勅使川原三郎インタビュー~クレーの
絵画に触発された新作『忘れっぽい天
使』を両国で上演

今年もヨーロッパでのツアー公演を多数行うなど、世界的に活躍するダンサー、振付家の勅使川原三郎。ロンドンで上演した「白痴」でのパフォーマンスが英国ナショナル・ダンス・アワードの最優秀モダン男性ダンサー賞にノミネートされるなど、ますます世界での注目度も増している。2020年4月には愛知県芸術劇場の芸術監督に就任し、今後もさらに活動の幅が広がっていく予定だ。その勅使川原が、佐東利穂子とともに、2019年12月12日(木)~15日(日)、新作公演『忘れっぽい天使』を東京・両国のシアターXで行う。これは、勅使川原三郎が敬愛する画家ポール・クレー(PAUL KLEE)の天使の連作にインスピレーションを得ての創作とのことである。開幕を前にして、ロシア公演から帰国したばかりの勅使川原に作品の創作プロセスやインスピレーションについて話を聞いた。
■創作において、クレーから学ぶこと
━━ KARASの活動拠点であるカラス・アパラタスの勅使川原さんの本棚にはクレーの画集があるほど彼の作品に魅かれているそうですね。クレーの創作プロセスの理論的な思考も題材にされているとのことですが、どのようなところに魅かれていますか?
クレーの作品との出会いはずいぶん昔になります。クレーはペインターというより、composerと考えています。それは作曲家という意味ではなくて、物事を構成する人としてです。それらを三つに分けると、一つに、色彩や線の区分による画面上の諸要素の配置、構成。二つ目に、ドローイングによる運動の力学的研究あるいは物理学、そして三つ目に装飾を排除した天使へ寄与する素描、それら三つの点に私は影響を受けています。
━━ 勅使川原さん自身も、日常的に鉛筆、ボールペンなど様々な手段によるドローイングを行っていて、カラス・アパラタスに作品を多数展示されていますが、クレーからは、ドローイングの創作においても影響を受けられていますか。
さまざまな要素のcomposition(配置)、それらを運動させる力学的考察、そしてその重要なエレメントから解放される純粋な素描。私が自ら素描する要因は自分の内側にある無意識な世界への探求なのですが、その終わりもない道筋もない、ただ欲する線を求めているだけの作業は日常的でそして最終的なことかもしれません。クレーから学ぶことは、現実や自然を理解する要素は最終的に簡素な線によって導かれるということです。
■クレーの線の自由は精神の自由、そして精神の広がり
━━ クレーの「天使」シリーズは愛らしかったり、もの悲しかったり、天使なのに人間っぽかったりしますが、病気で身体の自由を失い、ナチスに迫害されながらも描き続けたクレーの生きざまも伝わってきます。自由を失うことで、ある意味別の自由を得たような印象もします。ダンスの創作にあたっても、あえて自由を封印することで、別の表現を誕生させることができるということはあるのでしょうか。
自由や不自由というものは自らの力で獲得できるものではないのではないかと思います。人は不自由ということに敏感で、自由の中にある不自由こそより強く自覚すると思われます。線を描くことは、限定するものを提示するのですから、その線は自由とは言えないのかもしれません。クレーは不自由の環境下で自由が奪われたのではなく、限定されたか細い線によって獲得した精神の広がりを示したのだと思います。クレーの線の自由は精神の自由だと思います。苦難の中にある自由、それが芸術に大いなる力を与えることも確かです。
━━ 作曲家ピエール・ブーレーズがクレーについて「確固とした構造を特徴とするものと、ゆるんだ構造を共にするものを組み合わせてひとつの全体を形作る。これは作曲の課題そのものでもある」と記されており、それを勅使川原さんは今回のダンスの創作に臨む課題とされているとのことです。一方で、今回の「忘れっぽい天使」の音楽はブーレーズを使う予定ではないのですね。
今回ブーレーズは用いず、モーツァルトのピアノソナタやピアノ協奏曲、そしてブリュッヘン演奏のリコーダー曲を使用します。
■密やかに見守ってくれる存在、それが天使
━━ パリ・オペラ座バレエ団で上演された勅使川原さんの作品「AIR」でも、この「忘れっぽい天使」を舞台美術に使用しています。それ以外にも、勅使川原さんの作品では天使という存在がたびたび扱われています。日本人にとって、この「天使」という概念はそれほど身近なものではないのかもしれませんが、勅使川原さんにとって、「天使」というのは何を象徴するものでしょうか。
私は日本人ですが、天使には親しい感情があります。天使はキリスト教のみにある存在ではなく、古くからの日本文化の中にあると感じています。天使は神々しく宇宙を司る神ではなく、ほとんど精神と同次元にあって、静かに密やかに見守ってくれている存在で、何かをして助けてくれることはないだろうし、ただひっそりと肩のあたりに気づかれないように佇んで、一緒に息を整えてくれるもの、むしろ頼りないほど無力なものと、私は受け取っています。
━━ 今回は恒例のシアターXでの公演です。カラス・アパラタスや東京芸術劇場での公演とはまた違ったスケールの舞台ですが、この会場での新作の上演ということで意識されるものがありましたら教えてください。
新鮮に舞台に乗ることです。
取材・文:森菜穂美

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