大貫勇輔が語る、舞台『ねじまき鳥ク
ロニクル』の魅力とは? ー〈特に踊
る〉ダンサー8人たちを中心に紹介し
ます!

世界的ベストセラー作家・村上春樹の大長編小説『ねじまき鳥クロニクル』が初舞台化され、2020年2月11日(火・祝)〜3月1日(日)東京芸術劇場プレイハウス、3月7日(土)〜8日(日)梅田芸術劇場シアター・ドラマシティ、3月14日(土)〜15日(日)愛知県芸術劇場大ホールで上演される。
ミュージカル『100万回生きたねこ』や百鬼オペラ『羅生門』を手がけたイスラエル出身のインバル・ピントが演出・振付・美術を担当。同じくイスラエル出身のアミール・クリガーが脚本・演出を担い、日本からは「マームとジプシー」を主宰する藤田貴大が脚本・演出として参加し、協同作業を行う。なお、NHK連続テレビ小説『あまちゃん』の音楽で知られる即興演奏家の大友良英が音楽を担当。成河、渡辺大知、門脇麦ら〈演じる・歌う・踊る〉キャスト10人のほか、〈特に踊る〉ダンサーが8人出演する。
 
今回、綿谷ノボル役として〈演じる・歌う・踊る〉大貫勇輔に稽古場を案内してもらいつつ、特に本作の「踊り」の魅力を語ってもらった。
稽古場を案内する大貫勇輔
【ストーリー】
岡田トオルは妻のクミコとともに平穏な日々を過ごしていたが、猫の失踪や謎の女からの電話をきっかけに、奇妙な出来事に巻き込まれ、思いもよらない戦いの当事者となっていく。
トオルは、姿を消した猫を探しに行った近所の空き地で、女子高生の笠原メイと出会う。トオルを“ねじまき鳥さん”と呼ぶ少女と主人公の間には不思議な絆が生まれていく。そんな最中、トオルの妻クミコが忽然と姿を消してしまう。クミコの兄・綿谷ノボルから連絡があり、クミコと離婚するように一方的に告げられる。クミコに戻る意思はない、と。
だが自らを“水の霊媒師”と称する加納マルタ、その妹クレタとの出会いによって、クミコ失踪の影にはノボルが関わっているという疑念は確信に変わる。そしてトオルは、もっと大きな何かに巻き込まれていることにも気づきはじめる。
何かに導かれるようにトオルは隣家の枯れた井戸にもぐり、クミコの意識に手を伸ばそうとする。クミコを取り戻す戦いは、いつしか、時代や場所を超越して、“悪”と対峙してきた“ねじまき鳥”たちの戦いとシンクロする。暴力とエロスの予感が世界を包み、探索の年代記が始まる。
“ねじまき鳥”はねじを巻き、世界の歪みを正すことができるのか。トオルはクミコを取り戻すことができるのか−−。

インバル・ピント(左)とアミール・クリガー。二人で頻繁にディスカッションをする姿が見られた。
本番まで1ヶ月を切った1月下旬、すでに建て込み(大道具が設置されている状態)がある都内の稽古場を訪れた。舞台奥の床を高くして傾斜をつけた「八百屋舞台」で、左右それぞれにドアがいくつかある、シンプルな舞台だ。
 
ちょうど、クレタとトオルが会話するシーンを稽古していた。クレタにダンサーたちがまとわりついている。一人一人が各々踊るのではなく、互いの動きを感じあいながら、一体となって動く。それは、クレタの内面を細やかに表現しているようにも見えるし、その場を支配する空気感そのものにも見える。絶えず呼吸を感じるように、身体を動かす。それをなんと言えばいいのだろう。「幻想的」といえばいいのだろうか、とにかくとても独特で、不思議な光景だった。
徳永えり(中央)の周りに8人のダンサーがいる。
振付を担当するインバルは、その場でダンサーたちに指示を与える。「このタイミングで一気に動いてみたらどうだろう」「もう少し腕を伸ばしてみてくれる?」「実験をしてみたいのだけれど…」といった具合に、そのオーダーは様々。ダンサーたちはその指示に体で即座に応える。一つのシーンを作り上げるために、何度も何度も、試して試して、体に覚えさせる。ピンと空気が張った緊張感がありつつも、今まさにここでクリエイトをしているという喜びを感じさせる、そんな稽古場だった。
ダンサーの動きをその場でクリエイションしていく
『ねじまき鳥クロニクル』の舞台セットの試作模型。八百屋舞台になっている。

−−インバルの振付を実際に受けられて、どのような印象をお持ちですか。
大貫:稽古をやりながら、『100万回生きたねこ』の初演(2013)をすごく思い出しました。あ、こういうやり方だったなと、すごく懐かしく思いましたね。
今回は、『ねじまき鳥クロニクル』という原作が超長編小説ということもあって、それをぎゅっと縮める作業がものすごく大変です。振付に限った話ではないですが、それは感じていますね。その幻想的というか、夢なのか、現実なのか分からないものを、歌とダンスと芝居を使って表現する。心地いいというか、心地悪いというか、お客様に委ねながらも理解させなくてはいけない部分と、想像に任せる部分のバランスを、今、探っているような段階です。
 
インバルもアミールも藤田さんも、ダンサー、音楽家の方々、演者も、みんなで手探りの状態ですね。振付が多かった場合は削るし、何かが足りなかったら足すし。日々、台本にしてもムーブメントにしても変更の連続です。だから毎日その変化に対応していくのに必死ですね。
インバル・ピントの指示に耳を傾ける、大貫勇輔(中央)ら
稽古場には大友良英ら音楽陣も控え、その場で拍や動きとのタイミングを揃えていく
−−『100万回生きたねこ』の時との違いはどのあたりにあるのでしょうか。
 
大貫:『100万回〜』の時は原作が短かった分、膨らませる部分が多かったんですね。元にあるストーリーをちゃんと追いながらも、お客さんが見ていて「あぁこんな風に膨らませたんだ」と感じるような、インバルの独特の世界観がより強調された印象だったんですけど、今回はその逆です。長いものを短くしなければいけないので、その難しさや大変さがありますね。
伝えたい情報量が本当に多すぎて。どれをどういう風に伝えれば、より伝わりやすいのか。でも同時に“分からないという心地よさ”もお客さんに届けたい。本当に、バランスが難しいとみんな感じていると思います。
大貫がダンスの見どころの一つとして挙げたクレタ(徳永)とノボル(大貫)のダンスシーン。ダイナミックなリフトも多く取り入れられている
−−ダンスに限って言うと、大貫さんご自身が考える見どころはどのような場面ですか。
 
大貫:1幕の11場。稽古場での通称は「レイプシーン」となっているんですけど...クレタとノボルのダンスシーンがあります。昨年(2019年)10月のワークショップの段階から、徳永さん(※徳永えり)と色々ディスカッションさせてもらいました。振付自体は本稽古が始まってから3日で出来上がって。徳永さんは昔踊りをやっていたけど、そこまでやっていないと仰っていたのに、ものすごいレベルのコンタクトをされるので驚きましたね。すごいなぁと思いながら、一緒にやらせてもらっています。
 
あとは、1幕9場のオークションのシーンもダンサーと絡むので、一つの見せ場だと思いますね。
西山友貴、加賀谷一肇、鈴木美奈子、川合ロン(左から)
−−一人ひとりのダンサーについて、大貫さんのコメントをいただきたいのですが、まずは大宮大奨さんに関してはいかがですか。
 
大貫:僕は二十歳の時に初めてニューヨーク行って、ダンススタジオで出会ったのが大ちゃんでした。一緒にニューヨークのクラブに行ったんですね。黒人の方たちがサークルを作って、ヒップホップを踊っているんです。大ちゃんは、その円の中に入っていって、コンテンポラリーダンスを踊った(笑)。いやぁ、ものすごい勇気だなと思いましたね。それが僕の第一印象です。
 
そこから彼はずっとニューヨークで活動していて、日本に帰ってきて。よく飲みにいったりはするんですけど、仕事を一緒にするのは初めてですね。今回の舞台では、オークションのシーンで少しだけ絡みます。
 
−−加賀谷一肇さんはいかがでしょう。
 
大貫:かー君は、僕が22歳の時に『GQ-紳士の品格- Chocolat ショコラ ヘンゼルとグレーテルより』(2011)というダンス公演に出演した時に、初共演させてもらいました。同い年なので、俺らの世代も頑張ろうね、なんて言って、一緒にやってきました。かー君は子役からずっとやってきているので、本当にいろいろなことが分かっていて。僕は23歳から『キャバレー』(2012)などお芝居の世界にやっと足を踏み入れた感じです。
 
本当に尊敬する俳優であり、ダンサーです。同世代なので、ライバルというか、同志というか、仲間として結構意識しています、いつも。 
東海林靖志、笹本龍史、大宮大奨、皆川まゆむ(左から)
−−川合ロンさんについては。
 
大貫:ロンさんは、小野寺修二さんの作品『シレンシオ』(2013)に、バレエの首藤康之さんと出られていた時に初めて見て、この人すごいなと思いました。動物のように野性的に踊られている、すごい魅力的なダンサーだなと。それから、友人の飲み会でたまたまお会いして、その時の感想をそのまま伝えました。その飲み会ぶりの今回の舞台です(笑)。共演は初めてですね。ロンさんの踊り、大好きです。
 
−−笹本龍史さん。
 
大貫:笹本さんもニューヨークに行かれていて、ブルックリンに住んでいたんですよ。二十歳の頃、僕も遊びに行かせてもらって、家に泊まらせてもらいました。僕の師匠の辻本知彦さんと笹本さんは仲良くしていて、何度か一緒に飲ませてもらったりもしましたね。いまは、山口県で、奥さんと一緒にダンススタジオをやられています。本当に優しくて、物腰柔らかな方で。大好きな人ですね。 
何気ない会話をしながらも、体でコンタクトを取り合う大貫勇輔と成河。「こういうコミュニケーションをとることが多い現場だと思う」(大貫)。
−−東海林靖志さんはいかがですか。
 
大貫:東海林さんとの最初の出会いは、結構前なんですよ。確か、ダンスのイベントで初めてお会いして。東海林さんが一緒にお仕事している、ダンサーの平原慎太郎さんと僕が共演したことをきっかけに(平原さんと)すごく仲良くさせてもらっていて、その流れで知り合いました。
  
彼は北海道に住んでいるので、なかなか会えないのですが、彼が踊る作品は結構見させていただいています。独特の空気感が魅力的な方だなと思います。
 
−−鈴木美奈子さんはどうでしょう。
 
大貫:美奈子さんは『100万回生きたねこ』の時に初めて共演させていただきました。なんだろう、変わらないですね。美奈子さんと、まゆむ(※皆川まゆむ)と、銀粉蝶さんの3人だけが、『100万回生きたねこ』から、ほぼ皆勤賞で出演されているんじゃないかな。だから本当にいろいろな部分で助けてもらっています。 
〈特に踊る〉ダンサーたち
−−西山友貴さん。
 
大貫:西山さんは、ダンサーの平山素子さんの作品によく出られていて。僕は平山さんの作品に出させていただいたことがあるのですが、別の作品で西山さんが出られていて、それを見に行った時に、ものすごい強靭な体を持っていて、本当にすごいなぁと、ずっと思っていました。今回初共演で、嬉しいですね。
 
−−最後に、皆川まゆむさんはいかがでしょう。
 
大貫:まゆむは19歳の時に初めて会いました。DDDという雑誌のイベントで一緒に踊らせてもらって。それからの仲で、いろいろ喧嘩をしたこともありましたが(笑)、本当に尊敬する親友ですね。
大貫勇輔(中央)と、〈特に踊る〉ダンサー8人
−−ご紹介いただいた8人は、ダンサーとしてトップクラスの方々です。その方々が集結した点についてはどう思われますか。
 
大貫:本当にその通りです。コンテンポラリーダンスと言ってもさまざまで、本当にいろいろなスタイルがあります。特にこの8人はみんな違うスタイルなんですよ。なので見ていて面白い。僕、日本のコンテンポラリー界ってものすごくレベルが高いと思うんです。その中でも素晴らしいダンサーたち、僕も舞台で素敵だなと思うダンサーたちが集結したなという印象です。
脚本・演出の藤田貴大(右)と、脚本について話し合っている成河、大貫勇輔、渡辺大知(藤田から時計回りに)
−−イスラエルもコンテンポラリーダンスは有名ですよね。日本とイスラエルの協同作業を肌で感じられますか。
 
大貫:まゆむが振付助手として入っています。彼女はイスラエルでも踊っているし、インバルと長くやっている。国によっても人によっても作り方が全然違うなか、初めて関わる人との間に入って、つなぎとしての役割をしてくれています。まぁみんな結構海外の人とクリエイションしてきているので、スムーズではあります。自分たちで「ああいうのどうだろう?」「こういうのどうだろう?」とディスカッションしながら作っている感じはすごく楽しそうですね。
 
ダンサーたちは出番がかなり多い。(〈演じる・歌う・踊る〉​の)僕らは稽古時間がぎゅっと詰められている感じなんですけど、ほぼ毎日稽古場に来ています。大変だろうなぁ、と思いながら見ていますよ(笑)。
 
−−今回の『ねじまき鳥クロニクル』はミュージカルではないですよね。ご覧になるお客様はどう見たらいいのか、何かアドバイスをいただけますか。
大貫:多分、あまり考えすぎないで見た方がいいと思います。おすすめは、感じるままに見ること。それが正解な気がします。お芝居だと思って見るとか、ダンス公演だと思って見るとか、ミュージカルとして見るのではなくて、『ねじまき鳥クロニクル』というものを全身で感じてほしいなという感じです。今までの固定概念を捨ててみていただく。それが理想ですし、それを目指していると思います、みんな。
 
そのミックスしている状態をうまくお客さんに届けて、「新しくて今まで見たことのないものを見られたね」と言っていただけたら、成功なんだろうな。そう思いながら、みんなで稽古をしています。

大貫が見どころの一つとして挙げた、オークションの場面。大貫の後ろで、ダンサーたちが忙しなく、機械的だけれど、ドラマを物語ながら動く。

−−なるほど、では、他の舞台と違う点を挙げるとすれば、新しい「融合」ということでしょうか。
 
大貫:そうだと思います。『ねじまき鳥クロニクル』は深いところで融合しているような気がします。
 
小説は本当に有名な小説なので、読まれている方はたくさんいると思うんですよね。なので読まれた方が舞台を見たら「なるほどこういう風にしたのか」と思うだろうし、読んでいない方が見たら、分かるところと、分からないけど、「この分からなさがなんだか心地いいな」と感じていただけるようなところを目指しています。
  
舞台をやりながら難しさを感じるのは、村上春樹さんの本って、多分、読者によってイメージする絵が違うんですよね。最初に大変だったことは、そのイメージを共有することでした。インバルやアミール、藤田さんが思っている世界観と、僕が読んで感じた世界観の「ギャップ」のようなものがあった。例えば、僕が演じる綿谷ノボル。絵コンテを見ると、ヒゲをつけて、思ったよりも老けているイメージでした。
『ねじまき鳥クロニクル』の登場人物の絵コンテ。右は、大貫が演じる綿谷ノボル役のものだ。
あれだけ長い小説なので、それぞれ記憶に残っているセリフやシーンがありますよね。舞台化するにあたり、どうしても残すシーンと切るシーンがあると思うんですけど、原作ではカフェの場面を、舞台ではオークションの場面にしたり、雑踏の場面をプールに置き換えたり。インバルとアミールと藤田さんのイメージと、まさに村上さんのイメージがミックスして、演出として盛り込まれていると思います。
−−ちなみに、作品は「まとまりそう」なのですか。日々クリエイションをしていて、変容されている印象なのですが。
 
大貫:本当にいい意味で不安です(笑)。これは日々ずっと変わっていくだろうなという予感がしています。インバルもアミールも「これってもっと良くなるよね?」という話しかしない。だから、いろいろと変えようとするんですよ。どんどん破壊と再生というか、クリエイションを続けている。これは僕ら演者にとっては不安ですよね。固めたいのに固めさせてくれないから。でもそれが日々良くなっていく方に更新されていくので、いい意味の不安として捉えています。
 
−−初日と千秋楽は全く違うものになっているのかもしれませんね?
 
大貫:それが本番中も変わるのかどうかはまだ分かりません。ただ、お客さんによって反応は違うと思います。お客さんの心のポジションや波によって、印象に残るシーンは大きく変わると思うので。そういう意味だと日々変化していくのではないかなと思いますね。
脚本・演出のアミール・クリガーと会話する大貫勇輔
−−最後に、読者や楽しみにされているお客様にメッセージをお願いします!
 
大貫:心地よい“分からない”を届けられたらいいなと思いながら日々稽古をしています。ダンスと歌とお芝居の融合の心地よいところを全力でみんなで模索しているので、ぜひ、今まで見たことのない舞台というものを体感しに来てもらえたらうれしいなと思っています。
ストレッチをする大貫勇輔。忙しい稽古の合間を縫って取材に応じてくださいました!ありがとうございました!
取材・文・撮影=五月女菜穂

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