戸田恵子が一人きりの舞台『虹のかけ
ら ~もうひとりのジュディ』で魅せる
ミュージカル女優、ジュディ・ガーラ
ンドの生涯

2018年5月、東京のみで上演された三谷幸喜書き下ろしによる戸田恵子の一人芝居『虹のかけら』。再演を望む声に応え、この秋から全国で上演することに。12月3日(火)・4日(水)の大阪公演を前に戸田が取材会をおこない、本公演にかける思いや、見どころなどを語った。映画『オズの魔法使』で全世界にその名を知らしめたミュージカルスター、ジュディ・ガーランド。『虹のかけら』はジュディと同じ名前を持ち、付き人として、また専属の代役として彼女に寄り添った一人の女性、ジュディ・シルバーマンの物語だ。舞台には戸田恵子ひとり。ジュディ・シルバーマンの日記を朗読するなかで、時にガーランドを演じ、シルバーマンを演じ、またある時には戸田恵子としてストーリーテラーになり物語を進行する。
戸田恵子
●「ひとり芝居は好きじゃない」●
「本来ならば、一人でやるのは好きじゃないんです。寂しいし、ウォーミングアップも一人で自分との戦い。誰かとセリフを交わすことが好きで女優をやっているのですが、私の還暦記念の公演で誰かに頼むということは、それだけ人様にご迷惑をおかけすることになるので、いろいろ考えた末に一人になってしまいました。この作品は、たまたまニューヨークに行った時に、ひとつのショーを見てインスパイアされて三谷さんにご相談しました」。
舞台の構想を三谷に伝え、演じる人物の指定はしなかった。そして三谷が選んだのがジュディ・ガーランドだった。「ジュディ・ガーランドは大好きなミュージカル女優です。この舞台は、ジュディ・シルバーマンという付き人が30年間、書き綴った日記をもとに作られています。また、「オーバー・ザ・レインボー」をはじめ、ジュディ・ガーランドにまつわる歌も10曲以上歌います」。よりショーらしくするため、歌唱の際はハンドマイクを用いるという。ピアノの荻原清子とともに、女性のドラマーとベーシストを足で探した。
初演時は、初日6日前に台本が出来上がるという状況で「心ここにあらずの状態で終わってしまいました」。戸田の一人芝居を観たいというファンの声もあり、今回、全国ツアーという形で再演するに至った。「初演では、お客様が思った以上にたくさん入ってくださって。観られなかったという声もたくさんあったので、じゃあもう1回やろうかと」。
戸田恵子
●三谷幸喜は「まだ見ぬ引き出しを開けてくれる人」●
三谷は本作品について「戸田恵子のいいとこ取り」と表現したという。「いいところかどうかは分からないですが、私ができることは全部この中に入れていただきました。入れすぎたという感じはありますが(笑)。三谷さんとお仕事をしたら、絶対ワンランクアップできるという勝手な自信があって。私にまだこんな引き出しがあるんですか? というところを開けてくださる。それがすごく面白い。そこにもチャレンジできるということが面白いです」と笑顔を見せる。
生バンドも見どころの一つ。「生の音をぜひ、楽しんでもらいたいですね。私1人にピアノ、ベース、ドラムと3人のミュージシャンをつけてもらっています。ピアノの荻野清子さんは昔からの知り合いで、ベーシストとドラマーは私と荻野さんとで、ライブハウスに行って、観て、生意気にも私たちが決めさせていただいたアーティストです。彼女たちの音もちゃんと聴いてもらいたいし、演奏以外にもいろいろと参加してもらって、いろんなことをやってもらっています」。
続いて、単独インタビューをおこなった。
戸田恵子
●「自分が楽しめない作品はお客様にも楽しんでもらえない」●
――取材会でおっしゃっていた、ニューヨークでご覧になったというショーはどんなものだったんですか?
ビリー・ホリデイのコンサートをそのまま芝居にしたようなステージだったんです。カテゴリーもミュージカルでもないし、プレイにもなっていなかったんです。歌って、しゃべって、また歌って。全体的には通常のライブコンサートのような構成で、実際にあった彼女のラストステージを再現したというふうに聞きました。私がそこで観たものはアクティブなものじゃなかったのですが、三谷さんに「こんな舞台があった」と一例としてちょっとこのお話をしたら、かなりアクティブな舞台を作られました(笑)。
――それで、三谷さんがお選びになった人物がジュディ・ガーランドだったんですね。
はい。日本人でもいいし、外国の方でもいいし、それは三谷さんにお任せしますとお伝えしたんです。
――ジュディ・ガーランドと決まった時の心境はいかがでしたか?
とても嬉しかったです。ジュディ・ガーランドは大好きな人ですし、私にそういう役をやらせてみようと三谷さんが思ってくださったんだなって。
――台本が届いたのが本番の6日前で。そこからお稽古をしていくうちにアクティブな舞台だと判明したんでしょうか?
はい。ただ、楽曲は先に選んでいて、毎日、歌の練習だけしていたんです。振付の方もいたので、楽曲によっては「これは踊らないとね」とか「動きを付けないとね」と話していたのですが、台本が上がってきたら、常に動いて、常に道具も動かして(笑)。6日間では覚えきれないぐらいの段取りがいっぱいあって。本当に大変でした。
戸田恵子
――『虹のかけら』は歌、朗読、語りと様々な表現があります。この作品で一番好きな表現はどこですか?
日記を読むところは楽しいですね。ただ、三谷さんの作品は日記とはいえハードルは高いので……。日記を読んでいると人物が生きている感じがします。日記にはいろんな人物が出てきますがジュディ・ガーランドはもちろん、スタッフさん1番目の旦那さんなど、初演の時より俄然、私の中で人物像が浮かんで来るんです。そういう日記の中に力がある感じが、お客様にも届いたらいいなと思います。初演の時は無我夢中だったから、いろんなことを感じることもなく過ぎたかもしれなくて。あと、何よりも歌に力があるんです。三谷さんも最初から「歌がとにかくいい、やっぱ音楽ってすごいね」と。楽曲が、ですよ。私の歌じゃなくて楽曲がいいと(笑)。「オーバー・ザ・レインボー」も、スタンダードジャズも、ジュディが出演した映画の歌もいっぱい入れていて。「曲がいいね」とまたみんなで確認し合っています。歌は何をどうやったっていいから、そこに負けないように他の場面を作って行かないとダメですねと、改めて肝に銘じています。
――生バンドも見どころですね。ベースの平野なつきさんと、ドラムのBUN Imaiさんは、実際にライブハウスで観て決定されたとおっしゃっていましたが、お二人の決め手は何だったんでしょうか?
ピアノの荻野さんと3人で舞台に立った時のバランスですね。あと、一緒に作って楽しんでもらえる人。「ここでこれを被ってほしいんです」とか、そういうこともお願いしているので、参加型ミュージシャンじゃないと(笑)。みんな、音もどんどん自分で作ってきてくれるし、こういう音も鳴らせますとか。率先してやってくれます。三谷さんも「ここでウッドベースをくるんと回してください」とか(笑)。そういうアイデアをみんなで出しています。
――荻野さんが楽しそうにピアノを演奏していらっしゃる姿に、いつも元気をもらえます。今回もそのお姿が楽しみです。
自分が楽しめない作品はお客様にも楽しんでもらえないなと思います。自分が苦しんでいる間は、お客様のことも考えられてないんですよ、正直。自分で自分をジャッジして、できていないなと思う時は伝わっていないだろうなと思うので…。先日、知り合いのジャズピアニストのコンサートに行ったのですが、笑顔でピアノを弾いる姿を観て、改めて「やっぱり楽しそうにやっていないとダメだな」と思いました。お客様に楽しんでもらうために、すっごく楽しんで演奏していたのが印象的で、そうやって作っていかないとお客様には楽しんでもらえないなと思いました。その分、多分たくさんの苦労をされていると思うんです。なので、私も苦しいところを早く抜けて、楽しいという境地に達しようと。何でもかんでも楽しむということではなく、そこに到達するまでの経過をちゃんと通って、楽しんでもらえるように作らないとなと思います。
――「自分が楽しむ」という心境は、苦しみや辛さを越えたところにあるんですね。
そうですね。苦しさを通過した上で楽しむという心境に早くなれたらいいなと思うし、目標はそこだなと思います。とはいえ、『虹のかけら』は気楽に観てもらえたら。そしてジュディ・ガーランドという人に興味を持ってくれたらうれしいです。私のこのショーを通して、彼女の映画を観てみたいなと思ってくれたらラッキーですね。『オズの魔法使』はもちろん、フレッド・アステアとか、いろんな人が出ている時代のジュディ・ガーランドという大女優を観てもらえたらうれしいですね。
戸田恵子
取材・文=Iwamoto.K 撮影=田浦ボン

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