物語の世界へと入り込めるイマーシブ
シアター『サクラヒメ』が京都・南座
で開幕、日本最古の劇場で最先端の演
劇体験を

1月24日(金)に京都・南座で初日を迎えたイマーシブシアター『サクラヒメ』~『桜姫東文章』より~。イマーシブシアターとは、ニューヨーク・ブロードウェイ発祥の新しい演劇手法で、従来の「物語を鑑賞する」スタイルの演劇に対し、「観客の意思で物語に入っていく」かのような体験ができるステージのこと。本公演では、舞台と客席が同じ高さになる南座の新機構「客席フルフラット化」を活用し、まさに作品の中に没入できるかつてない感覚を楽しめる。
物語は歌舞伎の『桜姫東文章』を題材にしたオリジナルストーリー。意に添わぬ縁談から逃れるため、心中によって成就させた一組の男女。二人はやがて転生し、花魁となったサクラヒメは前世の記憶を頼りに運命の相手との再会を望むのだが……。
サクラヒメ(純矢ちとせ) 撮影=田浦ボン
ヒロインのサクラヒメを演じるのは、元宝塚娘役スターで退団後初の舞台となる純矢ちとせ。オープニングの花魁道中では、息をのむような美しさで魅了する。転生した世でサクラヒメが出会うのは、神秘的な陰陽師(川原一馬)、剣術では右に出る者はいない孤高の浪人(荒木健太朗)、弱者の味方で自由に生きる義賊(世界)、火事場では男気溢れるアクロバティックで活躍する鳶(平野泰新)、そして貧しい者には無料で治療を施す心優しい町医者(Toyotaka)という5人の男性たち。サクラヒメの運命の相手はいったい誰なのか……。
浪人(荒木健太朗) 撮影=田浦ボン
客席フルフラット化された1Fの観客は「都人」と呼ばれ、様々な出来事が同時多発的に起こるフロアを歩き回ることができる。例えばフロアでは、荒木扮する浪人が子どもを相手に剣術指南をしていたり、川原による陰陽師が一角で呪文を唱えていたり。義賊の世界と町医者のToyotakaによるダンスバトルも勃発し、二人の周りには自然と人の輪が生まれる。かと思えば、鳶の平野が迫力あるアクロバティックを披露するなど、臨場感あふれる描写が次から次へと押し寄せてくる。
しかも、1Fは観るだけにとどまらない。時には都人も劇中の賭け事やお座敷遊びに誘われることもある。街ゆくキャストに声をかけられたら、ぜひ参加してみよう。なお、都人は入り口で荷物を預け、法被を羽織るのが決まりとなっている。シーンによっては路上(フロア)にしゃがむこともあるので、動きやすい服装と靴がおすすめだ。
雲上の導者(新里宏太) 撮影=田浦ボン
2F、3Fの観客は「雲上人」と呼ばれる。読んで字のごとく、雲の上から都で起こる出来事を目撃する。パフォーマーたちは時折、雲上にも出現。町医者に脈を取られる人もいれば、義賊に話しかけられる人もおり、雲上でも物語へと十分、没入できる。雲上の導者(新里宏太)にも注目。都の様子に気を取られていると、いつのまにか雲上に降り立っている導者。真っ白な衣装に身を包み、何とも神秘的な雰囲気をまとっている。
盗賊(高田秀文(DAZZLE)) 撮影=田浦ボン
後半、物語は高田秀文扮する盗賊の出現によって急転直下の展開を見せる。賑やかな都は一気に不穏になり、サクラヒメが盗賊に捕らわれてしまう。サクラヒメを救えるのは5人のうち誰なのか。その運命の人を決めるのが、雲上人だ。雲上人には開演前、5人の名前が書かれた投票用紙が配付される。そして雲上の導者の歌唱に導かれ、運命の相手を裁決(投票)するのだ。その結果によって結末も異なるという、マルチエンディング形式を取り入れている。
陰陽師(川原一馬) 撮影=田浦ボン
ダンス、アクロバット、タップや殺陣、劇場を包み込む歌唱に流麗な演舞と見どころが盛りだくさん。さらにパフォーマーたちの衣擦れの音や小さな息遣い、滴る汗などにも目を奪われる。その距離の近さに妙にドキドキ。小劇場やライブハウスのような距離感の出来事を、南座という大きな劇場で体験できるのも面白い。また、「舞台照明の中に自分も浸れる」という特別な感覚もイマーシブシアターならではのものだろう。
サクラヒメ(純矢ちとせ) 撮影=田浦ボン
都人の場合、普段はステージの上にいる大好きなパフォーマーが同じ目線の高さにいるという信じられない出来事が待ち受けている。そうなると1回では到底、満足できない。幕が閉じると同時に「次はあの場所から見たい」「あのパフォーマーをもっと近くで見たい」とさらなる好奇心が湧き出るだろう。神の目線になれる雲上人も一度は体験したい。あの時都で何が起こっていたのか、俯瞰で観ることで「次に都人になったらあの場所で……」とシミュレーションするのも一興だ。南座のどこで観るか、誰を観るかで作品の印象が全く異なるイマーシブシアター『サクラヒメ』~『桜姫東文章』より~。この機会に、かつてない演劇体験を味わってほしい。
イマーシブシアター『サクラヒメ』~『桜姫東文章』より~
取材・文=Iwamoto.K 撮影=田浦ボン

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