創立50周年を迎える関西フィルハーモ
ニー管弦楽団、3人のマエストロと事
務局に聞く

コンサートホールに足を運んでくれる聴衆をいかに増やすか?
世界中のオーケストラが生き残りをかけて、様々な課題に取り組んでいる。
キーワードは”集客力”。
大阪に本拠地を置く大阪4オーケストラの中に在って、定期演奏会の客席などを見ていても、安定した集客を有しているのが関西フィルハーモニー管弦楽団だ。
今年の定期演奏会では何度かキャンセル待ちを受け付けるなど、集客は好調のように思われる。
2020年に創立50周年を迎える関西フィルハーモニー管弦楽団が、楽団にタイトルを持つ3人の個性の違う指揮者と共に、記者発表会を開催した。
創立50周年の記者発表会にはメディアがいっぱい。 写真提供:関西フィルハーモニー管弦楽団
発表会冒頭、楽団専務理事の濱橋元より関西フィル50年の歴史が紹介された後、以下のような挨拶があった。
専務理事 濱橋元 : オーケストラが生き残っていくのは大変な時代だと思います。関西フィルはこれまでの歴史を踏まえた上で、関西から世界へ挑戦するオーケストラとして、50周年を新たなスタートと捉え、未来にわたり社会に貢献し続けられるよう努力をしてまいります。
ここで改めて関西フィルの特徴を確認させて頂きます。
(1)他所のオーケストラに負けない音楽に対する愛情とエネルギー。
(2)お客様との一体感。
(3)関西の隅々まで出かけて行き、地元の人と交流を持つ、フットワークの軽さと親しみやすさ。
(4)タイプも年齢もキャリアも違う個性的な指揮者陣。 
今回、~こころ奏でて50年 響け世界に、とどけ未来へ~ というキャッチフレーズを決めました。そして、50周年事業の締め括りとして、2021年にヨーロッパ公演を行います。これは、旅行などではなく、出演料を頂く仕事です。これが出来るのは、デュメイ監督のおかげ。今後は、日本だけではなく、成長著しいアジアを視野に入れて仕事をして行くつもりです。もちろん、関西で育ててもらったオーケストラですから、関西になくてはならないオ―ケストラであり続けたいと思っています。これからの50年、この二つの軸を持ってやって行こうと思っています。
現在、15社ほどある楽団の理事会社に助けてもらっています。関西の経済は地盤沈下していると言われますが、そんなことはまったく無いと感じています。関西企業の層の厚さ、奥行きの深さ、ネットワーク・きずなの強さ、そのお陰で関西フィルは何度も助けられました。
1970年の万博の年に出来た関西フィルは、2度目の大阪万博が行われる2025年まで一直線でやって行きます。
関西フィルは、関西から世界へ挑戦するオーケストラを目指します! (C)s.yamamoto
関西フィルは現在、音楽監督のオーギュスタン・デュメイ、首席指揮者の藤岡幸夫、桂冠名誉指揮者の飯守泰次郎という3名の指揮者を擁立しているが、会見には全員が顔を揃える華やかなものになった。
各指揮者のメッセージは以下をご覧頂きたい。
音楽監督 オーギュスタン・デュメイ : 関西フィルとの関係は10年に及びます。この間、関西フィルハーモニー管弦楽団の楽団員は、素晴らしい適応力で、私のリクエストにも、他の指揮者のリクエストにも応えて来ました。その成長ぶりは素晴らしく、一度目のヨーロッパツアーの演奏や、ブラームス/ベートーヴェンのCDを発表した時には、欧米のジャーナリストの評価は相当高かったです。
音楽監督 オーギュスタン・デュメイ (c)H.isojima
私達は、これまで小グループの室内楽のコンサートを頻繁に催してきました。そういった機会が有ったからこそ、弦楽器の全パートのリーダー達と念入りに意識を集中させ、スタイルの共有を計る事で、私達の特別な音を作る事が出来たのだと思います。
50周年事業の最後となる2021年には、二度目のヨーロッパツアーを行いますが、一度目と同様に実り多きものとなる事でしょう。
来年度のラインナップには、50周年を記念したプログラムが目白押しです。ベートーヴェン生誕250年の記念の年に相応しく、フランク・ブラレイと宮田大でトリプルコンチェルトを演奏しますし、マクシム・エメリャニチェフとマエストロ藤岡のタクトでブラームスとメンデルスゾーンのコンチェルトを演奏致します。また、いずみホールやフェニックスホールでも名曲の数々をたっぷりとお楽しみ頂きます。どうぞご期待ください。
50周年を迎える関西フィルをよろしくお願いします! (c)s.yamamoto
首席指揮者 藤岡幸夫 : 定期演奏会では新しい音楽、新しいレパートリーを紹介するのが僕の仕事だと思っています。これまでマーラーやショスタコーヴィチ、シベリウスがブームになったように、今後、英国音楽が取り上げられる機会が増えると思います。それは、英国音楽は調性音楽で、旋律をしっかり守って来たからです。現代音楽は聴衆を選ぶ音楽だと思うのです。それでは多くの人に聴いてもらうのは無理。今後も、調性が有ってメロディがある音楽がオーケストラの新しいレパートリーになって行くはず。
首席指揮者 藤岡幸夫 (c)H.isojima
実は、映画やドラマの音楽を作曲している人の中にも、そんな才能のある作曲家はたくさんいます。これまでに取り上げて来た菅野祐悟さんや林そよかさん等もそうです。菅野祐悟さんにはこれまで2曲の交響曲を書いてもらい、定期演奏会の後半で紹介して来ましたが、どちらもチケットは完売御礼。共に評判は良かったです。林そよかさんは、来年2月の「バレンタインコンサート」でピアノ協奏曲第1番が世界初演されます。ピアニストは、パナソニックの役員でもあるジャズピアニストの小川理子さん。コチラもチケットは順調です。このように、若い音楽家にチャンスを与える事が大切です。そして、新しい音楽は、過去の名作と並べて演奏してこそ価値がある。過去の名作を聴きに来たお客様のハートをキャッチ出来るかがポイントです。
僕の使命は、1枚でも多くのチケットを売る事だと思っています。その事を、毎日真剣に考えています。現在放送開始6年目のBSテレ東「エンター・ザ・ミュージック」も好調で、関西フィルの名前も随分認知されたのではないでしょうか。
僕には、定期演奏会も売り公演も、地方公演も分け隔てはありません。藤岡の指揮するコンサートは楽しいと思って頂きたいし、すべての公演を満杯にするためSNSで宣伝します!
僕の使命は1枚でも沢山のチケットを売ることです! (c)s.yamamoto
最後に来年度のラインナップの中から、自分が指揮する曲について触れます。
4月の第309回定期は、デュメイ監督との共演で、人気のメンデルスゾーンのコンチェルト。そして、英国音楽エルガーの交響曲第1番です。
5月は、ご存じ吉松隆さんの曲と、津山国際総合音楽祭で関西フィルと演奏した時に好評を博した、マーラー交響曲第6番「悲劇的」です。
そして7月は、コンサートマスター岩谷祐之さんのヴァイオリンで、シベリウスのコンチェルトと、貴志康一の交響曲「仏陀」。1984年に関西フィルが日本初演した大作を復活演奏致します。その他にも楽しいコンサートばかりです。ご期待ください!
桂冠名誉指揮者 飯守泰次郎 : 初めて関西フィルと共演したのは1990年。クラリネットのザビーネ・マイヤーとのコンチェルトでした。それから30年もの間、共に歩み、関西フィルはオーケストラとして発展しました。数多くの曲を演奏して来ましたが、長期に渡るプロジェクト、集中した中身の濃いプロジェクトをやって来ました。
2000年から2年がかりで行ったベートーヴェン 交響曲・協奏曲・序曲チクルスは、「ミサ・ソレムニス」や歌劇「フィデリオ」演奏会形式も含めた徹底したプロジェクトで、最新のベーレンライター版やヘンレ版などを試すなど、意義深いものでした。
桂冠名誉指揮者 飯守泰次郎 (c)H.isojima
演奏会形式のオペラ演奏は、13ものオペラを取り上げてきましたし、現在進行中のブルックナー交響曲チクルスは、前回の交響曲9番で終わるのではなく、初期の交響曲0番、00番も取り上げる妥協無きプロジェクト。ブルックナーはワーグナーを尊敬していたので、作品の傾向こそ違え、オーケストラの響きや楽器の使い方、転調の仕方など、共通する部分があります。ブルックナーのチクルスを積み重ねる事は、ワーグナーの響き、表現を追求する上でも影響を与えてくれました。
このような経験も踏まえ、関西フィルは立派なワーグナーオーケストラに成長したと言えます。
ワーグナー 楽劇「トリスタンとイゾルデ」演奏会形式(2016年7月) (C)s.yamamoto
そんな中で迎える第58回大阪国際フェスティバルで開催する、楽劇「ニーベルングの指環」ハイライト(演奏会形式)は、全4部作から代表的な曲を集めて行う3時間に及ぶ演奏会。今日、最も有名なワーグナー歌手の一人、ソプラノのペトラ・ラングをはじめ、素晴らしいワーグナー歌手が集結しました。そもそも、大阪国際フェスティバルは、1967年に世界で初めてバイロイト音楽祭の引っ越し公演を実現した、日本のワーグナー演奏の歴史そのものであり、フェスティバルホールはワーグナー演奏の殿堂です。そこで行われる演奏会は、ワグネリアン垂涎の公演です。ワーグナーの壮大かつ深遠な音楽に圧倒されて頂きたいですね。
関西フィルは立派なワーグナーオーケストラです! (c)s.yamamoto
来年度、私が登場する定期演奏会は、先ほども話しましたブルックナーの交響曲0番、00番を演奏する10月の第314回定期演奏会となります。ドイツ後期ロマン派の音楽表現を更に深め、意義深きチクルスの完結に相応しい演奏にしたいと思います。そしてそれは、新しい歴史の始まりでもあります。関西フィルと私の新しいプロジェクトをやりたいと願っています。

3人の指揮者の会見を聞いたが、マエストロそれぞれが楽団に対する思いが強く、自分の果たすべき役割をきちんと理解し、その上でファンに向けて熱く語っている姿が印象的だった。目の前の音楽記者ではなく、その向こうにいるファンに語りかけているように、私には見えた。
関西フィルというオーケストラの奥深い魅力、常にファンの目に新鮮に映る秘密のようなものが判った気がした。
とりわけ、楽団と30年に渡る関係を築いている桂冠名誉指揮者 飯守泰次郎の「関西フィルは、立派なワーグナーオーケストラに成長したと言える!」という発言が、胸に熱く響いた。
最後に来年度のラインナップのうち、客演指揮者が指揮する定期演奏会をチェックしておきたい。
6月の第311回定期に登場する鈴木優人は、今年の6月302回定期でオール邦人プログラムを指揮し、オーケストラとの相性の良さを示したばかり。驚きの2年連続登場となる。
2年連続で定期演奏会に登場する鈴木優人 (c)Team Miura
9月の第313回定期には、若手の有望株マクシム・エメリャニチェフが、デュメイとブラームスのコンチェルトを共演。
来年度の定期演奏会には、デュメイの弾く人気コンチェルトが並ぶ (c)HIKAWA
2月の第316回定期では、2017年に音楽監督デュメイの代役でベートーヴェンを指揮し、好評を博したリオ・クオクマンが、得意のシューマン「ライン」で再登場。
3月の第317回定期に登場するのは、フランスの名匠Y.P.トルトゥリエ。十八番のフランク交響曲ニ短調とダフニスとクロエで、華やかな50周年イヤーを締め括る。
50周年度定期演奏会の掉尾を飾るのは、フランスの名匠Y.P.トルトゥリエ
ベートーヴェンイヤーの「第九」を指揮するのはJ.S.バッハ所縁のユルゲン・ヴォルフ。進境著しい関西フィルハーモニー合唱団が初参戦するのも興味深い。
記念すべき50周年も守ることなく攻めに徹する関西フィル。
世界市場を意識しつつ、首席指揮者譲りの地道な営業とそつのない情報配信を武器に、関西全域を飛びまわる事務局と、更なる高みを目指して腕を磨く楽団員。
2020年も関西フィルから目が離せない。
関西フィルにご声援をお願いします! (C)s.yamamoto
取材・文=磯島浩彰

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