魔術ミステリーの世界が動き出す!
松下優也、青野紗穂らが挑む音楽劇「
ロード・エルメロイII世の事件簿 -c
ase.剥離城アドラ-」稽古場レポート

2019年12月15日(日)、市川文化会館大ホールで行われるプレビュー公演を皮切りに、東京・大阪・福岡にて上演される音楽劇「ロード・エルメロイII世の事件簿 -case.剥離城アドラ-」。三田誠が描き出す、ロード・エルメロイII世を主人公とする魔術ミステリーが、舞台となって新しい世界を魅せてくれる。
今回は、プレビュー公演まで一ヶ月を切った某日、都内で行われた稽古の様子をお伝えする。
『case.剥離城アドラ』は、『ロード・エルメロイII世の事件簿』シリーズ1冊目。魔術師の総本山・時計塔の講師として教鞭を執るロード・エルメロイII世、内弟子のグレイといった主要キャラクターに加え、時計塔の重鎮であるオルロック・シザームンド、名門錬金術師の家系であるハイネ・イスタリ、占星術師のフリューガー、山伏の時任次郎坊清玄、宝石魔術の大家であるルヴィアゼリッタ・エーデルフェルトなど個性豊かな面々が、剥離城アドラの遺産を巡って集うところから物語は始まる。
ミステリーではあるものの、「ホワイダニット(どうしてやったか)」に重きを置き、魔術師たちの内面や生きざまにフォーカスしながら魔術絡みの不思議な事件を解決していく物語だ。
《ストーリー》
『時計塔』。
それは魔術世界の中心。
貴い神秘を蔵する魔術協会の総本山。
この『時計塔』において現代魔術科の君主であるエルメロイII世は、とある事情から剥離城アドラでの遺産相続に巻き込まれる。
城中に鏤められた数多の天使、そして招待者たちそれぞれに与えられた〈天使名〉の謎を解いた者だけが、剥離城アドラの『遺産』を引き継げるというのだ。
だが、それはけして単なる謎解きではなく、『時計塔』に所属する高位の魔術師たちにとってすら、あまりにも幻想的で悲愴な事件のはじまりであった──。

稽古は、剥離城に招かれた魔術師たちが食堂で一堂に会するシーン、ハイネの回想及び獣との戦闘シーンを中心に行われた。
時計塔の魔術師であり、剥離城の遺産管理を任されている化野菱理(壮一帆)の、優美ながら怪しさを感じさせる佇まいにより、一気に物語へと引き込まれる。
食堂での清玄(木戸邑弥)とハイネ(百名ヒロキ)のやり取りなど、穏やかであたたかい交流が描かれるのも束の間、彼らの元に届いた招待状の謎に迫るルヴィアの発言により、空気は一変。さらに、腹に一物ある魔術師たちの探り合い、各々のやり方で謎を解こうとする中、ハイネの前に現れた謎の獣、そして起こる第一の事件――と、物語は大きく動き始める。
松下優也は、毅然として品のある立ち居振る舞いの中にも、神経質な一面やかわいらしい一面を覗かせ、物語の中心であるロード・エルメロイII世を好演。化野との食えないやり取りやグレイとの距離感、過去の自分とのシーンで見せる心の揺れなど、深みのある役柄を繊細に演じている。
その内弟子・グレイを演じる青野紗穂は、憂いを帯びた表情に芯の強さを内包し、彼女が持つ秘密、自らの在り方に関する複雑な胸中をうまく表現していた。
紳士で才能溢れるハイネ、飄々として明るい清玄、人懐っこいが強かなフリューガ―(松田慎也)、老獪なオルロック(花王おさむ)とその従者(木村風太)など、脇を固める面々もさすがの安定感を誇っている。
若き日のロード・エルメロイII世/ウェイバー・ベルベット役の植田慎一郎は、若さゆえの無鉄砲や彼が抱えるコンプレックス、彼が参加した聖杯戦争についてなど、物語の前日譚を鮮やかに描き出す。
エルメロイII世の生徒であり、シリーズファンにはお馴染みのフラット・エスカルドス(納谷健)とスヴィン・グラシュエート(伊崎龍次郎)が、ライネス・エルメロイ・アーチゾルテ(浜崎香帆)と共に、魔術や世界観を説明するストーリーテラーとして登場するのも嬉しい。シリアスな空気が漂う中で、小悪魔的な魅力を持つライネスと、エルメロイII世を尊敬する生徒たちのキラキラとした姿は清涼剤と言えるだろう。
そして、時には屋敷の執事・メイド、時には魔術師たちが使役する魔術、剥離城を装飾する天使たち……と、次々に姿を変えるアンサンブルキャストの活躍も素晴らしい。作中で「生き物のように見える」と形容される城や、魔術師たちが持つ魔術回路とそれによって行使される様々な魔術を、身体全体や歌声でイキイキと表現し、美しいがどこか不気味な世界観を形作る要となっている。
また、カンパニーの仲の良さも印象的だった。物語はシリアスだが、場当たりの合間にキャスト同士で殺陣や表現について話し合ったり、コミュニケーションをとったりと、稽古場は終始和気あいあいとした雰囲気。プリンシパル・アンサンブルともに、演出や音楽をはじめとするスタッフと気軽に意見を言い合い、全員でより良いものを作り上げようという気概とこだわりが見て取れた。
キャスト陣の表情や台詞回しからも、原作を読み込み、自らが演じるキャラクターを理解していることが伝わり、荘厳な城のセットや衣装、キャラクターたちが使う魔術が目に見えるような錯覚を覚える。ここに音楽や舞台美術が加わり、よりミステリアスな、心躍る世界が完成するのが楽しみだ。
取材・文・撮影=吉田沙奈

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