「麒麟がくる」

「麒麟がくる」

【芸能コラム】西村まさ彦が見せる「
真田丸」とは一味違う名優の真骨頂!
 「麒麟がくる」明智光安の魅力

 NHKで好評放送中の大河ドラマ「麒麟がくる」。主人公・明智光秀役の長谷川博己をはじめ、織田信長役の染谷将太、斎藤道三役の本木雅弘など、俳優陣の個性を生かした新しい戦国武将像が話題を集めている。だが、本作で名演を披露しているのは、主要な役を演じる俳優たちだけではない。その周囲を固める俳優陣も、見事な芝居でドラマを盛り上げている。
 その好例が、光秀の叔父・明智光安を演じる西村まさ彦だ。主君・道三と光秀をつなぐ役割を担いつつ、2人の間で板挟みになる中間管理職的な人物を人間味たっぷりに演じている。圧巻だったのは第七回、自宅に呼んだ光秀に、美濃(斎藤家)と尾張(織田家)の同盟が決まったことを伝える場面だ。そのやり取りの一部を、本編から採録してみる。
光安「ただし、向こうが条件を付けてきた。口約束では心もとない。以後、争わず、末永う助け合うていく、その証しがほしい。」
光秀「証し?」
光安「帰蝶様(道三の娘)を嫁にくれと。信秀には若い嫡男がおる。その嫡男の嫁にいただきたいと。これがややこしい。殿がそのことを帰蝶様にお話しされると、即座に『嫌じゃ』と仰せられ、以後、何を言うても口を利かんそうじゃ。わしは殿に呼ばれ、『そなたは帰蝶の叔父でもある。どう思う?』と仰せになられたが…。どう思うも、こう思うも…。(籠の小鳥に餌を差し出し)な?」
光秀「で、私に話とは?」
光安「そなたは帰蝶様とはいとこ同士で、幼き頃より近しい間柄であった。そなたの館に帰蝶様がお寄りになったのも、まあ、そういうことでもあるであろう。鶴など言い訳じゃ。そなたの口から、帰蝶様のお気持ちを、聞いてみてはくれぬか。(光秀にまんじゅうを勧め…)」
光秀「(困惑し)はあ?」
 この直後、場面は帰蝶(川口春奈)が待つ自宅に戻る光秀へと切り替わる。美濃と尾張の同盟を成立させるためには、帰蝶が織田家に嫁ぐ必要があるが、帰蝶はそれを嫌がっている。その説得を光秀に頼みたい。ここでの光安のせりふは、そういう事情を視聴者に説明すると同時に、美濃と尾張を取り巻く大局を、光秀と帰蝶のドラマへと転化する役割を持っている。つまり、説明せりふだ。時間にして約1分半、この前段を含めると3分以上に及ぶ長いシーンだ。
 だが、西村はこの長い説明せりふに、「面倒な事に巻き込まれた…」という迷惑そうな気持ちと、それを光秀に押し付けようとする光安のちゃっかりした一面を込め、部屋の中を歩きつつ、絶妙なテンポと抑揚で語り上げた。映像でこの場面を見直してみると、文字で読む以上に説明的なにおいは感じられないはずだ。
 西村と言えば、「真田丸」(16)の名せりふ「黙れ、小童(こわっぱ)!」でも注目を集めたが、そういうインパクトのある見せ場がなくとも、役回りを押さえた芝居でドラマを引き立てる。それこそが、名優・西村の真骨頂と言えるのではないだろうか。
 このほか、イケメンぞろいの美濃勢の中、武骨なたたずまいで戦国武将らしい雰囲気を漂わせる稲葉良通役の村田雄浩、持ち前の美声を生かし、戦国の女性らしい柔らかさと強さを併せ持つ光秀の母・牧を演じる石川さゆりなど、隅々まで充実した顔ぶれは、大河ドラマならでは。今後も続々と登場する俳優たちの名演を期待しつつ、波瀾(はらん)万丈のドラマを楽しんでいきたい。(井上健一)

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