唯月ふうか/優河、タイプの異なる二
人がWキャストで主演を務める『VIOL
ET』を語る

ミュージカル『VIOLET』が、2020年4月7日(火)から4月26日(日)まで、東京芸術劇場プレイハウスにて上演される。本作は、梅田芸術劇場と、演出家トム・サザーランドが芸術監督を務める英国チャリングクロス劇場が共同で演劇作品を企画・制作・上演するもので、演出家と演出コンセプトはそのままに「英国キャスト版」と「日本キャスト版」を各国それぞれの劇場で上演するという日英共同プロジェクトの第一弾作品となる。
日英両バージョンの演出を手掛けるのは藤田俊太郎。主人公ヴァイオレット役を唯月ふうかと優河がWキャストで演じる。唯月は『ピーターパン』『レ・ミゼラブル』『天保十二年のシェイクスピア』などミュージカル、ストレートプレイ問わず数々の舞台で活躍してきた。一方、優河はミュージシャンとして美しい歌声で活躍してきたが、ミュージカルは今回初挑戦。キャリアも見た目もまったく異なる二人の主演女優は今何を考えているのだろうか。話を聞いた。
――本作の主演が決まった時の気持ちからお聞かせください。
唯月 はい。英国で先に上演している作品ですから、その主演に、と初めて聞かされた時は本当に嬉しかったです。主人公ヴァイオレットが顔に傷を負っているというコンプレックスがある点にも惹かれ、ぜひやってみたいなと思いました。ただ現在は、この作品をお客様がどのようにご覧になるのか、どこか不安にも似た不思議な気持ちのほうが大きいです(笑)。
――優河さんは今回ミュージカル初挑戦ということでオーディションを受けてこの役を勝ち取ったそうですね。何故この作品に出たいと思ったのですか?
優河 藤田さんに密着したNHKのドキュメンタリー番組を観て『VIOLET』という作品を知り、ヴァイオレットという人物として生きてみたい、と思ったことがすべての始まりです。目標に向けてどんどん突き進むヴァイオレットに憧れました。ミュージカルがどういうものかよく分かっていなかったのですべてが手探りでしたが、私自身の音楽生活をこれからどうしようかと考えていた時期でもあったので、成功できるか否かはさておき、自分の突破口になると思い、オーディションに挑戦しました。それだけに、合格の知らせを受けた時は本当に嬉しかったです。
――これまでは各自で歌稽古をなさっていて、今日が初めての顔合わせとのこと。この作品の楽曲はいかがですか? 歌いやすいですか?
唯月 どういったらいいのか……難しいですよね!(と優河を見る)
優河 死ぬほど難しいですね(笑)。
唯月 感情を自分の台詞に載せて歌うという根本的なことはこれまでの他の作品と変わらないんですが、作品によっては「音楽が助けてくれる」場合があると思うんです。壮大な音楽によって気持ちが乗って自分を引っ張ってくれるとか。でもこの作品は明らかに、ヴァイオレットが自分の気持ちを吐き出すタイミングで音楽が乗ってくる。だから伴奏の方々を自分が引っ張っていかないとならないんです。ほとんどの楽曲をヴァイオレットが歌っているんですが、作品の中で自分の気持ちと曲とお客さんの気持ちを引っ張っていかなければならないので、責任の重さがドーンと乗ってくる気がします。だからこの作品が怖いという印象が大きくなっていますね。
唯月ふうか
優河 そう。本当に怖いです。常にヴァイオレットが先導して歌が始まり、言葉が先に出る。そこがヴァイオレットらしいともいえるんですが。他の人のことが見えなくなるくらい、自分の気持ちが大事、この顔の傷を治したいという想いがいっぱいで、私はどんどん突き進んでいきたいんだ! という気持ちがいつも前面に現れてくるんです。
――お二人の話を伺っているとヴァイオレットのイメージが少しずつ見えてくるように感じますが、ヴァイオレットの魅力はどこにあると思われますか?
唯月 目的に向かって突っ走っていく強さがあり、周りが見えなくなっている姿を見たお客さんが思わず「そっちに行ったらダメだよヴァイオレット! こっちから行けばもっと近いのに!」という風に見守ったり応援したくなるような点が魅力なんじゃないかな。
優河 ヴァイオレットが旅に出た、ということ自体、もう旅が終わっているんじゃないかと思うくらい強い決心にも思えるんです。自分を信じて何かを求めて突き進んでいく、そんな行動力と原動力は、彼女のコンプレックスが大きければ大きいほどもっと大きくなると思うんです。舞台をご覧になる方の中でも何かしらコンプレックスを持っている方はいるかもしれませんが、それらを彼女に重ねて「自分も変わりたい、変われる」と思うきっかけを与えてくれる存在なんじゃないかなと思います。私自身がヴァイオレットから「きっかけ」をもらって変わりたいと思ってオーデイションを受けたからこそ、そう感じるのかもしれませんね。
優河
――そんなヴァイオレット役を今回Wキャストで演じる事となりますが、心境はいかがですか? 特にミュージカル自体が初となる優河さんの心境がとても興味深いです。
優河 怖いですよ(笑)! ミュージカルというものが初めてなのでほぼ何も見えていないんですが、、いろいろな方面から見たヴァイオレットの魅力に気付きたいのでふうかさんのヴァイオレット、とても楽しみです。現場では今日ヒントがいっぱいあると思うので。
唯月 こっちも怖いですよ(笑)! 先ほど初めて本読みをしたんですが、優河さんは、ヴァイオレットってこんな人なんじゃないかなと私が思っていたイメージそのままなんです。自分にない声のトーンだったり、間だったり……。そういうものが盛りだくさん過ぎて、演技が初めてって嘘でしょ!?って思うくらい。だからこそ怖さを感じていますし、優河さんに出会ったことで、改めて自分が出来るヴァイオレットが何なのか探していかないとならないなって思いました。
――確かに優河さんはややハスキーで低めのアルトボイス、唯月さんはソプラノボイスですよね。ちなみに歌う楽曲は高めの曲が多いんですか?
唯月 多いのですが、高いだけでなく低いところも多くて……。
優河 レンジの幅がハンパないんですよ!
唯月 メロディーもテンポも難しくて!
優河 だから全部辛いんです(爆笑)!
優河
――本作の演出家・藤田俊太郎さんについてはいかがでしょうか?
優河 私は現場では今日初めてお会いしたようなレベルなので……ふうかさんお願いします(笑)!
唯月 『天保十二年のシェイクスピア』でお世話になりましたが、シーンの中の自分の役の目的を、それぞれに話し合う時間をしっかり設けてくれるんです。役者一人ひとりと向き合ってくださる方だなって。例えば「こんな風にやってみて」という提案を受けて、やってみてうまくいったらとても褒めてくださり、ちょっとうまくいかない時は「ちょっとこうしてみよう、もうちょっとこう……」と親身になってくださるので、モチベーションに繋がりますね。すごくアゲてくださるんです。藤田さんの頭の中に描かれているものが非常に明確なので、周りの方の意見に対して、ご自身が描いているプランをしっかりぶつけてくださる。そういう建設的なディスカッションをしている場面を何度か見ましたね。でもそれがすごくいいんです。
唯月ふうか
――最後にこの作品を楽しみにしているお客様にメッセージをお願いします。
唯月 客席が変わっていて、全方向から観ることが出来ます。だから、お客様も私たちと一緒にバスに乗って旅をしている気分に入っていきやすいんじゃないかなと思います。
優河 コンプレックスを持つ全ての人間の皆さんに見ていただきたいですね。小さなきっかけでパチンと何かが変わる瞬間が詰め込まれている作品なので、そういうスイッチを見つけていただけたら、劇場を出る時に今までと違う世界が見えると思います!
(左から)優河、唯月ふうか
取材・文=こむらさき  写真撮影=中田智章

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