日本のダンスに注目しよう!/ホーム
・シアトリカル・ホーム ~自宅カン
ゲキ 1-2-3 ~[Vol.6]<ダンス編>

雨の日の自宅で、毎日の移動時間で、あるいは予定が変わり時間がぽっかり空いたとき。そんなすきま時間に手に取れる演劇・ミュージカル・ダンス・クラシック音楽の映像作品を、エンタメ界隈で働く人たちが「3選」としてジャンル・テーマ別に語り尽くします!(SPICE編集部)

日本のダンスに注目しよう!
ホーム・シアトリカル・ホーム ~自宅カンゲキ 1-2-3[Vol.6]<ダンス編>
by 高橋森彦
【1】勅使川原三郎 『鏡と音楽』
【2】Noism1 『PLAY 2 PLAY―干渉する次元』 (revised ver. 2013)
【3】黒沢美香『Wave』
“コンテンポラリーダンス”という言葉が世に知られて久しいが、その定義は容易ではない。広義では現代のダンス、今のダンスといった意味合いだが、バックグラウンドはさまざま。バレエをベースにしたものから独自のメソッドによる動きを軸にしたもの、マイムが基盤にあったり、言葉を自在に用いるものまで多彩である。ここでご紹介するのは日本の振付家の作品だ。
■勅使川原三郎『鏡と音楽』
Saburo Teshigawara / KARAS - Mirror and Music
現代日本の振付家のなかで国際的に最も知られ圧倒的な実績を誇るのは勅使川原三郎だろう。バレエの殿堂として名高いパリ・オペラ座バレエ団から新作を3回も委嘱されるなど国内外の著名バレエ団、ダンスカンパニーとの協同作業も数多い。
勅使川原は1985年にダンスカンパニーKARAS(カラス)を設立。翌1986年にバニョレ国際舞踊振付コンクール準優勝を果たし、以後30年以上世界のダンスシーンの第一線で存在感を示している。勅使川原のダンスの根本にあるのは独特な呼吸の仕方で、空気と身体が自在に溶け合う。そして自ら舞台美術や照明デザイン、衣裳、選曲を担い、巧みな造形美と瑞々しい感受性により詩的な宇宙を創り出す。
『鏡と音楽』は2009年9月、新国立劇場 2009/2010 Season Contemporary Dance ダンステアトロンNo.17において世界初演され、以後2010年のスペイン・バルセロナ公演を皮切りにフランス、イギリス、オランダ、イスラエル、ドイツ、イタリア、台湾、アメリカの各都市で上演を重ねている。勅使川原が演出・振付・美術・照明・衣装・選曲した一晩もので、ご紹介する映像はパリのシャイヨー劇場が公開中のアーカイブ(2012年収録)。
ここでは表題通り「鏡」と「音楽」がモチーフである。勅使川原、佐東利穂子それにKARASのメンバーが、ノイズ音楽からクラシックまで多彩な音楽と共に変幻自在に踊り継ぐ。勅使川原、佐東のソロも見どころだが、メンバーたちが空気と戯れるように乱舞する場面も印象深い。一見シンプルな舞台空間だが、鏡を思わせるパネルや鮮やかに変化する照明がダンスと混然一体となっていることが映像からも感じられる。勅使川原マジックがよく伝わる舞台だ。
勅使川原は近年KARAS APPARATUS(カラス アパラタス)を拠点に旺盛な創作を続け、2019年秋には東京バレエ団に新作を提供し話題を呼んだ。2020年4月に愛知県芸術劇場の芸術監督に就任し(任期は4年間)さらなる活躍が期待される。

■Noism1 『PLAY 2 PLAY―干渉する次元』(revised ver. 2013)&(revised ver. 2013 Backside view)
Noism1_PLAY 2 PLAY - interfering dimensions (revised ver.) [digest]
現在日本で唯一の公立劇場専属舞踊団Noism(ノイズム、総称はNoism Company Niigata)の活動も特筆される。誕生したのは2004年。りゅーとぴあ新潟市民芸術文化会館が舞踊部門を創立し、金森穣を芸術監督とするプロフェッショナルな舞踊団が始動した。柳都・新潟から全国各地へ、そして世界へと活動の幅を広げ、常に先端を歩んでいる。
金森は17歳で渡欧しルードラ・ベジャール・ローザンヌ在学中から振付を始めた。そしてネザーランド・ダンス・シアター2で踊るかたわら20歳で演出振付家としてデビューを飾る。帰国後、Noism立ち上げに際し、欧州の一流舞踊団で活躍した経験を踏まえダンサーたちがレッスン、リハーサルに専念できる環境を整えた。金森が提唱する「Noismメソッド」「Noismバレエ」によって鍛えられたダンスが公演のクオリティを約束する。
『PLAY 2 PLAY―干渉する次元』は2007年4月初演。金森は「PLAY」というキーワードから創作を始め、やがて「干渉」へと関心が移ったという(2007年初演時の金森による「創作過程について」より) 。空間:田根剛、音楽:トン・タッ・アン 、衣裳:三原康裕 との協同作業で、ダンサーたちが大きな鏡のオブジェを動かしたりしながら踊る。身体と空間がせめぎあい、エスニックな響きの音楽と共振するスリリングな舞台だ。
紹介する映像は2013年のrevised ver. 2013(衣裳に堂本教子も参加)で、2020年5月末日まで配信。初演からの出演者は副芸術監督の井関佐和子だけだが、金森が新たに出演し“想念としての他者”を踊った。この改訂再演版でも演者と演者との絡みからただよう緊張感にはただならぬものがある。ダンサー身体は練磨され皆個性もあるが、やはり井関の、しなやかで粘りのある動きは鮮烈というほかない。
興味深いのが「Backside view」という映像も公開されたこと。この作品では舞台上席が用意されたが、そこから見える光景は通常の客席からのものと異なる。両バージョンを見比べ、演出振付家は何を考え創作したのかに思いを馳せることができる。映像を通して一粒で二度美味しい鑑賞体験を味わいたい。
★2020年5月末日まで全編配信中
『PLAY 2 PLAY―干渉する次元』
revised ver. 2013 https://vimeo.com/400826472
revised ver. 2013 Backside view https://vimeo.com/402828629
★同じく2020年5月末日まで全編配信中
『ASU』(2014年初演『ASU―不可視への献身』より第2部)
https://vimeo.com/396105876
※『PLAY 2 PLAY―干渉する次元』2007年初演を収録したDVDも販売あり

■黒沢美香『Wave』
Mika Kurosawa 1986 "Wave" studio 200
最後にご紹介するのは黒沢美香『Wave』である。黒沢は2016年12月に59歳で亡くなったが、今あえて取り上げたい。“日本のコンテンポラリーダンスのゴッドマザー”と称された黒沢の歩みを振り返ることは日本の現代ダンスを捉える上で欠かせないからだ。
黒沢は5歳から両親の黒沢輝夫・下田栄子にモダンダンスを学んだ。両親は日本の洋舞の先駆者・石井漠の高弟で、黒沢は石井から本名(美香子)と芸名を付けられた。幼少から全国舞踊コンクールで第1位をたびたび受賞し「天才少女」と呼ばれる。その後、1982年~1985年、アメリカ・ニューヨークに滞在し、当時現地で盛んだったポストモダンダンスの影響を受ける。そして帰国後、黒沢美香&ダンサーズを結成し一世を風靡した。
『Wave』は1985年、草月ホールで初演された黒沢のソロで、晩年まで折に触れて披露してきた。紹介する映像は1986年のもの(公式チャンネルより)。無音の中、舞台奥から歩き出してきて、そこから後ろへ戻ることを反復する。言ってしまえば、ただそれだけ。ステップの強弱や歩く距離、腕の使い方の変化はあるが、基本的に前に出ては後ろに退くことの繰り返しだ。アメリカのポストモダンの流れを汲んだようなミニマルな表現形態ではあるけれど、ときに軽やかで、ときに鋭いステップが緩急自在なうねりを生み出し惹き込まれる。
黒沢は1990年から2002年にかけて仲間たちと共に続けた「偶然の果実」シリーズ、1999年から始めた“怠惰に掛けては勤勉な黒沢美香のソロダンス”を標榜した「薔薇の人」シリーズなどによって奔放に活動し、ダンスとは決まり事やルーティンではないことを体現した。同時にそこには生来の踊り心があったように思う。風間るり子という別名で無国籍民族舞踊を踊り、郵便局勤めという設定の小石川道子名義でも活動したが、ふてぶてしいくらいに踊り子であり続けた。 “日本のコンテンポラリーダンスのゴッドマザー”として慕われた黒沢が逝って寂しいが、彼女が生涯をかけて示し続けた踊りへの心意気は、多くのダンサーに受け継がれているはずだ。

文=高橋森彦

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