片桐はいりインタビュー 岡田利規版
 夢幻能『未練の幽霊と怪物』を「自
由旅行の楽しさ」で創りたい

2020年6月3日(水)~24日(水)KAAT神奈川芸術劇場 大スタジオにて『未練の幽霊と怪物』が上演される。これまでもKAATと様々なクリエーションを行ってきた岡田利規(チェルフィッチュ主宰)による、舞台芸術の「能」の構造に触発された新作で、2017年2月に、ミュンヘン・カンマーシュピーレの委嘱で創作・発表した「NO THEATER」の日本版進化形となる。能の上演形式にのっとり、間狂言的な幕間劇を挟む2つの新作を上演するのだが、その演目がまたユニークだ。2012年に新国立競技場の設計者としてコンペで選ばれるも後に白紙撤回され、2016年に没したザハ・ハディドをシテに描く『挫波(ザハ)』と、1兆円を超す巨額の資金が投じられながら一度も正式稼動することなく廃炉の道を辿る高速増殖炉「もんじゅ」を巡る『敦賀(もんじゅ)』という2演目で、目に見えないもの、霊的な存在がその思いを語る「夢幻能」の構造を借りて上演するという。
一筋縄ではいかなそうな今作に集った個性豊かな出演者の中から、唯一無二の俳優として多方面で活躍する片桐はいりに、作品に挑む今の思いを聞いた。
人の頭の上に「?!」を立てることが私の仕事だと思っている
ーー岡田利規さんの作品には今作が初参加になりますが、これまでご覧になったことはありますか。
いくつか観ていますが、一番印象に残っているのは2010年のTPAMショーケースにチェルフィッチュの『わたしたちは無傷な別人であるのか?』が参加していて、それを観に行きたいという外国人を何人か連れて会場の横浜美術館に行ったことです。そのことを岡田さんも覚えていてくださって、お会いしたときに「あのとき遅刻してきたでしょ」と言われてしまいました(笑)。観劇後に20人くらいの外国人を連れて中華街に行ったことまで含めて、非常に強烈に覚えています。
『未練の幽霊と怪物』片桐はいり
ーー岡田さんの作品をご覧になった印象はいかがでしたか。
いやもう、不思議でした。あんな動き絶対に無理というか、どういう構造になっているのか全然理解できなかったです。でも、私はそんな「?!」という、クエスチョンマークとビックリマークが一緒に立つようなことが大好き。そもそも、人の頭の上に「?!」を立てることが私の仕事だと思っているもので。岡本太郎でいうなら「なんだ、これは!?」っていうことですよね。だから岡田さんのやっていらっしゃることは、多分、私の好きなことに近いのではないか、と勝手に思っています。今作も、この時期にこの不思議な題名でこの演目をやるということ自体「?!」って思いますから。​
ーーこの時期に「ザハ」という言葉が出てくるだけでも「ん?!」となりますよね。
東京オリンピック自体、「……」ってなっちゃいましたけどね。
実際に今起きていること、感じていることを舞台に上げられるのが演劇の力
ーーしかもこれを能の上演形式で、というところがまたすごい試みだな、という。
2017年の「NO THEATER」のときは、東京の話をドイツでやったというのも面白いですよね。ドイツの話でもなく、ドイツに置き換えたりもしないで。今回は上演される6月はどうなってるんだか皆目わからない、という昨今の状況でもあるし、あらかじめ完成した台本をいただいてお仕事を引き受けているわけではないので、お稽古場で「昨日こんなことがあった」とか「こんなセリフ言えないくらい今日またとんでもないことが起こった」みたいなことがあると思うんです。実際に今起きていること、感じていることを舞台に上げられるのが演劇のもつ力のひとつと思うので、そういうクリエーションができたらいいですね。​
『未練の幽霊と怪物』片桐はいり
ーー稽古場で岡田さんを中心に、皆さんでクリエーションしていく現場になりそうですね。
どこまでそこにコミットできるかっていうのが問題ですけど、少なくとも今の準備段階では、いっぱい課題をいただいていて楽しくてしょうがないという感じです。能狂言についても、知れば知るほど面白いことがいっぱい出てくるし、もんじゅについても、ザハについても、東京オリンピックや原子力の問題まで含めて、知りたいことがいっぱいあります。このキャストの中だったら私がザハ役っぽいけど、そうじゃないんですって(笑)。間狂言に出ることになるみたいです。​
ーーキャストの皆さん、動ける方たちですよね。片桐さんも小野寺修二さんの舞台にもよくご出演されていましたし。
今はいろいろと考えてちょっと止まってるんですけどね。でも、もともと動くのが好きというか、身体全体で何かをすることが好きなので、ダンスはできないと思いますけど、私なりに面白い表現ができたらいいなと思っています。​
ーーその点岡田さんの作品は、ダンスじゃないけど身体を使って表現する、ということが多いですよね。
そうですね、独特すぎちゃって、ちょっとどうしていいのかわからないですけど(笑)。あの動きは無理ですよね。岡田さんは「無理じゃないです、誰にでもできるんですよ」とおっしゃるんですけど。​
ーーでもスタッフさんからの情報によると、岡田さんは「片桐さん動きバッチリです」って嬉しそうに言っていらしたそうですよ。
え、何が? というか「動きバッチリ」って何をご覧になったんだろう? 昨年私が出演した『二度目の夏』は観に来て下さいましたけど、でもあの作品ではダンスはなかったのに……。​
『未練の幽霊と怪物』片桐はいり
劇団時代からみんなで作るということに慣れていた
ーー『二度目の夏』ですが、私も拝見しました。テーマ自体は重たいのに非常に面白く見られる作品で、特に片桐さんの動きとか空間の使い方が見事で印象に残りました。それはもしかしたら、片桐さんが小野寺さんの作品などにもよく出ていらして、舞台上でいかに身体を使うか、ということをやって来られたからかな、と思ったのですが。
そう言ってもらえるとすごく嬉しいです。やっぱり動きたいから動いちゃうんですよね。岩松(了)さんとご一緒するのは15年ぶりでしたが、あの作品は台本ができるのがとっても遅かったんです(笑)。でも最後のシーンができた時は今までやったことが全部ひっくり返るような、鳥肌立つ感じがあってとっても面白かった。最初からわかっていたら、ああは演れなかったというか。マイムを母体とした小野寺修二さんのカンパニーデラシネラやダンスカンパニーの公演の場合は台本がないので0から稽古場で作りますし、以前所属していた劇団でもみんなでアイデアを出して作るということに慣れていたので、今回もまだ台本がなくて題名しかわかりませんけれど、こういう作り方、けっして嫌いじゃないです。​
ーー最初から本がきっちりあるタイプよりも、稽古場で皆さんで作りながら作品が見えてくるタイプの方がお好きだということでしょうか。
本がちゃんとある場合は「パッケージ旅行」っていう感じがするんですけど、本がない場合は「自由旅行」の楽しさがあると思うんです。旅と同じで、本がないと失敗したらとんでもないことになっちゃうかもしれないですけど。私もセリフは早く欲しいですよ、覚えるの遅いから。でもやっぱりどんなものができるかわからない、どこへ行くことになるのかわからない、というのが一番気持ちが上がるっていうか……「よし、やるぞ」みたいな気持ちになりやすいです、私の場合は。​
ーー旅行のたとえがわかりやすくて面白いですね。パッケージ旅行じゃなくて、みんなで「どこ行く?何やる?」って言いながら行き先を決めるみたいな。
みんなで話し合って「えー、私こっち行きたい」とか「いまお腹すいたからここでゴハン食べた方がよくない?」みたいな協議も起こってくるわけじゃないですか、自由旅行だから。今回のカンパニーもそういうことができる方たちであるといいなと思ってるし、そういう方たちが集められてる感じがしています。
『未練の幽霊と怪物』片桐はいり
この作品自体が“この世ならざるもの”の演劇
ーー音楽が内橋和久さんで囃子方の役割として演奏も担当されますし、またシンガー・ソングライターの七尾旅人さんが謡の役割を担当されるということで、音楽面も含めて能の形式を取り入れてどういう風になるのか楽しみです。
能の本を読んでいると、能狂言の超自然的な感じがすごく面白いですね。能楽師の方は舞台の出の前にほとんど準備をしないとか。別世界に行くのにこっちの世界でいろいろ準備をしても意味がないんですって。この作品自体が“この世ならざるもの”の演劇だから、今の時代の音楽を使った夢幻能で、今の時代の異世界を垣間見てみたいです。
ーーまさに「ザハ」と「もんじゅ」は、“この世ならざるもの”というか、それぞれの役割が果たされないまま終わってしまった、という感じがありますね。
本当になんというか『未練の幽霊と怪物』ですよね。この題名の付け方からしてちょっと面白いですよね。説明してるようでしてない感じとかが、たぶんこのお芝居の質を表しているんじゃないかな、と勝手に思っています。説明的なようでいて、煙に巻いているというか、ちょっと笑っちゃうみたいなこともありつつ。​
ーーKAATは岡田さんが開館当初から深く関わり続けている劇場ですし、そのあたりのセンスも熟知していると思いますので、どのような作品が生まれてくるのか非常に期待しています。片桐さんはKAATにご出演されるのは今回が初めてですよね。
KAATには観客としてしょっちゅう行ってるんですけど、出演は初です。私にとって横浜は一番好きな遊び場所なんです。横浜に行くと「今日はお休みだ!」という気持ちになるから、そんな場所で仕事をするって大丈夫なのかな、というかちょっともったいない気はしてるんですけど(笑)。だからつらい思い出にならないようにと祈ります。横浜行きたくない、ってなってしまったらお休みの日に行くところがなくなるので、そうならないようにと思って頑張る所存です(笑)。

『未練の幽霊と怪物』片桐はいり

取材・文・撮影=久田絢子

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