柴田啓佑監督(左)と市原隼人

柴田啓佑監督(左)と市原隼人

【インタビュー】『喝 風太郎!!』市
原隼人「柴田監督とは、芝居を通じて
会話できる感覚がありました」柴田啓
佑監督「ブレずにできたのは、市原さ
んがいてくれたおかげ」

 『サラリーマン金太郎』の本宮ひろ志のコミックを映画化した『喝 風太郎!!』が11月1日から全国順次ロードショー公開された。本作は、型破りな僧侶の風太郎が、現代社会でさまざまな騒動に遭遇しつつ、悩める人々の心を開放していくさまを、笑いと人情味豊かにつづった痛快エンターテインメント。風太郎役で、はまり役と言える好演を見せた市原隼人と、好評放送中のテレビドラマ「ミリオンジョー」にも参加している新鋭の柴田啓佑監督に、作品に込めた思いを語ってもらった。
-オファーを受けたときの感想は?
市原 風太郎という熊のような男が、現代社会に出て、いろいろな騒動に巻き込まれていく物語は、素直に面白いと思いました。エンターテインメントとして、笑えるせりふや面白いシチュエーションもたくさんありますし。ただ、それだけでなく、ある意味、社会派でもあるなと。
-というと?
市原 今は、社会がシステム化され、隣人の顔も分からない、子どもを叱る大人もいない…というように、世の中からどんどん人間味が薄れていっている気がします。そんな中、仏法を掘り下げていくと、「何のために生まれ、何のために生きるのか」という自分を見つめ直すことにもつながる。本宮さんの原作には、そういうふうに世の中を俯瞰した上で、風太郎という男を通して、いろいろなことを伝えようとする意志が感じられました。脚本からも、そういう思いが伝わってきたので、そこは大きな魅力だなと。
柴田 原作が『サラリーマン金太郎』の本宮ひろ志さんなので、熱い話だろうと思って読んでみたら、熱さの中に優しさがあるんです。それが、自分の中ですごくフィットする感覚がありました。熱いし、ハチャメチャなんだけど、いろいろな縁がつながって物事が回っていく物語がすごくいい。原作では後半、かなりファンタジー色が濃くなりますが、「変えてもいい」ということだったので、前半の人間らしい風太郎を軸に、人が社会とどう向き合うのかを描こうと考えました。
-風太郎というキャラクターの魅力をどんなふうに捉えましたか。
市原 登場人物それぞれが、自分の居場所を探しているんです。でも、なかなかそれに気付くことができない。そんな中で、そのヒントをくれるのが風太郎。しかも、それを「ああしてほしい」「こうしてほしい」と押しつけるのではなく、風太郎の行動によって、みんなそれに自然と気付いていく。古き良き日本人の心を思わせる、風太郎のそういう部分が魅力的でした。
柴田 この作品では、今の時代に欠けているものを丁寧に描いてみたかったんです。そういう物語を踏まえた上で、風太郎が語る「(世の中は)縁(えにし)で回っている」と「生きるしかない」という二つの言葉は、胸に迫るものがありました。それは、この映画の軸にもなっています。
-そういう魅力を感じた中で、市原さんが演じる風太郎というキャラクターは、どんなふうに作っていったのでしょうか。
市原 細かく話し合ったわけではありませんが、僕も柴田監督も、原作を気に入った者同士だったので、言葉ではなく、芝居を通じて会話できる感覚がありました。僕も、監督の歩く姿や視線から、いろいろなものを感じ取りましたし…。これこそまさに、役者の醍醐味(だいごみ)だな…と。
柴田 風太郎は「こんな人、本当にいるの?」という型破りなキャラクターです。それを、地に足が着いた感じにしたいとは思っていました。ただ、それだけでは面白みがなくなってしまう。そんな中、市原さんが演じる風太郎は「本当にいそう」に見えたんです。それはやっぱり、俳優としての魅力やお芝居の力だな…と。撮影のときも、台本にない部分を市原さんの方から「こうしましょうか」と提案していただいたり…。僕は全体を見なければいけないので、どうしてもディテールを追い切れない部分が出てきます。だから、そういう部分を丁寧に拾っていただけたのは、すごく助かりました。
市原 信じるのは、すごく勇気のいることだと思うんです。でも、柴田監督はそれを感じさせてくれたので、僕も常に「何かできることはないか」と考えながら現場にいました。そういう環境を作っていただけたので、とてもやりやすかったです。
柴田 全てを言葉で伝えてしまうと、一緒にやる意味がありませんからね(笑)。そういう点では、市原さんのお芝居は、見ていてものすごく安心感がありました。最後までブレずにできたのも、市原さんが同じ目線でいてくれたおかげだと思っています。
-お二人にとって、この映画はどんな作品になったでしょうか。
市原 他とは違う思いもたくさん入っている特別な作品です。風太郎のせりふにもある「生きるしかない」、「命を懸ける」ということについても、改めて学ばせていただきました。
柴田 「生きるしかない」というのは、映画製作にも言えます。時間や予算などさまざまな制約がある中で、作ることが決まっている以上、やるしかない。つまり「生きるしかない」。だから、この映画自体がある種の戦いだと思って、僕は現場の全員と戦うつもりでやっていました。もちろん、市原さんとも。
市原 それは僕も同じです。現場は常に戦いだと思っていますから。何もないのも、気持ち悪いですしね(笑)。
-緊張感を持って現場に臨むということですね。
柴田 そうですね。だから「もっと面白いものはないか」と、ぎりぎりまで探らせてもらいました。
-そういう意味では、この映画が完成して「やり切った」という感覚でしょうか。
市原 どれだけやっても、そういう気持ちにならないのが映画なんです(笑)。正解がないものなので、何がよくて、何が悪いのかは分かりません。ただ、監督と一緒にみこしをしっかり担ぎ切ることが自分の務めだと思って、現場に臨んでいました。
柴田 「やり切った」というのは、僕たちが思うことではなく、お客さまが見て判断することなんです。みこしでも、見ている人間が「すごいな」と感じることが大事なわけですから。だから、いつも「やり切った」という感覚はありません。ただそれでも、風太郎の言うように、前を向いて「生きるしかない」んだろうなと。今はそんなふうに思っています。
(取材・文・写真/井上健一)

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