片岡仁左衛門のいがみの権太、全国2
0か所へ 『松竹大歌舞伎』西コース
製作発表レポート

片岡仁左衛門が出演する『令和二年度 松竹大歌舞伎(西コース)』の制作発表記者会見が、2020年2月18日(火)、都内で行われた。会見には仁左衛門の他、公益社団法人全国公立文化施設協会(以下、公文協)専務理事の松本辰明氏、松竹株式会社副社長の安孫子正氏が登壇した。
安孫子氏によれば、『松竹大歌舞伎』は「日本全国の公共施設を使い歌舞伎公演を」と、昭和40年代に公文協が始めたものであり、「歌舞伎の興行が低調な時期にも、『松竹大歌舞伎』のおかげで全国で公演を続けられた。これが歌舞伎界をどれだけ勇気づけたか」と感謝を述べた。公文協の松本氏は、仁左衛門の出演について「50年来つづく松嶋屋の大名跡。華と風格を兼ね備えた現代歌舞伎の第一人者である仁左衛門さんは、今まさに円熟期を迎えておられます。そんな仁左衛門さんに、大変なスケジュールのこの公演への出演を快諾いただきました。全国の開催館も期待しています」とコメントし、感謝を述べた。
左から、松竹(株)安孫子正氏、片岡仁左衛門、公文教 松本辰明氏。
今では全国のホールで、歌舞伎が上演されるようになったが、その足がかりとなったのが『松竹大歌舞伎』だという。令和二年度の西コースは、2020年4月1日(水)のよこすか芸術劇場(神奈川県横須賀市)を皮切りに、約1カ月をかけ、全国20カ所、30回の公演を予定している。
伝統を守り、歌舞伎ファンを増やしたい
演目は『正札附根元草摺(しょうふだつきこんげんくさずり)』と『義経千本桜(よしつねせんぼんざくら)』より「木の実」「小金吾討死」「すし屋」。仁左衛門は、『義経千本桜』で、いがみの権太役を勤める。仁左衛門は、現在、歌舞伎座で『菅原伝授手習鑑』菅丞相役をつとめており、その合間をぬっての会見となった。仁左衛門は次のようにコメントした。
「ふだん歌舞伎座や、大阪、京都の劇場でご覧いただくことが難しい方に、観ていただくチャンスです。私たちには、先人がのこしていってくれた伝統歌舞伎を守っていく使命があります。それには多くの方々のご支持なしに、守っていけるものではございません。今回の狂言も、あくまでも古典であり、今の方、初めてご覧いただく方にもご理解いただけ、『ああ、よかったな』と思っていただけるようがんばりたいです。少しでも歌舞伎ファンを増やしたいです」
片岡仁左衛門
仁左衛門のテキストで「私の自信作」
以下、質疑応答を抜粋して紹介する。
──『義経千本桜』の見どころは?
まず、愛ですね。親子の愛、主従の愛。そして義理、人情。なのですが、こういう時、私はいつも逃げるんです。具体的に「こう」と言ってしまうと、そこばかり意識されてしまうから困るんです(笑)。だいたい歌舞伎は、愛というものを大事にしているドラマです。決して堅苦しいお芝居ではございません。
──仁左衛門さんが権太役をお勤めになる時、必ず「木の実」から上演されるのも、「愛」を強調する意図があるのでしょうか。
そうです。「木の実」で、夫婦子供のアットホームな雰囲気を出しておかないと、その後に、子どもと女房を犠牲にする悲劇が浮き彫りにされません。今作に限らず『河内山』ならば「質見世」を、『毛谷村』ならば「杉坂墓所」をつけるとか。昔のお客様は(話の前後の)筋や背景をご存じでしたが、今のお客様はお分かりになりません。ですから、今後歌舞伎ファンを増やしていくには、必要なことだと思っています。
台本も私が随分書きかえています。分かりにくいところをカットしたり、回りくどいところを端的に進めたり。義太夫の丸本物と従来歌舞伎でやっているものとを練り直し、私のテキストでやっております。私の自信作でございます。
──上方の雰囲気を大切にされていますね。
江戸のやり方も好きなのですが、丸本(原作)通り、関西独特の味がある方がいいんじゃないかなと思います。あまりスキッとしない、関西の泥臭さ、甘ったるさがある方が、人間模様が浮き彫りになると思います。
いがみの権太は、可愛いなと許せる男で
──いがみの権太の魅力をお聞かせください。
権太のことを、「ならず者」と表現される方もいるようですが、権太は決してならず者ではありません。悪いことはしますが、根は善人で可愛い。悪いことをしてはいるけれど憎めない人物として、夫婦の愛、子どもへの愛、親への愛を非常に大事にしている悪。ですから「可愛いなあ」という魅力がある。これがなければ、子どもと女房を犠牲に忠義を尽くし、親への勘当を許してもらおうなんてね。考えたら勝手な男です。それでも可愛いなと許せる男で、私は演じています。
──全国を移動しながら、昼夜2回公演の日もあります。体調面で気をつけていることはありますか?
夜更かしをしない。そして失敗があっても、くよくよしない。気持ちが元気になると、体も元気になります。正直申し上げると、日によっては芝居が不出来なこともございます。そこでくよくよせず、明日の糧にしていく気持ちで舞台に立っています。今日もこの会場にくるまでは、しんどかった。「嫌やなぁ」と思っていました(笑)。でも皆さんのお顔を見せていただいたら、また元気になって。しかも、こんな豪華な会場でねえ(と、頭上のシャンデリアを見上げ「おめでたい」と笑った)。
西ルートには、橋之助や壱太郎ら、若手のキャストも出演する。ともに全国を周る中で、「舞台に臨む姿勢、役のとらえ方、台詞、所作、丸本物独特の芸をしっかり受け継いでほしい」と仁左衛門。また、ルートの中には西日本豪雨の被害を受けたエリアも含まれている。仁左衛門は「東北の震災の時も、精神的に沈んでいるところでお客さまが、来てよかったと、よろこんでくださった。精神的に楽しんでいただけるよう、がんばりたい」と意気込みを語り締めくくった。片岡仁左衛門による義太夫狂言の名作が、全国を巡演する『松竹大歌舞伎』西コースは4月1日開幕だ。

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