浦井健治×柿澤勇人に直撃! 互いの
こと、名作に挑む心境とは 『ウエス
ト・サイド・ストーリー』インタビュ

2019年夏より、豊洲のIHIステージアラウンド東京にて、キャストを代えて連続上演中の『ウエスト・サイド・ストーリー』。そのラストを飾るSeason3で主人公トニー役を演じるのが、ミュージカル界で活躍する浦井健治と柿澤勇人の二人だ。ミュージカル史上に燦然と輝く名作に挑む心境を聞いた。
ーー名作『ウエスト・サイド・ストーリー』トニー役に挑戦されます。
浦井:僕は最初に映画版を観ましたが、不朽の名作として世界中に愛されている作品ですよね。日本でも山口祐一郎さんはじめ諸先輩方が関わってこられた歴史ある作品で、それを令和の時代に、360度回転劇場で、我々が熱を注ぎ込む。そのことによって、葛藤や争いの空しさといったメッセージをいかにお客様に伝えていけるか、今の日本で上演する意義も非常にあると感じています。僕が演じるトニーはまっすぐで、男としては純粋に人を愛する気持ちを体現できるし、こうありたいなと憧れるようなキャラクターでもあって。友情や地域、女性たちとの関係といったところでも、こうあるべきだという人間としての生き方みたいなものをたくさん学べる役柄だと思うんです。でも、若さゆえのというところがあるので、人間ってアンバランスだよな、簡単には完成しないものだよなと。それを、我々の年齢で演じるからこそ、こうなるという風に見せたいです。この作品が作られた当時の若者は、今の若者より精神年齢が高かったと思うので、そういう意味でも、伏線であるとか、セリフの裏側の感情であるとかいったものをしっかり演じていけたらと思っています。
浦井健治
柿澤:僕が在籍していた劇団四季でも上演されていた作品で、そのときは残念ながら携われなかったんですが、ミュージカルを好きな方も、あまり知らない方もご存じの作品だと思います。在籍当時、まだ浅利慶太先生がご存命で、みんなレパートリー、持ち歌をもっていなくちゃいけなくて、そのレパートリーのひとつが「Maria」だったんです。だからもちろん映画は見ていましたし、鹿賀丈史さんがトニーを演じたバージョンのCDも聞いていました。映画が公開されたとき、僕の両親くらいの世代がリアルタイムで見ていたと思うんですが、センセーショナルだったと思いますし、みんなが傑作、名作と呼ぶ作品に関われることがうれしいですね。僕は今32歳ですが、『ウエスト・サイド・ストーリー』は若者の物語なので、携われるチャンスとしては年齢的にギリギリだなと思って……。トニーはマリアという一人の女性とめぐりあって、一目惚れ以上のもの、最後まで添い遂げるであろうと確信できるものを感じ、最後まで愛し抜く。ただ、その相手が対立するメンバー側の人だったということで、悲劇がどんどん転がっていくわけですが、一人の女性を愛し抜くところを体現できるというのは、役者としてやりがいがあります。仲間であるジェッツのメンバーたち、そして親友リフと組んで芝居ができるというのも男として楽しみで、その上、青春時代にみんな通ってきている道、僕が若いときに憧れていた部分もあるので、それを再体験できるというのはすごくワクワクします。マリア役の桜井玲香さんと伊原六花さんもフレッシュな二人ですし、加藤和樹さんと木村達成さんはまったく違うタイプのリフになりそうですし、早く一緒に芝居したいなと思っています。
浦井:マリアの二人は、それぞれ所属していた場所でリーダーを務めていた。女性としての芯がすごく強くて、男気があるというか、さっぱりしている感じがあって、女優さんとしてすごく信頼できるんだろうなという感覚があります。リフの二人はそれぞれの個性で役柄を作り上げてくれると思いますし、初っ端からリフが先陣を切って踊る作品なので、トニー役としても、身体のケアなど声をかけていきたいなと。誰にでも男女問わず、人として一番信頼を感じられる人ってきっといると思うんですけど、トニーとリフはそんな関係なんですよね。人はやはり一人では生きていけないわけで、お互いどんなときも信頼できる、強い絆を持ち合った関係だと思います。
ーートニーが歌う「Maria」をはじめ、名曲揃いの作品です。
浦井:大変です。キーも高いところから低いところまであって、しかも、ニュアンス、内に秘めたものを、張り上げるだけではなくて、感情を音に含めるというか……。そこはすごく繊細な作業であり技術だと思うので、それをお芝居としてちゃんと落とし込んでいかなくてはいけない。難役だと思います。ただ、バーンスタイン作曲のメロディがとても美しいので、そこに乗ることができれば勝ちかなと。まずは乗ることができるように頑張りたいですね。このロングラン公演を、カッキー(柿澤)と助け合って、一回ずつ、魂をこめて演じていけたらと思います。
柿澤:難しい曲、多いですよね。今日も、最初に歌う「Something’ s Coming」の練習をしてきたんですが、拍子がどんどん変わっていって。恋かわからないけれども何かがやって来るという予感を表現するために、バーンスタインがそう作曲したんだと思うんですが……。ホセ・カレーラスがトニーを歌って、バーンスタインが指導している映像を見たことがあるんです。朗々と歌って、自分としてはすごくうまいと思うんですけど、何回もダメだ、ダメだってバーンスタインが言って、カレーラスが楽譜バーンって落として帰っちゃう。それくらい、一つの音とか拍子とか強弱に思い入れがあるからこそ、今も残っているんだな、そんな名曲を自分が歌うんだなと……考えてしまいます。あの映像を見なきゃよかったなと思うくらいですが(笑)。芝居の中で、曲とも、マリアやリフとも誠実に向き合い、取り組んでいきたいなと思います。
柿澤勇人
ーーお互いの印象はいかがですか。
浦井:カッキーは、舞台上で「1」ではなく「ゼロ」になれる、「ゼロ」からお芝居ができる人なんです。そういう役者さんってなかなかいなくて。潔いというか、本当にその場に役として生きて存在している、全身に憑依させることができるかなり稀有な存在だと自分は思っていて。柿澤くんという役者を初めて観たのが、劇団四季時代の『春のめざめ』だったんですが、その時、何だこの子は……と思ったんです。だけど、その後一緒にご飯へ行く機会があって、本当に普通のサッカー少年で(笑)。役者然としていないというか、役者じゃなくてひとりの人間なんだよ僕は、と言い切れる生き方をしているところが、不器用かもしれないけれど、めちゃくちゃかっこいいなと感じました。実は人情深くて、人を見捨てないところが、「漢」と書いて「おとこ」だなと思うんです。
柿澤:何ですか、「漢」(笑)。
浦井:ビールとサウナが似合う感じというか。
柿澤:好きですけど(笑)。
浦井:令和の時代のミュージカル畑にはなかなか珍しい存在というか、吉田鋼太郎さんに気に入られるわけだなと(笑)。
柿澤:吉田鋼太郎さんには、「お前は僕の若いころにそっくりだ」って言われてますね(笑)。『春のめざめ』は、11年前ですよね。一緒にご飯食べて。僕はそれまでに浦井くんの、当時は浦井さんって呼んでたんですけど、舞台をいろいろ観ていて、どういう方なんだろうって緊張していたら、いろいろなことを聞いてくれて……。僕が話しやすいような雰囲気を作ってくださった。最初は、本当にこういう人なのかなって。
浦井:うっとうしかった?(笑)
柿澤:そうじゃなくて、疑ってたの(笑)。でも、この11年間、ずっとこういう雰囲気で。その後、縁があって共演し、『デスノート THE MUSICAL』では同じ役を演じることになり、そして今回も。『春のめざめ』のときは同じ役を演じる日が来るなんて思ってもみなかったですから。僕は今もう健ちゃん健ちゃんって呼ばせてもらってますけれど、それも健ちゃんの人柄あってのことで。タイプは全然違うんですけどね。お酒は飲まないけど、お酒の席は好きだよね。
(左から)浦井健治、柿澤勇人
浦井:うん、好き(笑)。
柿澤:タイプは全然違うからこそざっくばらんに話せて、連絡取り合って。前はLINEでよくスタンプを送ってきて、最初は返事してたんですけど、最近はもう返事しないですね(笑)。
浦井:既読スルー。そういう扱い(笑)。
柿澤:それでも、何事もなかったように話せるのが、浦井健治の人間性だと思います(笑)。
浦井:ありがとうございます(笑)。めげずにスタンプ送り続けます。そういう愛情かなと思うので(笑)。やっぱり『デスノート THE MUSICAL』が大きかったかな。初演、再演と一緒にやって、作曲のフランク・ワイルドホーンにも「誇りに思ってくれ」と言われた作品で。
柿澤:日本発信の作品で、台湾・台中の立派な劇場で一緒にやらせてもらえたのも、健ちゃんとのいい思い出です。健ちゃんは、役者として行くところまで行っちゃう人だと思うんですよ。『デスノート THE MUSICAL』の最後で、あと40秒で死ぬと言われて、そういう演技をしなくちゃいけないんですけど、僕は、狂わなきゃいけないとか叫ばなきゃいけないとかってとき、すごく冷静なんです。盆が回っている間、そこで指とか挟まったらケガするよなとか思いながら、割と俯瞰で演じて見ている。健ちゃんはそうじゃないんです。楽屋で気づいたらアザだらけとかなんです。
浦井:(爆笑)
柿澤:僕はそれができないから。だから、そこまで行ききっちゃうっていうのがすごいなと。健ちゃん見てると何か、そのままどこかぶつけて死んじゃうんじゃないかって不安になったり。40秒で死ぬって言われたらホントにそういう風になるかもしれない。想像力の問題かもしれないんですが、そこまで行ききっちゃうのがすごいなと思っています。今回、トニーでどうなるのかわからないですけど、すごく感情出すのがラストとかだけなので。客観的に見られるのが楽しみですし、盗めるものがあったら盗みたいですね。
浦井:カッキーの一途なところはトニーっぽい。思いを深めていくところとか。
浦井健治
柿澤:健ちゃんは、ちょっとふにゃふにゃしているところがトニーっぽいかな。優柔不断じゃないけど、ジェッツとシャークスが決闘するって言っているときに、ホントは止めなきゃいけないのに、武器はナイフだとみんなが言い出すと、それだと死んじゃうからということになって……じゃあ素手だ、となったらトニーがいいよって言う。そういうところが健ちゃんっぽいなって(笑)。あと、「Something’ s Coming」の、このまま生きてたら何かいいことが起きるんじゃないか的なところとか。
浦井:Season1でマリアをやってた笹本(玲奈)さんにもそれ言われた(笑)。ぴったりじゃんって。ほめられてるのかな、これ(笑)。
ーー360度客席が回る劇場での上演ということについてはいかがですか。
浦井:この『ウエスト・サイド・ストーリー』においては、客席の回転を、舞台転換として活きるように演出家が用いているところがあると思います。日本で唯一、あとはオランダにしかない形式の劇場ということで、お客様にも非常に貴重な観劇経験をしていただけるかなと。2018年に劇団☆新感線の公演で立たせていただきましたが、極上の劇場空間なんです。演技スペースとしてはとにかく広くて、役者にとってはしっかり埋めなくてはいけないという恐ろしさがあるんですけど、一度それを味方につけると、お客様が前のめりで楽しんでくださる。アトラクションのように体感型で楽しんでいただける劇場だと思うんです。怖さと言えば、最初は迷子になるんです。上手下手(かみてしもて)じゃなくて、東西南北で覚えなくてはいけない。慣れると大丈夫なんですけどね。
柿澤:僕は初出演なので、まだ全然想像できていないんですが、役者としても貴重な体験にしたいなと思います。『ウエスト・サイド・ストーリー』の来日キャスト版を観たときに、プロジェクション・マッピングもあるし、客席の回転もあって、世界に二つしかない最先端の技術を体験できるという意味では非常にいい時間を過ごせると思いました。普通の劇場だと、お客様の方でカット割りできるじゃないですか。主役を観るもよし、後ろで起こっていることを観ることもできる、それが舞台の醍醐味のひとつだと思うんですが、回るとなるとその情報量がすごく多いから、楽しみどころがいっぱいある。だから、何回観てもおもしろくなるんじゃないかなと思うんです。より、ニューヨークの街の中にいる感覚が味わえるんじゃないかな。
柿澤勇人
浦井:実は、ドーナツになっているところの舞台の床が硬いんです。リノリウムというよりコンクリートに近い感じだから、そこで踊るのは大変で……。Season1を観に行った時も裏では氷水で足を冷やしている姿を見たりしてしまうと、やっぱりケアは必要ですよね。トニーはそこまで踊らないですけど、やはり歌が難しいので、全力で歌い続けられるよう、健康管理をしっかりやっていけたらと思います。
ーー舞台初演から60年以上経っても、この作品で描かれる差別や対立は未だに解消されていませんが、今の時代に上演する意義をどのあたりに見出されているか、おうかがいできますか。
浦井:本当に普遍的なテーマをもつ作品です。ここで描かれている争いといったものに現代でも共感できてしまう悲しみがあって。いつの時代にもある問題だと思いますし、そこから学べるものは今でも多いんじゃないかな。争いからは何も生まれない。でも、若さゆえに突き進んでしまった、そんな悲劇、人々の群像劇として、『ロミオとジュリエット』をベースにしたこの物語を、歌と芝居とダンスで紡いでいけたらいいなと思います。
柿澤:ラストの演出も、争うということはどうなのかということを提示していると僕は思っていて。時代も国も違えど共感できるこの作品のメッセージはたくさんあると思うんです。シェイクスピアの『ロミオとジュリエット』もそうですが、いつの時代にも通じる、やる意義を見出せる、それくらい普遍性をもった作品だと思います。プエルトリコ人と白人との対立は、日本人にとっては完全に理解できるものではないかもしれないけれど、争いの空しさみたいなものは通じると思いますし、それをすばらしい音楽に乗せて、客席が回るというエンターテインメントもある劇場で上演できるのは、普段ミュージカルを観ない方にも、普通の劇場でミュージカルを観ている方にも、素晴らしい機会になるんじゃないかなと思います。
浦井:『ウエスト・サイド・ストーリー』、Season1、2と繋いできたバトンを、我々の3で完結させることになるので、しっかり責任をもって、これが今の『ウエスト・サイド・ストーリー』ですと、メッセージを含めて見せていきたいですね。
柿澤:Season1、2とまた畑の違うキャストになりますし、ミュージカルが好きな方はなかなかこの劇場で観劇する機会はないと思うんです。今回、不朽の名作『ウエスト・サイド・ストーリー』をここで上演するということで、作品のさまざまなメッセージを、名曲に乗せて、みんなで頑張って伝えていく。何かを感じて帰ってもらえるという自信を今でも感じているので、ミュージカルを普段ご覧にならない方にも観に来ていただきたいです。
(左から)浦井健治、柿澤勇人

■浦井健治
ヘアメイク:山下由花
スタイリング:壽村太一
■柿澤勇人
ヘアメイク:松田蓉子
スタイリング:椎名 宣光
■浦井健治・柿澤勇人
ブルゾン¥84,000、シャツ¥31,000/ともにCINOH (MOULD 03-6805-1449)
パンツ¥18,000/NUMBER (N)INE(NUMBER (N)INE 03-6416-3503)
ブーツ¥65,000/FACTOTUM✕EARLE(FACTOTUM LAB STORE 03-5428-3434)
取材・文=藤本真由(舞台評論家) 撮影=福岡諒祠

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