osageの現体制ラストライブとなった
ツアーファイナルにみた、これまでの
集大成とこの先の可能性

『osage 「October.」Release Tour』 Final 2020.1.18 Shibuya eggman
SEが鳴り、メンバーが入場。センターに立つ山口ケンタ(Vo/Ba)が松永祐太朗(Gt)、金廣洸輝(Gt/Cho)、田中優希(Dr)とそれぞれ目を合わせ、頷いたあと、4人が演奏を始めた。1曲目は「セトモノ」。イントロの時点からアンサンブルは前のめりになってドライブしている。上手側・松永のギターによる、舞い落ちる花びらのような軌道を描くメロディ、コード。下手側・金廣のギターから発せられる、人の心を焚きつけるザクザクとしたカッティング。「唄ってくれ!」と山口が投げかけると、オーディエンスが思いっきりシンガロング。山口はそれを見て飛び跳ねながら喜んでいた。
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フロアを見ると、腕を突き上げる観客には手のひらをパーではなくグーの形をしている人が多いが、それも何だか分かる。「ライブハウスの熱さはステージから、ギターから。そんな思いでライブにこだわってきました」(山口)と語るこのバンドのライブには、グッと拳を握りしめたくなるような、そういう気持ちにさせられる熱量があるのだ。マイクから離れたところで頻繁に声を出しているのは山口だろうか。「オイ!」とか「エイ!」みたいな声がステージから飛んでくる。
昨年10月にリリースした初の全国流通盤『October.』に伴うツアーのファイナルにして、osage初のワンマンライブ。このツアーが発表されたとき、まさかこの4人での最初で最後のワンマンになるだなんて誰が想像していただろうか。この日を最後に、結成から共に歩んできた松永がバンドを離れることになったのだ。
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例えば2曲目の「Greenback」は、osageがこれまで発表したなかで唯一、作詞が山口、作曲が松永の曲。実際外で雨が降っていたことも相まって、サビの<この雨の匂いや空の色にも/忘れること無いような名前をつけよう/こんな日々が渇いてしまわぬように/枯れてしまわぬように>というフレーズにはバンドの現状を重ねざるを得なかった。しかしそれは前情報ありきで観ているからこそ感じたことであり、4人の演奏自体には湿っぽさがない。この日のセットリストは、廃盤になったデモ音源含むこれまでリリースした曲すべてを網羅した、現時点での集大成といえるもの。今の自分たちの全力を尽くしたい。ただただ、カッコいいライブをしたい。4人はそんなモチベーションでライブに臨んでいたのではないだろうか。山口は最初のMCで、チケットがソールドアウトしたことをファンに報告しつつ、「これだけたくさんの人が誇りだと思ってくれる、そんなバンドで在り続けたいと。この2時間、カッコいい姿だけを見せたいと思います。改めて最後までよろしくお願いします」と語っていた。
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歌とベースから始まる「ginger air」はギター2本のリズムも独特で、ちょっと歪なピースの嵌り具合に何だかうずうずする。ビート自体はシンプルだが不思議と踊れる曲だ。「1954」では、山口に指された田中がフィルインを挟むなど遊び心も覗かせる。そして「海より深い、炎より激しい、僕らにとって大切な曲です。この曲だけはどうかここで聴いてくれ」(山口)と紹介された「スープ」は、間違いなくこの日のハイライトだった。2本のギターの重なりを筆頭に一捻りも二捻りも効いた4ピースサウンドは、純色でも原色でもないが、奥行きを感じさせるその濁りこそがこのバンドの持ち味である。ここまで苦楽を共にした、4人の月日を煮詰めたみたいな音楽が、今ここで鳴っている。ボーカルだけでなくすべての楽器が唄っていて、バンドが共に呼吸している。ラストシーンでは、山口のビブラートがライブハウスの中で綺麗に響いた。
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その余韻に浸る間もなく、「ヤバい曲やります」と「最終兵器」からの「アナログ」へ。そうしてライブの後半に差し掛かると、山口が「1本のギターと歌だけで350人と戦ってみたい」と切り出し、一人ステージに残って「環状8号線」を披露した。アコギ1本で演奏するとフォークをルーツとしたメロディの持ち味が際立つし、ギターを弾く時、低音をしっかり響かせているのがベーシストならではという感じがする。静かにしっとりと唄い鳴らすだけでなく、時にはギターを掻き鳴らし、声を張り上げ、メリハリをつける。
再び4人に戻ると、「osageが輝くのはライブハウスだ、ライブバンドでありたいという想いで後半戦、やっていきたいと思います」(山口)と改めて宣言。その直後にはまだ音源化されていない新曲のバラードが登場だ。自分たちのライブバンドっぷりを見せつけようというタイミングで選ぶ曲が、分かりやすく観客を盛り上げられそうなダンスチューンでもなく、メンバーの技術で見せるテクニカルな曲でもないのが、実にこのバンドらしい。ボーカルのメロディの裏では松永がオブリガート的な旋律を奏で、存在感を見せている。彼も含めた4人のosageとして作った新曲という印象があり、明日からも普通に、この4人でバンドを続けていそうな気さえしてしまう。
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そんななか、「朝は雪が降っちゃったけどこれから来る春を想って。暖かくなって季節が変わって、少しずつ何かが変わっていく。そんな春の歌を唄いたいと思います」と「春化粧」、「エンドロール」、「追憶」の3曲により、ふいに舞い込む感傷。本編最後のMCでは、山口が、本日を以ってこの4人でのosageは最後になるという事実に改めて触れた。「vega」における、向かい合う山口と松永が何か言葉を交わしながら楽器を鳴らす姿も、山口の「ギター!」に応えた松永が涼しい顔してえらいソロを弾く姿も、おそらくもう見られないだろう。「俺たちが大事にしてきた約束の歌をどうしても唄いたいんです。遠くに行ってもこれから先もどうか変わらず。そのままで会えると思ってるから」と山口。その言葉は、観客に対して言ったものだったのか、それとも、隣にいる彼に向けたものだったのか。
そうして本編ラストの「ウーロンハイと春に」へ。直後のアンコールでは、金廣が、松永の家で一緒にバンドをやろうと話した日のことを、山口が、教卓に座ってギターを弾く学生時代の松永を見て漫画のワンシーンみたいだと思ったときのことを振り返っていたが、ここまでの17曲を演奏しているなかで様々な思い出が浮かんできたのかもしれない。曲を終える前にもう一度繰り返された<僕等は大丈夫さ>は、バンドが、自分たち4人の背を押すために唄った言葉だったのかもしれない。
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アンコールでは、osageにとっての始まりの曲「移ろう季節に花束を」が演奏され、4月にシングルをリリースすること、その後ツアーをまわることが発表された。そして終演後の21時には山口、金廣、田中の3人だけが写った新しいアーティスト写真も公開された。この日のライブでも示されていたように、松永のギターはバンドにとってかけがえのない存在だった。それはメンバー自身が一番分かっているだろうし、だからこそ3人になったosageは、松永のいたosageを超えに来るはずだ。今はその時を楽しみに、春の訪れを待っていたい。

取材・文=蜂須賀ちなみ
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