【ライブレポート】石垣島に現れた、
音楽の桃源郷<きいやま農園ライブ2
019>

月並みな表現だけれども、これはきっと“石垣マジック”というものなのだろう。この空気に触れ、この太陽を浴び、この風に吹かれれば、抗うことなく自ずと歓喜のホルモンが分泌されてしまう。抗うことのできない細胞レベルの感覚だ。

石垣島で開催された<きいやま農園ライブ2019>は本当に素晴らしかった。石垣マジックが演者と聞き手全員をすっぽりと包み込み、特設ステージが組まれた南ぬ浜町緑地公園あたり一帯は歌と笑顔で覆い尽くされ、まるでこの世に舞い降りた天国のようだった。そしてなによりその石垣マジックを生み出していたのは、石垣の自然と生きてきたきいやま商店のメンバーたちにほかならないことも忘れがたき真実だ。
石垣島で生まれ育った兄弟と従兄弟で結成されたきいやま商店は、とにかく音楽を楽しみたいという思いだけで突き動かされている3人組エンタメバンドである。きいやま商店が主催する<きいやま農園ライブ>は地元密着型の手作りフェスで、出演アーティストの交渉から会場準備、音響、物販、飲食関連…フェスにまつわる全てがきいやま商店のメンバーとその友人たちをはじめとした有志によって作られている。その心意気に賛同しスポンサーとなった企業や商店も地元の人たちだ。「ただただ音楽を楽しむ」という思いと目的だけですべての歯車が組まれており、そこに大人の事情や政治的な思惑などは何も介在していない。混じりっけなしの純度100%音楽フェスが、ここ石垣島で繰り広げられる<きいやま農園ライブ>なのである。

前回からは3年ぶりの開催だったが、今回ですでに7回目を数えており、11月16日に開催された<きいやま農園ライブ2019>に登場したバンドは全部で6バンドであった。きいやま商店のメンバー3人がそれぞれ組んでいる3バンド(八重山モンキー、BEE!BANG!BOO!、ノーズウォーターズ)にきいやま商店の計4バンド、そこに彼らからの熱烈なラブコールによって出演が実現した大阪発エンタメジャズバンドCalmeraと、沖縄が生んだかりゆし58という全6アーティストからなる布陣である。
▲きいやま商店。左からリョーサ、大ちゃん、マスト。

午後3時、開演時間とともにステージに上ってきたきいやま商店の3人による「7回目、3年ぶりの手作りフェスです。のんびりのんびりと楽しんでいきましょう」「思い出を作ってください」という挨拶とともに、いきなり「大知マン」の主題歌をカラオケで絶唱するという、盛大な余興(!)でフェスはスタートした。ちなみに「大知マン」とは、沖縄の建設会社・大知建設のテレビコマーシャルから誕生したヒーローで、以前はアニメだった「大知マン」が実写化され2020年1月からはドラマ『安全第一大知マン』としてTV放送が開始されるのだという。そんな全国ゆるキャラもびっくりのヒーロー戦士を応援すべく、TV番組の主題歌を描き下ろしたのがきいやま商店というわけだ。新曲を紹介すると言ってヒーロー戦隊主題歌をカラオケで披露した時点で、会場はお茶の間の団らんのようなあったかムードに包まれた。
ゆるいオープニングからバトンを受けて、フェス一発目を飾ったのはリョーサ(きいやま商店)率いる八重山モンキーだったが、ステージを走り回り、お客さんをあおりうねるような8ビート「サガリバナの恋」でお客さんの身体を動かし、「みんなでやれば怖くない(笑)」という振り付けをみんなで楽しみ、グイグイとドライブするサビに突入する。この日は焼失した首里城のために歌った「OokinaWA」、愛してるぜという意味の「カナヨ」、三線とグインが印象的な元気を引き出す民謡「ツキヌカイシャ」と、どの曲も笑顔が似合い、多幸感がステージから溢れ出てくる。楽しさだけでできている<きいやま農園ライブ>の真髄が、早くもお出ましだ。
▲八重山モンキー


大ちゃん(きいやま商店)率いるBEE!BANG!BOO!は、ゴージャスなホーンセクションによるキラッキラのサウンドで、まぶしいほどの幸せヴァイブスを放っていく。突き抜けるように広がる青空が似合うサウンドは生々しくもピュア&クリアで、彼らの人柄がそのまま音と化したような人肌の暖かさが気持ちいい。お客さんの表情を見てみると、まるで魔法がかかったように、誰もがはじける笑顔をステージに向けていた。BEE!BANG!BOO!のパワーとオーラもまた、石垣が生んだミラクルのひとつだ。
▲BEE!BANG!BOO!

3番目に登場したノーズウォーターズは、きいやま商店のマストのバンドで、彼らもまた自然体のままステージに上り「みんなでハッピーなひとときを楽しみたい」というエンターテイメントの原点そのものを現してくれた。スナップの効いたプレイと瞬発力のあるパワフルなトーンをもって、サービス精神たっぷりながらもただただ思いを音楽に乗せるというシンプルな佇まいは、有無を言わさぬ圧巻の存在感を描き出していく。もうまもなく30周年を迎えるという彼らが最後に演奏した楽曲は「お客さんがいてくれることへの感謝から自然の生まれた曲」という「君がいるから僕は歌う」で、歌うことの喜びが溢れんばかりに伝わってくる作品だった。
▲ノーズウォーターズ

きいやま商店メンバーによる3バンドが南ぬ浜町緑地公園特設ステージを存分に温めたところで、石垣島初上陸となったCalmeraがステージ現れた。ギター&ベース&キーボード&ドラムというリズムセクションと、サックス、トランペット、トロンボーンのホーンセクション、そして観客を煽り盛り上げるアジテーターの西崎ゴウシ伝説という総勢8人でステージに上った彼らは、大阪気質の音楽エンターテイメントを次々と繰り出していく。タオルを小さく丸めれば、まるでビールのジョッキに見えてしまう黄色いカルメラタオルを手に持って、まずはカンパイソングで会場全体を一瞬で惹き付けた。各ソロプレイとパロディカバーを絶妙に挟みながら、強烈な一体感をまとって老若男女全員をぐいっとたもとに手繰り寄せる強烈なエンターテイメント力を発揮してみせた。
5年前にきいやま商店と対バンをしたのがきっかけで交流が始まったというCalmeraだが、やっと実現した<きいやま農園ライブ>のステージは大歓声とともに、かりゆし58にバトンを受け渡した。
▲Calmera

完全に日も暮れて、涼しい空気が流れ始めた南ぬ浜町緑地公園を、熱く熱く感動の道筋を描いたのがかりゆし58の4人だった。きいやま商店がぜひ出てほしいと切望していたバンドであり、かりゆし58が出たかったライブが<きいやま農園ライブ>だったという相思相愛のバンド仲間だ。かりゆし58の前川真悟は、数年前「もう音楽をやめようか…」と真っ暗な闇を歩き出口が見つからなかった時、いつも観ていたのがきいやま商店が主催した<きいやま農園ライブ>の映像であり、そのライブから失いかけていた「誇り」と「安らぎ」をもらったのだという。そんなきいやま商店への思いを吐露しながら聞かせてくれた「ウクイウタ」は、みんなの心に深く深く染み込むものとなった。「今というときは今しかない」…そんなあたり前のことだけれど、だからこそかけがえのない今のひとときを濃密に大切に届けてくれるかりゆし58に、会場からは大きな感謝と共感の拍手が巻き起こった。震えるような魂の鼓動がひとつになる感涙の情景が会場いっぱいに広がっていった。
▲かりゆし58

まるで心の解放区と化した<きいやま農園ライブ2019>のラストを飾るのは、もちろんきいやま商店だ。愛あふれる歌詞と歌声、「楽しむこと」がすべてを肯定してくれる魔法の言葉のように、会場を埋め尽くすオーディエンスに降り注がれていく。いろんなものを背負ったみんなひとりひとりが浄化されていくような温かいパワーに包まれて、身体がほんの少し軽くなった気がした。
▲きいやま商店
のりの良い8ビートからのんびりゆったりする曲もありながら、泉&やよいや光浦靖子、ゆってぃ、芋洗坂係長といったきいやま商店の魅力にとりつかれたシークレットゲストもサプライズ登場し、生きる喜び・呼吸する心地よさ・笑うことの愉しさ・笑顔がつなぐ連帯感…全ては人肌の暖かさと自然をつなぐかけがえなき魂の共鳴が、次々と押し寄せてきた。
▲泉&やよい
▲芋洗坂係長
音楽が人々に笑顔を引き出し、ときに馬鹿笑いさせ、ときにキュンと来て、ときに涙を誘う…そんなシンプルな音楽のパワーをストレートに吐き出してくれるきいやま商店とその仲間たち、そしてそこに共感するオーディエンスたちがつくる楽園と化した南ぬ浜町緑地公園は、石垣島が生み出した桃源郷そのものだった。
取材・文◎BARKS編集長 烏丸哲也

<きいやま農園ライブ2019>
2019年11月16日(土曜日)
@南ぬ浜町緑地公園 特設ステージ(石垣市)
開場 14:00 / 開演 15:00
出演:きいやま商店 / ノーズウォーターズ / BEE!BANG!BOO! / 八重山モンキー / かりゆし58 / Calmera(カルメラ)
一般 ¥3,000(税込)/ 中高校生 ¥500(税込)
※小学生・未就学児無料(保護者同伴・大人1名につき2名まで)
※当日券500円UP
●八重山モンキー
1.ヤエヤバンバ
2.サガリバナの恋
3.OokinaWA
4.カナヨー
5.ツキヌカイシャ
●BEE!BANG!BOO!
1.Thunder Tune
2.月明かりブルース
3.ピンクの星とオレンジの月
4.junkie mankey
5.右から二番目の星
●ノーズウォーターズ
1.ようこそ
2.ダンボールブギ
3.マウンテン
4.幸せになるだけ
5.ボンボンボン
6.君がいるから僕は歌う
●Calmera
OP.Everybody ワン・ツー
1.ロックンロールキャバレー
2.Jump Out
3.乾杯ブギウギ
4.満身創痍
5.Euphoria
●かりゆし58
1.手と手
2.Go!MangoMan
3.ウクイウタ
4.アンマー
5.オワリはじまり
●きいやま商店
1.オーシャンOKINAWA
2.僕らの島
3.じんがねーらん
4.気ままな日曜日
5.十八番街
6.そこら中にパーリーピーポー
7.ハブとマングース
8.happy wonderful friend
9.ドゥマンギテ feat.芋洗坂係長
10.ゆーしったい
11.沖縄ロックンロール
EC1.おかえり南ぬ島
EC2.さよならの夏

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