陰陽座が掲げる
“妖怪ヘヴィメタル”とは?
その真髄はアルバム
『魑魅魍魎』にあり

ヘヴィメタルを超越した陰陽座らしさ

オープニングM1「酒呑童子」は、唸りのような、叫びのような声が乗ったノイジーなSEから始まる。テンポはミドル~スロー。ユニゾンのツインギターでのリフが鳴り、イントロだけならヘヴィメタルというよりはプログレといった雰囲気で、事前の“難解”という見立てからそう遠くない印象ではある。瞬火(Ba&Vo)の歌が入ると、パッと耳に飛び込んで来る歌詞は即その意味を理解できるものではないが、メロディは決して難しい感じはなく、むしろ親しみやすい印象だ。それは黒猫(Vo)のパートが加わると余計に鮮明になり、ドラマチックな展開と相俟って耳を惹き付ける。途中からテンポがアップする辺りはいかにもHR/HM然とした感じではあるものの、やはり黒猫の声が聴こえてくると、先に彼女の歌を耳にしたことで耳慣れもあってか、妙な安心感がある。サビメロは極めてキャッチーで、極端に聴き手を選ばないタイプであることも分かる。また、ギターリフはHR/HM然ではあるものの、単音弾きを見せる箇所であったり、全体的な音色であったりはニューウエイブ以降…誤解を恐れずに言えば、若干、布袋寅泰や本田毅を彷彿させなくもなく、このバンドは伝統的なヘヴィメタルだけを継承しているのではないのかな…と思いも沸いてくる。

続くM2「蘭」はテンポ、ギターリフの雰囲気もM1後半からつながっている感じ。随所で見せるハンマリングや、間奏でのギターソロはヘヴィメタルのマナーに則た感じではあるが、やはりサビの歌メロはキャッチーであって、その部分のバンドサウンドが必要以上に前に出ていないところにこのバンドの基本姿勢のようなものが見出せるのだろうか。…と、そんなことを考えていると、CDはM3「がしゃ髑髏」へ。こちらはベースがしっかりと土台を支え、その上に乗るギターリフと相俟って楽曲全体をグイグイと引っ張るアップチューン。スラッシュメタルだ。全体的にはダークな楽曲と言えると思うが、ポップじゃないかと言えばそんなこともない。所謂J-POPのそれとは少し違うかもしれないけれど、相当ロックに抵抗がある人は別にしても、多くの人にとって決して聴きづらいものではないだろう。それは続くM4「野衾忍法帖」も同様だ。この楽曲は陰陽座のアルバムには毎回収録されていて、ファンにはお馴染みと言える“忍法帖”シリーズのひとつで、これまた特有のギターリフで攻めるスラッシュメタル。冒頭では“M3よりもゴリゴリしているのかな”と思いきや、“一見さんお断り”的なマニアックさは感じられない。特にサビ後半の歌メロの抑揚は特筆すべきで、聴き手を選ばない汎用性の高さがあるように思う。

『魑魅魍魎』をここまで聴いて感じるのは、彼らのサウンド、バンドアンサンブルはヘヴィメタルではあることは間違いないのだが、それは決して難解なものではないということだ。意識的にやっているか否かは分からないけれど、ヘヴィメタルが苦手だという人が感じる“壁”みたいなものは、少なくとも低くなっていると思われる。M5「紅葉」でその思いは確信に変わる。これはもう万人がイメージする所謂ヘヴィメタルではなかろう。いや、ギターのアプローチであったり、サビでハイトーンに突き抜ける歌の旋律であったりにHR/HMの片鱗は感じるだけに、ヘヴィメタルを超越したという言い方がいいのだろうか。イントロのアルペジオの入り方からしてどこかメランコリック。その空気感もさることながら、とにかく歌がメロディアスで、その立ち方が半端ないのだ。誤解を恐れずに言えば、ヘヴィメタルもJ-POPも通り越して、昭和の優れた歌手の持ち歌のようである(褒めてます!)。かと思えば、間奏で聴かせる招鬼(Gu)、狩姦(Gu)の絡みはツインギターを擁するバンドの矜持とでも言うべき素晴らしさがあって、このバンドの懐の深さを知るところである。彼らの言う“妖怪ヘヴィメタル”とは、トラディショナルなヘヴィメタルとは少し性格を異にしていることがよく分かって、この辺りから陰陽座への興味がさらに増していく。続くミディアムのロッカバラードタイプM6「青坊主」は間奏のギターソロでブルージーな匂いがしたり、そのあとのM7「魃」では所謂“様式美”を感じさせたりと、中盤ではベーシックなヘヴィメタルを想起させなくもないが、いずれもそれほど類型的に聴こえない気がするのは、それ以前までに陰陽座らしさをたっぷりと浴びているからではないかと想像する。

OKMusic編集部

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