米米CLUBの多層的かつ多面的な
世界観を『KOMEGUNY』に見る
大衆的なメロディーをバンドで料理
実際、「浪漫飛行」に限らず、『KOMEGUNY』収録曲は概ねキャッチーなメロディーラインを持っている。さわやかなアイドルソングっぽい雰囲気のM5「Primitive Love」、どこか大陸的な大らかさを感じさせるM6「Make Up」など、歌の旋律はいろいろなタイプがあるけれども、いわゆるJ-POP的と言っても語弊はないだろう。フラッシュ金子の作詞作曲で彼がヴォーカルも務めているM10「Twilight Heart」が唯一所謂キャッチーさ薄めのナンバーと言えるだろうが、アルバムのフィナーレに置いていることと歌い手が明らかに異なることもあってか、歌の雰囲気の違いが過度に目立たないというか、いい意味で変に印象に残らないというか、絶妙なバランスとなっている。この辺は一アルバム作品と上手い作りではあると思う。
そんな概ねキャッチーで、ポップと言えるメロディーラインを、前述したホーンセクションを擁した分厚いバンドサウンドで様々に料理しているのが『KOMEGUNY』であると言えるとは思う。楽器を演奏するメンバーが多いという米米CLUBのアドバンテージのようなものもそこにはあるような気がする。ジャンル的には、大雑把に言うとニューロマとファンクとに分類されるだろうか。M1「Only As A Friend」、M3「浪漫飛行」、M4「Collection」、M5「Primitive Love」、M9「Hustle Blood」、M10「Twilight Heart」が前者で、それ以外が後者と見ることができるが(かなり強引な分け方ではあるが)、8ビートだからといってジャストに迫るわけでもなく、ファンキーだからといってもブラックフィーリングが多めではなく、その辺もいい塩梅ではある。M1「Only As A Friend」からして1980年代らしいシンセ感を聴かせ、ギターやスネアの音色はいかにも…といった感じだが、間奏ではややラテンっぽさを見せるなど、単純なニューロマで終わってない印象。M3「浪漫飛行」も同期のリズムが全体を引っ張っているので冒頭はどこか無機質な印象はあるものの、サビに重なるストリングスがまさに浮遊感を醸し出している。ピアノから始まり、次第にベース、ギターが重なっていき、終盤はビッグバンド風に展開していくM8「Hollywood Smile」は、大所帯の面目躍如たるところかもしれない。
ひと筋縄ではいかないごった煮感
その辺に関連して最後に歌詞の話を少し。米米CLUBがそののちに「君がいるだけで」(1992年)という特大ヒット曲を生みだしたことは説明を待たないと思うし、それが所謂ラブソングに分類されるものであることもみなさんご存知かと思う。それゆえに「君がいるだけで」のヒット後は一般層に素敵なポップスを歌うバンドと思われた節もあるようだが、『KOMEGUNY』にはこんな歌詞の楽曲もある。
《夕暮れが近づく 君の涙が乾く/「帰して」とさけばれても Love You/大切な 宝物さ/これからは Forever 二人きり》《しばりつけてるのは 愛があるからだよ/ここで君が 逃げてしまえば/すばらしい夢はもう二度と見られない No Way/あきらめて》(M4「Collection」)。
米米CLUB版の「ミザリー」や「蝋人形の館」といったところだろうか。ひと通り歌詞を見てから楽曲のタイトルを見ると少しゾッとする感じである。これ以外にも、M8「Hollywood Smile」やM9「Hustle Blood」辺りはちょっと下世話な感じもあるし、M5「Primitive Love」やM6「Make Up」などはどんなふうに受け取っていいか判断を迷うものもある。このひと筋縄でいかない感じ──熱心なリスナーとは言えない筆者のような者でも、ここに米米CLUBらしさはあるように思う。サウンドも含めて、どこかごった煮な感じと言ったらいいだろうか。『KOMEGUNY』はその意味でも米米CLUBの本質が詰まった作品ではあると思う。
TEXT:帆苅智之