長谷川達也(DAZZLE)&林ゆうき対談
 新作公演『NORA』への意気込み
や曲作りの裏側を語る

「すべてのカテゴリーに属し、属さない曖昧さ」をテーマに、オリジナルダンスを創造しているほか、イマーシブシアター(体験型演劇)やマルチストーリーといった新しい表現・作品に挑み続けているダンスカンパニー・DAZZLE(ダズル)。
2020年3月5日より、男子新体操チーム「BLUE TOKYO(ブルートーキョー)」を共演に迎えた新作公演『NORA(ノラ)』がスタートする。新作は、観客の投票によって物語の展開が変化していくマルチストーリー上演。「BLUE or RED」のボタンを観客が提示することで主人公の行動、そして物語が変わっていくという観客参加型エンターテインメントだ。
公演に先立ち、出演に加えて脚本・演出を手掛けるDAZZLE主宰・長谷川達也と、これまでもDAZZLE作品の音楽を数多く手掛けてきた作曲家・林ゆうきの二名にお話を伺った。
出会いは10年前、BULE TOKYOの結成時
――まず、お二人の出会いはいつなんでしょう?
林:今はドラマやアニメ、映画の音楽をやらせていただいているんですが、その前は、新体操の伴奏曲をメインで作っていたんです。その時に、懇意にしていた新体操の強豪校・青森山田高等学校のチームがダンスイベントに出るということで観に行ったんです。そこに達也さんもいて。
長谷川:たしかBLUE TOYKYOのお披露目、結成して最初のショーですよね。僕が振り付けをさせてもらったんです。そのイベントで(林さんを)紹介していただいて、その後すぐ連絡して舞台の曲を作ってほしいとお話ししました。
林:10年くらい前ですっけ?
長谷川:そんな前かな?
長谷川達也
――BLUE TOKYOさんが10周年なので、10年来のお付き合いですね。そういう意味でも、今回の公演は縁を感じます。
長谷川:そうですね。色々繋がりを感じますね。
林:BLUE TOKYOのみんなの学生時代の曲とかも作ってたので、大人になって一緒に仕事をするって面白いですね。
音楽に乗せて感情を表現するのは、新体操もDAZZLEも同じ
――過去のインタビューで、長谷川さんがDAZZLEでやりたい振り付けと新体操はすごく近いものがあると仰っていました。
長谷川:BLUE TOKYOの振り付けをした時、まず「新体操とはなんぞや」を考えて、すごく色々作品を観ました。その際、高い身体能力を使って一糸乱れずパフォーマンスをすることにかなり衝撃を受けたんです。かつ、団体競技としての構成力の面白さもすごく強い。新体操の表現って、抑揚があるというか、展開力が豊富なんです。競技をする3分間の中にいろんな感情が渦巻いている。一方で、DAZZLE作品も物語を主軸に、それに合わせて音楽を展開させていきます。人間の感情がコロコロ変わるようなシーンが多いので、映画的でもあるしドラマ的である。新体操は、僕が作りたいと思っている舞台上での表現・構成の面白さと通じるものを感じました。だから、この二つは絶対相性がいいはずだし、音楽もつながる部分があるなと。(音楽を)発注する時も、「ここはこういう感情」という物語の部分と、実際にダンスとして踊りたい部分をかなり細かく伝えています。
――その発注を受けて曲を作る林さんとしては。
林:達也さんの発注は、世界的にもすごいと思います。みんなこれくらい細かく適確に書いてくれたらいいなってくらい(笑)、分かりやすい。
なんでも好きに作っていいよって言われると、物づくりをする人って困ると思うんですよ。ご飯作る人に「なんでもいいから俺らが満足するもの作って!」って言うと多分混乱しますよね。「中華料理で、予算2000円以内で、豚肉と豆腐を使った炒め物っぽいものが欲しいです」って言われると「あ、なるほど多分こうだ。でも、お客さんにイタリアの方がいるから、イタリアの食材をちょっと入れてみようか」とか、制限がある中でイマジネーションが膨らむ。
林ゆうき
達也さんは多分、頭の中にストーリーや展開を作った時点で、明確な曲が鳴ってる。発注をくれる時も、参考曲が多い時は5~6曲入ってるんです。イントロはこの曲のここの10秒~20秒、そこから展開して2曲目のリズムと3曲目のメロディが乗って、全体的なイメージは4、5曲目でラストシーンは6曲目みたいな感じ、と言ってくれる。ドラマやアニメの作曲は僕の想像力によるところが大きいのですが、それをダンス作品でやると振り付けに影響してしまうんです。だから、ゼロから作るっていうより、達也さんの脳の中にある曲のイメージを掘り出し具現化していく作業がDAZZLEの曲作りでは一番大きいですね。本当に時間がない時は、振り付けと曲作りを並行してやったりもします。既存曲に合わせて振りを作り始めて、そのリズムをとりながら曲を作る。リズムはこの曲から取って、メロディやコード進行、楽器を作品に合わせて変えて……っていう。今回の『NORA』なら少しエレクトロニカに寄せるとか。僕らからすると新鮮だし勉強になるので、やっていて楽しいですね。
お互いへのリスペクトが素晴らしい作品の秘密?
林:しかも達也さんのいいところは、デモ曲を作ったら最初ものすごく褒めてくれるんです(笑)! 頭ごなしにリテイクさせるのではなく、「すごい良かった!ここのこの音とか最高!でもここはもうちょっとこうしてもらえますか?」って言い方なので、みんなホイホイ「分かりました!やります!」って。潤滑油がすごくて(笑)。
長谷川:(笑)。
林:達也さんの伝え方やリアクションは、僕らもミュージシャンに依頼する時の参考になります。人に物を頼む時、パッと渡して「なんで思い通りやってくれないの!」って言う人も多いんですけど、それって自分の説明不足もある。僕もアシスタントに作業を頼む時、こう言ったら良かった、もっとこうしたら伝わるのにってことが多くあるんです。そんなときに達也’ s noteを思い出します(笑)。ああ言えばいいんだなとか。
今回、チームで動いていて僕が全体のプロデュースと主要な曲をやっているんですが、みんなに「達也さんの言い方いいよね」っていうと「全然苦じゃないです!」って。
林ゆうき
長谷川:良かった(笑)!やっていただく以上、楽しんでもらえたらと思いますし、自分たちのイメージをうまく表現してもらえる場になったらいいなと思っています。ただ、やっぱり制作期限もありますし、なるべく直しはしたくない。僕としては、頭の中にある情報をどれだけ渡せるかを意識しています。曖昧なまま出して全くイメージと違う曲が返ってくるとどんどん時間が掛かってしまうから。自分が持ってるものを全部渡して、「この枠から外れないでください」「この楽器を使ってください」というのを細かく言うので、もしかしたら作曲家の中にはちょっと窮屈だという方もいるかもしれない。でも、林くんはそれをすごく理解してくれるので、僕としてはやりやすいです。
ーー林さんは、新体操経験がありますよね。そこもスムーズに進む要因でしょうか。
長谷川:そうですね、林くん自身経験があるから、身体感覚や僕らがやるダンスと通ずる感覚を持ってるんです。それって音楽を作る時もすごく大事で。こちらが取りたい音を外さないのはすごく助かります。あと、ものすごく勘のいい人だから、僕が「なんて言っていいか分からないんです」って出したときも「こういうイメージですか?それともこう?」って聞いてくれて、上がってきたものが僕の予想を一個二個超えたクオリティなんですよ。それができる人って本当にすごいなって思って。
林:今日はいい日ですね(笑)。
長谷川:いや、本当に(笑)。僕はもう「掴んで離さないぞ!」ぐらいの気持ちです。
長谷川達也
林:でも、あれだけリファレンスの曲を探して、踊って、作品作って、全体作って、達也さんはいつ寝てるんだろうとは思いますね。
長谷川:確かに、発注する前の音楽探しには結構時間をかけてますね。
林:あの旅はめっちゃ長い旅だと思う。
長谷川:長いよ。掘って掘って。このシーンに合うだろうって曲を20曲30曲くらい出して、そこから「これとこれかな~?」って選び出してからようやく発注にかかる。
林:しかも今回の『NORA』の場合、「この曲の雰囲気だけどもうちょっと電子音楽寄りにしたい」とかがありますからね。「曲調はこれだけどサイファイ感があるといいね」というか。
長谷川:この世にないだろうっていう音楽だったりすると、それは言葉・イメージで伝えるしかないので。その辺りは難しいですけど、相談しながら。
林:分かりやすいですけどね。「この曲のSF版」みたいな。
長谷川:行間をちゃんと読み取ってくれるんです。それが助かります。
林:今日はいい日だ(笑)。
長谷川:よかった(笑)。
DAZZLEらしさと現代社会に向けたテーマを包括した新作『NORA』
――今回の物語は「曰く付きのオンラインゲーム」が舞台です。
長谷川:『NORA』は未来の東京をイメージしています。規制が厳しくなった社会構造があって、人々が抑圧されて生きている現実世界に対して、それとは対極に位置するようなオンラインゲームの世界がある。その世界を行き来しながら展開していく作品です。いったい誰がなんの目的でゲームを作ったのか?を解き明かしながら、主人公が翻弄されていく話になっています。
長谷川達也
ーーこのテーマを選んだ理由は?
長谷川:僕自身がゲーム好きなのもあるんですが、DAZZLEの作品は、かねてよりゲーム要素が含まれているものが多かったんです。今回、進化系に当たるものにしたいと思っていて、いっそのことゲームという設定を物語に入れてしまおうと。
今ってオープンワールドといって、ゲームの世界なら何をしてもいい、どこに行ってもいいというゲームがすごく人気なんです。それって、現代社会のストレスとか、抑圧されて生きていることへの発露の場になっている部分もある気がしていて。例えば戦場に行き、兵士になって人を殺すとか、そう言ったこともゲームの中ではできる。もしかしたらそれも人間の本能の一つなのかもしれないと思うんです。いろんなところで自分を表現できるようになって、会社の方が偽物でSNSの方が本物かもしれない、っていうことが現代にはあるような気がしていて。そういうテーマ性も込めたいなと思って、オンラインゲームを物語の舞台に選びました。
――公演タイトルの『NORA』にはどういった意味が込められているのでしょうか?
林:僕も知りたい(笑)。
長谷川:それ、いろんな方に聞かれるんですが、物語に関わる部分なので内緒なんです。ただ、観ていただければ、なぜこのタイトルになったかはわかる仕組みになっているので、それも含めて確認しにきていただきたいです。
林:ちなみに僕らは『NORA』の曲を作る作業を「のらしごと」と呼んでいます(笑)。
長谷川:いいですね(笑)。僕も「今夜ものらしごとだ」って思いながらやってますよ。
ゲームのように結末や展開をコンプリートする面白さも
――物語の途中、何箇所かで観客による選択がある「マルチストーリー」に挑戦されます。
長谷川:4年前にDAZZLEが作った『鱗人輪舞(リンド・ロンド)』という作品で、マルチエンディングに挑戦したんです。ラストの裁判のシーンで、世界を救うか一人を救うかっていう究極の選択を観客の皆さんに課して、選んでもらう。それは一箇所の分岐だったんですが、すごく好評だったのと、僕ら自身も大きな手応えを感じたんです。それをもっともっと進化させたいなと思って、物語の中にいくつも分岐を作ることをやろうと思いました。
林:面白いですよね。お客さんが作品に参加できるって中々ないなと思って。
林ゆうき
長谷川:普通は劇場で舞台を観ていたら、主人公の行動や物語に干渉するなんてできないんですけど、それを取っ払ってみたいなというのもあって。観客によって主人公の進む方向が決まる面白さとか、人が人をコントロールする恐ろしさとか、自分が多数派だったか少数派だったか分かったりとか、いろんな感覚がそこにあると思います。舞台自体でマルチストーリーをやってるっていうのも多分すごく稀で、僕自身は見たことがないし、ダンス公演だとますますないと思う。初めての挑戦っていうのも僕に取ってはすごく価値が高いから、ぜひとも形にしたいと思って選びました。
ーーストーリーは、何パターンくらいあるのでしょう?
長谷川:すごく細かくいうと20パターン以上あるのかな。ただ公演は6回しかないので、もしかするとやらないシーンもあるかもしれない(笑)。若干後悔しながら進めてます。
林:この曲使われないんじゃないだろうか?って(笑)。
長谷川:そうならないように皆さん観にきていただいて(笑)。「今回観れなかったから次はあっち選んでみようかな?」みたいな。
林:そうなりますよね。イマーシブもそうですけど、分岐があると全部コンプリートしたいというか。
――選択されたパターンによって音楽も変わるんでしょうか。
林:当然変わりますね。ハッピーエンドとバッドエンドで同じ音楽だとおかしいので。そこの発注も、「ここからパターンが分かれるので」といただいてやっています。……ちょっと僕からも質問していいですか?
――もちろんです(笑)。
林:分岐があって、選びますよね。裏方は大慌てだと思うんですけど……「こっちの曲出してー!」とか(笑)。どうやってやるのかなって。
長谷川:スタッフさんに何も相談せずに「やるんだ」って決めて、最初「え?」って言われました。「なんでそういうことするかなぁ」「いや、やりたいんですよ」って(笑)。前回は(投票が)休憩中の15分程度だったんですけど、今回は10秒とか15秒程度なので、瞬時に判断して、次はこのシーンだからこっちを……とすぐ対応してくっていう。
長谷川達也
林:(観客の投票数を)野鳥の会みたいな人が数えるんですか(笑)?
長谷川:それはまだ明確なことを言えないんですけど。演者のみんなも何が選ばれるかドキドキしてます。
林:裏のバタバタを後で流すといいですよ(笑)。表はこんなだけど裏では「あの曲もってこい!」「あの衣装が!」みたいな。音楽も衣装も照明も全部変わりますもんね。
非現実的な世界観を、ダンスでも音楽でも魅せる
――改めて、本作の見所をお伺いできますか?
長谷川:二つあって、まず一つはBLUE TOKYOが出てくださることです。世界最高の身体能力を誇る新体操グループなので、彼らが出てくれることで舞台が二次元から三次元になるくらいの奥行きと幅感が出るんですよね。彼らは高く飛ぶっていう驚異的なことができるので、それがゲームの世界っていう非現実感とリンクするんじゃないかと思います。
もう一つは先ほど話したマルチストーリー。観客の選択によって物語が変化していくというのは新しい体験になるんじゃないかと思うので、ぜひ体験していただきたいと思います。
――音楽に関する注目ポイントはありますか?
林:今回の作品は、現実・ヴァーチャル・過去の話があって。未来の東京のイメージということだったので、SFの世界を描くのにどういう音作りをしようとか、現実世界とヴァーチャル空間の音の作り方にどう違いを出そうかを考えました。例えば仮想空間の音楽では、一部にAIが自動的にフレーズを生成するソフトを使ってみたり、逆に過去のシーンでは少しレトロな音楽を使ってみたり。差別化を図っています。もちろん舞台に合うように作っていますが、楽曲だけ聞いても「これは多分仮想空間用、こっちは現実世界だろうな」とイメージできるといいなとチームで考えながらやっています。
林ゆうき
――舞台表現の新たな挑戦として今回「マルチストーリー」がとられていますが、音楽の進化はどういったところにあるのでしょうか。
林:音作りにおいても、新しい技術によって昔は出来なかった再生方法が確立したり、機材が出たりしているので、そこからインスピレーションを得て、新しい音楽・演出・ダンスのミックスアップを考えられます。正直、DAZZLEがイマーシブシアターを始めた時に「え?どうやるんだろう」と思ったんです。スピーカーや役者さんの移動を(達也さんが)一人で考えて頭がおかしいんだなって(笑)。でも、そうやってDAZZLEが新しいことに挑戦することで、音楽も一緒に新しいものに挑戦していける。DAZZLEのお仕事で一番楽しいのはそこですね。
長谷川:DAZZLEの公演はちょっと珍しくて、マルチトラックで音楽を再生してるんです。ダンス公演は、だいたい完成した音楽をそのまま流して踊るんですけど、DAZZLEの場合は楽曲のトラックごとに、その劇場での聴こえ方を考えていて。
林:バラバラで納品するんです。ドラム、ギター、ピアノ、ストリングス、ボーカル……とパートごとに。
長谷川:それを会場に合わせて、マニピュレーターとPAさんが調整して。音の空間の作り方にもすごく拘っています。
――最後に、読者に向けてメッセージをお願いします。
長谷川:DAZZLEの作品はダンスを中心にしていますが、ダンスが分からないことが足枷にならないよう、物語を軸にしています。いろんな方に楽しんでいただける作品になっているし、今回はマルチストーリーという体験や物語による感情の動きなど、心豊かにしてくれるような舞台になると思っているので、ぜひ体験しにきていただきたいと思います。
林:達也さんが言っていることとも重なるのですが、コンテンポラリーダンスとか難しいものって、作ってる側・分かる側からすると「なんでこれが分からないの?」「分からないならいいよ」と意識を囲ってしまいがち。でも、DAZZLEはそうじゃなくて間口を広げてくれていています。「自分たちの表現をより多くの人に伝えよう、体験してもらいたい」という意識が物語や構成、音楽にも出ているし、事実、ダンスが分からない人が観に行っても100%面白いと思います。僕らはそれに音楽として参加して、より楽しんでもらえる作品にできるようにお手伝いできていたらいいなと思うし、自信をもってお勧めできます。僕らも1ファンとして楽しみにしています!
物語、ダンス、音楽……どこをとっても見所たっぷりで、繰り返し観たくなるだろう本作。難しく考えず、ぜひ一度足を運んでみてほしい。
取材・文=吉田沙奈 撮影=鈴木久美子

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