立花綾香「自分の夢を叶えるのに年齢
は全然関係ない」 メジャーデビュー
後初のワンマン東京公演をレポート

立花綾香 メジャーデビューミニアルバム発売記念ワンマンライブ『HELLO in TOKYO』

2019.12.7 duo MUSIC EXCHANGE
「27歳でのメジャーデビューは『遅咲き』と称されるかもしれない、だけど私はそうは思わない。自分の夢を叶えるのに年齢は全然関係ない。それを私が自分の身を呈して伝えていきたい」……これは、ライブのMC中改めて鍵盤と共に一人ステージで歌う際に、立花綾香が決意を込め会場に誓った言葉だ。そしてこの日を境に彼女は、それを証明していくべく広く万人の集う先に向け力強く船出していった。
振り返ると発売したばかりのメジャーデビューミニアルバム『HELLO』は、そんな「決意」の作品でもあった。改めての自己紹介、様々なシチュエーションやテーマの歌内容、幅広い層が興味を持てるポテンシャルを擁したポップさや明るさをも交えた音楽性、多くの人がどこからでも入れるような間口様々な楽曲タイプ、DAWを取り入れたピアノ弾き語りオンリーのイメージからの脱却等々。そこにはどれも、「土俵を移す」強い意志がハッキリと伺えた。とは言え、これを「人に好かれるための迎合」と捉えられては困る。言い換えると『HELLO』は彼女にとって、今までの自身の中身やマインドはそのままに、脱皮し、着替え、更に自身を誇示させたかのような作品であった。そして東京公演では見事に体現され体感出来た一夜であった。
以下は、そんな立花綾香のメジャーデビュー後初となるワンマンの東京編。来年1月には大阪・福岡でも予定されている、その初日のドキュメントだ。
会場のduo MUSIC EXCHANGEは、今春、彼女がメジャーデビューの報告をした想い出深い場所。あれから約半年――メジャーリリースを果たし、今後新しいフィールドへと向かい、羽ばたき、抗い、約束の地を見つける旅の開始日でもあった。それらはライブの選曲からも伺え、これからを多分に感じさせる『HELLO』からの全曲を始め、出自を誇示するかのような過去曲たちも、会場に放たれると同時に改めて自身に言い聞かせ鼓舞するかのように響いた。
立花綾香
ここで簡単に立花綾香を紹介したい。立花は1992年生まれ熊本県出身のピアノ弾き語りのシンガーソングライター。2010年より活動を開始し、出身熊本のイメージソングの歌唱を始め全国的な音楽コンテストにて受賞も果たしてきた。クリエイティブユニット・(K)NoW_NAMEのボーカリストとしても活動しており、こちらでは2016年1月にデビュー。今年11月にソロでメジャーデビューを果たした。
暗転した場内にSEが響き渡り、それに合わせてクラップが起こる。青白いライトが浮かび上がらせるステージに、まずはサポートメンバーのキタムラチカラ(Gt)、ジョニー柳川(Ba)、U(Dr)が登場。間を置き、88鍵の大きめな鍵盤を前にした立花もステージに現れる。
作品以上にバンドの生々しさやグルーヴが主だったこの日は、独特の低いトーンの力強い歌声が伸びやかにぐわっと掴むように「最初はHELLO」が“さぁ、始めましょうか!!”と場内を誘っていく。ドライブ感とグルーヴィーさを擁したアーシーなサウンドと、自己承認欲求への疑問と自身のアイデンティティを突きつけてくるような同曲。まるで目と目を合わせるように放たれる歌が直線的に射してくる。対して「パスタ」では場内に弾んだ空気感やほのかな幸せ感が伝わっていくのが見えた気がした。
『HELLO』の主だった特徴のひとつは打ち込みサウンドの導入と彼女の歌との共存であった。それはこの日のライブも然り。あえてバンドのメンバーは控え、鍵盤を前にするもハンドマイクスタイルにて同期をバックに数曲歌われた。グリッチ音とDAW感による若干のトロピカルさを降り交えた「BLUE」では、<私だけのブルーをいつか掴みたい>と歌い、神秘的でウェイヴィーなトラックの「Eyes」では、未来を信じて目を閉じないよと誓いのように響いた彼女の特徴的なその低めの力強い歌声が会場をグイグイ惹き込んでいくのを見た。対して「みなさんの日常に寄り添える。背中を押せるアルバムが作れた」と『HELLO』を振り返り、「次の曲も自分だけは自分を褒めてあげ、次へと進もうと腕を引っ張ってくれるような曲」と紹介し「あいいろ」に入る。同曲ではこれまでのバンドサウンドに同期との融合が伺え、ホーン音も交えた6/8拍子のダイナミックな音楽性のうえ歌が広がっていき、サビではジワジワと生命力や開放感が場内に染み渡っていく様を見た。
立花綾香
ちなみに彼女のこの日の衣装は白を基調にしたもの。元来、何にも包み込めるし、染まらない感のある黒い衣装を着ていたことを考えると、それは実に対照的な心境の変化と呼べるだろう。と同時に人を選ばない「白」という色が、何にでもフレキシブルに染まれる反面、もし汚れがついた場合は逆に目立ってしまう、その諸刃の剣性からも今後への覚悟や決意、挑戦や誓いのようなものを感じた。
ライブならではの臨場感が光り出したのは後半に突入してからであった。バンドサウンドがリードしライブを走り出させれば、しっかりと場内もそれに並走。会場をグイグイ惹き込んでいった曲を始め、キタムラの情景的なソロと立花のエレガントな鍵盤も冴えた曲、やさぐれ度が炸裂した適度なダンサブルさと各人によるソロも炸裂した曲、会場のクラップと共に完成させつつ、立花の伸びやかなロングシャウトが会場を魅了した曲、はたまた2ビートが映える曲が会場を走り回させていった。中でもハイライトは、引き連れるようにハンドマイクに力と思いを込めて贈られた「衝動」での疾走感とドライブ感がガッツリと場内を引き連れていった場面。同曲を始め激しい曲の連射の際には立花も「さすがにしんどいね」と苦笑を魅せる。
立花綾香
後半のメッセージでは、「色々な人と出会い新しい自分に出会えてよかった。変化や進化の必然性を怖がらなくても良い」と伝え、自身のここまで来た信憑性と共に、春の川の意味を持つという「ハルノセ」が、まさにここまでのドラマティックさを経た凪のような穏やかな雰囲気を場内いっぱいに雄大に広げていった。同曲では、今までの自分にさよならをし、新しい自分にハローしていく、まるで『HELLO』の大元のコンセプトに改めて行き当たらせてくれた気がした。
冒頭のMCに加え、「私は私の信じた道をこれからも信じて進んでいくだけ」そんなメッセージを込めた曲を会場に残し、また、他地でもしっかりとそれを伝えるべく2020年1月23日の大阪shangri-la、1月25日の福岡ROOMSへと向かった立花。ライブ後半のMCでは「もしこの中で何かを始めたいという人がいたら、どうかそれをやめずに続けて欲しい」と場内に贈り、その続きには冒頭の「それを私が自分の身を呈して伝えていきたい」との想いも込められていたように映った。
さぁ、この日から、何年、何十年後かに向けてのタイムカプセルは埋められた。と同時に何年か後にここに遺したその誓いへの答え合わせへとみなを向かわせた。何年後かに、それを開いた際、正誤やここに込められた気持ちはどう変化していくのか? 今後とも彼女の活動や楽曲たちを査察していきたい。

文=池田スカオ和宏 撮影=二瓶 彩

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