尖っちゃってるお囃子バンド? 望月
秀幸・望月左太寿郎インタビュー『お
囃子プロジェクトvol.15』

歌舞伎や日本舞踊などの舞台で活躍するお囃子演奏家の望月秀幸と望月左太寿郎が、邦楽囃子の魅力を多くの人に伝えたいという思いで2010年に始めた「お囃子プロジェクト」による15回目のライブが、2020年3月3日(火)、4日(水)にヤマハ銀座スタジオで開催される。
お囃子プロジェクトはこれまで年に2回くらいのペースで、毎回様々なゲストを迎えてライブを行っており、昭和歌謡やジャズ、ビートルズなど幅広いジャンルの楽曲をお囃子アレンジで演奏して好評を博している。昨年は、元旦に「新春眼福!花盛り~古典男子によるニッポン芸能今のカタチ~」、8月に「にっぽんの芸能~夏祭り!和楽器の名手大集合~」と、NHK Eテレに2回出演するなどその活躍の場を広げており、10年目に突入する今回はどのようなライブを見せてくれるのか期待が高まる。ライブに向けた今の心境を、秀幸と左太寿郎に聞いた。
このプロジェクトが古典邦楽への入り口になれたら
ーーまずは15回目を迎えるにあたり、今のお気持ちをお聞かせください。
秀幸:2019年の僕たちの大きな活動としては、NHKのEテレに2回出演しました。それから、国立劇場主催の、若手邦楽演奏家たちを取り上げた公演に出演しました。国立劇場始まって以来、初めてMCが入った公演になったそうです。
左太寿郎:プロレスの曲など、楽曲もちょっと突っ込んだものをやりました。今までの国立劇場主催公演とはだいぶ違った感じでやらせてもらえたかなと思っています。
秀幸:この公演の後、国立劇場の会議の場で「これからもこのようなあまり固くない企画など、いろいろチャレンジしていこう」という話が出たということを聞いて、すごく嬉しかったです。
左太寿郎:一石を投じることができたんじゃないかな、と。
秀幸:僕たちは邦楽囃子の演奏家なのですが、邦楽界全体が時代の流れもあって収縮してしまっています。以前はお稽古事で日本舞踊をする方が多かったのですが、それもだんだん少なくなってしまい、邦楽を取り上げる機会が減ってしまっているので、このプロジェクトが古典邦楽への入り口になって、面白さや魅力をいろんな人に知ってもらえたらと思っています。
左太寿郎:Eテレに出演したときは、「なんか面白いことやってるね」という意見をいただいたり、番組を見た人がお囃子プロジェクトにも足を運んでくださったり、メディアに出るとまた違ったアプローチができるのかな、と思いました。
(左から)望月左太寿郎、望月秀幸
今回はクイーンの楽曲に挑戦! その理由とは……
ーー今回の公演はどのような内容になりそうですか。
秀幸:今回はクイーンの曲をやってみようと思っています。というのは、チラシに「ビートルズやクイーンなどをお囃子でカバーするという特殊なアレンジで好評を博している」って書かれちゃったんです。これまでクイーンやったことないのに(笑)。だからやらなきゃ詐欺になっちゃうと思って。左太寿郎くんにはクイーンのコスプレをしてもらって……。
左太寿郎:いや、無理でしょ(笑)。
秀幸:ヒゲとかつけて、タンクトップ着て……着物の上からね(笑)。
左太寿郎:着物の下じゃみんなに見えないからね、タンクトップ。
ーーこれまで14回やってきて、何か感じることや変化などはありますか。
左太寿郎:最初の頃は、ゲストの方たちとの意思疎通が大変でした。邦楽以外のジャンルから様々なプレイヤーに来てもらっているので、使用言葉が全然違って苦労していた部分があったのですが、今はお互い言語がなくてもある程度わかり合える感覚になっているので、スムーズになりつつあるんじゃないかなと思いますね。
秀幸:僕たち、最初は五線譜が読めなかったんですよ。それで、ゲストの方には音源だけ渡してお願いしていました。例えば、三味線で「佃」という川の流れを表す音があるんですけど、それに併せて「Born to be wild」がミックスされていく、僕らの間では「佃 to be wild」と呼ばれている曲があって、それも譜面はないんです。ゲストの方に「Born to be wild」みたいなことできます? って言ったら「ああ、できます」って応えてくれた、という感じで。
ーー今回のゲストはどういう方々でしょうか。
左太寿郎:今回初めての人はいないですけど、一番出演回数が少ないのはパーカッションのジャイアン谷口さんかな。
秀幸:ジャイアンさんは非常にセンスがいいんです。僕が洋楽と出会うきっかけになった、パーカッショニストの仙波清彦さんの繋がりで知り合ったんですが、僕らがやりたい音楽性を一番理解しようとしてくれるんじゃないかな。仙波さんが仙波流という邦楽囃子の家元なので、ジャイアンさんもお囃子の譜面を読めるというところも大きいです。
左太寿郎:洋楽も邦楽もわかっているからこそ、両方を繋いでくれる存在ですね。
左太寿郎の小鼓。胴と革が別々になっており、これを組み立てる。
洋楽に触れることでこそ見えてくる邦楽の形
ーーお囃子プロジェクトのときは、他のお仕事の時と気持ち的に違う部分がありますか。
左太寿郎:普段の仕事は舞台でしゃべらないので、そこの部分はちょっと怖いなという思いもありますが、基本的にはそんなに変わらないですね。
秀幸:歌舞伎とかの仕事だとまだそんなに重い役には付かないので、お囃子プロジェクトでは曲のメインをやるという責任感と楽しさはあります。
ーー新たな発見だったり、普段のお仕事に返ってくるものもあったりしますか。
秀幸:それはすごくあります。やっぱり洋楽の人達って、僕らとは違うものをいっぱい持っているので、この音楽性を邦楽でも活かせないかな、と思ったりします。僕の個人的な意見ですが、諸先輩方を見ていても、洋楽的な感性を取り入れている方が活躍されていることが多いと思うんです。
左太寿郎:洋楽に触れることによって、今まではなんとなくやっていたところが面白く感じたり、ここの一音にすごい気持ちを込める、みたいなことが出てきたり、また違う角度や違う視点で邦楽を突き詰めていけるのかな、と思います。
秀幸:やっぱりチャレンジをしないとダメですね。去年、中村勘九郎さんと七之助さんの興行でスペインに行ったとき、『連獅子』の最後の方で「髪あらい」という三味線の演奏が入っているんですが、それを3コーラスくらいやって、2コーラス目の頭を三味線だけにして欲しいとか、ここで1回ブレイクして欲しいとか、洋楽的な発想に近い要望をされたんです。中村屋さんは勘三郎さんもそうでしたが、新しいことや海外のものを取り入れるなど、いろいろチャレンジされています。
左太寿郎:いわゆる「決まったこと」ではないことをしたい、という気持ちはありますね。
望月左太寿郎
ーーこれまでお客様からの反応で印象的だったものはありますか。
秀幸:絵を描くコーナーがあって、例えば「隈取りとヒールレスラーのペインティングの違い」とかを絵に描いて説明するんですが、意外とこれが好評でアンケートに「またやってください」って書かれました。
左太寿郎:あと、やっぱり「トークが長い」かな(笑)。
秀幸:僕がプロレス好きだと言い続けていたせいか、プロレス好きな方にも来ていただけるようになりました。昨年のテレビ出演のときに「マスターオブ着到」という曲を演奏したんですが、この曲はプロレスラーの田口隆祐選手の入場曲「MASTER OF DROPKICK」と、歌舞伎の開演30分前に舞台の裏で演奏される「着到」をミックスしたもので、放送後に田口選手が僕のツイッターアカウントをフォローしてくれたんです! 「MASTER OF DROPKICK」を演奏しているONE TRACK MINDというバンドの方たちからもメッセージをいただきました。作曲した方はもう亡くなられてしまったのですが、バンドメンバーたちが「俺たちの曲が伝統芸能の人たちにカバーされてテレビで流れたよ!」みたいな感じで喜んでくださって。
望月秀幸
ここでしか聴けないマニアックな演奏
ーーお囃子プロジェクトの今後の活動として、何か考えていることはありますか。
左太寿郎:まだ客層がどうしても身内に近い人だったりとか、元々お囃子を知っている人たちが多いので、それ以外の人たちにもアピールできるようにならないといけないかな、という気はします。
秀幸:和楽器バンド的なものは他にもいくつかありますが、僕らは結構尖ってるんです。お囃子を崩さないでマニアックにやっている、こんな尖っちゃってるお囃子に五線譜を対応させてコラボするというやり方は、他で見たことないです。すごいマニアな会なんですけど、それはここでしか聴けないものだと思います。
左太寿郎:だからこそ邦楽に直結するものなんですよね。僕らの場合はお囃子がメインなので、完成形が決まっていないというか、演奏ごとにまた違うお囃子を見ることが可能だと思うんです。
秀幸:お囃子プロジェクトとしては、こうした演奏活動以外も子ども教室とか少しずつ活動の幅も広がって来ています。これからも、様々な方が様々な形でお囃子に触れる機会を増やすような活動をしていきたいです。
(左から)望月左太寿郎、望月秀幸
取材・文・撮影=久田絢子

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