teto・小池貞利『超現実至上主義宣言
』を通して伝える想いーー「常に何か
にアンテナを張っていたい」

tetoのニューアルバム『超現実至上主義宣言』の冒頭で聴ける「光るまち」。インタビューで小池貞利(Vo.Gt)本人も「壮大な展開にしている」と話してくれたこの曲の後半を、彼はいったいどんな顔をして、どんなふうに声を限りに叫びながらレコーディングで歌ったんだろうと想像するだけで熱くなる。小池自身のここに至るまでの道のりが描かれた曲という点で、この曲とラストを飾る「LIFE」はとても近しい距離にある。静かに確実に世界を塗り替えていく「光るまち」から、世界を温かい光で包むような「LIFE」までの15曲約62分間の道を経ることで、その2つの曲の発色の違い、匂いの違いと放つエネルギーの温度の近さをより強くかみしめ味わうことが出来る。レーザービームが飛び交うようなシンセが耳に刺さるダンスチューン「ラストワルツ」や、胸のすくようなギターに導かれる「不透明恋愛」。「kill&miss」や「夜想曲」のジャンクな音塊の後味も良い。アメリカンハードコアから日本のポップスまでバックグラウンドは多彩で、小池が紡ぐ歌詞の文学性は高い。抜け出せないかのような混沌とした闇の果てにも光はある。夢でも幻でもない、現実を超越するほどリアルな希望を抱かせてくれる現時点で至高の音楽を作り上げた小池に話を聞いた。バンドは現在、11月15日の千葉LOOKを皮切りに来年7月まで続く47都道府県を巡るツアー『teto 47都道府県ツアー 日ノ出行脚』をスタートしたばかり。
小池貞利(teto)
ーー1曲目「光るまち」から15曲目の「LIFE」まで全部通して聴くと60分を超えますが、この曲順通りに聴きたいアルバムです。そういうふうに作られているアルバムでもありますよね。
そうですね。今ってサブスクもあるし、1曲単位で聴くことの方が多いと思うから15曲も入ったアルバムって昔よりはあまり意味をなさないと思うんですけどね。それでも手間暇をかけて一見、意味がないようなことにも意味を持たせたいなって。そんなふうだから60分を超えるものになっちゃいました。もちろん1曲1曲が立っているベストアルバムみたいなアルバムもいいんですけど、僕の場合は「この1曲があるから他の1曲が活きる」みたいな感じで、いろんなジャンルの曲を入れたいんです。
ーー小池さん自身が、ジャンルを問わずいろんな音楽を聴かれる方ですよね。
もちろんそれは根底にありますし、自分の苦しい時の気持ちを表現するには、苦しいだけじゃなく楽しい部分も見せた方が説得力も増すと思う。自分はそういうふうに音楽を聴いてきたので、僕自身もそういう表現がしたいと思っています。
ーー吐き出すような歌い方や、曲の勢いや音の激しさがtetoの印象として強かったりもするんですが、アルバムを聴かせてもらうと詞も音もじっくり構築されているように感じます。
構築していくことって大事だと思っていて、自分の中の吐き出したいことに行きつく過程や、吐き出した後はどうするんだというところも出して行きたい。自分の感性としてそうありたいんですね。
小池貞利(teto)
ーー1曲目の「光るまち」は新録音でシングルのバージョンとまったく違いますね。
もともと自分がアコースティックギターで弾いていて、前に出した時はあえてお風呂場で録ったような音像にしたんですね。それぐらい身近な曲というか、近所のお兄ちゃんが自分の家で遊んでいて、そこで歌ってくれたぐらいの感覚で表現したいなと思ったのでそういう形にしたんですが、今回はだんだん開けていく感じ、未来が広がっていく感じにしたくて。それでバンドサウンドにしました。
ーー作られた時の心情やそこにいたるまでの小池さん自身を歌った曲なのかもしれませんが、これから先ずっと聴くたび現実をかみしめる曲になるのかなと。リアリティというよりリアルな気がします。
たぶん曲を作った時は、その時を思い出して作っただけなんですけど、いつまでもそこをただの思い出にはしたくないというか。実際に僕が今バンドをやっているのも、この曲の歌詞にも書いている自分の中の体験が今の僕につながっているので、それも抱えてこれからも突っ走っていきたいなという思いはありますね。
小池貞利(teto)
ーーtetoは終電に間に合わないバンドだと思っていたんですが「光るまち」の中で<終電には帰ろう>と繰り返されていて。最後の最後で<終電はもう逃そう>と歌われるところは、揺るがない強い意志を持って何かを振り切る瞬間を見るようです。
そうですね。そこの音楽的な展開はもちろんあるんですが、簡単に言えば僕自身の家が厳しかったりいろいろ制約されていたことがあって、何も考えずに終電には帰る人生で。でもやっぱり自分の中で納得いかない部分があって、そういう人生だけじゃなく自分の思う通りにやって、その結果迷惑がかかるのは仕方ないかなという振り切れもありますね。
ーールールを守る生き方は美しいし素晴らしいですが、その踏み出し方や最後に振り切れる開放感にはグッと引き込まれます。その後に蜩(ひぐらし)の鳴く声が聞こえて次の曲「蜩」が始まる、この曲順も最高ですね。
ありがとうございます。実際僕がそういうところに住んでいたんですね。山の中というか、夏の夕方とか夜になると蜩の鳴く声が耳に沁みついていて、作った曲もそういう雰囲気を感じる曲だったので。
ーー歌詞に<蜩の鳴き声>とありますが、聴き進むにつれて<日暮らしの泣き顔>というワードが出てくる。これは書き手としての遊び心でもあるのかなと。
確かに言葉で遊ぶのはおもしろいんですけど、ダジャレにはなりたくなくて。同じような言葉を使っても、もともと伝えたいことと言葉の意味がかけ離れちゃったら無意味なので、そこは通じるようにしたいなといつも思ってます。
小池貞利(teto)
ーーどの曲にも「この曲でこういうことを歌いたい」というような意志やテーマを感じますが、小池さんの中で「蜩」にはどういうものを音楽に込めたかったのでしょう。
曲それぞれで本当に伝えたいことはあるのですが、それをそのまま伝えるのではなく、それが垣間見えたり、伝えたいことを100見せるよりは、10か20を見せて、あとの80を楽しんでもらうぐらいの感覚のほうが僕は好きだし、全部説明するのは基本的には好きじゃなくて。だから解釈が伝わらない時もあるんですけど、もちろんそれはそれで良くて。誰だって、歩いてきた道は1つじゃないしそれぞれの道がありますよね。なので、いろんな解釈があっても全然かまわないと思います。
ーー4曲目に「ねぇねぇデイジー」という曲がありますが、デイジーの花には希望という花言葉があって、歌詞にも希望というワードがさりげなく出てきますよね。全部説明するのではなく余白をたっぷりとってそれを楽しんでもらいたいというのはそういう部分でしょうか。
そうですね。そういうことって、言われるよりも気づいた方が面白かったりしますよね。お客さんも「この歌詞がこうなっているからすごい」みたいに言ってくれるんですけど、それは見つけた人がすごいし、そう捉えた感性がすごいし、こっちの言いたいことが伝わる感性がすごい。たとえば僕が友達と話していて、その人の言いたいことを1から10まで酌めるかと言ったらなかなか難しい。なので、自分の中のポリシーというわけじゃないですけど、意図を酌んでくれた事がありがたいなと僕は思いますね。
小池貞利(teto)
ーー小池さんの歌詞は徹頭徹尾日本語で、意味やメッセージを込めつつ聴き手がいくらでも探れるものになっていて、英語のフレーズはほとんど登場しないですよね。
気持ちが沈んでいる時って、逆にメッセージのないふざけた感じの曲のほうが楽しいので、重すぎず軽すぎずというところの中間を良い感じにとりたいなというのは意識していますね。
――今回のアルバムはその重さと軽さのバランスが絶妙ですね。ヘヴィに感じる曲もありますが、今まで以上にポップなアルバムで、この作品で初めてtetoに出会う人がどの曲から聴き始めても作品に入っていける気がします。
どっちもあれば、重いのが好きな人も気にいってくれるだろうし軽いものが好きな人も聴けるし、音楽としてはいいんじゃないかなって。かといって軽過ぎるもので自分を安く売るのもイヤだし、重すぎて雰囲気が暗くなってしまうのもイヤなんです。このアルバムから入ってくれた人が前作とか1枚目にたどり着いてくれた時に、今回表現していない部分を見て「なんでこの人はこういうことを言うんだろう」と、それまでの過程を見てもらえたら今回のアルバムもその人にとって見方が変わるというか、価値のあるものになるんじゃないかなと思っています。
ーー前作の『手』と意図して変えようとしたことはありましたか?
前作が少しパーソナルというか、僕の身近なことが多かったんですね。今作はその身近なことを歌ったまま、狭い世界をどう広げていくかというのが僕の中で大切なことだったので。
小池貞利(teto)
ーー今作を聴いていて、私小説を読むような印象があって、自分のことでありながら誰もが読めて誰の物語にもなりうるものであるように感じました。
それがいわゆる身近なところから狭い世界を広げていくということなのかなと。
ーー最初に構築していくことが大切と言われましたが、歌詞も同様ですか?
歌う時に歌詞を変えることが僕の場合は多いんですね。人に聴かれれば聴かれるほど、見られれば見られるほど、ある程度言葉に責任が生まれると思うし、生半可な適当なことは言えない。なので、そこは何回も考えます。かけ離れた解釈でも僕は全然構わないんですけど、それがあまりにも僕の人生観というか通したい筋とかけ離れている時は正したいなと思うので、歌詞も気をつけています。かといってメロディーに当てはまらないと今度は音楽として聴き心地が悪くなる。言葉にも音程があると僕は思っていて、それがあまりにもかけ離れると気持ちよくならないし、音楽が成立しなくなってしまう。
ーー「夜想曲」で、<愛や憎しみ、欲望までも全てを飲み込んで>とあって、その後に<混ぜて満たしてゲロになるまで全てを吐き出したい><全て溶かしたい>とあって。愛や憎しみという感情を消化するのではなく、吐き出す、溶かすという表現がすごく興味深かったです。
正直な話、この曲は伝わらなくていいかなと思っちゃったんですよね。自己満足を他の人に見てもらうのはどうかなと(笑)。でもバンドの根本って自己満足の連続だったりもしますし、この曲を他の人に聴いてもらうことで自分自身またひとつ成長できたというか、一歩前に進めたなというのはあります。
ーー自己満足ですか? 聴いているとスカッとするものがありますが。
本当ですか。さっきも言いましたけど、たぶん僕の根底に他人に気を遣うところがあるので(笑)、リリースしていろんな人に聴いてもらうということに対して、ある程度聴き心地やポップな面を意識しているところがあるかもしれません。たぶんスカッとするっていうのは僕のそういうところから生まれたものかもしれない。それでもまだ自己中心的な曲ですね。他の曲に比べると。
ーー15曲もあれば、そういう役割を担う曲もありますよね。
前作も15曲だったんですけど、単純に「こういう人間だな」、「こういうバンドだな」ということを決めつけてほしくないんです。だからこそいろんな部分を見てもらいたくて、15曲も入れているのかなと思いますね。
小池貞利(teto)
ーーアルバムの特設サイトに、「15曲前後の様々なカラーがあるアルバムを2枚連続で出すことが個人的には本当に重要で挑戦でもある」と書かれていましたね。
それだけ入れちゃうと聴き苦しいところもあったり、こういう自己中な曲を聴くのが好きじゃない人もいっぱいいると思うし、単純に60分音楽を聴いていられない人もいると思う。そこを飽きさせないようにする工夫とかどう起承転結を見せて、広げていくか。前半でこう言っていた言葉が後半ではすごく前向きに聴こえるとか、そういうところを表現できるのは自信になるんじゃないかなと。
ーー最後の「LIFE」はとてもやさしい歌と眩しい音、きらびやかなメロディーで出来ていて、「光るまち」からアルバムが始まった時は、まさかこんな晴れやかなエネルギーを持った希望を感じる曲で最後を迎えるとは思いませんでした。
目の前にはいろんな現実があって、「現実」って言葉はアルバムのタイトルにも歌詞の中にもありますけど、そればかりを考えると楽しくないので(笑)。人生も生活も全部楽しみたい。それだけですね。
ーー<なんとなく始めたバンドは今でも楽しくやれてて>のあたりはとどめを刺された感があります。
僕も結構気に入っていて。バンドに関してはいろんなきっかけはあったんですけどね。何もやっていない時に好きなアーティストのライブを観て心を打たれたとか、友達と飲んだりご飯を食べてる時に「もう一回バンドやろうよ」と勧めてくれた人もいたりして。「じゃあやってみるか」という感覚できっかけは単純なものだったんですが、それが今もこうやって続いていて、今では僕の頭の中は全部バンドのことで埋め尽くされるぐらいになっているんですね。
ーー小池さん自身がここに来るまでを端的に描かれた曲なのかなと思ったのですが、この曲が出来た時はどういった心境だったのでしょう。
いろんな嘘が世の中にはいっぱいあって、それがイヤだなと思っていた時期があったんです。けど、みんながみんな本音ばっかり言っていたら世の中が成り立たなくなったり、平和じゃなくなっちゃったりする。しかもその嘘も突き通せば意外と真実になっちゃったり、理想が現実になったりすることも結構ある。嘘とか理想とか、今目の前にないものが僕は苦手だったんですけど、一概にそれは否定できないなと。それを真実にしたり現実にしていくのが楽しいなという時期だったんですね。
ーー音楽から離れていた時期もあったようですが、言葉を紡いで歌って音楽を鳴らしていくためにいるような方ですよね。
自分にとって大切なものと、距離を置いたからこそ改めて好きだなと思えたところもあるのでしょうね。その時は嫌いで離れても、その時その時やれることをやって生きているとそれまで出会っていたものが新しく見える、そうやって再会できるんだなって。
小池貞利(teto)
ーー2作連続でどっしりとしたアルバムができましたが、まだまだ歌いたいことやりたいことはいっぱいありますか?
そうですね。1stを出して2ndを出しても足りてないところはいっぱいあるし、まだまだやっていないこともいっぱいあるのでもっともっと出して行きたい。それが型にはめられない活動になるのかなと思うし、他の誰でもないtetoになれるのかなと思えるので。
ーー47都道府県ツアーも始まっています。長い道のりですし、これまで行かれたことのない県で待っているファンにとっても嬉しいツアーになりますね。
僕も自分の生まれた県でライブを観た経験が、今の自分を形成する過去の一つになっているので、自分にとっても観ている人にとっても何か新しい居場所のようなものが出来ればいいなと思います。居場所はいっぱいあっていいと思うんですよね。いろんな音楽でもいいし、テレビ番組でも、映画でもなんでもよくて。
ーー居場所=好きなものとか、自分を預けられる場所、自分のままでいられる場所ということでしょうか。私はこのアルバムを聴いて一つ自分の居場所を見つけたように感じました。
そうなってくれればいいなと思いますね。ライブもこれだけの本数をやったら新しい人に出会うし、人に出会えば出会うほどまた新しいものは絶対生まれる。それが曲だったり言葉だったり姿勢だったりにどう表れるか、そういう変化も楽しみにしつつ、根本にある筋みたいなものはちゃんと通しながら楽しんでいきたいですね。現状維持は簡単なんですけど、そこから変わっていかないと進まないし深化もないなと思っちゃうので常に何かにアンテナを張っていたいですね。
――2019年ももうすぐ終わりますが、この先バンドでこんなふうに進んでいきたいというようなことを思い描いたりしますか?
今のツアーが終わるのが来年の7月なので、来年ももう終わっちゃうなと(笑)。ただ、バンドがやれることは曲を作ってライブをやることしかないと思うんですね。そこに付随するこういうインタビューなどを通じて新しく知る人に理解してもらう機会もあると思うけど、基本的にバンドは音楽を作ってライブをやる。ツアーをやる中で新しい人と出会えて新しいものが生まれて、そうやっていく中で自分たちのやりたいライブの形が生まれる。僕は、それがバンドにとって一番良いことなんじゃないかなと思います。
小池貞利(teto)
取材・文=梶原有紀子 撮影=日吉“JP”純平

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