ジャズ、ファンク、ソウルが融合した
マリーナ・ショーの最高傑作
『フー・イズ・ジス・ビッチ・
エニウェイ』
バカテクのリズムセクション
チャック・レイニーは72年リリースのソロ作『チャック・レイニー・コーリション』ですでにフュージョン的なサウンドを構築しつつあったが、『ホワッツ・ゴーイン・オン』でのファンク・ブラザーズの演奏を参考にした上で、多くのブルーノート作品やSSW系作品にも参加して試行錯誤を続け、指弾きならではの華麗なプレイを身につけている。ハービー・メイソンもまた、ブルーノート作品やキャロル・キングなどのSSW系作品のバックを務めていて独自のプレイを模索していたが、ハービー・ハンコックの『ヘッドハンターズ』(’73)に参加することでその技術をランクアップさせた。
彼らふたりと同様に、本作でギターをプレイしているデビッド・T・ウォーカーはジャズファンク系やニューソウルをはじめ白人SSW系の作品にも多く参加しており、レイニーやメイソンと相性の良いグルーブ感を持っていたと言えるだろう。
白人SSW系のバックを務めることの多かった彼らの演奏に共通するのは、重量級でありながらも都会的でセンシティブな演奏ができること。汗臭さを感じさせないスマートなプレイができるだけに、ニューソウルやフュージョン系のセッションに引っ張りだこになったと思われる。いずれにせよ、彼らの演奏は歌を生かすためのノウハウを持っている上に華麗で洗練されていた。だからこそ、70年代のニューソウルやフュージョン系のサウンドにマッチしたのである。
結局、レイニー、メイソン、ウォーカーらは、ジャズ側の視点としてのソウルジャズや初期のジャズファンク、ソウル側の視点としてのニューソウルのムーブメント、そしてロック側の視点としてのSSW系サウンドなどのバックを務めることで、それらを昇華し融合させるための橋渡し的役割を果たしたのではないだろうか。
本作『フー・イズ・ジス・
ビッチ・エニウェイ』について
最初の曲が衝撃的すぎて疲れてしまうが、他にもメローな「ユー・トート・ミー・ハウ・トゥ・スピーク・イン・ラヴ」(曲の中盤から歌っている最中にもかかわらずラリー・カールトンにリードギターを弾かせ、デビッド・Tは空を駆けるかのような美しいリズムギターを奏でている)や「ラヴィング・ユー・ワズ・ライク・ア・パーティ」のように美しいメロディーを持つナンバー、そして彼女の出世作となったソウルの定番曲「フィール・ライク・メイキン・ラブ」などが収められている。
マリーナ・ショーの作品としては本作を最初に聴いただけに、同じような感動と出会えるかもと思って彼女の作品を買い続けることになるのだが、残念ながら本作以外で印象に残るアルバムには出会えなかった。彼女がブルーノートに在籍している期間、プロデューサーは何人か変わっているので、本作のプロデュースを担当したベナード・アイグナーが最大の功労者と言えるのかもしれない。
TEXT:河崎直人