ニール・ヤングや
ブルース・スプリング
スティーンから絶大な信頼を得る
ニルス・ロフグレンの
ソロ第3作『稲妻』
ソロ活動
結局、彼はグリンが最後に所属していたA&Mレコードとソロ契約を結び、75年にソロ1作目の『ニルス・ロフグレン』をリリース、ローリングストーン誌でジョン・ランドウ(スプリングスティーンのマネージャー兼プロデューサー)が絶賛したものの、全米チャートでは141位とふるわなかった。しかし、このアルバムは地味ながらも素晴らしい出来で、代表曲「バック・イット・アップ」やキース・リチャーズへのオマージュ「キース・ドント・ゴー」が収録されている。
76年にはソロ2作目の『クライ・タフ』をリリース、プロデュースはデビッド・ブリッグスと才人アル・クーパーのふたりとなり新境地に到達する。よりハードにギターを前面に押し出すかたちとなり、ここにきてようやくロフグレン・サウンドが確立する。早弾き、スライド、ハーモニックス奏法など、今までアンサンブルを重視するあまり見せなかったテクニックを披露し、ロックの醍醐味が味わえるアルバムとなった。バックを務めるミュージシャンはチャック・レイニー、ジム・ゴードン、ポール・ストールワース(アティテューズのメンバー。 リリースされたアルバム2枚は未だにCD化されていない)、エインズレー・ダンバー、アル・クーパーなど豪華すぎるぐらいの面子である。バックボーカルにクレージー・ホースのラルフ・モリーナとビリー・タルボットの顔も見える。ロフグレンのギターは、これまでで一番冴えわたっている。彼のアルバムとして初めて全米32位、全英チャートでは8位という輝かしい結果になった。
本作『稲妻』について
収録曲は全部で9曲。ストーンズ・ナンバーの「ハッピー」以外は、ロフグレンのオリジナル。本作をリアルタイムで聴いた時、AORとパンク全盛の77年に、これだけシンプルでストレートなロックは逆に新鮮だった記憶がある。ニューマークとジョーンズの鉄壁のリズムセクションと、凝ったアレンジをシンプルに見せるロフグレンの力量は相当なものだ。ソウルフルなバックヴォーカルと、ストリングスや複数のキーボードで重厚感のあるサウンドを生み出していて、それに乗るロフグレンのリードヴォーカルとリードギターは水を得た魚のように生々している。気持ち良さそうに歌っているのが聴いていてもよく分かるのだ。
前作の『クライ・タフ』と本作『稲妻』にはロックの楽しさが詰まっている。自分のスタイルをようやく見つけたロフグレンであるが、彼が心底楽しんでいるのに付き合うのは悪くない。なお、同じく77年にリリースされた2枚組ライヴ盤『稲妻の夜〜ニルス・ライヴ!(原題:Night After Night)』は圧巻の仕上がりで、興奮度はかなり高い。機会があれば、このあたりも聴いてみてください。
TEXT:河崎直人