草彅剛が舞い踊り、華麗に独裁者へと
のし上がる 音楽劇『アルトゥロ・ウ
イの興隆』いよいよ開幕

2020年1月11日(土)、草彅剛主演の音楽劇『アルトゥロ・ウイの興隆』がKAAT 神奈川芸術劇場で幕を開ける。本作は『三文オペラ』をはじめとする数々の戯曲を残した、ドイツ演劇の巨匠ベルトルト・ブレヒトによる問題作。アドルフ・ヒトラーとほぼ同時代を生きたブレヒトが、ヒトラーが独裁者へと上り詰める姿をシカゴのギャングに置き換えて描いた作品だ。
20世紀に生まれたこの大作を、KAAT 神奈川芸術劇場の芸術監督を務める白井晃が、草彅剛を主演に迎え、21世紀に新演出で蘇らせる。白井と草彅のタッグは2018年の舞台『バリーターク』以来2度目となる。初日を目前にした1月10日(金)、囲み取材と公開舞台稽古が開催された。
【あらすじ】
シカゴギャング団のボス、アルトゥロ・ウイは、政治家ドッグズバローと野菜トラストとの不正取引に関する情報を掴んだ。それにつけこみ強請るウイ。それをきっかけに勢力を拡大し、次第に人々が恐れる存在へとのし上がります。見る見るうちに勢いを増していくウイを、果たして抑えることが出来るのだろうか・・・。

本公演は2幕で構成されているが、報道陣向けの舞台稽古では1幕(約1時間25分)のみが公開された。ドイツ演劇の巨匠によるヒトラーを題材とした戯曲と聞くと、念入りに予習し覚悟して臨むべき作品だと思うかもしれない。ところが、白井の演出はその予想を良い意味で裏切ってくれた。本作はショー要素が非常に高く、華やかなエンターテインメント作品に仕上っていたのだ。
赤を貴重としたド派手なステージ中央に、これまた赤い衣装を身にまとったバンドメンバーが静かにスタンバイをする。演奏を務めるのは「1968〜72年のFUNKサウンド」をコンセプトに世界で活躍するオーサカ=モノレール。バンドヴォーカル・中田亮による関西弁の前説が始まると、いよいよアルトゥロ・ウイの登場だ。
勢いよく袖から登場したウイは、真っ赤なスーツにギラギラと光るマントをたなびかせ、舞台上を所狭しと踊り、駆け回る。同時に「Get up !」という掛け声とリズムが特徴的なジェームス・ブラウンの名曲『Get Up Sex Machine』が鳴り響く。草彅演じるウイが全身で叫ぶように歌い上げると、劇場内は瞬く間に高揚感に包まれた。圧倒的なカリスマ性を感じさせる。
ジェームス・ブラウンを中心とした楽曲は、劇中の重要なシーンや場面転換時に演奏される。演出の白井によると「ヒトラーがワーグナーの曲を人々の気持ちを盛り上げるために利用したように、今回はジェームス・ブラウンの曲を盛り込んだ」そうだ。
刺激的なパフォーマンスで会場を魅了する草彅だが、芝居では役者としての本領を発揮。政治家のドッグズバローが裏で不正取引をしているという情報を掴んだウイが、のし上がるために彼を丸め込む場面は迫真の演技だ。ウイは言葉巧みにまくし立てたかと思うと、泣きついて土下座し、そして恐喝する。古谷一行演じるドッグズバローの渋みのある演技も見どころだ。
1幕後半、ヒトラーが役者に所作を習ったように、民衆を惹き付けるためにウイが立ち居振る舞いを役者に習うという場面がある。ここで役者を演じるのは文学座の小林勝也。長年の経験が醸し出す、独特の存在感が際立っていた。
華やかにショーアップされた歌唱シーンと、ベテラン役者陣が揃った説得力のある芝居のシーンが巧みに融合し、全く新しい音楽劇が誕生したと言えるだろう。
公開舞台稽古直前に開催された囲み取材には、主演の草彅と演出の白井が登壇した。
本作の見どころについて草彅は「先程(舞台が)全部繋がったので、最後まで辿り着けるかどうか……。ちゃんとできたら褒めてください(笑)。でも、ちゃんとできたらすごいエンターテインメント性の高い、ものすごい良い作品になるんじゃないかなあ。あとは僕がちゃんとやればいいんだなあって(笑)。白井さんが演出してくださっているので、見どころは全てだと思います」と笑いを交えて回答。
草彅剛

対して白井は「草彅さんにヒトラーを模したギャング団のボスの役をやっていただけるということが、まずひとつの大きな見どころだと思います。私がお願いしていることに対して正面からぶつかって、どんどん役になりきっていただいています。初日を迎えるとますます盛り上がっていくんじゃないかな」と草彅演じるアルトゥロ・ウイ役に期待を寄せた。続けて草彅演じる役のキャラクターについて「すごくチャーミングで人を惹き付ける力が必要な独裁者。草彅さんはそれに即した、人の気持ちを引き寄せるチャーミングな面をお持ちなので、この役どころに合っているんじゃないかな、と。そんな草彅さんが恐ろしいギャング団のボスになっていくというところが僕としては一番見たかった部分でもありますし、そこを体現していただけて嬉しいです」と笑みを浮かべながら述べた。
(左から)白井晃、草彅剛
草彅は、自身の演じるギャング団のボスという役どころについて「ブレヒトさんという劇作家の方が書かれた戯曲なんですが、そんなに遠い感情じゃなくて身近な感情がたくさんあります。なので共感していただけるところもあるのかなと思っています」と実感を込めて語った。さらに、「でも僕は日頃怒ったりしないんですけどねえ。だから、正直お芝居って疲れますよね。泣きたくないのに泣いたりとか。でも仕事なので、自分の気持ちを起こして毎日努力しています。あと、チケットが売れているのでちゃんとやらなきゃダメだなって(笑)」と飾らない語り口で報道陣を和ませた。
(左から)白井晃、草彅剛
最後は白井と草彅それぞれから観客に向けてのメッセージで囲み取材は締めくくられた。
白井「世の中にちょっと危ない空気がある中で、この作品は時代を映す鏡としてとても意味のある作品だと思います。それを草彅さんという稀有な才能の方にやっていただけることを非常に嬉しく思います」
草彅「膨大なセリフ量で正直まだ覚えていないんですけど、明日まで時間があるので何とかなるんじゃないかと。白井さんとまたタッグを組み、今までにないような草彅剛が見れると思います。白井さんの演出も斬新でとても痺れる感じになっていますので、ぜひお越しください」。
(左から)白井晃、草彅剛
本公演は2月2日(日)までKAAT 神奈川芸術劇場で上演される予定だ。囲み取材で「僕らにしかできない作品」とも草彅が語った舞台『アルトゥロ・ウイの興隆』を、ぜひその目で観て体感してほしい。
取材・文・写真 = 松村蘭(らんねえ)

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