悲劇の歌姫のドキュメントからクリー
プハイプを題材した青春モノまで【お
うちで観られる配信映画Vol.2〜音楽
映画編〜】

動画配信サービスの充実により、家にいながら様々な映画やドラマを楽しめるようになった昨今。劇場で公開される新作映画を毎年400本以上鑑賞するほか、毎期のテレビドラマ、バラエティ番組、YouTuberの動画などあらゆるコンテンツを漁りまくる動画中毒なライター・田辺ユウキが、昨今の視聴スタイルの主流となった動画サービスをフル活用して、自宅で観ることができる映画をテーマ別にピックアップ。今回は、多彩な音楽が登場する映画を3本紹介します!
『AMY エイミー』
Amazon Prime/U-NEXTで配信中
【ストーリー】
第88回アカデミー賞長編ドキュメンタリー賞受賞作。2011年7月に27歳の若さで急逝したイギリス出身のミュージシャン、エイミー・ワインハウスの波乱の生涯をたどっていく。
●世界の歌姫が完全に壊れてしまう姿まで生々しく記録
ミュージシャンを追ったドキュメンタリー映画といえば、大抵は良いところを切り取っていくもの。でも本作は、エイミー・ワインハウスの心身が完全に壊れる様子を容赦なく映し出しているところが壮絶。
どこまでも追いかけてくるパパラッチ。スキャンダルに興味津々の大衆。さらに自分を捨てた父親と、ヤク中で浮気症の夫。特に、パパラッチによるカメラのフラッシュのおびただしさは異常。あれはこの映画を観るこちら側の精神まで病ませる……というか吐き気すらもよおすヤバさ。画面越しにその体感が伝わってくるのだから、当のエイミーのストレスは相当なものだったはず。
深刻なドラッグ中毒に陥ったエイミーを当然肯定はできないけど、それでもどこか理解してあげたくなるほど。彼女はボロボロになっていくけど、一方で曲がどんどん研ぎ澄まされていくところも、なんとも皮肉だ。
楽曲は一切の翳(かげ)りを見せないのだが、大ヒット曲「Rehab」(2006年)にしたって薬物中毒になった自分を題材にしていて、しかも「治すつもりはない」と歌唱していることから、いかに彼女がギリギリで生きていたのかが分かる。この映画で鳴らされる音楽の生々しさは、エイミーの生き様がそのまま歌われているから。ここまで覚悟を持って観なければならない音楽ドキュメンタリーは、まずない。
『ウォールフラワー』
Netflix/U-NEXTで配信中
【ストーリー】
目立たない学校生活を送る16歳の少年・チャーリーが、パトリックとサムという自由奔放な兄妹と仲良くなり、これまでとは違う自分を見つけ出していく青春映画。
デヴィッド・ボウイの名曲が若者たちをヒーローに変える
聴いた音楽が自分の背中を押してくれた、という経験をした人は意外といるのでは? この映画にも、音楽から受ける大きな影響が描かれている。
チャーリー、パトリック、サムが車に乗っているとき、カーラジオから流れるてくるデヴィッド・ボウイの名曲「Heroes」(1977年)。<たった1日だけなら自分たちはヒーローになれる>という歌を聴いたサムは「完璧な曲」と興奮を隠しきれず、車のサンルーフから乗り出し、手を広げて風を気持ちよさそうに浴びる。その姿を見たチャーリーは、「無限を感じる」と呟く。
スクールカーストの最下層にいるチャーリーにとって学園生活は、ひたすら卒業を待つだけの退屈な毎日。無限なんて苦痛以外のなにものでもなく、一刻も早く十代という時間から立ち去りたいはずなのだ。サムにしたって、可愛いし性格も良いのに付き合う男はクズばかり。パトリックはゲイであることをオープンにしているが、恋人はアメフト部のスター選手ということで、その関係を秘密にしなければいけない。「ヒーローになんてなれっこない」とアウトローとして生きてきた3人だからこそ、心にダイレクトに響く「Heroes」の歌詞。
一方で、結局は「青春は無限ではない」という現実の苦さもつきつけられることに。鑑賞後は自分の十代を思わず振り返って何とも言えない気分に……!
『私たちのハァハァ』
U-NEXTで配信中
【ストーリー】
福岡県北九州市に住む4人の女子高生。彼女たちは、人気バンド・クリープハイプのライブを福岡で見て、「東京のライブもぜひ」と言われたことを真に受けて、自転車で東京のライブ会場を目指す。
●クリープハイプのライブを見にいくために無謀な挑戦!
『アイスと雨音』(2018年)では74分ワンカットの物語展開のなか、MOROHAが何度も登場してその場で劇中歌を歌うという試みをおこなうなど、実験的な作品を次々と放つ松居大悟監督。そんな松居作品のなかでも現時点のベストとも言えるのが、この『私たちのハァハァ』だ。
大好きなクリープハイプのライブを見に行くため、北九州から東京まで約1000キロを自転車で走破する無謀な挑戦に打って出る女子高生たち。そんな彼女たちを映し出す映像が特徴的。画角が、自撮りをするときのスマホの縦画面なのだ。その画面をつかうことで、彼女たちの目線による旅のドキュメンタリーみたいな感覚になる。で、彼女たちは、撮った映像や写真、そして心情をひたすらTwitterに投稿する。それが世界のすべてだと感じている。
でも田舎の小さなコミュニティを飛び出し、旅のなかではじめて大喧嘩し、大人の世界を覗き見て、金を稼ぐ大変さを知り、さらに大量の汗と尋常じゃない筋肉痛に襲われ……と人生は甘くない事に気づく。心の痛み、肉体の疲労。そうやって「生」を実感することで、スマホサイズだった狭い視野が広がっていく。映像的にも、スマホサイズからリアルな映像サイズへと拡張させることで、それを表現。演出がとても巧みだ。
主題歌はクリープハイプの「わすれもの」。<これで離れ離れになるのは なんとなくわかっていたけど>という歌詞が、成長した彼女たちの未来を言い表している。
文=田辺ユウキ

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