「繊細さとダイナミズム、静寂とカオ
ス、平穏と不穏、洗練と野蛮」――F
oals、ロンドン公演のレポートが到着

インタビューにライブとFoalsの取材が続いた。2月半ばにドラマーのJackにインタビューした直後の18日に、バンドは『The BRIT Awards 2020』の「British Group」(最優秀ブリティッシュ・グループ賞)を受賞した。権威あるこのイギリスの音楽賞の中でも、ひときわ重要な賞だ。

もしも順番が逆でインタビューがあとだったら、“You deserve it!”(あなたたちこそこの賞にふさわしい!)と声をかけてあげたかった。ま、御本人たちはこのセリフを今頃、何百回、何千回と聞いているだろうが。10年以上自分たちの才能を信じて積み重ねてきた努力が報われたバンドだけに、この言葉のシャワーをたっぷり浴びてほしいと思う。
こうして自他共に認めるベスト・グループになったFoalsの今年初めてのライブが、2月17日(月)、O2 Shepherd’s Bush Empireで行われた。これは、『War Child』という、紛争地帯の子供たちの救済活動をするチャリティ団体のための資金集めを目的としたシリーズ・ライブで、6回目となる今年は、2月5日(水)から22日の間、ロンドン各地の会場で、Foalsほか、Sigrid、Declan McKenna、Catfish and the Bottlemenなど13アーティストの公演が行われた。

Foalsにとって、これは意味あるチャリティ・ライブであるだけでなく、交替したばかりの新ベーシスト初披露の場、そして来るべきアジア・ツアーに向けてのウォーム・アップの意味合いもあり、さまざまな意味で試金石となる重要なライブだった。3月の来日公演の中身を占うためにも、これは外せない、とさっそく出かけてみた。
サポートはThe Magic Gang。普通なら次にメイン・アクトが登場するところだが、今夜はチャリティ・ライブ、ということで、War Childの代表が挨拶。続いて、実際にWar Childに救済された少女が、幼い子供たちが兵役に取られ、訓練に次ぐ訓練で子供らしい子供時代を奪われている自国の惨状を訴えた。退場する2人の背中に拍手が浴びせられる中、胸がつまったままでいるところへ、静かな音楽が聞こえてきた。

Foalsの最新作『Everything Not Saved Will Be Lost – Part 2』のオープニング曲「Red Desert」。何かが始まる予感に満ちた曲。そこへメンバーたちが登場。そのまま同アルバムの2曲目「The Runner」へとなだれ込み、場内の空気が一変した。曲は軽快に、しかし地響きをたてるように鳴り、Yannisの朗々とした声がそれに乗ってひた走る。
前半は、ライブでおなじみ「Snake Oil」「Mountain at My Gates」のようなヘヴィ・チューンに『Part 1』からの「On the Luna」「Exits」、『Part 2』からの「Wash Off」のような曲を加えて、曲間の間合いもおかずに、高速、豪快に展開する。Yannisに煽られ、モッシュ・ピットでひとかたまりになった人波が大きくうねる。ビールの入ったカップがその上空で飛び交い、場内の熱気がどんどん高まる。

途中、Yannisが「このような尊い活動をしているWar Childのためにプレイできて光栄です」とコメント。そして、新ベーシストを紹介する。「Jagwar MaのJack Freemanに入ってもらいました!」Foalsのツアー・メンバーとして今宵初お目見えとなったJackは、体格のがっちりしたメンバーたちの中で一人ひょろ長く、一見頼りなさそうだが、すでにFoalsならではの骨太ベースを立派にマスターしている。「Exits」が終わったところで、観客の間から「The French Open」(1stアルバム『Antidotes』収録曲)の大合唱が起こり、それを追いかけるようにバンドの方がさわりを演奏する一幕があった。観客主導の1曲。こんなステージと客席との親密なやり取りが微笑ましかった。
中盤の「Spanish Sahara」で、場内はいきなり沈静化する。美しいギターとキーボードのメランコリックな曲。ゲームの『Life is Strange』に使用され、これでFoalsを知った人もいる有名な曲だ。これを皮切りにやや流れが代わり、後半は「Birch Tree」「Inhaler」などミッドテンポの曲中心に進む。『Part 2』からの「Like Lightning」の「稲妻を投げる」というフレー
ズを聞き、画家ウィリアム・ブレイクの啓示的な絵画が目に浮かんだ。

本編ラストでは、ステージで初パフォーマンスとなる『Part 2』からの10分近い壮大なナンバー「Neptune」が演奏された。ネプチューンはローマ神話の海神。ギリシャではポセイドンになる。海を思わせる青いライティングがあたりを彩る中、モダン・サイケデリアとでもいうべきディープなサウンドが観客を包み込む。海の底から、見せかけの平和が訪れたディストピアを見るような印象的なエンディングだった。
ライブ本編は、『Part 2』のオープニング曲で幕開け、『Part 2』ラストの曲で締めくくられた。この2曲に挟まれた中身はきら
めく轟音のドラマだった。

アンコールは定番の「What Went Down」と「Two Steps, Twice」に新作からの「Black Bull」を加えた3曲。フロアは大ダンス大会。アリーナ席だけでなく2、3階のバルコニーまで大丈夫か、と思うほど揺れている。ドラムのJackが後方に坐っていられず、スティック持って大きく立ち上がる。この超絶テクのドラマーは、バンドを支える屋台骨とかでなく、バンドを引っぱる圧倒的な推進力だ。
「What Went Down」でYannisがクラウド・サーフ! 観客の海の上に仁王立ちになる。不思議なキャラクターの人である。少年の無鉄砲さと大人の思慮深さを併せ持つ人。神々しくもあり猛々しくもあり。パフォーマンス中の彼は、神性と獣性の両方の輝きを放つ。

Foalsも、考えてみるとそんなバンドである。繊細さとダイナミズム、静寂とカオス、平穏と不穏、洗練と野蛮。一見正統ロックと見える音の中に、これら相反する要素を矛盾なく取り入れ、複雑なレイヤーを作る。そのレイヤーの底では、今も彼らが取り組まずにいられぬ実験音が息をひそめ、時折奇妙なリフやリズムとなって表出する。こんな普通であって普通でないところがFoalsを特別な存在にしている、と思う。
来日公演について、Jackは次のように語っていた。「サマソニの時より曲数を格段に増やし、全体もっとディープなセットが構成できると思う。『Part 2』からの曲もたくさんやる予定。聞きどころは、アルバムのラストの曲「Neptune」。壮大で、エネルギーあふれる曲だから、ライブも聞き応えのあるものになるだろう。Foalsをよく知る人にも、ライブを初めて見る人にも楽しめるものにしたい。よく知られている曲とツウ好みの曲を織り交ぜて」

この夜のライブは、まさにその通りの内容だった。おそらくは、この路線をそのまま日本へ持っていくのだろう。来日公演のお楽しみのために、ロンドン・ライブをこれ以上詳述するのは控えるが、とにかく中身の深すぎる、聞き応えのありすぎる、それでいてどこまでも楽しいライブだった、とお知らせしておこう。

Text by 清水晶子(Akiko Shimizu)/ ロンドン在住ジャーナリスト
Photo by Patrick Gunning
【イベント情報】

Foals 『JAPAN TOUR 2020』

日程:2020年3月3日(火)
会場:愛知・名古屋 CLUB QUATTRO

日程:2020年3月4日(水)
会場:大阪 BIG CAT

日程:2019年3月5日(木)
会場:東京・新木場 STUDIO COAST

チケット詳細(https://smash-jpn.com/live/?id=3255)

お問い合わせ: SMASH(http://smash-jpn.com) 03-3444-6751

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