湯木慧、初の単独個展をレポート。タ
イトル不明の絵の意図は?
Photo_小嶋文子
16歳から21歳までの間に描いてきた作品
を展示
ここで開催されているのは、アーティスト湯木慧の初単独個展「HAKOBUne-2019-」。湯木慧は昨年6月にシングル「誕生〜バースデイ〜」でメジャーデビューしたアーティスト。音楽活動と並行して絵画などのアート作品も手がけており、冒頭で触れたマネキンも、昨年8月に開催されたワンマンライブ「繋がりの心実」の舞台セットとして湯木自身がペイントしたものだ。インディー時代、湯木はリリースした音楽作品と連動する個展ライブイベントを行っているが、アート作品をメインとした単独個展の開催は今回が初めてとなる。
入り口の横には、彼女のステートメントが掲げられていた。
神がノアに方舟を作らせて乗せたように 僕も僕の方舟を作り 絶やしたくない命達を乗せて、運ぼうと思う。
左右の壁には、湯木が16歳の頃から21歳の現在までに描いてきた作品が飾られている。手前の絵は紙に水彩で描かれたもの、奥に飾られているのはキャンバスに描かれたもので、クジラや鹿、猫など、生き物を描いたものが多い。さらに、水彩作品は左右の壁に同じものが額違いで飾られていた。「ノアの方舟」の物語では、方舟には様々な動物が雄雌一匹ずつ乗せられていたというが、この展示方法も、それをイメージしているのだろうか。
作品はどれも吸い込まれるような深いブルーが印象的だった。水彩作品では余白の白色を生かしたものが多いのに対し、キャンバス画は色彩が画面を埋め尽くしている。話によると、水彩作品は比較的初期の作品で、キャンバスに描かれたものは最近の作品が多いという。その色鮮やかなイメージは、アーティストとしての創造性がスパークしている湯木の現在と重なるようにも思えた。
個展を訪れた人は、私の方舟に乗った人
「個展って絵を発表するだけの場所ではなくて、この空間自体が作品なんだと思います。絵とBGMと創作、それらがある空間を総合して『HAKOBUne-2019-』という作品を作ったつもりです」
澄んだ声で、淀みなく湯木は話す。会場に入ると花の香りがして、包まれたように感じたことを話すと、花はファンの方からもらったものを飾っているのだと教えてくれた。毎日そんな風にものが増えたり、細かな調整を加えたりして、個展は少しずつ変化しているのだという。
「お客さんと作り上げている個展だと感じます。来てくれた人が絵を眺めている姿を見ながら、素敵な個展になったなと思うことが多い。みんながいることで完成するのは、ライブの感覚ともつながっているかもしれません。ライブもお客さんと一緒に作り上げるものじゃないですか。この感覚は、私が音楽をやっているからこその感想かも」
さらに湯木は、この個展の裏テーマについても教えてくれた。
「今回、この方舟には私が守りたいものを乗せようと思っていて、大切な人の写真、動物たち、そして創作そのものを展示しています。だけどそれだけじゃなくて、『展示を見に来てくれた人が、私の守りたいものの一つになる』という裏テーマもあって。だからこの個展を見に来てくれた人は、私の方舟に乗った人なんです」
タイトル不明の大作に隠された「謎」に
せまる
この新作については、湯木に聞いてもはぐらかされてしまった。会場を訪れた人に質問されることも多いそうだが、その時も答えていないのだという。
新作についてではないが、取材の中で湯木から聞いたこんな話がヒントになるのかもしれない。
「絵に関しては、自分から多くを語りたくないんです。みんなが絵を見ながら『これはなんだろう?』と想像して、そこから新たなイメージが生まれるのがアートの醍醐味の一つ。だから自分が説明して決めつけるのではなくて、見た人が感じたことを大切にしてほしい。それがすべてだと思います」
思えば「HAKOBUne-2019-」のキービジュアルに使われているのも、ある人には船、ある人には大木に見えるような、解釈の余地が残された作品だった。説明しすぎず、見る者に委ねる。それは、湯木が人の想像力を信頼しているからできることだろう。
— 湯木慧はゆきあきら (@Yuki_Akirart) March 1, 2020
湯木慧
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