吉岡里帆インタビュー「自分の中に渦
巻くエネルギーを舞台で見せたい」~
“ファウスト”現代版『FORTUNE』で
ヒロイン役

『ハーパー・リーガン』『真夜中に犬に起こった奇妙な事件』などが日本でも上演されているイギリスの劇作家サイモン・スティーヴンス。その最新作『FORTUNE(フォーチュン)』が世界に先駆け日本で上演されることとなった。文豪ヨハン・ヴォルフガング・フォン・ゲーテの『ファウスト』の舞台を現代のロンドンへと移したこの作品で、タイトルロールである主人公の映画監督に森田剛が扮し、彼が惹かれる既婚の映画プロデューサーを吉岡里帆が演じる。吉岡に作品への意気込みを聞いた。
――世界初上演の新作への参加となります。
私は舞台自体が久しぶりで、イギリス人の演出家さん(ショーン・ホームズ)のもと、世界初演ということで、いろいろ新鮮なことが重なり、すごく幸せに思っています。戯曲を読んで、非常に挑戦的な役どころでもありますし、作品自体にも重みを感じて。ただ恋愛を描くのではなく、人生を描いている。ホームズさんはエンターテインメント的に演出される方だとお聞きしているので、ストーリーの重い部分をどんな風におもしろく昇華していけるのか、楽しみにしています。
――ゲーテの『ファウスト』を現代に置き換え、悪魔との契約をテーマに描く作品です。
『ファウスト』は宗教的、哲学的な部分がフィーチャーされているように思うのですが、この作品はもう少し軽やかさがあるというか。フォーチュンという主人公を通して、より身近に、悪魔との契約や人間の業を感じていただける作品だと思います。お客様にとって、自分の人生経験と照らし合わせながら観ることができる、距離感の近い作品ですし、私自身もそう演じていけたらと思っています。
――吉岡さんは今回、フォーチュンが想いを寄せる若きプロデューサー、マギーを演じられます。
マギーは清廉潔白でまっすぐで愛情深くて、という一方で、やはり人間なんだと思うところもあって。フォーチュンに追い求められたとしても、やはり彼女も人間なんだというところが、私は戯曲を読んでいておもしろかったので、落ちていく様、人に引きずられていく様に挑戦していきたいと思っています。人としての弱さ、業の部分、欲深さがまったくない人間はいないと思うので、そういうところがにじみ出るように、マギーを表現していきたいです。
――今回は大人の女性の役ですね。
大人の女性の役柄なので、背伸びして演じていると思われないように、演技を自分の中に落とし込んでいかないといけないなという緊張感はあります。愛を信じているところ、心が折れそうになっても相手と向き合おうとする気持ちは共感できるので、そういうところからたぐり寄せてマギー像を作っていきたいと思います。自分のだめなところも見せていくと役柄としてはおもしろくなると思うので、変に隠したりせず、自分の中で渦巻いているエネルギーを舞台上で見せられたらいいなと思っています。
――フォーチュン役に森田剛さん、悪魔ルーシー役に田畑智子さん、他にも魅力的なキャストが勢揃いです。
皆さん役者としても大先輩で、舞台もたくさん経験していらっしゃる方々が揃っているので、身の引き締まる思いです。舞台ということで、稽古期間がしっかり設けられている中でご一緒できるのがとてもうれしいですし、これほど学べる機会はないなと。個人的には、平田敦子さんは私の好きな舞台にたくさん出ていらっしゃる方なので、お会いできるのが一ファンとしてとても楽しみです!
――映像作品と舞台とでは意気込みも変わってきますか。
そうですね。私は舞台のように大きな空間でたくさんの方に伝えられるようなパフォーマンスがまだまだ不慣れで。そこがまず一つ目の壁かなと思っています。映像では撮影部や録音部の方たちが一番いい部分を引き出して撮ってくださって、ここを観て欲しいんですよというところを、編集できれいに整えていただいている。舞台は生身の身体と声でそのままダイレクトに伝わる空間なので、私自身、時間をかけて鍛錬していき、お客様に伝わるようエネルギーを蓄えておきたいなと思っています。発声や滑舌のトレーニングをこっそり一人で行いつつ(笑)頑張りたいと思っています。
――作品の魅力をどう感じていらっしゃいますか。
台本を読んでいて、引き込まれていく感覚があるんです。フォーチュンという男性の弱くてせつなくてだめな部分が前面に出ているのに、なぜか憎めない。なぜか彼を理解してしまう自分もいる。そこがやはり魅力です。重くてずっしりした台本なのですが、演出のホームズさんを知る方誰もが、感性の部分にふれてくる楽しい作品になると思うとおっしゃっているので、気負いせずに楽しんでいただける作品になるのではないかと思います。
――マギーから見て、フォーチュンという男性の魅力についてはいかがですか。
夢をもち、欲望があり、そこに向かってまっすぐエネルギーを放出できる姿や、知的な一面、芸術を愛している一面は、職業的に二人が通じ合えるところなのかなと。ある意味、映画という芸術に取り憑かれてしまっている人たちにも思えますね。第一幕ではそこを魅力として描き出しつつ、第二幕では、母性的なところ、私の手で何とかしてあげたい、何とかできるんじゃないかと思ってしまうマギーの独りよがりな感じと、フォーチュンとの掛け合いがおもしろいなと思って。後半は、フォーチュンを愛しているのか、フォーチュンを愛している自分を愛しているのか……、そんな見方もできるなと思いますね。
――映画のプロデューサーという役どころについてはいかがですか。
作中、映画のタイトルもたくさん出てきて、おもしろいんです。実際、この仕事をしていて、女性プロデューサーにもお会いすることも多いです。女性目線の強さや信念が作品作りにおいても出てくるのかなと、お話ししていても思うことがあります。同性として親身になってくださる印象もあり、一緒にお仕事していて楽しかったなと振り返って思います。マギーは、とてもまっすぐで、おもしろい作品を作りたいという欲求が強い人だなと感じています。
――現代版『ファウスト』としての魅力はいかがですか。
この作品で悪魔が心に潜んでいく様が、実生活の中で自然に弱いところを突いている感じがするんですね。悪魔イコール角が生えていて、禍々しい見た目でということではなくて、もっと実体的な人間として描かれている。実は一番身近にいる人間として描かれていて、その言葉こそが悪魔的なものをもっているんじゃないか、そんなメッセージもこめられている気がしていて。より近い存在ゆえの怖さみたいなものを感じていただけるんじゃないかなと思いますね。
――マギーは対悪魔的には大丈夫なんでしょうか?
マギーは悪魔には惑わされないけれども、自分の抱いている愛情のゆがみや、自分の信じているものに侵されていくタイプなのかなと。信じすぎていて疑えないがゆえに苦しんでいくような……。
――森田さんの印象はいかがですか。
映像作品では軽やかさを感じてきましたが、舞台を観た方に聞くと、圧倒されるということなので、ドキドキしています。ポスター撮影のとき一度お会いしたんですが、本当にフラットに優しい方で、自然体で接してくださって。それがすごくうれしかったですね。こんな優しい方がフォーチュンを演じるというところに、ぐっと来るんじゃないかなと、私もお客さん目線で思っています。
取材・文=藤本真由(舞台評論家)
写真撮影=福岡諒祠

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