【寺岡呼人 インタビュー】
“NO GUARD”な寺岡呼人の今
常にワクワクしていたいだけ。
そのためにはなんだってする!
「ウォッチメン〜一億総監視員〜」は忌野清志郎さんが生きてたら歌ってくれたような、シニカルかつユーモラスな曲ですね。
あぁ、そうかもしれない。こういう明快なギターリフがあるシンプルなロックンロールをポップスに落とし込むのって難しいんですよ。清志郎さんにしても、浜田省吾さんにしても、落とし込める人たちのスキルがすごいと思ってて。「ウォッチメン〜一億総監視員〜」はロックンロールをポップスみたいな感じにできないかなっていう、これも自分なりの挑戦ですね。今は何をやっても炙り出されちゃう息苦しさがあって、本当に大切なことでさえ、みんな怖くてできなくなっちゃってる。そんな状況を歌ってます。
子供たちのコーラスを活かしてシニカルに世を斬る感じが良かったです。次の曲が「歓びのうた」だったので、その流れで次の時代の子供たちのことを考えられたりもしました。
なるほど! それ、いいですね。使わせてもらいます(笑)。
(笑)。「シンガーソングライター」「華麗なる変身」「許せないリスト」と中盤はブルージーな色合いも出てきますね。
「シンガーソングライター」も“こんなことを歌いたいな”とはぼんやり思ってた中、斉藤和義くんのライヴを観に行く機会があったんです。そこでちょっとロカビリーっぽいマイナー調の曲をやってて、“いいなぁ、こういう曲やってみたいな”と(笑)。僕が考えてた歌詞と和義くんのライヴを観て浮かんだ曲調をくっ付けた感じですかね。
呼人さんの名前を聞いてプロデューサーと想像する人も多いと思うけど、ご自身としてはシンガーソングライターという想いのほうが強かったりします?
常にワクワクしていたいだけなんですよね。自分の中でどっちというのはなくて、ワクワクしながら1日でも長く続けたい。“そのためには何だってするぞ!”って気持ちが大きいだけかな。
「華麗なる変身」は歌謡曲っぽいトーンも感じますが、どんなイメージで作っていったのですか?
昭和レアグルーブみたいなものをよく聴いてた時期があって、特に黛ジュンさんのアナログとかをいっぱい買ってたんです。最初はプロデュースの資料として聴いてたけど、ものすごく音がいいわけですよ。今じゃなかなかできないサウンドと曲調と演奏で。プロデュースではそういった曲は結局やれなかったんですけど、自分のソロでやりたいと思って。あとは、カーリングシトーンズを始める時にヘフナーのベースを買ったんです。和義くんから“売ってたよ”っていう情報をもらって買ったそのベースがサウンド的にはまって、何か必然性を感じたりもしましたね(笑)。
「許せないリスト」はゾクッとさせられるところもありつつ、「シンガーソングライター」で《全ての曲が「真実」です》と歌ってるから、本当に呼人さんの手帳に存在するのかなと思ったりしながら聴きました。
基本的にはリアルファンタジーというか、どっちでもいいと思ってて。本当だと取られたらそれも勝ちだし、あまり深い意味は含めてないですね。例えばRCサクセションの「あきれて物も言えない」は“いったい誰のことを歌ってるんだろう”とか、「ボスしけてるぜ」だったら“このボスって誰なんだろう”とか、リアルかファンタジーかを聴く人が勝手に解釈していくのが僕ら世代の聴き方かな。このあたりにも清志郎さんマインドがある気がしますね。ああいう声は出ないし、ああいう曲を書けないんだけど、僕の中の清志郎文学みたいなものが、「許せないリスト」には出てるかもしれません。
そして、独特な内省さのあるラブソング「炎」。こういう曲も今アルバムに入ってくるわけですね。
アルバムの中でも最後のほうにできた曲で、レコーディングしてる時期に関ジャニ∞のライヴを東京ドームへ観に行ったんです。その時に聴いたある曲がすごく響いて、またも“こういう曲を作りたいな”と思い、そこから1週間も経たないうちに書けたんですよね。僕の記憶では年下の男の子が年上の女性に“俺だけを見てくれよ”みたいなことを歌ってるような曲で。歳を取れば取るほどラブソングって難しくなってくるけど、今そういう曲が書けたのは自分にとっては嬉しいことでしたね。
ラストの「うたかた」も新鮮でした。
蜃気楼とか陽炎とかのモヤモヤしてる、あの感じを歌にしたい想いがまずあったんです。まさに人生ってそういうものなんじゃないかなって。記憶は思い出そうとするとどんどん陽炎みたいになっていって、確かなものが変わっていくし、自分にとって美しくなったり醜くなったりいろいろだと思うんですけど、それも全ては一瞬の泡みたいなものなのかもしれない。「うたかた」はそんな曲です。サビの雰囲気は浜端ヨウヘイくんに、ツアー中の一緒にいる時に作ってもらいました。
最後にアルバムが出来上がってみて、気に入ってるポイントを教えてください。
“まだ戦えるな”という感触ですね。“もう枯渇してしまったな”“次は何も出てきません”じゃなく、“もっとやれることがありそうだ”と勇気をもらえた一枚になって、2019年11月のタイミングでまだこのマインドでいられる自分が幸せです。尊敬する漫画家の浦沢直樹さんとお話した時、『20世紀少年』って最初から犯人が分かってた上で書いていたのかと思ってたら、“いや、頭の部分しかなかった。あとは筆を走らせながら話がどんどん変わっていった”って聞いて、当時はどこかショックでもあったんですよ。でも、自分のアルバムで考えてみると、そういう作り方のほうが実は振り幅を広げてくれるし、クリエイティブでダイナミックなものができるなって感じてます。
取材:田山雄士