東京二期会『椿姫』/話題の新制作、
マエストロ・サグリパンティを迎えト
ークショー「ワルツのリズムに耳を傾
けて」

2020年2月19日(水)~23日(日・祝)、東京二期会『椿姫』が上演される。このたびの上演はとにかく話題が豊富だ。まず今回の東京二期会『椿姫』は11年ぶりの新制作で、演出は若手演出家の原田諒。原田は宝塚歌劇団に所属し、演劇界やミュージカル界でも注目を浴びている演出家でオペラを手掛けるのは今回が初となる。さらに指揮はこちらも若き気鋭のマエストロ、ジャコモ・サグリパンティが初来日。今ヨーロッパで最も熱い視線を注がれている若手指揮者の一人である。さらにヴィオレッタ役には世界で活躍するソプラノ、大村博美をはじめ、二期会の精鋭がずらりと名を連ねる。加えてダンサーには元タカラジェンヌの玲実くれあ、輝生かなでも参加するなど、オペラファン以外の耳目も集めている公演なのだ。
そうしたなか、このほど東京都内でサグリパンティを招いてのプレトーク「ヴェルディ作曲『椿姫』の世界 初来日指揮者ジャコモ・サグリパンティを迎えて トーク&コンサート」が開催された。今回はその様子をレポートしよう。(文章中敬称略)
■注目の若きマエストロが初来日。数々のベルカントを振り経験を積む
オペラ・アワード2016で最優秀若手指揮者に選ばれたサグリパンティは、ヴァッレ・ディトーリア音楽祭でそのキャリアをスタート。ザクセン州立歌劇場『チェネレントラ』、ヴェネツィア・フェニーチェ劇場『蝶々夫人』、チューリッヒ歌劇場『愛の妙薬』、ボリショイ劇場『ドン・カルロ』、パリ・オペラ座『セビリャの理髪師』などを指揮。今年2020年の9月にパリ・オペラ座で『椿姫』を指揮するほか、今後は英国ロイヤル・オペラやウィーン国立歌劇場へのデビューも決まっている。
登壇したマエストロはすらりとした長身で、人懐こく陽気ななかにも、どことなく生真面目さもたたえた笑顔が印象的。「指揮者を志した理由は?」の問いに「テレビでミラノ・スカラ座の番組を見たときに、指揮者の姿を見て感動したからです」と答えた。その時の指揮者は当時ミラノ・スカラ座の芸術監督であったリッカルド・ムーティ氏だったが「たぶんほかの方がテレビに出ていても僕は指揮者を志したと思います (笑)」と笑いを誘った。
その後、サグリパンティはペーザロの音楽院で学び、ボローニャ歌劇場などに通いながらチャンスをつかんだのち、「音楽祭で『ヘンゼルとグレーテル』を振ったのが最初でした。またその頃から3年くらい、南イタリアで開催されているベルカント・オペラのフェスティバルなどで、ロッシーニやドニゼッティ、ベッリーニなど、あまり知られていないベルカント・オペラや実験的に作曲したようなオペラ作品などを含め、40作品くらい振りました。いわゆるマイナーなベルカント・オペラに取り組むにあたり、先入観なくじっくりと譜面と向き合いましたが、これは非常にいい勉強になったと思います」とキャリアを振り返る。
ジャコモ・サグリパンティ
■ヴィオレッタを中心に回るオペラ。『さようなら……』は魂をえぐられるようなシーン
ヴェルディの名作、『椿姫』は『カルメン』と並び、世界でも最も上演されている作品のひとつ。その理由について「テーマが普遍的で曲も美しいからでは」とマエストロ。『椿姫』という作品について「すべての中心がヴィオレッタにある。彼女は物語だけでなく、音楽的にも"ソプラノが3人必要"といわれるほどに非常に難しく、1幕、2幕と進むにつれてどんどんドラマティックに変化していく。でもその周りはあまりそうした変化がない。例えばジェルモンですが、この人物が歌う名曲『プロヴァンスの海と陸』は(ヴェルディの前の時代の)ベルカント風。これはジェルモンを“古い人物”として表現したかったからでしょう」と語る。
また日本でのリハーサルについて、「日本の歌手との共演は初めてで、自分にとって新しいこと」と感慨深げ。リハーサル中に注意するところのひとつにはブレスの位置などがあり、「これは言語的な観点から。ヴェルディはイタリア語の発音を考えて音楽をつけているので、きちんとしたイタリア語の発音が必要となるためです」。『椿姫』は「何回振ったか回数はわからない」としつつ、今回の東京二期会の公演は7プロダクション目。この公演のあとも様々な歌劇場への出演が決まっているが、「今、自分が取り掛かっている作品が一番大事」と意欲をのぞかせる。
最後に『椿姫』の聴きどころについて「音楽のベースにワルツがたくさん入っている点に耳を傾けてほしい」と語る。「これはオーケストラや歌手の方々にも話したのですが、ヴェルディは『椿姫』の原作者であるアレクサンドル・デュマ・フィスの時代のパリで流行していた音楽を取り入れたのです。ですから楽しいシーン、緊張感のあるシーン、ヴィオレッタの死の場面で歌われる『さようなら過ぎ去った日々よ』でもワルツのリズムが流れています。この『さようなら……』はヴィオレッタの本心が吐露される、魂をえぐられるようなシーンでもあります」と締めくくった。
■ミニコンサートでマエストロの「ワルツ」の話にも納得
引き続き行われたミニコンサートでは東京二期会の柴田紗貴子(ソプラノ)、澤原行正(テノール)、大藤玲子(ピアノ)が登場。
まず澤原がアルフレードの2幕の『燃える心を』を熱く歌い上げ、続いて澤原と柴田がデュエットで1幕『思い出の日から』を披露。さらに柴田が1幕『ああ、そは彼の人か~花から花へ』を朗らかに歌った。曲の端々にマエストロ・サグリパンティがトークショーで語った「ワルツ」のリズムが感じられ、「なるほど」と思える。
ワルツのリズムが常にどこかから響く、華やかなりしパリの街で繰り広げられる悲劇……。そう思うと、改めて『椿姫』の舞台を目にしたいという思いに駆られる。若きマエストロと二期会の「新時代の椿姫」にぜひ期待したい。
これが初来日!来季METデビューも決定した今世界が最注目のイタリア人指揮者ジャコモ・サグリパンティから日本にむけてメッセージ~東京二期会オペラ劇場『椿姫』
取材・文・撮影=西原朋未

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