SHISHAMO、ネクストシーズンへと歩み
を進めるバンドの姿をZepp Tokyoにみ

SHISHAMO ワンマンツアー2019-2020『シーズン3が終わっても君の隣にいたかった』

2020.1.26 Zepp Tokyo
ひたすら気持ちのいいライブだった。会場内には終始、親密な空気が漂っていて、この空間の中に身を置いているだけで、満ち足りた気分になった。SHISHAMOの『シーズン3が終わっても君の隣にいたかった』ツアーの1月26日のZepp Tokyo。宮崎朝子(Gt/Vo)、松岡彩(Ba)、吉川美冴貴(Dr)の奏でる音が鳴り響いた瞬間、カメラのレンズの焦点がピタッと合って景色が鮮明になるのにも似た気持ち良さを味わった。この快感を感じるまで、わずか数秒。歌も演奏も切れ味抜群だ。
当初の予定ではこの日のZepp Tokyoがツアー・ファイナルとなるはずだったのだが、松岡の体調不良に伴って名古屋公演が延期となったため、ファイナルではなくなった。が、Zepp Tokyo 4daysのラストであることには変わりはない。ここまでツアーをやってきた成果が確実に演奏に表れていて、完成度が高い。でありながら鮮度も高い。
SHISHAMO・宮崎朝子
ニューアルバム『SHISHAMO 6』リリース直前のステージということもあり、新曲も何曲か披露された。オープニングナンバーも新作に収録されている新曲「真夜中、リビング、電気を消して。」だった。ヒリヒリした感触のある歌声と疾走感あふれる演奏とが混ざり合って、独特の感触をもたらしていく。孤独感も漂っているのだが、タフな意志も伝わってきて、ロックバンドとしてのSHISHAMOの魅力が全開となる曲だ。歌詞の中に<シーズン3から見始める>というフレーズがあり、ツアー・タイトルとも連動している。
SHISHAMO・松岡彩
続いても新曲の「ひっちゃかめっちゃか」。トーク・パートと歌のパートとの対比が鮮やかで、独特の加速感を備えてる。タイトでソリッドなリズムに体が揺れる。中盤でのギターソロも実にエモーショナル。序盤の新曲2曲の演奏からもバンドがさらに進化していることが実感できる。特に目立っているのはリズムのキレの良さとしなやかさ。バンドは肉体的な演奏を展開していた。
ステージの背後のSHISHAMOのロゴマークの文字が七色の光に輝いていた。過去のライブではSHISHAMOの文字が描かれたバックドロップが使用されていたが、このツアーでは電飾が組み込まれたロゴに変更されていた。3曲目の「ねぇ、」では会場内が熱気に包まれていった。
SHISHAMO・吉川美冴貴
「元気だね。日曜日だからかな」と宮崎が語っていたが、いやいや、観客が元気なのはバンドがエネルギッシュな演奏を展開しているからだろう。ラブリーなコーラスと自在な展開が魅力的な「すれちがいのデート」、開放感あふれる演奏が気持ちいい「ハネノバシ」、たくさんの赤白タオルが回って、あちこちで風が巻き起こった「タオル」、パワフルな演奏に客席が揺れた「生きるガール」と、会場内に濃密な一体感が漂っていく。「タオル」では宮崎と松岡が花道に出て演奏する場面もあった。観客の反応がバンドの演奏にも確実にフィードバックしていて、双方向のコミュニケーションが成立しているところにもSHISHAMOのライブの魅力がある。
SHISHAMO
SHISHAMOの音楽の世界の幅の広さと深さを感じたのは中盤の展開だ。「君の大事にしてるもの」ではメリハリの効いた演奏が素晴らしかった。宮崎の歌声も凄味を感じさせるほど、表情が豊かだった。松岡の太さと深みのあるベースで始まった「BYE BYE」、疾走感あふれるグルーヴに体が揺れた「終わり」と、自在なバンドサウンドがスリリングだ。演奏はもちろん、テンション、エモーションも含めて、3人の息がぴったり合っている。
SHISHAMO・宮崎朝子
松岡のMCコーナーでは前日、Zepp Tokyoの楽屋近くのトイレに入った時の恐怖体験が語られた。隣の個室でブツブツと言ってる声が聞こえたとのこと。実はこれは吉川がMCの練習をしていた声であると判明。本人から直接、説明された。文字どおり、見えないところでの努力の積み重ねがSHISHAMOのライブをより良いものにしていることが伝わってくるエピソードだ。
新作に収録されているミディアムナンバー「またね」もバンドの成長がはっきり見えてくる曲のひとつ。スケールの大きなグルーヴ、ヒューマンな歌声が主人公の感情の起伏を鮮やかに表現していく。「熱帯夜」でのニュアンスに富んだ演奏ではSHISHAMOの音楽的な魅力が際立っていた。
SHISHAMO・松岡彩
ツアー恒例となっている「吉川美冴貴の本当にあった○○な話」というMCコーナーでは、吉川の小学6年生の頃のエピソードが紹介された。当時の愛読書『ズッコケ三人組』に影響されて、その話の中に登場した小麦粉爆弾を真似して作って、引き出しの中に放置しておいたら、腐ってとんでもないことになっていたという事件の顛末が語られた。小学生の頃から現在まで、吉川は3人組に縁があるようだ。
SHISHAMO・吉川美冴貴
後半は「明日も」「魔法のように」「君と夏フェス」「恋する」と盛り上がる曲の連続。ミラーボールの光が客席に降り注いだり、七色のカラフルな光がきらめいたりと、鮮やかな照明の演出も印象的だった。「君と夏フェス」では松岡が花道に出てベースを弾く場面もあった。「恋する」ではスモークが立ち上る中で、宮崎が花道の真ん中でギターを弾いていた。「君の隣にいたいから」では印象的なギターのリフが鳴り響いた瞬間からみずみずしい空気が漂っていった。思いの詰まった歌と演奏に観客のハンドクラップが加わって、ライブはハイライトへと突入していく。この曲の歌詞もツアー・タイトルと連動している。ツアー序盤ではこの曲が本編最後に演奏されていたのだが、この日のZepp Tokyoではもう1曲残っていた。
SHISHAMO
「新曲をやろうかなと思います。昨日初披露した曲なので、まだ緊張しています。『SHISHAMO 6』の最後に入っている曲を聴いてほしいなと思います」という宮崎のMCに続いて、本編ラストに演奏されたのは「曇り夜空は雨の予報」。昨年のさいたまスーパーアリーナでも演奏されたのだが、その時は宮崎のアコースティックギターでの弾き語りだった。この日は宮崎のアカペラの歌で始まって、すぐにバンドでの演奏が入ってくる。歌、ギター、ベース、ドラム、すべてに歌心が備わっていて、広がりのある世界が展開されていく。余韻をもたらす深みのあるバンドサウンドが見事だった。
SHISHAMO
アンコールではまず宮崎が花道の前方に出てきて、グレッチの弾き語りで、「私の夜明け」を歌い始めた。1コーラス終わったところで、松岡の温かなベースと吉川の繊細なドラムが加わっていく。宮崎の歌声に寄り添っていくようなヒューマンな演奏に、さらにコーラスが加わっていく。この曲が終わったところで、3人によるMCがあった。新作、ホールツアー、等々力陸上競技場での初のスタジアム・ワンマン・ライブの告知、さらには一昨年の等々力陸上競技場でのワンマンが台風で中止になった時の無念の思いも語られた。「人生で一番悲しかった」と吉川。「初めて二人の前で泣いたのはあの日だった」と宮崎。その宮崎の発言を受けて、「人間なんだと思った」とは松岡。SHISHAMOの音楽が会場内の観客に深く共有されていたのは、喜びも悲しみも共有している3人が深いところで繋がって音楽を奏でていたからだろう。
SHISHAMO
「演奏してても、みんなの顔を見てても、リラックスして安心して楽しく演奏できました」と松岡。「自分のまま、自然にステージに立てて、その自分を受け入れてくれて、いい空気を感じて、いいライブを作れました」と吉川。「みんなで作ったいいライブになったんじゃないかなと思います」と宮崎。3人の言葉がこの日のライブの温かな空気をそのまま表していた。音楽的にも充実したステージで、メンバー3人が伸び伸びと演奏しながら、さらなる高みへ達していると感じた。アンコールの締めとして、開放感あふれる「許してあげるから」、観客全員にエールを贈るような「OH!」が演奏されて、この日のステージは幕を閉じた。終演後、花道の最前列で挨拶する3人に惜しみない拍手が降り注いだ。
SHISHAMO
ツアー・タイトルをパクッてまとめるならば、“ライブが終わっても、SHISHAMOの隣にいたかった”と思わせるような、温かくて、フレンドリーで、ヒューマンなステージだった。このツアー終了から1か月後にはホール・ツアーも控えている。8月には等々力陸上競技場でのワンマンもある。ひとつのシーズンが終わっても、また次のシーズンへと突入していく。SHISHAMOはひたすら先を見つめて走り続けている。

取材・文=長谷川誠
SHISHAMO

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