鼓童×ロベール・ルパージュ〈NOV
A〉“音を見る”を可能にするテクノ
ロジーと象徴的シーンを初公開

太鼓芸能集団「鼓童」は、映像の魔術師ロベール・ルパージュが演出を手掛ける『鼓童✕ロベール・ルパージュ〈NOVA〉(ノーヴァ)』を2020年5月23日(土)より日本で初上演し、その後世界各地で公演することになった。公演に先駆け、作品のモチーフでもある“サイマティクス(意味:音や振動の可視化)”を実現するテクノロジーと、象徴的なシーンについて紹介する。
〈NOVA〉とは、日本文化と最先端ビジュアルテクノロジーが融合する、新・視聴体感芸術で、演者の動きや太鼓の振動をテクノロジーで感知し、映像や照明などの舞台装置を連動させることで、“音を見ることができる舞台作品を実現。ストーリーの面では、生命の誕生から始まり人間本来の根源的なものを表現しながら、人が生きる上で忘れてはいけない希望や夢など「目には見えにくいもの」を、テクノロジーによって音を可視化することで表現しようとしている。
〈NOVA〉におけるテクノロジー
〈NOVA〉の舞台におけるテクノロジーの在り方は、一般に“テクノロジー”と言われて思い描くような近未来的な姿ではないかもしれない。NOVAにおいて技術はあくまでもツールであり、作品の中心は演者であり太鼓と考えている。単に演者や舞台に映像を投影するプロジェクションマッピングや、テクノロジーに演者が動きを合わせるのではなく、太鼓の音や打ち手の生のリズムにテクノロジーが反応することで、音から動きが起こり、繋がり、一つの表現を構築する。
〈NOVA〉を創るテクノロジー1「Photon(フォトン)システム」
〈NOVA〉の“生”感を支える中心的な技術として、「Photonシステム」を使用している。「コペルニクス」と呼ばれる人の目には見えない光を発する装置を用いて空間をマッピングすると、舞台で床に立ち位置などの目印としてつける“バミリ”を、空間上にも仮想的に施すことができる。演者や太鼓にもコペルニクスを装着し、その信号を舞台上に設置する8箇所・8台のカメラで捉えて追うことで、演者や太鼓のどんな動きも追跡することができ、通常、舞台上の演者を照らすピンスポットにはそれを操作する技術者の意図が含まれ、演者も予定にない動きを控えるなど、お互いにイレギュラーな動きへの抑止力が働いている。このシステムを用いることで、人の動きや太鼓の音と連動した照明・映像の変化を起こすことが可能になり、人が技術に合わせることなく自由にパフォーマンスを行いながらも、テクノロジーと完全に融合した表現を実現している。
〈NOVA〉を創るテクノロジー2「トリガー」
鼓童の演者が演奏する太鼓のひとつひとつには「トリガー」と呼ばれる装置がつけられており、太鼓の表面の振動に反応して照明と映像が変化する。こうすることで太鼓の音にインタラクティブに反応する演出を行い、音の大きさ、たたき方による振動の違いを視覚化する“サイマティクス”の取り組みとなる。
一方で、太鼓の音の振動幅はとても大きいため、トリガーの感度が低いと全て同じインプットになってしまい、感度を上げると隣の太鼓の振動にも反応してしまうなど、調整が非常に難しい技術でもある。
〈NOVA〉の根底にあるストーリー
作品のストーリーについて、演出を手掛けるロベール・ルパージュは、「〈NOVA〉という公演は「世界の創造」あるいは「宇宙の創造」を描いています。本作では人類がこの世に誕生する以前の始まりから焦点を当て、人類がどのようにこの世界であらゆる森羅万象と対峙してきたのかを描いています。もちろん人類がこれまで遂げてきた進化や発展は著しいですが、同時に破滅や破壊も繰り返してきました。我々はこの「陰」と「陽」が行き来する世界の中で学び、未来へつながる光の兆しを求めているのだと思います。この作品を通して、世界と人類の発展・進化そして自滅までをも表していますが、決して政治的なメッセージを伝えたい訳ではないのです。この作品は、私たち人間が過去の混沌から学ぶべきことや、人類の営みとこの非常に複雑な宇宙とを、どのように調和させるのかという問いをなげかけています。」と語っている。
〈NOVA〉を象徴するシーン1「DNA」
地球が誕生した後、一つの細胞から人間が形成され、繁栄していくまでの神秘を表現したシーン。その中で人類はもともと性別がなく、男女が一体の形をした「アンドロギュノス」という生命体で、それがゼウスの雷によって分断されるというギリシャ神話も題材にされている。このような「キーワードを元に動きを作る」という作業は普段の鼓童にはない新たなクリエイション。このシーンの動きには岩手の「鬼剣舞」、青森の「津軽の手踊り」、そして新潟・佐渡の「鬼太鼓」がベースとして使われている。それぞれの郷土で育まれてきた土地のエネルギーが、世界中の人々に普遍的に訴えかける力があることは鼓童がこれまでにも感じてきたことであり、それがルパージュの描く物語とリンクすることで、新しい身体表現として生まれ変わっていく。
〈NOVA〉を象徴するシーン2「コミュニティー」
人間が誕生し、コミュニティーを形成し、やがて利己主義的になり争いが生まれる様を描いたシーン。このシーンではロベールの強い希望により、鼓童で初めての「棒術」に挑戦している。未経験の「棒術」については、外部から合気道の先生を招いて動きを創作した。棒一つで様々な感情を表現しており、棒は「コミュニティー」において人と人をつなぐ儀式の道具、「争い」では武器となり、自分を守る一方で相手を傷つけるものとして、同じものが一つのシーンでいろいろな役割を持ち登場する。
コミュニティーのシーンより
DNA の シーン より
●ロベール・ルパージュ
ロベール・ルパージュは、演出家、脚本家、俳優、映画監督としても大成をおさめている。演劇に対するクリエイティブで独創的なアプローチにより世界的な賞賛を得、特に新たなテクノロジーを駆使することで古典的な舞台演出の概念を根本から揺るがした。著名な舞台作品としては、『ドラゴンズ・トリロジー』、一人芝居である『887』、オペラ作品『ファウストの劫罰』、マルチメディア作品においては『The Library at Night』、そしてシルク・ドゥ・ソレイユの『KÀ』及び『トーテム』などがある。
●太鼓芸能集団「鼓童」
佐渡島を拠点に、太鼓を中心とした伝統的な音楽芸能に無限の可能性を見いだし、現代への再創造を試みる集団。1981年ベルリン芸術祭でデビュー。以来52の国と地域で6,500回を越える公演を行う。劇場公演のほか、小中高校生との交流を目的とした「交流学校公演」や、多様なジャンルのアーティストとの共演、国際芸術祭、映画音楽等へ多数参加している。2012年から2016年まで坂東玉三郎氏を芸術監督に招聘。2017年「幽玄」で坂東玉三郎氏と再共演を果たし、翌18年には歌舞伎座において新作歌舞伎「幽玄」として演奏で参加した。近年は石川さゆり、初音ミク、AI、元ちとせ、ブラフマンらと共演。2019年には19年ぶりの中国ツアーを成功させたほか、「ラグビーワールドカップ2019日本大会」開会式、「国立競技場オープニングイベント ~HELLO, OUR STADIUM~」に出演。

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