暗黒大陸じゃがたらの
『南蛮渡来』は、他の誰でもない、
江戸アケミだけが示した
江戸アケミのロックンロール

《あんた気にくわない》に見る創造性

この時期の日本でアフロビート、アフロファンクに注目しただけでも相当に革新的で、暗黒大陸じゃがたら、即ち江戸アケミ(Vo)のセンスは文字通り抜群であったと言える。閉じられた同好会的な世界は別として、この時、ライヴをやったり、音源を制作して販売するフィードにおいて、当該ジャンルに手を伸ばしたのは、おそらくじゃがたらだけだっただろう。その姿勢だけでも十分に刮目するに値するのだが、重ねて称えねばならないことは、その取り込み方にある。M1「でも・デモ・DEMO」からそれは顕著だ。その冒頭も冒頭、イントロが始める前のカウントの代わりとも言っていい江戸の歌からして、もう十二分に素晴らしい。

《あんた気にくわない》(M1「でも・デモ・DEMO」)。

短い日本語を、その語感を損なうことのない抑揚を付けてきちんとリズムに乗せているばかりか、そこにFela Kutiが創設したと言われるアフロビートの精神と言ってもいい、不服、反発をしっかり宿らせている。こんなにファンキーでポップでロックなフレーズはそうはない。

そこから続く、演奏も実に活き活きとしている。パーカッションを含めてグイグイと全体を引っ張るリズム。小気味の良いギターのカッティング。特有のグルーブ感を下支えするベースのうねり。いななくサックスを始めとする軽妙なホーンセクション。快活な印象を加味しているコーラス。ものすごくテクニカルな演奏というわけではないけれども、躍動感が持続しているだけでなく、そのテンションが尻上がりに上がっていく。6分30秒のタイムは決して長く感じないし、もっと聴いていたいと思わせるスリリングさを有している。あえて英語っぽい言い回しをしている《くらいね、くらいね》や《でも、でも、でも、》辺りもいいし、途中でどこか民謡っぽい旋律を奏でるギターも良く、1曲目から江戸アケミの決意と凄みを感じる「でも・デモ・DEMO」である。

以降、ややサウンドがサイバーな印象のM2「季節のおわり」や、パンク色が濃いM5「アジテーション」やM6「ヴァギナ・FUCK」などは1980年代前半という時代性を感じさせるところでもあって、こうしたナンバーがあることも暗黒大陸じゃがたら、江戸アケミの寛大さというか、懐の深さであろうが、この『南蛮渡来』で示されたこのバンドのすごさ、その極め付けは、やはりフィナーレを飾るM8「クニナマシェ」であろう。「でも・デモ・DEMO」で始まって、その他さまざまな楽曲を経てここに辿り着くというのもアルバムとして実に巧くできていると思う。パーカッシブなアフロビートを基調としながらも、オキナワンが入っているようでも、日本古来の民謡が加味されたようでもある、密集形のサウンドは、じゃがたらのものとしか言いようがない。言葉そのものが突き刺すようなキャッチーを湛えた《ヤラセロセロセロセロセロセロセロ》というコーラスが全体を支配しながら、それがいつしか子供の声による《ぼくたちは光の中でチャチャチャ》へとつながっていき、そこから柔らかなメロディーが聴こえてくるという構成は聴いていて本当に気持ちが良く、どこか知らない世界へと誘われていくような感覚すらある。今も他でこれを似たような音楽を聴いたことがない。マニアックなアングラなものではまったくなく、十分に踊れるポップさもしっかりある。黒人のそれでも白人のそれでもない、完全に独自のファンクミュージックである。繰り返し言うようだで恐縮だが、1982年という時点で、この方向性を目指し、ひとつサウンドを完成させた江戸アケミと暗黒大陸じゃがたらのメンバーは、やはりすごいと言わざるを得ない。

江戸アケミはライヴで観客に向かって“お前はお前のロックンロールをやれ!”とアジっていたという。本作収録曲の歌詞にもこうある。

《思いつくままに動きつづけろ/思いつくままにとばしつづけろ/思いつくままに走りつづけろ/思いつくままにたたきつづけろ/思いつくままに壊しつづけろ/思いつくままに踊りつづけろ/思いつくままにしゃべりつづけろ》(M1「でも・デモ・DEMO」)。

ファンクもロックも音楽ジャンルではなく、生き方の指針や姿勢でもある。彼は言葉のみならず、独自の音楽を創造することでそれを示した。邦楽シーンの偉大なる巨人である。

TEXT:帆苅智之

アルバム『南蛮渡来』1982年発表作品
    • <収録曲>
    • 1. でも・デモ・DEMO
    • 2. 季節のおわり
    • 3. BABY
    • 4. タンゴ
    • 5. アジテーション
    • 6. ヴァギナ・FUCK
    • 7. FADE OUT
    • 8. クニナマシェ
『南蛮渡来』('82)/暗黒大陸じゃがたら

OKMusic編集部

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