SAKANAMONが考える肯定と否定とはー
ー『LANDER』の作品背景を過去から紐
解く「絶対的な答えがあるものが嫌に
なった」

2年ぶりとなるフルアルバム『LANDER』を2月26日にリリースする、ロックバンド・SAKANAMON。自分たちの音楽をのせた「LANDER(着陸船)」を想像し、人の心を天体に見立て、遠く離れた人々の心に音楽を届けるという想いが込められた今作。離れた場所にいる友だちと久しぶりに会う喜びを表現した「HOME」、音楽の可能性や自分と人と音楽との関係性を描いた「FINE MAN ART」など、誰かに向けて楽曲を作っている部分が、『LANDER』の新鮮なところである。また、そんな中で随所に見られるのが「何かを肯定する」という内容。「LIKES」「WOULD YOU LIKE HENJIN」「コウシン」など肯定をテーマにした曲が目立つ。そういったが曲ができあがった背景には、どのような物事があるのか。メンバーの藤森元生(Vo.Gt)、森野光晴(Ba)、木村浩大(Dr)に話を訊いた。
――『LANDER』はどのような状況下で制作されましたか。
藤森:前作のミニアルバム『GUZMANIA』(2019年8月リリース)は作り上げるまでに多くの迷いがありました。2018年にバンド結成10周年を経て、11年目に入ったとき、「自分たちの何を見せていくのか」という部分で良いアイデアが浮かばず、このままでいいのかなと揺れるものがあったんです。そこから気持ちを持ち直して、「俺たち、いい感じだぞ」というモードになった瞬間から『LANDER』を作り始めたので、明るくて健康的なアルバムが出来上がりました。
木村:特に森野は「次は絶対的なアルバムを作る」と言っていましたね。「そうじゃないと納得できない」と。それは僕も藤森も同じ気持ちで、長い時間をかけて、かなり考えて作ったアルバムです。
森野:藤森は、自分の作るものに対して絶対的な自信を持っている人だったんです。2019年の前半までは。でも初めてガタついていました。僕とキムさん(木村)もそういう雰囲気に流されたところがあって。『GUZMANIA』は迷いながらも何とか良い作品に仕上がったけど、あの経験をふまえて「自信を持って、良いといえるものを作らなきゃダメだな」となったんです。
SAKANAMON
――確かに10年って人をガタつかせるのかもしれませんね。宮崎駿監督の『風立ちぬ』(2013年)という映画があるじゃないですか。あの作品の中で「人間の創造的な人生の持ち時間は10年だ」というセリフがあるんです。あの宮崎駿監督が、作品を通してそう言ったことに衝撃的だったんですよね。
藤森:ああ、なるほど。それはあるかもしれません。創造性だけではなく、それこそ年齢を重ねると肉体面も厳しくなってくる。
森野:人間のバイオリズムですよね。上があれば下もある。調子が良いときは何とでもなるけど、下に来たときにどうするか。
SAKANAMON
――たとえば1曲目「FINE MAN ART」では、「自分たちにとって音楽とは?」を自問自答していますよね。それってバンドとしてかなり原点的な考えです。それこそリード曲は「HOME」ですし、考え方や創造も含めて立ち返っているところが本作にはある気がします。ちなみに「HOME」って友だちに久しぶりに会う曲ですが、6曲目「YOKYO」にも友だちが出てきます。「HOME」「YOKYO」も友人と直接会う喜びに満ち溢れています。
藤森:「YOKYO」のように、僕が誰かに向けて曲を書くのって珍しいことなんです。この曲は実際に結婚式の余興で歌ったものなんです。僕はもともと友だちが少ない方だったのですが、今になっていろんな出会いがある。そして、その関係性が長く続くようになってきました。
木村:僕は友人が多い方ですが、親友だと言える相手は4、5人くらい。同業だったり、共通の話題があったり、同じような時期に苦しんだことがあるミュージシャンだったり。彼ら自身が自分にとって「HOME」みたいなところがあります。
森野:20歳くらいのときって、無理してでも遊びに行ったりしていて、友だちを作ったほうが「バンドのためになるんじゃないか」と思っていたけど、そういうのって結局は続かなくて、友だちは無理して作るものでもないと思いました。同業であろうとなかろうと、リスペクトがお互いにないと関係性は築けないですよね。あと僕は、自分を褒めてくれる人が好きなんです(笑)。自己肯定感が低いから、承認欲求が欲しくなり、お互い恥ずかしげもなく褒め合える間柄が自分にとって心地良いですね。
SAKANAMON
――あ、今、森野さんがおっしゃった自己肯定感は今作の大きなテーマにつながりますよね。収録曲の多くに「何かを肯定する」という考え方が通じていて、承認欲求も強く表れている気がします。
藤森:その通りです。何よりSAKANAMON自身がずっと不安な気持ちを抱いていて、それを自分たちで応援し続けているバンドだから。
木村:だって、黙っていたら誰も応援してくれないからね。
藤森:SAKANAMONには救いようのない曲もあるし、マイナスをゼロにするくらいの曲が多い。そう考えると今作は本当に明るくて、負が少ないです。
――「WOULD YOU LIKE HENJIN」なんかは、藤森さんがセルフライナーノーツで「変であることを肯定、推奨した曲」と言い切っていますし。
藤森:僕はすごく承認欲求が強いし、誤解を恐れずに言えば褒めて欲しいがために曲を書いているところも、あると言えばあります。「こういうことをやったら、すごいって言われるかな」とか。だから、天才とか変人に憧れているんです。つまり特別でありたい。人と違うものでありたいという気持ちは、幼少期からあります。唯一無二に憧れるんですよね。「藤森じゃなくてもいいじゃん」「SAKAMNAMONじゃなくてもいいじゃん」と言われたくないじゃないですか。だから「俺は人とは違うんだ」と言い聞かせながら、不安になりながらも毎日生きています。
木村:確かに誰だって褒められることは嬉しい。ただ、僕自身は褒められるのは苦手なんですよ。褒められると「この人はなんで、俺のことを良いって言うんだろう」と疑いを持ってしまう。僕は「自分には褒められる要素がない」と思っていますから。
藤森:え、本当に?
木村:うん、そう思っている。だから、褒められるとすぐに疑っちゃう。「なんで嘘をついてくるんだろう」とか、「俺、この人にあげれるものあるかな」とか考えたりして(笑)。褒めてくる人とは一旦、気づかれないように距離を置くようにしますね。
SAKANAMON
――たとえば我々のようなインタビュアーの中でもすごい人いるじゃないですか。ベタぼめする人とか。
木村:もちろんすごくありがたいです。でも一方で、すごく恐ろしいです(苦笑)。その称賛はすべて藤森に言ってもらって……となってしまう。昔は承認欲求も強かったんですけど、どちらかというとSAKANAMONというバンドを褒めて欲しいですね。
――森野さんは先ほど、ご自身の自己肯定の低さをお話していらっしゃいましたが。
森野:僕も藤森と近いかもしれません。褒められるということは、つまり何らかの価値があるということなので、自分もそうやって評価をされたくてやっているところはあるのかもしれません。
木村:いや、そうやって褒めてこられることに疑わしさがあるんだよなあ。
藤森:めちゃくちゃおもしろい話だと思います! キムさんも森野さんも、どちらの意見も俺は分かるんだよね。
森野:キムさんと同じく僕も自分にそれほど価値があるとは考えていないし、自分自身の評価は信じていない。だけど、他人に褒められると安心できるんですよね。まわりからの評価を元に自分を判断しています。
藤森:いやあ、おもしろい。確かにキムさんは褒められたい感じはないけど、自信は間違いなくある人。良い音楽をやっているからたくさんの人に届いて欲しい、という気持ちは大きいはず。森野さんも分かるんだよね。自分が価値のある人間だということを、周りの意見を元に証明したいと。じゃあ、「藤森元生はどうなんだ」と今考えていて。俺はたくさん褒められて自己肯定をしていきたいし、それなりに自信も持っている。だからこそ、周りに何を言われても痛くもかゆくもないところがあります。
木村:まさに俺と森野を併せ持っているタイプ。
SAKANAMON
――だけど9曲目「少年Dの精神構造」では、自己肯定が空回りしているし、自信があるように思えて実は臆病というか、周囲の見え方をすごく気にしていますよね。この曲に出てくる人物は、好きな子の前でめちゃくちゃカッコつけているし。小難しい本を読んでいるアピールをしたり、風景を眺めて黄昏て哀愁を漂わせていたり。思春期あるあるですよね。
木村:そういう時期ってありますよね。僕も授業中にわざと寝て、先生に怒られても起きなかったりしていた。単純に格好つけでしたね。「うわー、だりぃ」みたいな雰囲気を出すような。
藤森:僕も格好をつけていた時期がありました。中2の時にモテ期がきて……。
森野:その話、もう10年くらい言っているよね。「中2はモテてた」って。
藤森:うん、モテていたときがあった。それまでは普通のわんぱくっ子だったけど、急にモテたから、女の子を意識しすぎてクールを気取るようになって。休み時間でも騒がずに机にうつぶせで寝ているフリとかしていたら、次第に女の子たちと喋らなくなったんです。「はい、いいえ」くらいしか喋った記憶がない。「女の子には興味ないから」みたいな感じになっちゃって。内心ではすごく興味があったのに。つまり自意識過剰がすごかったんですよね。女の子のことばかり考える自分はダサい、それがバレるのはダサいと思っていた。
森野:僕も格好をつけていて、素直になれなかった時期がありました。高校時代の文化祭で演劇をやることになって、その頃から音響に詳しかったので、サンプラーを買って効果音を作ったり、カラオケのオケがない音源を自分で宅録して用意したり。結構貢献したんです。そうしたら文化祭で賞を総なめにして、みんなが盛り上がったけど、「まぁ俺はそういうのには興味ないけどね」という感じで、ずっとiPodで音楽を聴いていましたね。
木村:人一倍参加していたのに、そういう感じなんだ(笑)。
森野:大学の学祭の打ち上げとかでも、みんなで河川敷で遊んでいたりして盛り上がっている中、一応付いては行くけどその場では一人でベースを弾いていた。
木村:3人の中で一番の黒歴史じゃないですか。結構やばいですよ、それ!

SAKANAMON

――ハハハ(笑)、みなさんそうやって自分を形成していったわけですね。でも、先ほどの肯定のお話ですが、逆に、当然ながら否定をされたこともあったと思います。ただ、必要な否定ってあるじゃないですか。あの時、言われたことが、現在の自分に生きているというような。
木村:それはすごくありますね。僕は昔、体が弱かったんですけど、高校時代に吹奏楽部に入ったとき、顧問の先生から「お前が体が弱いことはみんなが知っているし、俺も分かっている。でもステージに立ったら、お客さんはそのことを知らないんだよ。だからそれを言い訳に「できない」とかは言わないでおこう。ステージに上がる限りは一人のミュージシャンだ。もし、その自覚が持てないなら音楽はやめたほうがいい」と言われて。それは自分の中にかなり響きましたね。
森野:僕は、バンドでメジャーへ行った時期ですね。エンジニアさんなど関係者の方たちに「演奏をもっとちゃんとした方がいい」と言われたことがあったんです。あの頃、演奏以外のことに気を取られていたことが多かったんです。見え方とか、魅せ方とか。でも、それを言われて「どう見えるかではなく、それ以前に自分はベーシストなんだ」と改めて気づかされた。ちゃんと演奏しようと。振り返ってみれば、ミスをしてもどこかで「まあ、大丈夫かな」と気が緩いんでいたことがあった。ワンランク上がるぞという時だったので、指摘してもらえたのは本当にありがたかったです。
藤森:SAKANOMONって、まさにそういうことをテーマにやっているところがありますよね。勉強や運動は、できなかったり、分からなかったら、答えや結果がはっきり出るじゃないですか。1+1は2だし、走ったら順位がきっちり分かる。そこは覆すことができない。やる前からそうなると分かっているし、決められたことですから。数字として良い結果を残せなかったら、当然否定されることもある。それで僕は、絶対的な答えがあるものが嫌になっちゃったんです。
SAKANAMON
――その考えは僕も共感できます。
藤森:少年時代、お母さんに「お風呂に入りなさい」といつも言われていて。毎日ちゃんと入っているのに、でも必ず言ってくる。ある日、それが嫌になっちゃって、「言わないでくれ」というところから始まって、終いには「何で入らなきゃいけないんだ」と思うようになった。「当たり前のことだから」と怒られて、「じゃあその当たり前って何なんだ」となって。そこから、当たり前とされることに対してたくさんの否定を自分の中で生み出していった。「お風呂に入らなくても、生きられるじゃないか」とか。まあ、結局はお風呂にはちゃんと入っていたんですけど(笑)。
――その後はどうなったんですか。
藤森:「答えが決まっている世の中」への疑問が膨らんでいったんです。答えがないもの、答えを押し付けられないものが好きになった。芸術や音楽は、生み出した作り手にまず正解がある。でもそれを見たり聞いたりする人には、それぞれの答えがある。「なんて素敵な世界なんだ」と影響を受けました。特別な世界ですよね。だから高校時代は絵の勉強をして、音楽もやり、そして今の自分が形成されました。『LANDER』には自分を肯定する曲がたくさんありますが、根底には3人のそういうエピソードが無意識にある気がする。僕にとっては、あのときのお母さんの「お風呂に入りなさい」の声が自分の中にずっと残っています。
――すごく奥深い作品背景ですね。聴き手がどのように反応するか楽しみです。
藤森:たくさんの人の元に自分たちの音楽が届いてほしいです。
SAKANAMON
取材・文=田辺ユウキ 撮影=森好弘

アーティスト

SPICE

SPICE(スパイス)は、音楽、クラシック、舞台、アニメ・ゲーム、イベント・レジャー、映画、アートのニュースやレポート、インタビューやコラム、動画などHOTなコンテンツをお届けするエンターテイメント特化型情報メディアです。

新着