【前Qの「いいアニメを見にいこう」
】第27回 アニメに夢はあるのか? 
「劇場版SHIROBAKO」

(c)2020 劇場版「 SHIROBAKO 」製作委員会 アニメに夢はあるのだろうか? 日々、SNSのタイムラインに流れ行くバッド・ニュースをつらつらと眺めつつ、ただでさえ遅れている原稿の手を止め(すみません)、そんなことを思わず考えこんでしまったりする、今日このごろである。
 何の因果かこのコラムにたどり着いてしまったアナタも、ちょっと胸に手を当てて考えてみてほしい。アニメに夢はありますか? アニメって素晴らしい、アニメは最高だ、アニメでみんなが幸せになれる……素直にそんな、明るい未来を思い描けますか?
 ぼくはアニメが好きである。じゃなきゃ、アニメについて文章を書く仕事に就こうなんて思わない。しかし、アニメに夢はあるだろうか? と、問われたら、ウグっ……と、何かが喉の奥につかえたようになって、一瞬、言葉に詰まってしまう。日本のアニメ産業を取り巻く状況は、けして手放しに、楽観的に語れるほど、明るいものじゃないから。慢性的な人材難、なかなか改善されない労働環境、パッケージセールスモデルの事実上の崩壊、配信の好調もいつまで続くか先が読めない……などなど、問題は山積みだ。
 しかし、それでもやっぱり、アニメが好きである。「劇場版SHIROBAKO」は、そんなぼくの気持ちに寄り添いつつ、胸を突き刺してくるアニメだった。
 物語の舞台は2019年。TVシリーズの熱いドラマを経て、武蔵野アニメーション(ムサニ)が「第三飛行少女隊」を世に送り出してから、4年後の世界だ。あれから一体、何があったのか。詳細は直接映像で確認していただきたいが、物語はムサニが決して明るくない状況に置かれている時点からスタートする。それは単に物語を盛り上げるための装置として設定されたというよりも、生々しい、2019年のアニメ業界の姿を写し取ったもののように見える。
 率直に、個人的な思いをいえば、冒頭からおよそ30分程度(時計を見たわけではないが、おそらく)のこのパートのトーンのまま、全編を押し切ってくれてもよかったくらいだ。あまりに切実で、じりじりと心を磨り潰すかのような展開。「万策尽きた!」というテレビシリーズの名セリフがあるが、あれはどこか、シャレになる状況だから口に出せるのだ。本当にツラいとき、ただ人はため息をつくことしかできない。これがぼくたちを取り巻く現実だ。でもそれでは、エンターテインメントにならない。それに、アニメらしくもない。アニメはどんな絶望的な状況からでも、希望を、夢を描くものなのだから……。
 というわけで、とあるファンタジックなシーンを大きな転換点として、物語は加速、上昇し始める。劇場アニメの制作を受注したことから、活気づくムサニ。懐かしい面々が次々と画面に登場し、主人公である宮森あおいが、声を張り上げ、画面を所狭しと駆け回る。もちろん、一筋縄ではいかない。困難も山盛りだ。テレビシリーズ同様、地に足の着いた、ディティールの細やかな描写で、アニメーション業界の「今」を描き出しながら、「こんな世界だったらいいな」という理想を、力強く描き出してみせる。それはもしかしたら、「空元気でも元気」というやつなのかもしれない。でも、いいじゃないか。俯(うつむ)いて、悲観的なことを述べてばかりいるより、その方がいい。
 アニメに夢はあるのだろうか? ある。少なくともこの映画を作った人たちは、この映画の中に描かれているアニメスタッフたちは、「ある」と信じている。信じようとしている。そして実際に、厳しい現実と戦っている。その姿に、心を揺さぶられずにはいられない。そして、大好きなアニメのために、自分には何ができるのだろうか? と、思わず考えずにはいられなくなるのだった。きっと、アナタもそうじゃないだろうか。ぜひ、劇場で「夢」に触れてほしい。

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