ストレイテナーが白地図に描き出す新
たな世界 『Drawing a Map TOUR』追
加公演をレポート

Drawing a Map TOUR 2019.12.19 新木場STUDIO COAST
オープニングSEとして「STNR Rock and Roll」が流れるや否や、一斉に巻き起こるクラップ。次々にメンバーが登場してきて、ホリエアツシ(Vo/Gt/Key)は両手でガッツポーズを作りながら位置につく。そこから120分間で全24曲。次々と繰り出される楽曲たちが、ライブのピークを更新し続ける時間となった。
ストレイテナーのツアー『Drawing a Map TOUR』、そのフィナーレを飾る12月19日の新木場コースト公演。ミニアルバム『Blank Map』のリリースツアーにあたる今ツアーにおいて、この日は後から発表された追加公演という位置付けであり、正真正銘のファイナル。同会場での前日のライブからは、案の定セットリストを大幅に組み替えてきた。「これぞテナー」という姿勢に、2日目しか観られなかった僕も大満足だったし、1日目のみを観た方もきっとそうだろう。2日とも観たあなたはもう大正解だ。
ストレイテナー 撮影=AZUSA TAKADA
「東京ファイナル、最後までよろしくお願いします」
20周年記念にして21年目の幕開けを祝した幕張イベントホールでのワンマンから活動を開始した今年のテナー。その幕張のために生まれ、幕張で初披露されて以降は夏フェス等でも大切に歌われてきた「スパイラル」からライブは始まった。爽やかで優しい曲調だが、日向秀和のベースを中心に低音のドライヴ感がこれまでに増して感じられ、激しさはなくとも力強い立ち上がりだ。そこから大山純が奏でるギターのクリーンな音色に導かれて「Sunny Suicide」、さらには「クラッシュ」と畳み掛ける。迫力満点のイントロから繊細なアルペジオ、四人一丸となってサビでの開放感、渾身のアウトロに至るまで、たった3〜4分間の間に彼らのあらゆる魅力が詰まりまくっている。
『Blank Map』収録の「青写真」は、幻想的でスローな立ち上がりから、淡々と刻まれる8ビートへ、そして激烈なサビへと向かっていく、エモーショナルなナンバー。ナカヤマシンペイ(Dr)がものすごい勢いでスネアをひっ叩いている。こりゃあまた強力なライブチューンが生まれてしまった。ドラム→ベース→ギター→ボーカルと音が増えるたびにそれぞれにピンスポットが当たっていく演出がなんともニクかった「VANDALISM」は、硬質でタフ、マッシヴな音と一糸乱れずストップ&ゴーを繰り返す演奏が圧巻。間奏で思いっきり拳を握る——というより空中をぶん殴るようなジェスチャーをみせたホリエは明らかに昂ぶっている様子で、その熱はフロアにも伝播し、コーストの気温とボルテージは上昇の一途を辿っていく。
ストレイテナー 撮影=AZUSA TAKADA
前半からものすごく飛ばすなぁと思っていたら、まだまだこんなものではなかった。「もっと熱くなろうぜ、新木場! 今夜だけの古のロックチューンをお送りします」とホリエが告げ、大山のハーモニカから始まったのはなんと、2ビートで疾走するファスト&ショートなインディ期の曲「YES,SIR」! キメの「YES,SIR!!」の掛け声が会場を揺るがす。ほぼ全編にわたって日向のスラップベースを堪能できる、ヒップホップライクな「BLACK DYED」から、早くも完全燃焼を強いるかのように前半から投下された「シンデレラソング」。アッパーな上に断続的にキーの高い曲だが、突き抜けるように張りのある声を飛ばすホリエ、前日もたっぷりライブをした(その後レモンサワーもほどほど嗜んだそう)人とは到底思えない。と、ここまでが前半戦。既に結構な文量を割いてしまったが、仕方ない。見所しかないんだから。
ストレイテナー 撮影=AZUSA TAKADA
ここで、テナーのワンマンの裏名物である先ほどまでが嘘のような緩MCタイム。なお最近ではナカヤマが主体となってYouTubeチャンネルを開設しており、日常的にその一端を垣間見れるようになったので、是非どうぞ(宣伝)。
「追加公演なんで忘年会だと思って、自由にかしこまらずに楽しんでいってください」とホリエが告げ、『Blank Map』のリード曲「吉祥寺」でライブを折り返す。肩の力が抜けた演奏で、温かみとクールさ、ノスタルジーと新しさといった一件相反する要素をしっかりと表現したかと思えば、もう一つの新曲「Jam and Milk」は徹底的にグルーヴィーに。ホリエが鍵盤を弾き、大山がスペーシーなエフェクトをかけたギターを鳴らしてナカヤマは小刻みにシンバルを刻む。日向はタメの効いたベースラインでノリをコントロールしている。鳴っている音数自体は絞られているのに、こちらの身体を揺らしていく効果は抜群だ。
ストレイテナー 撮影=AZUSA TAKADA
「まだ旅の途中。新しい自分だけの地図を描く旅『Drawing a Map TOUR』へようこそ」
この日初めて披露されたバラードよりの楽曲は「覚星」だった。<千切れた地図の欠片を 集めて世界を作ろう まだ境界はなく 君の自由に描いていい><探しに行こう 惑いは捨ててしまおう>——。『Blank Map』の収録曲ではないが、アルバムとこのツアーで彼らが提示するメッセージと通底する言葉が並ぶ曲。『Blank Map』はテナーの現在地の指標であると同時に、過去の曲たちとも共鳴して呼び起こすことで、彼らの不変の魅力をも浮かび上がらせている。
ストレイテナー 撮影=AZUSA TAKADA
スローテンポをもう一曲、この季節にぴったりの「灯り」を演奏し終えると、それ以降はラストへ向けて猛烈なスパートが始まった。手始めにこれまたかなりレアな「BIRTHDAY」でライブを再加速。ここでもホリエは激しく拳を振り、「DAY TO DAY」では<歌われることのない 思いを音にして鳴らすんだよ>のところで、自らのギターを何度も指し示した。そして「最後のブロック、みんなが俺たちを突き動かしてください」と呼びかけると「冬の太陽」「羊の群れは丘を登る」へと繋ぐ。バンドの放つ熱を客席が増幅して返し、さらなる名演を呼び込む。この日は前半からそんなシーンの連続であったが、ここへ来てまだまだ最高到達点を塗り替えていくようだ。「一緒に歌おうぜ」と始まった「Melodic Storm」では大音声のコールが轟き、近作ではダントツでパンキッシュなメロディックチューン「Last Stargazer」を最後にぶっ放せば、前の方はもうえらい騒ぎに。怒涛の展開で走り抜けていった。
アンコールには「彩雲」、そして「ROCKSTEADY」と、世に出た時期こそ違えど彼らを象徴的する名曲が並んだ。場内は総ジャンプ状態で大合唱が起きる歓喜のフィニッシュ。メンバーがステージを去って客電が点き、終演のアナウンスが入ってもなおダブルアンコールを求める拍手がしばらく続いた事実が、この日のライブがどんなものだったかを如実に示していた。
ストレイテナー 撮影=AZUSA TAKADA
活動初期から中期にかけての、ある意味こちら側を突き放すようにストイックなパフォーマンスで、感情を内側へと爆発させていたライブから、ここ数年は聴き手と響きあい、時間を共有するようなライブを行なうようになったストレイテナー。それに伴って語る言葉や振る舞い、生まれる曲も徐々に変わってきたと思う。この日はそんな彼らの変化と目指すライブ像が、これまでで最も伝わった、肌で感じられたライブだった。やっている曲は新旧さまざまだし、思わず息を呑むくらいにキメるところはキメるけれど、ホリエが何度も見せた、敢えて感情の昂りをこちらに示すようなアクションが物語るように、ステージの上と下を絶えず興奮や感動が行ったり来たりして、自然と一体になれていた120分。これがストレイテナーの現在地だ。
ストレイテナー 撮影=AZUSA TAKADA
たまたまかもしれないが、メジャーデビュー後すぐの『ROCK END ROLL』を除けば、当時新機軸を打ち出したアルバム『LINEAR』とよりオルタナ/インディロック色を強めた『Nexas』の間にミニアルバム『Immortal』が、『Nexas』以降に志向してきた音楽性の到達点『STRAIGHTENER』と現在へと続く流れの始点ともいえる『Behind The Scene』の間には『Resplendent』が。テナーのミニアルバムはバンドの転機となったタイミングで世に出ている。「ミニアルバムだとある程度の気楽さで制約を設けずに作れる」とホリエが話してくれたことがあるが、つまりそのおかげで生まれたプロトタイプのような曲が、後の音楽性への道標になってきたということでもあるだろう。
さあ、果たして『Blank Map』後の彼らはどうなるのか。白紙の地図に描かれていく新世界を心待ちにしている。

取材・文=風間大洋 撮影=AZUSA TAKADA
ストレイテナー 撮影=AZUSA TAKADA

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