間、UberEatsを頼んで、マクドナルドのセットとか、クレープとか、うどん450gとか……とにかくずっと爆食いしてたんですよ。だから太ったと思ってたんですけど、体重計に乗ったら、3キロ減ってて。それほどのカロリーを消費するくらい、苦労しました(笑)。

――(笑)。ソングライターとしての牛丸さんの変化をごっきんさんはどう見てましたか?
ごっきん:やっぱり変わってきていることは感じてましたね。昔の曲の場合、牛丸の書いた歌詞を読むと、「ああいう事件がこういう曲になった」っていうのが分かるんですよ。だからずっと「この人(牛丸)はバンドをやってる間、大きな不幸の渦の真ん中にいないと作品を作れないのだろうか」「だとしたら、それは本当に大変なことだな」って思ってたんですけど、今の曲の書き方は全然そうじゃないですよね。あと、分かりやすく売れる曲ではなくなってきたなあとも思ってました。バンドには2つのタイプがあると思うんですよ。ひとつは、リスナーの期待に応え続けるバンド。もうひとつは、その時々の自分たちの感性や趣味に従いながら曲を書いて、変化していくことによって、世間の求めるバンド像からはかけ離れていくバンド。それで言うとyonigeは後者で。別に前者のバンドを否定してるわけではないんですけど、私はこれでよかったなあと思ってます。牛丸が今思うこと、歳を経たからこその感性をそのまま歌詞に書ける人でよかったなあと。
――バンドが変わっていくことに対して不安はありませんでしたか?
ごっきん:なかったですね。今、バンドをやり始めた時期ぐらいの無敵状態になれてるんですよ。自分らが一番強くてカッコいいんだ、みたいな。そういう曲が揃ってるから、不安はなかったです。
――歌詞を書く作業は苦労が多かったそうですが、サウンド面に関してはいかがでしたか?
牛丸:サウンド面もめっちゃ紆余曲折ありました。『HOUSE』(2018年10月リリースのミニアルバム)を出したあとすぐに制作に入ってたので、途中のレコーディングをしていなかった期間も含めると、制作期間が約1年半あったんですよ。それだけ経つと最初の方に作った曲も昔の曲みたいに感じちゃうから、アレンジを新しく作り直した曲もありました。
ごっきん:今回、(制作期間の)途中から、サポートメンバーとしてライブにも参加してくれているギターの土器さん(土器大洋)と一緒に制作を進めるようになったんですよ。それがすごく楽しかったです。yonigeは今まで、スタジオに集まって、全員で楽器を鳴らして……っていう曲の作り方だったんですよ。だけど土器さんはパソコンをめちゃめちゃ使える人で、家に録音機材が揃っているから、口頭で「こういうリズムで」「こういうメロディで」って伝えると、その場でパッと作ることができるんですね。それが新鮮でした。

――「11月24日」と「健全な朝」は後藤正文さん(ASIAN KUNG-FU GENERATION)が、「往生際」と「あかるいみらい」は福岡晃子さん(チャットモンチー済)がプロデュースした曲ですね。
牛丸:アッコさん(福岡)はお母さんみたいでした(笑)。
ごっきん:「カッコいいね~!」「めっちゃいいね~!」って毎回褒めてくれるんですよ(笑)。
牛丸:あと、チャットモンチーのときからそういう作風でしたけど、変わったアレンジを提案してくれるんですよね。「あかるいみらい」の途中にある手拍子だけになるところも、アッコさんが「手拍子やってみようか」って言ってくれたのが始まりでした。ゴッチさん(後藤)は……もっと理系っぽくない?
ごっきん:分かる分かる。
牛丸:「ここはこうじゃない方がいいと思うな」とか明確に言ってくれるので、進む方向が分かりやすくて、すごくやりやすかったですね。ゴッチさんはサウンドへのこだわりがめちゃめちゃ強いので、この2曲(「11月24日」、「健全な朝」)は特に音が良いです。
――『健全な社会』というアルバムタイトルはどこから?
牛丸:まず、(アルバムの)ジャケットに学校関連の写真を使いたいって思ったんですよ。学校って人生で最初に経験する社会だけど、今考えたら、同じ制服を着させられて、みんなで同じ授業を受けて、ちょっと異様な場所だったなあって。そういうところから、何となく、学校の写真を使いたいな~って考え始めて。学校で習字の授業ってあるじゃないですか。そこで書くワードって、例えば「青い空」とか、嘘みたいな言葉ばかりなんですよ。それが面白いなって思って画像検索をしてたら、「健全な社会」っていう言葉が出てきたんですよね。結構強めのワードやなって思って、それを使うことにしました。アルバムのタイトルを発表したときにSNSを見ていたら「これって皮肉だよね」みたいな声もあったんですけど、私としては、そういうつもりはあまりなくって。複雑で異様で異常なことが起こっている現代こそが、人間が行き着くままの、ありのままの社会だなって思ったので、この言葉を使うことにしました。
――最後の質問に移りますが、メジャーデビュー前のインタビューで、牛丸さんが「女の子に好かれるカッコいい女でありたい」と仰っていたんですよ。当時の自分たちの発言について、今思うことってありますか?
牛丸:思うこと……特にないですね。多分、そのときはいろいろコンプレックスがあったからそういうことについて喋ってたと思うんですよ。
ごっきん:確かに。あの頃はもっとギラギラしてたもんな。
牛丸:だけど今は、そのときに言っていたような気持ちは全くないです。
――どうしてこの話を出したのかというと、私がわざわざ引っ張り出さなければならないレベルで、今はその件は眼中にないんじゃないかと。
牛丸:うん、本当にその通りですね。今でも、「女捨てる」みたいなことを言ってる人たちのことは相変わらず好きじゃないし、「男女がフラットになった」みたいなことを言いたいわけでもないです。だから、考え方が根本的に変わったわけではないんですけど、今は自分からそこについて語ることはないかもしれないですね。別にそこはどうでもいいというか、一番大事なことではないと思うので。だから今回のアルバムは……働くおっさんに聴いてほしいですね。
ごっきん:働くおっさん(笑)! でも確かに、言いたいことは分かるわ。
牛丸:働くおっさんにも、女性にも、聴いてもらえたらいいなあと思ってます。
取材・文=蜂須賀ちなみ
※本稿は、yonige公式ホームページに掲載中の原稿を再編集したものです。完全版は公式ホームページでご覧ください。

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