鮎川 誠(シーナ&ロケッツ)

鮎川 誠(シーナ&ロケッツ)

鮎川 誠(シーナ&ロケッツ)
- Key Person 第4回 -

2度と帰らない素晴らしい時代の
爪の垢くらいは伝えたいと思う

それからバンドをやるために大学受験をするという真面目な一面も。

うちのお母さんは僕がバンドをしよることを知らなかったんだよね。いちいち言わんし。“誠は芸事には向かないタイプの人間やけ、銀行員になってくれればいいんやけど”とは親戚の人に漏らしよったと聞いたことがある。ただ、大学に入らんと自分のやりたい音楽が腹いっぱいにやれないっちゅうことで、自分の守られた場所を作るために大学に行ったんです。1966年の頃はThe Beatlesを論説委員が社説で書くほど、良いか悪いかを一生懸命に言いよるの。髪が長いことや若い子が興奮して叫ぶのをけしからんちゅう人たちがいて、“若いものをロックから守れ”って。今だったら滑稽なことかもしれんけど、この時代はみんなが真剣やった。

時代が変わる境目だったんですね。

ロックの他にもオートバイやら、映画を観に行くにも親同伴やら…僕はその全部が気に入らなかったんよ。“いちいちうるせぇ!”ちゅう感じやった。良かれと思って言っているのは分かるけど、周りのうるさい声を遮断するために大学に入りたいと思った。隠れ蓑みたいな感じで大学に入っておくと、近所の人にも“あの人は大学に行きよるから真面目なんや”って、そういう地位を与えてくれるから(笑)。バンドを思いっ切りやることに対して邪魔が入らないようにするためだけに勉強をした。大学に入ったらロックで爆発しようと思ってたから、入学式の学長の話を聞きながら、心は中洲のバンドが出てるダンスホールに飛んどったね。それで実際に行ったらバンドに入れてくれて、対バンのギターを借りて弾きました。猛勉強がためになったね。

今のライヴハウスはバンドができた状態でライヴをしますが、当時は鮎川さんのように当日に飛び込みでライヴをするのは珍しくなかったんですか?

あんまり多くはなかったと思う。ドキドキするもんね。僕はよくやれてたと思う。飛び込みで入ったり、自分のことをアピールしたり、やっぱり一生懸命やったね。バンドマンの世界は選ばれた人が入れるっていうイメージもあったんよ。バンドをやるのは変わった人が多かったし、The Rolling Stonesやら、The Kinksやら、The Whoとか、夢の先にあるようなバンドと自分がつながっとるような錯覚になる…今考えたらおかしいことだけど(笑)、そう思い込んどったね。

それってすごく楽しいことですよね。

そう。すごく楽しいことで、The Rolling Stonesが好きやったら、そのThe Rolling Stonesが好きなChuck BerryやMuddy Watersまで調べればどんどん広がるし、みんな好きな音楽を隠さないからたくさん教えてくれた。音も情報やけど、音楽雑誌やら本屋があるのも素晴らしかったよね。今はネットがあればとことん調べ尽くせるけど、きっかけを作らないとなかなか自分で出会うチャンスがない。まぁ、昔も今もどっちも楽しめるんやけどね。

今の時代もいいって思いますか?

うん! 僕はいっぱい知っとるけんね。前の時代は2度と帰らない素晴らしいものやから、その爪の垢くらいは伝えたいと思う。The Beatlesが生まれて、The Rolling Stonesが誕生して…使い捨てみたいだった音楽が、大切なものを残そうという時代になった。本当やったらSP盤も埃が溜まって、全部ブルドーザーで壊されて、この世から消え去る寸前やったけど、そんな古い音楽の中からJohn LennonやKeith Richardsがいい音楽を見付けて、それを伝えてくれたおかげでみんなが大事にするようになった。SP盤をLP盤に復刻してリイシューという素晴らしい動きもできて、あの時代はあの時代のエネルギーがあったし、探し求めればいい音楽に出会えた。今はまた違う意味で、僕は毎日楽しみよるんよ。Spotifyが多いけど、新しい音楽よりも古い音楽の中に気付かされるものがあって面白いね。

OKMusic編集部

全ての音楽情報がここに、ファンから評論家まで、誰もが「アーティスト」、「音楽」がもつ可能性を最大限に発信できる音楽情報メディアです。

連載コラム

  • ランキングには出てこない、マジ聴き必至の5曲!
  • これだけはおさえたい邦楽名盤列伝!
  • これだけはおさえたい洋楽名盤列伝!
  • MUSIC SUPPORTERS
  • Key Person
  • Listener’s Voice 〜Power To The Music〜
  • Editor's Talk Session

ギャラリー

  • 〝美根〟 / 「映画の指輪のつくり方」
  • SUIREN / 『Sui彩の景色』
  • ももすももす / 『きゅうりか、猫か。』
  • Star T Rat RIKI / 「なんでもムキムキ化計画」
  • SUPER★DRAGON / 「Cooking★RAKU」
  • ゆいにしお / 「ゆいにしおのmid-20s的生活」

新着