鈴木拡樹×宮崎秋人×日澤雄介クロス
トーク~「彼らが演じるからこその舞
台を」 『アルキメデスの大戦』イン
タビュー

2020年6月30日(火)から東京・シアタークリエにて上演される舞台『アルキメデスの大戦』。2019年夏には菅田将暉主演で映画化され、その年に最もファンの支持を得たスケールの大きな作品に贈られる石原裕次郎賞(日刊スポーツ新聞社主催)を受賞した。
『アルキメデスの大戦』の原作は第二次世界大戦時の日本海軍を題材にした、三田紀房の歴史マンガ。海軍主計少佐として、戦艦建造計画の不正を暴こうと奮闘する数学の天才・櫂直(かい・ただし)の活躍が描かれる。舞台版の原案となるのは、山崎貴が監督・脚本をつとめた映画「アルキメデスの大戦」。櫂直役の鈴木拡樹と、田中正二郎役の宮崎秋人は5年ぶりの共演。「この2人の配役は重要だった」と振り返る演出の日澤雄介(劇団チョコレートケーキ)とともに、舞台化に向けてインタビューを行った。
バディ役をこの2人が演じる意味
ーー『アルキメデスの大戦』舞台化、映画公開から1年での上演ですね。この企画を聞いた時はいかがでしたか?
日澤:東宝で上演する作品としてはちょっと異色だな、というのが第一印象でした。僕や脚本の古川健(※同じ劇団チョコレートケーキに所属)があまり賑やかで派手なお芝居をしてこなかったし、『アルキメデスの大戦』という作品自体も硬派な作品なので、それを東宝のシアタークリエで上演する、ということにちょっと驚きました。それでも、1年前に映画化されたばかりの作品を舞台化するスピード感や、なにより物語の軸となる戦艦大和のとらえ方がものすごく面白い。「この作品を舞台にするんだ」という驚きとともに「嬉しい。やりたいな」という思いが強かったです。
鈴木:まず漫画から読んだのですが、戦争ものだと思っていたので驚きました。まさか数学で戦うとは。「こういう見せ方の大戦があるんだ」とすごく興味を惹かれて楽しかったです。数学で討論するバトルはナマで演じると迫力が伝わりやすいと思います。舞台向きなシーンもありますし、舞台では数学で討論する場面を表現しやすいので、強い武器になる。しっかり大事に取り組みたいです。
鈴木拡樹
宮崎:映画は見ましたが、終始、緊張感がある作品ですね。でもそのなかで、僕が演じる田中と、拡樹くんが演じる櫂とのやりとりにはちょっとクスッとできるところもある。舞台版でもそんな会話があるなら、お客さんが肩の力を抜けるようにしっかりとポイントを押さえていきたいです。2人の関係を大事にして、拡樹くんとガッツリと重厚な会話ができそうなのが楽しみです。
ーー鈴木さんは天才数学者の櫂直、宮崎さんは櫂を支える海軍の田中正二郎を演じます。日澤さん、この配役の狙いや楽しみはなんですか?
日澤:東宝のスタッフさんと「この俳優さんはどうかな?」と決めていったんですが、なかでも櫂と田中の配役はかなり重要だったんです。というのも、2人の関係は強烈な個性のぶつかり合い。はじめは反目しているけれども、徐々にお互いを認め合ってバディ感が強くなっていく……。だから、鈴木さんと宮崎さんがすでに共演していて、お互いのことを知っているということは大きかったです。
ーー2人の出演作品はご覧になったことがあるんですか?
日澤:宮崎さんは舞台『阿呆浪士』。鈴木さんは、ミュージカル『リトル・ショップ・オブ・ホラーズ』と、映像で『舞台 PSYCHO-PASS サイコパス Virtue and Vice』と舞台『ノラガミ』を観ました。まず、僕、鈴木さんのカーテンコールが好きなんです。お辞儀とか、お客さんとの向き合い方に美学があると思う。しっかりしてるな、面白い人だな、と感じました。
お芝居については、拝見した3本とも全然違う表情やキャラクターをつくりあげていた。『舞台 PSYCHO-PASS サイコパス Virtue and Vice』と舞台『ノラガミ』はアニメや漫画が原作なのでキャラクターがしっかりあって、そこに尋常じゃないはめ込み方をする。お客さんの中にもイメージがあるのを裏切らない。それがミュージカル『リトル・ショップ・オブ・ホラーズ』では全く異なっていて、原作はB級ホラー映画だけどキャラクターを真似る必要はなく、自分でしっかりと人物を立ち上げていた。「この人はカメレオンなんじゃないかな?」という印象です。でも僕がチャレンジしたいのは、いろんな変化があるカメレオンじゃない鈴木さんの元々の色は何色だろうな? ということが見たい。
日澤雄介
宮崎:おお……!
日澤:たとえば鈴木さんの思想や人生経験によって、櫂がどんな人物になっていくのかを見たいですね。たとえばだけど……戦争についてどう考えているかとか、今回の背景でもある第二次世界大戦のことをどう思ってるか、とかね。それが作品にどう反映されるのかは、まだわからないけれど。でも、ただ原作漫画や映画を舞台に再現するのではなく、舞台だからやれる新しいなにかをやりたいです。
もちろん宮崎さんもそうです。舞台『阿呆浪士』を拝見して、真っ直ぐなところがなにより魅力的だなと思いました。お芝居の質も真っ直ぐだし、小手先の技術にこだわらない印象があります。お客さんに2〜3個の小さな傷を与えるくらいだったら、自分がバッサリ斬られたとしても骨ごとぶった切りにいくような思いきりの良さを感じました。その真っ直ぐさ、熱量の多さがとても魅力的です。声がちょっとハスキーだからか、「漢(おとこ)」という感じがしてすごく良い。鈴木さんとはまた違う魅力ですね。2人の雰囲気がまったく違うのが良いんですよ。役では櫂の方が歳下なんだけど、実際は鈴木さんの方が歳上で、宮崎さんの方がめちゃくちゃイキがいいですよね。
宮崎:(笑)。
日澤:その感じがいい。この2人がぶつかり合うのが楽しみです。
ーーお2人の共演は舞台『弱虫ペダル』以来5年ぶりですよね。
宮崎:そうです。その時は、同級生で、対等な関係だったんです。でも今回はまた関係が違うので楽しみですね。お互いに共演してない間にどうなっているのか期待もありますし、自分は変わっていなきゃマズイなとも思います。
宮崎秋人
鈴木:5年間でのお互いの変化も楽しめたらいいですね。久しぶりに共演できるのは嬉しいです。ただ、秋人くんは、近年、身体が大きくなってきましたよね……。僕は痩せ形なので、舞台上に立った時のギャップがすごいんじゃないかな(笑)。
宮崎:いやいや、そこは田中を演じるにあたってちょっとずつ身体をつくっていってるんですよ! さすがに海軍の人間としては最低限鍛えなきゃいけないと思って。拡樹くんは数学者の役なので、変わらず細身でいてほしいな(笑)。
鈴木:良いバランスで見えるといいですね。
(左から)宮崎秋人、鈴木拡樹、日澤雄介
舞台上ならではの数学での戦いと、2人の男の関係に注目
ーー今作は“舞台向きな話”という声がずっとあったそうです。鈴木さんも「数学で討論するバトルは舞台向きなシーン」と言われていますね。
鈴木:やっぱり議論のシーンは迫力があるんじゃないでしょうか。「机上でおこなわれている大戦」とも見えますし、うまくできれば刺さる場面になると思いますので、お客さんが手に汗握るようなインパクトを出せたらなと思います。でも難しいですよね……櫂が黒板に数式を書くという作業を、僕は、まるでその場で計算しているふうに書かなければいけない。公演を重ねるごとにその感覚を忘れていかないように、いつも原点に戻らなければいけない。
日澤:しかも、めちゃくちゃに複雑な数式を書いてるからね。
鈴木:そうですね。僕にとっても難しい戦いになるんじゃないかなと(笑)。
鈴木拡樹
ーー数学や数式を舞台でどう見せるかも気になるところです!
日澤:まだわからないですが、数学の監修の方に指導をしていただくことは決まっています。今回の作品として、数学を避けては通れないので、鈴木さんには頑張っていただくしかない! 数学は得意なんですか?
鈴木:数学、得意じゃないんです……この機会に触れていこうかなぁと。
宮崎:じゃあまずドリルからだ。
鈴木:夏休みのね(笑)。
日澤:数学の理論も作品の醍醐味ですし、櫂と田中が戦うためにどうやって困難を乗り越えて手がかりを獲得していくかというのが、劇中での2人の旅になると思う。戦艦大和をどう表現しようかという課題もあるので、僕をふくめたスタッフワークでいろいろと考えています。映画監督の山崎貴さん(舞台原案)が「舞台ならではの“この手があったか”という表現に期待します(ハードル上げ(笑))」とコメントもくださいました。ハードルが上がるので……なんで書いたの!? とも思ったけど(笑)、すごくありがたかったです。舞台ならではのやり方を探していきたいですね。やっぱり映画と舞台は違うので「舞台の見せ方をしていこう」と脚本の古川健くんと話し、あえて映画にはないシーンも多く入れる予定です。映画の良いところと、古川くんの色と、鈴木さんや宮崎さんたち俳優とが、どう重なっていくのか楽しみです。
日澤雄介
ーー“2人の旅”ということで、櫂と田中の関係が大きな見どころになると思いますが、それぞれの役について聞かせてください。
鈴木:僕と櫂が少し似ているのは、興味を持ったところにぐっと入り込むところです。彼にとってはそれが数学。ただ、のめり込み方のケタが違いますね。なんでも数学に置き換えたりする。そこまでするのは自分とは違うところですが、僕も興味を持ったことはすぐに調べたくなるから気持ちはわかります。これから稽古に入る前に、彼にとっての興味の対象とそうでないものを理解していきたい。その選り分けをすることで人物像が見えてくるんじゃないかな。たとえば、櫂は、他人にそこまで興味を持っていなさそうなんですが、数学に結びつくなら人に興味を持つかもしれない。それが彼の魅力かもしれません。そういった「興味の持ち具合のレベル」を考えていく作業が楽しいです。
ーー「このシーンは演じてみたい!」という場面は?
鈴木:コミックスを読んで僕が一番興味が湧いたのは、見たことがない戦艦と初めて出会うシーンです。櫂が戦艦へ向かう道中の場面は、「僕だったらどういうふうに感じるのかなぁ。櫂はその目で見たらどういうリアクションをするだろう」と想像しながらページをめくっていたんです。マンガでは戦艦のことを「まるで人がつくりあげた大きな怪物だ」というような言葉があるのですが、その感覚を舞台上でどうやって表現できるのか、すごく難しい。もしそのシーンができるのなら、すごく大事にしたいです。
ーー宮崎さんは「櫂と出会って変わっていく田中のドラマがある」と公式動画でコメントされています。やはりそこを大事にしたいですか?
宮崎:そうですね。田中の櫂に対する見方は、出会う前と一緒に行動するようになってからでは、劇的に変わってるんです。最初は「手伝え」といわれて櫂を手伝うけれど、どんどん心が変化していく。演じるうえでは、心の中で起きていることを表現するのは繊細なことなので、「この時に田中に響いたんだな」という瞬間はしっかりとキャッチして、大事に育んで演じたいです。
舞台との出会いは、人生のいろんな可能性を秘めている
ーー俳優のお2人と日澤さんとは初めてですが、楽しみなことはなんですか?
鈴木:まず今日お会いして、いろんな話が聞けてちょっと得しちゃったな、という気分です。こういうお話は稽古場に入るまであまり聞けないので……。
宮崎:お話を聞いていると、会話をすごく楽しみたくなりました。僕は今までワーッと熱を出す役が多かったし、それが自分にできることだと思ってもいました。けれど、田中はそういう人間でもない。彼の心のなかの熱をどう会話に乗せて表現できるか、日澤さんの手の平の上で頑張って転がってみようと思いました。
宮崎秋人
日澤:でも僕は俳優さんにあまり「こうして、ああして」とは言わないよ。「何考えるんだろう?」と思うかも。
宮崎:じゃあ目で感じます!
日澤:(笑)。やっぱり、舞台って俳優さんありきだと思うんです。立ち位置とかは稽古をしているうちに自然にできるものだと思うので、会話をすごく大事にしたい。「この役とこの役はこういう関係性なのなら、これくらいの距離感は欲しいよね」とか「ここで目を見て台詞を言いたくないと感じるから、身体をそむける」とか……。そういう人間関係のシンプルな積み重ねがひとつのお芝居になるのかな。稽古の時間は限られているけれど、急がずゆっくりやっていけたらいいですね。
ーーどんな作品になるのか楽しみです。最後にメッセージをお願いします。
日澤:スケールもテーマも大きな作品なので、お客様にしっかりと良い形で届けたいです。鈴木さんと宮崎さんをはじめ、幅広く素晴らしい俳優さんがそろっているので、その点もご期待ください。良いキャスティングをしていただきましたからね!
鈴木:そうですよね、共演の方々がすごいんです。
宮崎:ものすごく楽しみですね。最初に映画を見た時、一大スペクタクルの映画かと思っていたら全然違っていて驚いたんです。作品が持つメッセージに「やられたな」と思いました。みんなで舞台ならではの直球な表現ができたらすごく楽しいだろうな。
鈴木:作品はひとつの出会いなので、人生を変える瞬間があると思うんです。もしチラシを見て「数学で戦うなんて難しそう」と思って、観に来ないのはもったいないかもしれない。自分には合わないかなと思っても、この舞台を観たことがきっかけで、戦艦や、数学に興味を持つかもしれません。そんないろんな可能性を秘めています。僕自身、観た方の人生のなにかが変わる可能性のために努めますので、一人でも多くの方が観てくださったら嬉しいです。
(左から)宮崎秋人、鈴木拡樹、日澤雄介
取材・文=河野桃子 撮影=池上夢貢

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