ユアネス インタビュー 進境著しい
新作『ES』を生み出した4人の関係性
とコンポーザー・古閑翔平の脳内は

福岡発の4ピースバンド、ユアネスによる2nd EP『ES』。バンドにとって1年ぶりの新作となる『ES』は“死生観”、“人は花のよう”というコンセプトを基に作った作品で、MVやアートワーク、CDパッケージまでを含めた“物語性”を大切にする彼らの美意識が隅々にまで行き渉っている。また、サウンド面における新たなアプローチが増え、4人のプレイヤーの間で起こっている化学反応も読み取ることができる。

そこで今回は、ユアネスにおいて作詞作曲だけではなくMVのディレクションも行うなど、トータルコーディネート的な発想で作品のことを考えている古閑翔平(Gt)に単独インタビューを実施。彼が“バンド”という自分一人で完結できない表現形態を選んだのはなぜか。また、共にバンドをやる仲間である黒川侑司(Vo/Gt)、田中雄大(Ba)、小野貴寛(Dr)に対して何を思っているのか。話を訊いてきた。
――今回のEPはどういうところから制作を始めたんですか?
まず基になったとある曲があったんですけど、その曲を基盤にしつつ“死生観”、“人は花のよう”というテーマで広げていこうっていうのが自分のなかで明確に決まって。そこから1曲ずつどんどん組み立てていった感じになります。
――そのテーマはどこから出てきたんですかね。
自分が結構死に関して考えるタイプの人間なので。でも、多分誰しも考えるじゃないですか。「自分がもし今死んだとしたら、明日からの世界にはどんな音楽が残っていくんだろう」とか、「母親が死んだら自分はどういう感情になるんだろう」とか。そういうこと、ちょっと考えたりしちゃいますよね?
――うーん、私はそこまで日常的に考えないかもしれないです。古閑さんはいつ頃からそういうことを考えるようになったんですか?
小さい頃に周りの大切な人が亡くなってしまう経験が結構あったので、そんななかで、誰かの死、人間の死に関してはちょっと敏感になっていったのかもしれないです。
――それを今回音楽で表現したいと思ったと。
はい。音楽だったらいつまでも残り続けてくれるので。自分の感情をこれからも音にして残し続けていきたいし、これから先、顔の知らないような人にもこの音楽を聴いていろいろ考えてもらいたいなって思ってます。
――ユアネスは全国デビューしてからまだ1年半しか経っていませんけど、それにしては作品の完成度が高いというか、今回の『ES』もしっかり構築されているなあっていうのが率直な感想で。
ありがとうございます。
――2年目だったらまだ、やりたいことが溢れすぎてまとまりのない作品になっていてもおかしくない段階だと思うんですよ。だけどちゃんと新しいことをやりつつも、作品のカラーは統一されている感じがあって。だから変な話、若手なのにかわいげがないというか(笑)。
(笑)。そういうふうに褒めていただいたのは初めてですけどありがたいですね。やっぱり同じような作品を続けて出したくないっていうのは自分としてもあるんですけど、「ユアネスがやるからこそユアネスの曲だ」っていうふうに(聴き手に)思わせることも大事だと思っています。そこで「サウンドにおけるユアネスらしさって何だろう?」っていうことを考えていったんですけど、歌のメロディとギターのメロディ、2種の歌メロがあるってことなんじゃないかなっていうのを、活動を続けていくなかで実感しつつあって。なので、ギターのフレージングでユアネスらしさを残しつつ、他のところで新たなアレンジも追加していきました。
ユアネス 撮影=中村記紗
――『Ctrl+Z』、『Shift』同様、EP1枚通しての物語性を大事にする姿勢も健在で。ネタバレになるので詳しくは書きませんが、歌詞においてもサウンド面においても、様々な伏線が張られています。
そうですね。自分たちは物語を大事にしたいと思ってて。単曲で聴くのもいいですけど、全曲通して聴いたときにまた違う見え方がするような作品づくりっていうのを心掛けています。実は、次の作品に関してもいろいろと考えてて。『Ctrl+Z』と『Shift』が2枚で一対の作品だったように、今回の『ES』と次に出る作品が2枚で一対となるような作品になっているんですよ。なので、「あ、だからそうだったんだね」っていうのを感じてもらえるように、次の作品に繋がるようなニュアンスも混ぜてます。
――『ES』をしっかり聴き込めば次の作品をさらに楽しむことができると。
そうですね。ぜひ楽しみにしていてください。
――古閑さんは作詞作曲だけでなく、MVのディレクターもされているそうですね。
はい。MVは僕の書いた字コンテを元に撮ってもらってます。基本的に何でもやりたがりなんですよね。
――自分一人でいろいろやってしまえるような人が、あえてバンドをやっているのが不思議だと思っていて。バンドへの憧れみたいなところから音楽を始めたんですか?
音楽を始めたのは、高校のときにドラムマニアっていう音ゲーをやってたんですけど、そのゲームのなかでギターがすごいカッコいい曲があって。そこから「俺、これがやりたい!」みたいな感じで音楽に入っていきました。当時バンドをやってる友達が周りにいたからいろいろ教えてくれて。楽器を買いに行ったときも、その友達に「どれ買えばいいかな?」って写真を送ったりしたんですけど、そのときの自分はギターとベースの見分けもつかなかったから、「それベースやで」って言われたりもして(笑)。
――初心者あるあるですね(笑)。曲は、バンドをやるために書き始めた感じですか?
どうだったかな……。多分、自分の成長している成果を出したかったんですよね。
――成果?
はい。高校1年のときに音楽をやりたいなって思ったんですけど、そのあと高校をやめてから専門学校に入るまでの間、バイトしてお金を貯めながら曲の作り方や音楽理論を勉強していた時期が1年ぐらいあったんですよ。曲を書き始めたのもその頃なんですけど――やっぱり昔の自分が作った曲って、今聴くとすっごくダサくて(笑)。もう意味の分からないような曲もあったりするんですけど、それを聴くことによって、今の自分が成長していることを感じ取れるというか。そういうふうに自分の成果をメモ帳に残すみたいな感覚で曲を作ってましたね。専門学校に入ってからもそうでした。
――作った曲を誰かに聴かせたことは?
ほぼないですね。自分、結構完璧主義なところがあるというか、思い描く通りに出来た状態じゃないと人に見せられないんですよ。それに専門学校の同期は同じ夢を追うライバルでもあるので、自分の弱いところを見せたくなかったというか。だから作ってる途中のデモとかはあんまり人に聴かせられなかったですね。
ユアネス 撮影=中村記紗
――そうやってどこにも公開しない曲をひたすら作って――
見返して、恥じて、それを糧にするという。
――地道というか孤独な作業ですよね。それを聞くとなおさら、一人作業が苦じゃないタイプなのかなって思うんですけど。
でも、専門学校に入ってからグループ活動の大事さもすごく学んだんですよ。専門学校って基本的に各パートが別々の授業をしてるんですけど、一コマだけみんな一緒にやる授業があったんですよ。「アンサンブル」っていうバンドセッションの授業があって。
――今からこの曲でセッションせよ、みたいな?
そうです。そうなると自分一人じゃ演奏はできないし、やっぱり周りの人間のフレーズというか、「こいつはこの後どういうことをするつもりなんだろう」っていうことも聴き取らなきゃいけないじゃないですか。そういう、人と人とのふれあいの面白さはその授業で学びましたね。もちろんつらいこともあって……例えば、渡された曲を弾ける人もいれば弾けない人ももちろんいて、「ここまで差がつくんだ」っていうふうに思ったし。入学の時点でギターを始めたばかりの人もいたんですけど、そういう人がすごいスピードで成長していくのも見たときに焦る気持ちもあったし。
――プレイヤーとしてのレベルの差を実感させられるシビアさがあったというか。
そうですね。だから(専門学校を)やめていった人もすごく多くて、当初25人いたギターコースも、最終的に4人しか残らず……。ユアネスは全員同じ専門学校の出身なんですけど、そういう環境で同期と切磋琢磨してる時期に結成したんですよ。
――生き残った精鋭によるバンドがユアネスだったと。
ボーカルはPAコースだったのでその地獄のような授業はなかったんですけど、ベース、ドラムは残った数名のなかの一人ですね。その頃には僕が作る曲も形になってきていて、自分でも満足できるくらいにはなっていたので、ユアネスはコピーじゃなくてちゃんとオリジナルで、僕が作った曲や黒川が作った曲をやっていきましょうっていう方向性でした。
ユアネス 撮影=中村記紗
――今は古閑さんがデモをしっかり作りこんでからメンバーに渡すスタイルですけど、最初からそうでしたか?
いや、そうではなかったですね。「バンドのオリジナル曲はスタジオに入ってみんなで作るものだ」っていうイメージが自分のなかにあったので、まずはそうやってみようっていう話になって、みんなでスタジオに入ったんですけど……。全員が全員、プレイヤーとしてやりたいことがたくさんあって、みんなかなり主張してくるから全然綺麗な形にならなくて(笑)。
うちのボーカルは元々素質があったんですけど、とはいえPAコースだったから、歌の勉強をしていたわけではないじゃないですか。それなのに、バンドがめちゃくちゃな音出すから、全然ボーカルが聞こえなくて……。それで「ちょっと待って、1回俺がまとめ役をする」って自分が手を挙げて、そこから全部引き受けるようになりました。そのあとも試行錯誤はしてるんですけど、自分が打ち込みで(デモを)作って、だいたいの基盤が出来た状態にしてから渡す、みたいな曲作りのスタイルはそこで決まった感じです。
――なるほど。とはいえ、前回のインタビューでもそういう話になりましたけど、古閑さんは苦心して作ったデモの完璧さを、多少崩されても文句を言わないというか。むしろ、メンバーがひょいと出してくるアイデアを楽しめるようなタイプですよね。
そうですね。だいたいの基盤は僕が作りますけど、やっぱりバンドだから、メンバーの色も出さなければいけない。これは舵を握る側の人間が一番分かっていなきゃいけないことなので、そう考えてメンバーには「この基盤は崩しても構わないから新しい提案をしてみてください」と伝えるようにはしてますね。考えることをやめたら終わりだし、そうなったら誰でもいいってことになるじゃないですか。だからこそ、考えることは常にしてもらうようにしてます。
――あと古閑さんってライブ中、他のメンバーのことをめちゃくちゃ見てますよね。しかもアイコンタクトとかではなく――
観察してるみたいな?
――そう。他の生物として認識して、そのうえで興味深く見ている感じがする。そんなことはないですか?
どうでしょう……でも、そうなのかもしれないです(笑)。やっぱり一緒に音楽をやってると、いい意味で思ってもないことが起きたりするんですよ。そういうことを楽しめるのがこのバンドのいいところだなと思ってるから……それで自然と様子を窺ってるんですかね? でも確かに、普段から人を見る癖は結構あるから、そういうところがライブに出ていてもおかしくないかもしれないです。
――古閑さんから見て他の3人はどういう人物ですか?
何だろうなあ……どういう人物………。まず同い年で同じ性別だけど、同じ感じで見られないというか。
――ほら、やっぱり他の生物として認識してるじゃないですか。
そうですね(笑)。確かに「同じ条件なのにこんなにも違うんだなあ」っていうふうに見てますね。彼ら、相当自由なんですよ。やっぱり日々生活していくなかで、自分があえてしないようなことを彼らはしていたりするので、そこで違いを実感するというか。ちょっとした「あ、こういうことがあるんだ」みたいな場面がよくあるんですけど。
ユアネス 撮影=中村記紗
――今回の制作中で「3人から想定外のレスが返ってきて驚いた」みたいなエピソードってあります?
今回、自分が曲を作るスピードが遅くて、なかでも「紫苑」はレコーディングの3日前にやっと出来た曲だったんですよ。だからメンバーにも焦りを与えてしまったと思うんですけど、自分が作った(曲の)基盤を3日前ぐらいにポンと渡したときに、すごいスピードでいろいろなニュアンスで返してくれるから、それが本当に面白くて。そのおかげもあって、今回この曲が一番新鮮な状態でレコーディングに臨めました。「紫苑」ができたことによって全体が引き締まった感じがあって、リード曲に選んだ理由もそこにあるんじゃないかなと思ってます。
――いい話ですね。というかそんなに難産だったんですね。
はい、今回に関しては難産でした(苦笑)。だから会社の方々にはすごく迷惑をかけてしまったし、すみませんっていう感じだったんですけど、彼ら3人とも人に気を遣える性格なので、おそらく「今、翔平は頑張って曲を作ってるからこれ以上仕事を増やしてはいけない」「だから自分たちでアレンジを考えなくちゃ」っていうふうに考えてくれたんだと思うんですよ。僕が荷物を下ろしたとき、すぐに曲を形にできるようにしてくれていて。今回の作品は特にお互いそういうことをやりながら進めていきましたね。
――支え合って出来たと。
支え合って出来ました(笑)。
――いやあ、バンドって感じしますね。
はい、バンドだと思います。3人は僕のことを理解してくれようとしてるっていうのがすごく伝わってくるんですよ。逆に、彼らも自分みたいなタイプの人間だったとしたら、どっちも頑固だから、お互いの意見が食い違った瞬間にもう上手くいかなくなってしまうと思うんですけど、お互い(専門学校時代から)学校生活とかも見てて、そのなかで築いてきたものもありつつ、今の形になっているので。この関係性が今となっては大事なところになってるのかなと思います。
――だからこそユアネスってちゃんとバンドなんですよ。そのバランスが面白いんだと思います。
確かに、自分でも不思議なバランスで成り立っているバンドだなあとは思いますね。多分、船みたいな感じなんですよ。自分が船長で、3人が船員としている、みたいな。一旦自分から決まったルールは提示するけど、彼らがいなければきっと成り立たない。そういう感覚が僕のなかにあるんだと思います。

取材・文=蜂須賀ちなみ 撮影=中村記紗
ユアネス 撮影=中村記紗

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