小泉今日子がオンリーワンの
アイドルなことを
証明するアルバム
『今日子の清く楽しく美しく』
「なんてったってアイドル」の衝撃
冒頭で“テレビ番組『クイズ 100人に聞きました』で関口宏が“1980年代を代表する女性アイドルと言えば?”と出題したとして…”と分かる人には分かる例えを出したが、今、本当にそれをやったとしたら、案外、回答のトップは小泉今日子ではないか。個人的にはそう思うし、トップが小泉今日子だったとしてもそれに反論する人は確実に少ない気はする。松田聖子、中森明菜、あるいは薬師丸ひろ子の熱狂的なファンにしても、それを容認するというか、“そりゃあそうだろうな”と妙に納得するのではないかとも思う。イメージの問題と言われればそこまでだろう。
しかし、そこが肝心であり、要である。何しろ小泉今日子自身の楽曲の中に《イメージが大切よ》とあるので…と、それは半分冗談にしても、その渦中において“アイドル”というイメージを鮮烈に提示した人物は彼女の他にいなかったのではないか。少なくとも1980年代においては、小泉今日子以外にはいなかったと断言できる。これに同意してくれる諸兄は多いと思う。そう考えさせてしまうのは、それはとりもなおさず、17thシングル「なんてったってアイドル」(1985年11月)がシーンに与えたインパクト──これに尽きるのではなかろうか。これにもみなさん激しく同意していただけるのではないかと思われる。「なんてったってアイドル」の歌詞を下に記すが、こんなことを歌うアイドルはそれまでいなかったのだ。
《黒いサングラスかけても プライバシーをかくしても/ちょっとくらいは誰かに そうよ私だと/気づかなくちゃ イヤ イヤ》《恋をするにはするけど/スキャンダルならノー サンキュー/イメージが大切よ 清く 正しく 美しく》《ずっとこのままでいたい 年なんかはとりたくない/いつもみんなにキャーキャー 言われ続けたい/楽しければいい いい》(M5「なんてったってアイドル」)。
当時でも“アイドルはトイレにいかない”と真面目に信じていた人はいなかっただろうが、アイドルは俗なことを公にしないという不文律は確実にあった。それは言わば“偶像崇拝”と呼んでいいものだと思うが、小泉今日子は「なんてったってアイドル」でそれを打ち破った。アイドルの脱構築をしたのである。これは誰にでもできることではない。アイドル以外がこれを言ったところでアンチになるだろうし、下手をするとやっかみととらえられかねない。アイドルにしても、三下は論外としても、中堅がそれをやったところでしらけるだけだ。いずれにしても、御法度に触れるようなことをするメリットもないし、そうしたところで見向きもされないことは容易に想像がつく。これをやれたのは逆説的に小泉今日子がトップアイドルであった証しである。その意味で「なんてったってアイドル」は本当に天晴で、芸能史における偉業ではないかと思う。その一点だけでも小泉今日子は1980年代女性アイドルのトップ3であることは間違いないし、誰もやらなかったブレイクスルーを成し得たのだから、オンリーワンのアイドルであったと言ってもいいと思う。