激動の00年代を駆け抜けたwacciの10
年間と新作『Empathy』

2010年代は、iPhone/スマートフォンの爆発的な普及を前夜に、SNSの発達やストリーミングサービスの登場など、情報のツールや人々の価値観が激動したディケイドだった。wacciは、そんな時代を音楽とともに駆け抜け結成10周年。ここに完成したアルバム『Empathy』は、そういった大きな変化と呼応しながら、ポップスとして一筋光る変わらない何かを追求し続けてきたバンドの最高到達点だと言える。“Empathy=共感”、すなわち伝えたいことがあるからこそ磨かれた今を捉えるセンスと、いにしえより継ぎ足されてきたポップスの普遍性を併せ持った言葉とメロディとサウンドが、あなたの生活をきっと豊かに彩ってくれることだろう。

何をやってもwacciらしい王道のポップ
スになる

――アルバム『Empathy』は、ポップスのノスタルジーや普遍的な要素を突き詰めながら、現代的なサウンドへのアプローチや、これまでやってこなかったジャンルへのチャレンジなど、音楽性の幅を大きく広げた、まさに結成から10年の集大成とも言える作品だと感じました。そこで、まずこの10年を振り返って今思うことをお聞かせいただけますか?

橋口 : ポップス・バンドとして、老若男女・多くの方々に聴いて歌ってもらえるような、シンプルな言葉とより良いメロディにとことんこだわって、何事からも逃げずに大切に1曲ずつ作ってきました。その結果、たどり着くことができたアルバムが今回の『Empathy』だと思います。

横山 : ただひたすらに、ポップスの王道を探し続けながらやってきて、近年は橋口の歌とメロディに僕らの演奏が乗れば、ちゃんと王道を貫くことができると思えるようになったんです。10年という月日があって、気持ちの懐が広がったからこその演奏やアレンジなど、チャレンジングな要素も入っている、今しか作れないアルバムになったと思います。

村中 : まさにこの10年間の”アルバム”という感じがします。そこには技術的な成長もありますし、”wacciらしさ”について考えたときにあえて出さなかったアイデアも、今回は詰め込まれてるんです。いろんな出来事や気持ちの変化を経て、”何をやってもwacciになる”と思えるようになったんだなあって。

小野 : ずっと必死だったように思います。デビューする前までは、ほかに仕事をしながら自分たちのペースでやってたことを、仕事として取り組むようになってからは、締め切りもあるし焦ることも増えたけど、それも含めて、音楽のことだけを考えられる環境にいたことには、ほんとうに感謝してます。

因幡 : あっという間の10年だと思ってたんですけど、これまでの活動を写真とともに振り返る機会があって、あらためて目で追ってみると、けっこう長かったのかもしれないなって。ずっとその場その場でやるべきことをこなしてきたつもりだったんですけど、時代の変化とか、そういうことにも結果的にうまく順応できていて、今回のアルバムにも繋がっているようにも思います。

――wacciが結成された2009年は、twitterがいよいよ本格的に定着してきたり、iPhoneも発売から約2年が経ち、みんなが持つようになったりした頃。そこから10年、人々の情報の取り方も、価値観も、激動した時代を跨いでこられました。その流れのなかで、ポップソングのありかたも変わってきたことを、みなさんはどう捉えていますか?

橋口 : 10年前のwacciが今スタートしたら、と考えるとたぶん無理だろうな……。僕らがバンドを始めた頃に思い描いていたサクセスストーリーはもう通用しないと思います。そもそも音楽の届け方がぜんぜん違うじゃないですか。誰もが多くの情報にアクセスできるようになったことで、僕らみたいな王道のポップではなく、もうちょっとルーツミュージックよりなものや、オルタナティブな感じなものも、受け皿は大きくなってると思うんです。

村中 : SuchmosNulbarichのヒットは、もちろん彼らに力があることが大前提なので、簡単に括るのは失礼かもしれないけど、そういう時代性が作用した部分も大きかったように思います。

小野 : 僕らがバンドを始めた頃は、”メインカルチャー”といものがもっとはっきりあって、そこで流行ったものが”ヒットソング”だったと思うんです。でも、菊池成孔さんが「これからはザ・ビートルズやレッド・ツェッペリンのような、誰もが同時に味わったような衝撃は現れない」といったことをおっしゃってたじゃないですか。それはそうだなって。情報や価値観が多様化して、当時の”メイン”に対してのサブカルチャーがどんどん枝分かれして、それぞれの数もふえてきて、どこからがサブでどこからがメインかわからなくなってきたような感覚はありますね。

――そして、結成時のwacciのいう”ポップスの王道”はどうなっていったのでしょうか。

小野 : だから、音楽における「ポップス」「王道」とは何なのか、わからなくなってきました。ですが、言葉とメロディという軸に伝えようとしている限りは、wacciはポップスバンドを名乗っていいのかなって、思います。

橋口 : 歌詞はわかりやすいけどサウンドは攻めてるとか、サウンドやメロディはかつての”王道”を継承しながらも、歌詞は誰にも書けない強さがあるとか。これからは、そういう攻めの個性を世の中に語り掛けられるかが重要なんじゃないかと。Official髭男dismも、back numberも、星野源さんも、そうだと思うんです。

――wacciの攻めはどこにあるのでしょう。

橋口 : 「別の人の彼女になったよ」を出したことは転機だったように思います。あの曲は歌詞ですごく攻めた部分があって、今までよりもかなり多くの方々に届きました。それを踏まえて、2020年はどうしていこうかぼんやりと考えつつ、みんなの言うように”何をやってもwacci”になるということに自信は持ててるんで、自分たちのなかから自然と出てくるものを大切にしたいと思っています。

アルバム『Empathy』の変わらない魅力
と新たなチャレンジ

――アルバムタイトルの『Empathy』=共感は、何を意味するのですか?

橋口 : 多くの人々には、それぞれ”大切な1曲”があると思うんです。僕らは、誰かにとってのテーマソングとして鳴り響く曲を作りたい。そこはずっと変わらず持ち続けている気持ちです。そのなかで、ときに誰かが何かに踏み出せるように背中を押し、ときに失恋に寄り添い、ときに都会の孤独と向き合う。特別どっかの世界に連れて行ってあげようとか、そういう歌じゃなくて、ふつうに生きていて感じることにフォーカスしてきました。みんな一人で生きてるけど一人じゃないって思えるような曲。だから”Sympathy”よりもポジティブな要素の強い、”Empathy”という言葉を選んだんです。

――橋口さん個人が曲に共感するポイントはどこですか?

橋口 : 僕は情景描写に共感することがよくあるんです。なかでも槇原敬之さんが特に好きで。例えば「冬のコインランドリー」って、タイトルからすごく狭い情景を描いて、”ガラス越しに映る互いになら 素直な気持ちになって 何でも話せるから”とか、「てっぺんまでもうすぐ」の、”帰りの電車君の肩に まわしそびれた手でずっと てすりを持っていたことを思い出す”とか。聴き手にそういう経験がなくても伝わってくるじゃないですか。

――まるで経験があるかのように、切なくなりますね。

村中 : 今回のアルバムだと「足りない」はそういう曲かも。僕は結構ポジティブだと自分では思っていたんですけど、失恋してドロドロな気持ちになったことがあったんです。「俺に向いてた元カノの笑顔は、いまはほかの人に向いてるんだろうな」って。自分でも予想外の気持ちが渦巻いたあのときと、状況はまた違うけどシンクロしましたね。

――「足りない」は歌詞の情景描写とサウンドスケープとグルーヴがマッチしていて、すごく浸透度の高いポップソングだと思いました。

橋口 : そうなんです。こいつ(村中)がアレンジしたんですよ。

――だから、ご自身で挙げたんですね(笑)

村中 : 違いま……なきにしもあらずかな?(笑)

――「Baton」のミュージック・ビデオもすごく共感できたというか、もはやあれはズルい!

村中 : 「Baton」はあのビデオのBGMですから(笑)

――ビデオの構想はみなさんで練ったんですか?

橋口 : 監督さんにいくつか案を出したなかで、父と娘の距離をテーマにしたあの案が採用になりました。キャスティングも抜群で、優しいけど不器用なお父さんと、素直になれない娘が、実はちゃんと引き合ってる感じが出ていますよね。

――父が手作りしたおにぎりを手渡されたときは拒みつつ、父のいないところで食べるシーン。「だめ、泣くから食べないで!」って思いながら泣いちゃいました。

因幡 : わかります。何回観ても泣いちゃうポイントがありますよね。

――「どうかしている」はこれまでにない強さのある歌詞で、すごく興味深かったです。”与えられてもいない選択肢を 選ぶ勇気を誰かください”は、これぞパンチライン。

橋口 : 小野に「攻めた感じにしてほしい」ってアレンジをお願いしたら、想像以上に攻撃的なアレンジだったことに刺激されて、歌詞を書き変えたんです。

小野 : 言葉数の多いニコニコ動画とかのイメージがあって、そこに、ヘヴィーメタルやハードロック~フュージョン系に傾倒していた楽器小僧の僕が考える人力アレンジを掛け合わせたら、すごくおもしろい曲になったんで橋口に戻してみたら、歌詞が変わっていって。

橋口 : この曲の歌詞は、僕としてはかなりめずらしく“怒り”をテーマに書いたんです。実は高校時代にいじめられていて。よくある相談窓口に電話しても、いじめをテーマにしたテレビの番組とかを観ても、けっきょく最後は”逃げろ”と結論づけられることに、ずっと違和感があったんです。「自分で選んで入った学校なのに、どこに逃げるんだよ」って。でも逃げろじゃなくて、ここじゃない場所に自ら行くんだって、そういう感覚ならわかる。自分が実際に経験して思ったことだからこそ、答えはなくても寄り添うことはできるんじゃないかと思って、書きました。

――”与えられてもいない選択肢を選ぶ勇気”って、いじめと向き合うこととは違いますけど、音楽家になることや夢を追いかけることもそうだと取れると思うんです。

橋口 : すごく嫌なことがあっても、ほんとうにやりたいことが見つかっても、今いる道からそれることって勇気がいりますよね。そういう状況に置かれている人たちにも、何か感じてもらえたら嬉しいです。

――音楽的な初の試みとなると「今日の君へ」。またどうして青春パンク路線に振り切ったのか。

橋口 : レコーディング中、いちばんワイワイやってた曲です。

村中 : 最初はバラードだったんですけど、僕らはHi-Standardを筆頭に、メロコア全盛期の青春時代を過ごしたんで、こういう曲があってもいいだろうって。スタジオが部室みたいになりました。

横山 : BPM206の8ビートとか、初めての体験で、プリプロに入る前は半信半疑だったんですけど、やってみたらめちゃくちゃ楽しくて。こういう大味なパンクソングもありだなって。だからほとんどアレンジらしいアレンジをしてないんです。衝動的に思いっきり演奏して、一応って感じで2テイク目を録って終わった、バンドらしさの詰まった曲だと思います。

――「ピント」のリラクシンなグルーヴとサウンドスケープも、すごく新鮮でした。

横山 : この曲は因幡らしい音作りのセンスが活きた曲。演奏を録ってる時間より、音をイメージに近づけていく時間のほうが長かったんです。

因幡 : 00年代初めに、ジャック・ジョンソンとかドノヴァン・フランケンレイターとか、サーフ系の音楽がめちゃくちゃ流行ったじゃないですか。僕もすごく好きで、今でもよく聴くんです。でもこういう曲って、キーボードはあまりいらないように感じていて。キーボーディストがキーボードを目立たないようにアレンジした曲ですね。全体的にも、wacchiは音数が多くなりがちなんですけど、これは決め打ちでシンプルにしたことも、大きかったんじゃないかと思います。聴いた人からするとよくある感じかもしれないですけど、僕らのなかでは新しいチャレンジでした。

――やはり、“何をやってもwacciになる”自信が芽生えたからこその、自由度が高くなったポップスアルバムだと、こうして話を聞いたことでさらに納得できました。

因幡 : 橋口の歌詞とメロディさえあれば、サウンドではいろんなことができるし、それがwacciなんだって、ほんとうにそういう作品になったと思います。

村中 : ビートメイカーがいて僕らは演奏しないとか、そういう曲があってもいいと思うんです。

因幡 : 楽しそうなことは、変に自分たちで”らしさ”を決めないで、どんどんやっていきたいですね。

――先のライブはどうなっていくのでしょう。

橋口 : まずは変わらず歌をちゃんと響かせること。そのなかで、チャレンジングなこともしつつ、エンターテインメント性も高めて盛り上げるところは盛り上げる。とかくアップデートしたライブを届けたいです。

リリース情報

wacci
『Empathy』

(通常盤)
¥3,100(税込)

◆CD収録曲
M-1 Baton  
M-2 坂道  
M-3 東京ドリーム  
M-4 足りない
M-5 三日月  
M-6 太陽みたいに  
M-7 どうかしている
M-8 結  
M-9 ピント  
M-10 元カノの誕生日  
M-11 ここにいる
M-12 今日の君へ  
M-13 Buddy
bonus track 別の人の彼女になったよ


wacci
New Single「フレンズ」
2020年3月4日(水)リリース

(CD収録曲)
M1.フレンズ
M2.タイトル未定
M3.大丈夫-LIVE version-
M4.フレンズ-TV size-※期間生産限定盤CDのみ収録

(期間生産限定盤)
ESCL-5356~57
¥2,000(税込)

・アニメ絵柄描き下ろしジャケット
・トールケースデジパック仕様
・特典DVD(「フレンズ」Music Video、アニメ「うちタマ?!」のノンクレジットオープニング映像収録)

(初回生産限定盤)
ESCL-5353~54
¥1,600(税込)

・特典DVD(「フレンズ」Music Video収録)

(通常盤)
ESCL-5355
¥1,300(税込)

【TVアニメ『うちタマ?! ~うちのタマ知りませんか?~』公式サイト】
https://uchitama.com/
【ライブ情報】
2019年10月から、2年連続2度目となる47都道府県ツアー『wacci 47都道府県ツアー 2019-20 〜Empathy〜』を開催中!
詳しくはツアー特設サイトをチェック!
https://wacci.jp/94/


■ wacci 公式サイト
https://wacci.jp/
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激動の00年代を駆け抜けたwacciの10年間と新作『Empathy』はミーティア(MEETIA)で公開された投稿です。

ミーティア

「Music meets City Culture.」を合言葉に、街(シティ)で起こるあんなことやこんなことを切り取るWEBマガジン。シティカルチャーの住人であるミーティア編集部が「そこに音楽があるならば」な目線でオリジナル記事を毎日発信中。さらに「音楽」をテーマに個性豊かな漫画家による作品も連載中。

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