ヒット作
『ANOTHER SUMMER』に見る、
本当は深い
杉山清貴&オメガトライブの世界
躍動感あるバンドアンサンブル
もしかすると、ご存知の方も少なくないかもしれないが、オメガトライブとは[プロデューサー藤田浩一の指揮のもと、作曲家林哲司並びに和泉常寛、アレンジャー新川博などの制作陣を中心としたプロジェクトの総称]である([]はWikipediaからの引用)。メンバー主導で楽曲を制作していたわけではないので、厳密な意味で所謂バンドではなかったと言える。レコーディングは、ヴォーカル以外、プロのスタジオミュージシャンが演奏していたともいう。つまり、『ANOTHER SUMMER』も杉山以外のオメガトライブのメンバーは携わっていなかったことになるので、上記で示したアグレッシブな演奏もメンバーのものではないことになる。その点では、バンドだからこそ生まれる独創性のようなものは薄いのかもしれない。だが、だからと言って、そのアグレッシブなアンサンブルがなかったことになるわけでもないし、ましてや否定されるべきものではないだろう。逆に見れば、大衆音楽においてヒット曲を創造するプロの仕事を感じ取れると肯定的に捉えたい。また、メンバーはレコーディングでこそ弾いてなかったものの、ライヴではしっかりと演奏していたとも聞く。未だ当てぶりも少なくない(と伝え聞く)業界にあって、上記のようなプロセスはオメガトライブのメンバーを何ら貶めるものではなかろう。
意外にも(?)多様性のある歌詞
《流星にみちびかれ/出会いは夜のマリーナ/ルームナンバー砂に/書いて誘いをかけた》(M3「FUTARI NO NATSU MONOGATARI -NEVER ENDING SUMMER-」)。
《一人すわるバーの/冷えすぎたシャブリ/君を持たせるのは/危な気なスリル》(M6「MAYONAKA NO SCREEN BOARD (真夜中のスクリーンボード)」)。
ほぼファンタジーだ。さすがにバブル前夜に書かれたものである。ただ、こうした絵空事が全編に渡っているなら、若き日の筆者が閉口したイメージは間違っていなかったことになるし、食わず嫌いのままで後悔などあろうはずもない。しかし、こうした上滑りしたような歌詞は、実はそれほど多くはない。アイロニカルな視点もあるし、彼らのデビュー曲「SUMMER SUSPICION」と同じカテゴリーと言っていい、不安感や不穏な空気を綴ったものもある。
《不思議 君を縛れない はがゆさがいい/Passing Time 夏の男達 競わせるだけ》《そうさ 誰も気づかない 笑顔でいれば/Passing Time 愛を打ちあけた 相手はMarried Man》(M5「SCRAMBLE CROSS」)。
《約束のない ふいの出会いを/くり返すうち 僕には見える/遠く夢のようなアドベンチャー/そっとたぐり寄せる間に/君は少し早く逃げた》《角度を変えたベッドルームライト/伏せた瞳をくもらせる》(M7「AI NO SHINKIRO (愛の蜃気楼)」)。
M5「SCRAMBLE CROSS」は、《白いアトリエ Morningショパン/熱いシャワーと ミネラルで目覚め》とか、《Scramble Cross アルファの ギアを入れたら》とか、《アート・ギャラリー あとにして/デスクに置いた メモはニューヨーク ひとり》といった内容も出て来るので、ほぼ嘲笑と言ってもいい。その内容は、サザンオールスターズの「ミス・ブランニュー・デイ (MISS BRAND-NEW DAY)」に近いものだろう。バブルに浮かれつつある当時の状況を予見していたのである。
この他にも、少年期の終わりとロハス生活的な展望を描いたM2「DEAR BREEZE」であったり、木下惠介作品の映画のようなM4「TOI HITOMI (遠い瞳)」やM9「THE END OF THE RIVER」であったり、歌詞の大半はしっかりと地に足のついたものである。
《入江が見える高台の MY HOUSE/窓を開ければ 波音のセッション/いつの日にか この海まで/帰る気がしてた/一度は都会に住んでも》《Sunset Beach/夕陽に映るのは/Sunset Beach/もう少年じゃない》(M2「DEAR BREEZE」)。
《帰る 港ができたら 船はいつでも/そうさ 冒険はできないよ 君のせいじゃ ないんだ》《そうさ チャンスはあるから 振りむかないで/ふたり 新しい航海に 風が誘う》(M4「TOI HITOMI (遠い瞳)」)。
《若い流れは 早いけど冷たい/岩に傷ついて 雨をうけ/川はゆるやかになる》《海はすべて包んで 水面では鳥は はばたく/決められたこの瞬間を待って》(M9「THE END OF THE RIVER」)。
借りたBMWでドライブした彼らは、そのBGMであった杉山清貴&オメガトライブをどんな気持ちで聴いていたのであろうか。そして、あの頃、食わず嫌いせずに『ANOTHER SUMMER』を聴いていたら、今とは少し違う自分になって“別の夏”があったかもしれない(食わず嫌いの挙句がこの落ちである…)。
TEXT:帆苅智之