佐藤千亜妃が明かす、初のソロアルバ
ム完成までに向き合ったもの、感じた
こと

全12曲。参加したアレンジャーは全部で8人で、砂原良徳agehasprings所属のクリエイター3名やJYOCHOのだいじろー、あと04 Limited Sazabysがバンドごと参加している曲まである。

よって、ちょっと耳を疑いたくなるほど1曲1曲がバラバラなアルバム。しかしその分(だと思う)メロディも言葉もサウンド・プロダクトも含めて1曲1曲がめったやたらと“強い”“届く”“刺さる”アルバムになった、佐藤千亜妃のファースト・ソロ・アルバム『PLANET』は。以下、いかにしてここに辿り着いたのかを訊けるだけ訊いたテキスト。
■「いかれた案に付き合ってくれてありがとう!」っていう感じですね、全員
──まず、今回参加しているアレンジャー、全部で——
8人です。
──1曲目の「STAR」では、バンドとまるごと組む、という試みもありますよね。04 Limited Sazabysが編曲と演奏。
はい。この曲ができたときは、テンポはこの半分で、アコースティック・ギターで弾き語ってるみたいなフォーク調の曲だったんですよ。いい曲だな、でもちょっといなたいなと思って、なんとなく、テンポを倍にしてギターをかき鳴らす、みたいな感じでやってみたら、「あ、こっちの方が曲が入ってくるな」って。そこからいわゆるメロコア・パンクみたいなアレンジの曲になったので、「サポート・ミュージシャンを呼んでこの感じでレコーディングしても形にはなるけど、もっとかっこいいやりかたがあるんじゃないかな」と考えたときに、ふと「これフォーリミの曲とかでありそうだな」「っていうか、フォーリミが演奏してたらめちゃかっこいい曲だよな、じゃあもうフォーリミがやっちゃえばいいんじゃない?」って自分の中で思って。
でも、こんなバカみたいなアイデアはディレクターは却下するよな、と思ったけど、一応会議の場で言ってみたら、意外と「おもしろいですねえ」ってなっちゃって。ダメもとでオファーしてみたら、なんと快諾していただき、こういう感じになったんですけど。
──仲はよかったんですか?
同世代なんで。もともとGENくんがきのこを好きで聴いてくれていて、彼がやっている『スペシャのヨルジュウ』って番組で、きのこ(帝国)を紹介してくれたりとか。同年代でがんばってるバンド、みたいな認識がお互いにあって、お願いしてみようかな、っていう。でも、思い描いたことが、こんなにちゃんと形になるとは思ってもいなかったので、めっちゃアガってます。「いかれた案に付き合ってくれてありがとう!」っていう、そんな感じですね、全員。
──とにかくいろんな人とやりたかった?
曲に対して何が最善かなって考えていったときに、自然にこうなっちゃったっていう方が正しいかなって思います。それぞれの曲に対して、どういう人とやるかっていうのを、あとから決めていって。でも1枚目なので、何かのジャンルに傾倒するっていうよりかは、自分が刺激を得るっていうことも含めて、いろんな人と関わった方がいいなっていうのは思っていたので。
やりかたをひとつに絞る時期じゃない、いろんなことにチャレンジしないと……どうやってソロで作っていくか、方程式がまだない状態なので。それで結果、いろんな人とやる感じになったんですけど。
──アルバムとしてのトータル感よりも、全部の曲が、この1曲しか聴かれなくてもいいように……と言うと語弊があるけど、1曲単位で勝負できるように作ったのかな、と思ったんですけれども。
うーん、もちろんアルバムで聴いても流れがいいように作りたいとは思いつつも、そうやって聴く人はすごく少なくなっている時代だな、というのは思っていて。やっぱりみんなサブスクリプションで、楽曲ごとにプレイリストに入れたりして聴くから。だから、今回はある種、データ集めにもなるかなとは思っていて。
──ああ、自分の音楽を聴く人が、どんなふうに聴くのか、という。
「こういったベクトルの曲は、こういった人に響く」とか、「こういったベクトルの曲は、サブスクでは回らないけどダウンロードが多い」とか、そういう傾向もわかるな、と。だから、サブスク全盛だからこそ許される構成なのかなとは思いました。
自分のやりかたを探す、というのもありましたし。ソロでやるときに、何が一番フィットするんだろう、打ち込みはバンドではやったことなかったからやってみたいし、かといってバンドサウンドは好きだからなくしたくないし、じゃあ全部やってみて、二作目でまた悩めばいいんじゃない?と思って。
佐藤千亜妃 撮影=高田梓
■今は手広くやって盗む時期かな、と
──そもそもの曲の書き方も、以前とは変わっていたりします?
そうですね。コード進行とか、構成とか、メロとか、狙って書こうと思って作ってます。ムダなポイントはなるべくなくして、常にハイライトみたいな曲がいいと思って。今、冗長な曲はみんなあんまり聴かなくなって、コンパクトなものが好まれている気がしていて。イントロでグッともっていかれて、歌に入ったらそれもまたよくて、サビがすごい頭に残って、みたいな。やっぱり常になんかしら、ハイライトっぽいことが連続してないと、だるくて聴かなくなっちゃうんだろうな、と思って。
特にライブラリーをいっぱい持ってる子たちは、一口目から美味しい、みたいなものを連続して聴きたいんだろうなっていう。でもそれは、外に対して媚びてるということじゃなくて、自分もそういう聴き方になってるから、ということです。自分だったらこういう展開の曲が気持ちいいな、というのを反映させると……たとえばシンガーの子が、「こういう曲を歌いたいんだよね」って言ってるのに対して、作家ががんばってそういう曲を書く、っていうのをひとりで二役やってるみたいな感覚なんですね。だから、歌ってて楽しい曲ばっかりだと思います。
──一口目から美味しい曲を、狙って書けるようになってきました?
いや、でも、研究はすごいしました。「今どういうのがキテるのかな」とか、「なんでキテるのかな」とか、「ああ、こういう展開が盛り込まれてるからなんだ」とか。で、それを狙いすぎて……今年1月2月とか、延々と曲を書いてたんですけど。月に10曲以上作るみたいなペースで、曲作り病みたいになっていて。
で、その中で、狙いすぎていやらしくなることもあるな、っていうことにも気づき始めて。泣かせたいときにディミニッシュ入れる、みたいなことをやりすぎた時期があって。曲を作って並べた時に、「10分の4ディミニッシュ入ってるじゃん。クサいな」みたいな、そのクサさをも抜きつつグッとくる感じっていうのを、今も研究してるんですけど。
──最近、曲提供とか、劇伴とか、人の曲のアレンジとかもやっていますよね。だから自分でサウンド・プロデュースできるのに、そこでは外から人を呼ぶ、というのがおもしろいなあと思ったんですけど。
それは、吸収したいからですね。いろんな人からもう盗みに盗みまくって、3作目くらいでは全曲セルフ・アレンジで出せたらいいな、と思ってて。今は手広くやって盗む時期かな、と。ロックはバンドでやってたことだからすぐできるんですけど、それ以外の、バラードとか、ファンクなものとかっていうもののアレンジが、どうやったらいいのか皆目見当つきません、みたいな感じだったんで。やっぱ現場で覚えていくのがいちばん早いなと思いましたね、いろんな人の作業を見て。
佐藤千亜妃 撮影=高田梓
■「自分がやっている音楽は、なんて無力なんだろう」と思ってしまった時に、
そう思ってしまったことが負けなんだな、と
──このアルバムでいちばん古い曲は「キスをする」?
そうです。『ap bank fes』でやりましたね、初めて出た年に。4年くらい前に。
──この曲、いちばん作家性が薄いというか、生の気持ちが直接出ているというか。
そうですね。でもこれ、書いた当時は、自分の中では、「うわ、めちゃシンガーっぽい曲できたじゃん」と思ったんですけど。でも今、このアルバムの並びの中で見ると、素朴な曲にきこえるなあとは思いますね。
──どんなふうに生まれたんですか?
これは、すごい遡っちゃうんですけど、2011年に東日本大震災があったじゃないですか。両親は今でも(地元の)岩手に住んでるんですけど、2〜3日連絡がとれなかったんですよね。ニュースでは、津波にやられている街やら、ごうごうと燃えている街やらのニュースばっかりで、連絡もつかないから、生きてるか死んでるかもわかんなくて。東京も余震が続いてたりして、そういうスレスレの生活の中で、やっぱりまず音楽のことを考えちゃうじゃないですか、ミュージシャンは。
日常が一変して、その中で音楽がどれほど人々にとって重要な存在であり続けられるのか。特に自分たちの音楽が、被災して苦しい状況を強いられてる人たちに対して、響くのかなあ、勇気とか希望みたいなものを与えられるのかなあ、と思ったときに、すごい自信がなくなって。電気がない、食べ物がない、寝るところがない、ライフラインが整ってないところで、「みんなのためだよ」って音楽をやり始められても、「いやいや、電気もったいないんでやめてもらえますか」っていう……そういう自粛ムードもあったし。
佐藤千亜妃 撮影=高田梓
そこで「音楽ってやっぱ大事だよね」って言い切る自信が、自分にはなくて。家族も生きてるかもわかんない状況の中で、初めて音楽の無力感を感じて。意味があると思ってやってたけれども、こういう事態になって、自分がやっている音楽はなんて無力なんだろう、と思ってしまったときに、そう思ってしまったことが負けなんだな、と。そのときに、「いや、どう思われても自分はこうだ」って貫けるものがあったらよかったけど、「節電の方が大事じゃない?」とか思っちゃったんで。
ってなったときに、音楽をやる意味をすごい考えさせられて。まわりの友達も、そこで前向きに「音楽をやろうぜ」って言えるような人って、すごい少なくて。「こういう時って何ができるんだろうね、俺ら。結果、何もできないね」みたいな感じで、けっこう落ちちゃってた。それで、徐々に時間が経って、忘れ去ってはないけど傷が癒えてきたあたりで、なんとなくみんな、ヌルッと音楽が始まって、私もヌルッと再開させていったんですけど。
──解決はしてなかったと。
やっぱりずっと、どっかにしこりとしてあって。あのときに自分が負けた気持ちのまま、音楽をやってることって気持ち悪いなと思って。でも、それを言葉で発信したりするのも違うと思ってたので、じゃあ音楽で表現したらいいんじゃないかな……それでも2〜3年後ですね。そう思えて、歌詞と曲を形にし始めて、メンバーにも聴かせたりしていて。で、ソロで『ap bank fes』に出ることが決まったときに、せっかくソロだし、しかも場所が石巻だし、っていうことで、急遽フル尺にして、構成も考えて、小林(武史)さんにアレンジしてもらって、BANK BANDとやったんです。
だから、震災から自分の中でわだかまっていた気持ちを、曲で次につなげていくというか。命が終わってしまっても、そのことを受け止める側にも、逝ってしまった側にも、いろんな気持ちがある、ということを、ちゃんと見つめられた曲かなと思って。これが書けたときに、音楽をやることがちょっとラクになったというか。
台風もあったし、実際にまたああいうことが起きたら、同じような気持ちにはなると思うんですけど、結局音楽をやるしかないし、その瞬間は、水とか食べ物が優先されはするけど、そこが整ってきたときの救いになったのは音楽だったよ、って言ってくれるリスナーの人も多くて。すごい心細い日に、音楽を聴いてその夜をしのげた、とかっていうのを聞くと、やっぱり音楽には意味があるんだな、と思えた日もあったし。そんな、いろんな気持ちがこもってる曲ではあります。
佐藤千亜妃 撮影=高田梓
■自信を持って出せるバラードが、やっと書けました
──だから、この曲が素の方の究極のやつで、逆に作家の方の究極のやつが「空から落ちる星のように」かなあと思ったんですけれども。
これはすごい、恥ずかしいぐらいの曲で。私、歌うのはバラードがいちばん好きで、なのになんで今までバラードをやってこなかったんだろう?と思ったときに、自分がバラードを書けないからじゃん!って気づいて。それに気づいてから、ちょっと悔しさもあって、とにかくバラードを書く期に入って。去年の年末から年明けまでずっと書いてたんですけど、その中で一番恥ずかしいやつがこれです。
──じゃあ書けた手応えがあったんですね。
そうですね。やっとバラードの扉を開けたな、みたいな。6分ぐらいある長い曲なんですけど……まあ自分の主観ですけど、ムダなところがなく、Aメロ、Bメロ、サビ、惰性で入ってるメロがないな、全部狙い撃ちのメロディで作れたなと思ってて。そこに、よくこの歌詞が書けたなと思うくらい……特に2番以降の歌詞が、自分の生きてきた人生も投影させながら書けたなと思ってて。自信を持って出せるバラードが、やっと書けました、っていう曲ですね。
──けっこう自分のことを歌っている?
自分の考え方、人生とか、人と出会った時の受け取り方が、今はこの感じ。昔とは全然違うと思います。
──かなり自分のことも入ってるんですね。
曲によるんですよね。たとえば「大キライ」は映画のテーマとして書いたけど、「空から落ちる星のように」と「キスをする」、あと「面」も、わりとナチュラルで、「STAR」もそうですね。これは、きのこの活動休止が決まったあたりに書いた曲なので。1曲目にしているだけあって、スタート地点の曲というか。ここのエクスキューズがないと、自分もモヤッとしちゃうし、リスナーとかメンバーへのアンサーでもあったりして。まあ、いろんなことが終わったけど、また始まっていくんだよ、っていう、前向きな曲が1曲目であったらいいなと思って。

■今、何もリミッターは必要ないと思っていて
──佐藤さんは、このソロ作品に着手した頃は、きのこ帝国を活動休止するつもりはなかったわけじゃないですか。またバンドに戻ると思いながらソロを作るのと、それがない状態でソロを作るのは──。
やっぱり全然違いますよね。前にソロで『SickSickSickSick』っていうEPを作ったときは、きのこっていうホームがあったので、きのこでは絶対できないことをやった方がいいっていう意識があって、エレクトロ、打ち込みっぽいものを作ったんですけど。で、ファースト・アルバムを作るってなった頃に、シゲ(谷口滋昭/ベース)の脱退が決まって……自分がすごい情熱を傾けてきたバンドが休止する中で、自分の感情を大事に発露させていた部分がなくなると、そこの発露はどこに行くんだろう? って思ったときに、ソロの中でそれをやりたいと思ったんです。やっぱりそこの表現なくては、自分は存在し得ないというか。
だから、「きのこでやっててもいいじゃん」みたいな曲が入っててもよくない?と思って。ソロは「Lovin’ You」みたいな、チルな、R&Bとかの感じで、オシャレにやっていくんでしょ?みたいなふうに見えてたと思うんですけど、それをぶち壊すために1曲目に「STAR」を入れてるっていうのもあるし。ロックやりますよ、かといってロックばっかじゃなくてファンクとかもやりますよ、バラードだってやりますよ、っていうことを見せたくて、多重人格みたいなアルバムになってるんです。
だから、今、何もリミッターは必要ないと思っていて。きのこがあってやる表現と、きのこがなくてやる表現って、ほんと全然違うなって思いました。休止が決まってから、自分のソロの捉え方も変わってきていて。きのこをやるにしろ、ソロをやるにしろ、自分でしかないな、ってなりました。すごくいいバンドをやっていただけに、ハードルがめちゃめちゃ高いんですけど。でも、一度ゼロに戻ってやる気持ちで、取り組もうかなと思ってます。

取材・文=兵庫慎司 撮影=高田梓
Hair&Make-Up=Kyoko Styling=森山優花(S-14)
<佐藤千亜妃 衣装クレジット(※すべて税抜)>
トップス¥29,000、ブレスレット¥55,000/ともにFACETASM(FACETASM omotesando ☎︎03-6459-2223)、スカート¥42,500/(COLLINA STRADA /grapevine by k3 ☎︎03-5772-8099)、その他スタイリスト私物
佐藤千亜妃 撮影=高田梓

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